わたしが子どもだったころ (ケストナー少年文学全集 (7)) | |
ワルター・トリヤー,高橋 健二 | |
岩波書店 |
「二人のロッテ」や「エーミールと探偵たち」などを書いたエーリッヒ・ケスト
ナー、作品は読んだことがなくても、名前を知っている人は多いでしょう。
2つの世界大戦を生き抜いたドイツの作家です。「わたしが子どもだったころ」
は彼の15歳までの自伝です。いきいきとユーモラスにそして真摯に、自分の
こと親のこと、先生や友達や親戚のことを、時代背景の中で巧みに描いて
います。「ためになる」という言葉は文学作品にとって褒め言葉ではないか
もしれませんが、ケストナーに限っては例外です。文学的価値が高く、ユー
モラスかつ風刺に富み、かつ「ためになる」
Als Ich ein Kleiner Junge War | |
W. Lough | |
George G.Harrap & Co Ltd |
一番印象に残るのは、ケストナーとお母さんとの関係です。お母さんは
一人息子のエーリッヒのためだけに生きていました。彼の学資のため
に働き、彼の旅行のために稼ぎ、彼の一挙手一投足に注意をはらい、、、。
それはケストナーには大変なプレッシャーだったと思いますが、彼は
母の思いに応えようと、頑張りぬきます。マザコンだとか、子離れでき
ないとか言った域を超えた壮絶さで、感動的でもあります。だれにでも
真似のできることではありませんが、これも親子のあり方の一つだと
思います。
ふたりのロッテ (岩波少年文庫) | |
ヴァルター・トリアー,Erich K¨astner,池田 香代子 | |
岩波書店 |
ケストナーの子供向けのお話は、どれも面白くてグイグイ引きこまれますが、
彼の良い所は、子供向けだからといって、醜いこと、酷いこと、悲しいことな
どを隠さずどんどん書いているところです。それが現実なのですから。この
「二人のロッテ」でも、両親が(どうやら)父親の浮気のために離婚して、双
子の姉妹が離れ離れに暮らしているのですが、二人は幼い知恵を絞って
両親のよりを戻させようとします。そこにはさらに父親の新しい愛人らしき
女性まで現れて、すったもんだします。
まあ普通、子供向けのお話でこんなテーマはないですよね。それをユーモ
ラスにサラリと、でもほんのちょっと毒を持って、子どもにも大人にも興味
を引くように書いているところが、ケストナーの優れた筆力です。ハッピー
エンドになるだろうとは思いながらも、途中の思わぬ展開に何度もハラハ
ラします。
ケストナー―ナチスに抵抗し続けた作家 | |
Klaus Kordon,那須田 淳,木本 栄 | |
偕成社 |
彼は二次大戦中もドイツにとどまり続けた数少ない作家です。あまりの
人気の高さに、ナチスも彼には手を出せなかったようです。もっとも彼の
大人向けの本は焚書にあったそうです。ケストナーは自分の本が燃や
されるのを見ていたとか。「人生は、単にバラ色ではなく、単に黒色でも
なく、色とりどりである。善人も悪人もいる。善人も時として悪くなり、悪
人もおうおう善くなる。わたしたちは笑ったり泣いたりする。、、、わたし
たちは幸福だったり、不幸だったりする。、、、わたしは二度と笑うことは
ありえないと思うほど、泣いた。そしてまた、泣いたことなんかついぞな
かったかのように笑うことができた。「もう大丈夫よ。」と母はいった。
そのとおり、またよくなったのだった。だいたいまたよくなった。」
高橋健二訳「わたしが子どもだったころ」より