貢蕉の瞑想

青梅庵に住む貢蕉の日々のつぶやきです。

この一句の誕生!裏に六句の推敲句!!!

2021-08-16 15:29:14 | 日記

この一句の誕生!裏に六句の推敲句!!!

令和3年8月16日(月)

金屏の 

  松の古さよ 

      冬籠

 冬籠もりをする家の中、金屏風に

描かれた老松が古雅な味わいを

見せている、

の意。

 芭蕉庵で連句を興行した立句で、

『三冊子』に、

これは「屏風には山を絵書て冬籠」

を直したものとあり、

『芭蕉全伝』は、伊賀の平(へい)沖(ちゆう)亭

で、元禄二年に詠んだと記す。

 『続五論』では、

「金屏はあたゝかに銀屏は涼し、

是おのづから金銀屏の本情なり」

と指摘。

◎ 弟子の野馬(やば)たちと連句の会を

巻いたときの発句として詠んだ句。

 金屏風の金地は古くなると、何となく

光を失い、描かれている松も古びて、

しかし落ち着いた色合いになる。

 銀屏風が涼しげに、つまり冬は寒々

とした気配になるのに、

金屏風には寒さに耐えている温かさ

がある。

 ところで、この一句を作るために、

六句の推敲句が捨てられたので、

芭蕉が近傍武の風景を愛でて、

立派な発句にしたいと思っていた

熱意のほどがある。


芭蕉の喝破!そのままよ

2021-08-13 14:18:02 | 日記

芭蕉の喝破!そのままよ

令和3年8月13日(金)

 琵琶湖の東にある花の山伊吹山。

 もう一度登りたい山の一つだ。

其まゝよ 

  月もたのまじ 

      伊吹山

   伊吹山は、そのままでよいのだ。

月の風情を頼む必要もあるまい、

の意。

 元禄二年(1689)の作。

 前書き「戸を開けば、西に山あり。

息吹といふ。花にもよらず、

雪にもよらず、只これ孤山の徳あり。」

「孤山の徳」・・・独り毅然と立つ山の

偉大さ。

 中国、宋代の林和靖が隠棲した西湖

の畔の孤山が念頭にあろう。

 斜嶺亭における吟。

 前書きの句で、自然界の美を代表

する雪月花を揃えつつ、それを

「たのまじ」としたところが大胆で、

伊吹山の秀麗ぶりを強く印象づけて

いる。

  ◎冬になると、伊吹山は真っ白に

化粧され、伊吹おろしの凍った風を

送ってくる。

 その巍(ぎ)々(ぎ)を聳える姿は

美しいよりも、激しくて見る人を

震え上がらせるようだ。

 世に伊吹山は、月雪花の風流の

欠けらももない、恐ろしく自然の姿

だと言われている。

 それを俳句の世界として、

詠い上げるには相応の覚悟がいる

ぞと芭蕉は喝破した。

 爽快である。


月も虫も糸のよう・・・!

2021-08-12 10:51:38 | 日記

月も虫も糸のよう・・・!

令和3年8月12日(木)

冬庭や 

  月もいとなる 

     むしの吟

  冬の庭を照らす月は糸のように細く、

生き残った虫もか細い声で鳴いている、

の意。

 元禄二年(1689)の作。

「いとなる」・・・「糸なる」ないし

「網と成る」で、糸のような状態であ

ること。

 一入(いちにゆう)  という想の庵で

巻かれた連句の立句。

◎ 上に見えるのは、細い糸のよう

な月で、まさに冬の庭の上に寒そう

な姿を見せている。

 同時に庭の草むらの虫の鳴き声も

糸のようにか細い歌を聞かせている。

 「いとなる」を月と虫の両方の形容

した句。

 上の月も下の虫もともに冬の寒々

とした庭の添え物として相応しい。

 


趣向の一句!冬夏の二重構造

2021-08-11 10:55:38 | 日記

趣向の一句!冬夏の二重構造

令和3年8月11日(水)

冬牡丹 

  千鳥よ雪の 

    ほとゝぎす

  前書き 「桑名・本当寺にて」。

 冬牡丹が咲く庭に聞こえる千鳥の

鳴き声は、雪中の時鳥といった恰好だ、

の意。

「冬牡丹」・・・春の蕾を摘んで、

冬に開花するようにした牡丹で、

寒牡丹ともいう。        

 俳諧独自の題。

  貞享元年(1684)の作。

 本当寺は本統寺。

 木因と訪れた寺で、古益らと句会を

催したときの吟。

 牡丹が本来は夏季であるのに因み、

千鳥を雪の時鳥言いなしたのが趣向。

 千鳥も季語。

◎ 雪積もる庭に面して牡丹と千鳥を

配し、新年の雅会を巻いていると、

千鳥が時鳥のように鳴いた。

 手の込んだ趣向の妙は、

夏になって、時鳥の鳴くのを待ち

焦がれている人々に、千鳥が時鳥

に変化すればという望みを起こ

させる。

 同時に、雪景色が牡丹と千鳥に

よってこそ、美しく見えるという

満足感を与えてくれる。

 この冬と夏の二重構造の句、

趣向の面白さで際立っている。

 


籾の擦る音!

2021-08-10 11:33:47 | 日記

籾の擦る音!

令和3年8月10日(火)

 芭蕉冬の句第2首。

面白し 

  雪に野ならん 

     冬の雨

  籾を擦る音が、霰のように

景気よく響き、冬など無縁に

ぬくもりのある家だなあ、

の意。

 貞享元年(1684)の作。

 挨拶吟で、千里(ちり)  の孫が

所持する芭蕉真蹟を島酔が書写して

底本に掲載したもの。

◎冬の寒さをなど知らないはずの、

この大和の国の宿屋で、

籾摺りで玄米を作っている。

 その音は、まるで本当の霰が

降っているようにも聞こえる。

 温かい室内で、霰という冷たい

物の降る音を聞いているの一興だ

というのだ。

 貞享元年(1684)、芭蕉41歳の

時の、穏やかな冬の情景だ。

 農家の働く人の息と機械の音が

混じって聞こえる冬の音の句。