<エルドリッジ・ストリートの新生活>
昨年のストリート以来すっかりお世話になっているドラマーの 本田さんが見つけてくれた住処に飛行場から直行した。ちょうど 3か月だけ日本に帰るという日本人ミュージシャンの部屋は、ダ ウンタウンのはずれ(ロウワーイースト)にあるエルドリッジス トリートに面した地下室付きのアパートだった。
同じ大きさの細長い建物が立ち並ぶこの通りは、普通の観光客はめったに近寄らないドラッグディーラーだらけの危険な通りだったが、家賃が安いので文句は言えない。ストアフロントといって店鋪を改造した もので、正面の入り口は全てガラス張り、床は石畳、おそらく元は床屋だったのではなかろうかという細長い造り。ひんやりと した空気とカビの臭いにつつまれた地下室に降りて行くと、ドラ ムセットやキーボードがセットされていていつでも音が出せるよ うになっていた。ミュージシャンにとってこんなに嬉しい環境はない。
まず手始めに簡単な家財道具を買う為チャイナタウンに繰 り出した。ここからリトルイタリーまで徒歩5分。隣駅のキャナ ルSt.には中華街があり買い物には不自由しない便利な場所だ。 チャイナタウンに近いのが主婦にとってなにより嬉しい。(なんて 書いているとなんだか音楽の話から遠ざかってしまいそうだが) さっそく包丁とお米、食料、そして冷たい石床の上に敷くゴザを 入手。日本にいたって、こんなゴザが買える場所を私は知らない。恐るべしチャイナタウン。アパートには、日本人の住処だけ あって電気釜や鍋はちゃんと置いてある。さあ、やれるだけの事 をやってやるぞ〜。エネルギーの塊の街、NYの中心にまた一歩足を 踏み入れてしまった私達の新たな挑戦がここから始まった。
さっそくNYの友人たちに電話するとみんな「お帰り〜!」と歓迎 してくれた。そしてまず1番にやってきたのは缶コーラと英字新聞を抱えたジャッキーだった。「ハ~イ、サチ、トシキ」挨拶を 交わしたジャッキーは今回の長期滞在をとても喜んでくれている。積もる話は山ほどあるけど訛りの強いジャッキーとは心で交 流するしかないな、とあきらめかけていると、タイミング良く親友のDちゃん登場。前回Dちゃんがジャッキーとの通訳を務 めてくれたお陰で随分助かったのだが、今回もまたお世話になる しかない。DちゃんはNYに移住するなら結婚してもいいわ、と 条件付きでハンサムな日本人カメラマンとNYに渡り、唄や芝居の 勉強をしているエネルギッシュでキュートな女の子。NYに来て3 年だが、すっかりニューヨーカーになりきっている彼女と、無理 やり連れてこられてしまって未だに日本をこよなく愛している旦那様となんとか楽しく暮らしているようだ。
「Dちゃんと夕食に行くからジャッキーも一緒に行かない?」 と誘うと照れくさそうに首を振り「明日の予定は?また顔出すよ。バーイ。」とちょっと足をひきずりながらグランドSt. 駅に向かって歩き出していた。
そういえば去年1度だけDちゃんの友人の家でパーティがありジャッキーを誘った事が あった。ヤヒロ君が帰るので3人で演奏するのはこれが最後だ から、という理由で一緒について来たのだが、周りがみんな白人だった為なのか、ジャッキーは私たち以外とは殆ど喋らず、 ちょっと居心地悪そうにしていた。そう言えば日本人レストラ ンに出かけた時も、いくらご馳走するからと誘っても一緒に食 事をしようとしなかった。きっと私たちにはわからない、黒人の何かがあるのだろう。

とりあえず今ライブが決定しているのは昨年同様<ザンジ バー&グリル>と<ニッティングファクトリー>。メンバーを 探してNY版 "Stir Up!"(私の東京でのバンド名)を結成しよう、せっかくNYに来ているのだから素晴らしいミュージシャ ン達と交流しよう、というのが今回最大の目的だ。しかし「俺 も行きたい!一緒にやらせてよ。」と日本からドラムのつの犬 がそのライブにあわせて、約2週間転がりこんで来る事になっている。果たして3か月でどこまでできるのだろうか。 私達はまず手始めに前回知り合った音楽プロデューサー・ダ ニエル氏が紹介してくれたシスター・チャイナという女性にコ ンタクトをとる事にした。
<初体験、レゲエバンド>
「彼女は音楽業界で沢山の仕事を手掛けているから、きっと 君達の役にたってくれると思うよ。」ダニエルの言葉を頼り に、私達は待ち合わせの<ニッティングファクトリー>のバー に向かった。「ハーイ」時間通りやってきた彼女は真っ黒な大 きめのサングラスに黒いボブカットの美しい、キャリアウーマ ンといった中国系アメリカ人。
「あなたの演奏が聴きたいわ。 明日レゲエの店で友達が出演するの、よかったらそこで演奏し ない?」喜んでこの申し出を受けシスターチャイナと握手を交 わした。
翌日、待ち合わせのライブハウスはダウンタウン・ キャナルストリートの<ウェットランド>。ドアを開くとサイ ケ調の蛍光色のペインティングがブラックライトで怪しく照ら しだされ、地下にもバーがあり熱気が充満し、少し息苦しい。 既に演奏が始まっており大勢の客たちが音楽を楽しみつつ、好 き勝手に飲んだり踊ったりしている。バンドリーダーはボーカ ル&ギターの白人だが、もう1人ラスタヘアーの黒人も歌を歌 いながら観客に向かって片手を上げ「アユーリ!」と叫び客と 呼応しあっている。きっと「最高!」って意味だろう。小柄でや さしそうなトランぺッターの美しい音色、そして隣の短いド レッドヘアーの黒人トロンボーンがあまりに格好良くて私の目 は釘ずけ状態に・・・。コーラスのラスタ娘もめちゃくちゃ可 愛い。思わず体が動きだしてしまうヒップなレゲエバンドだっ た。1セットが終わるとチャイナは私をさっそく楽屋に連れて 行き、リーダーのジャー・リーバイに紹介し、次の演奏に飛び 入りさせてもらえるよう頼んでくれた。リーバイはトロンボー ンのジョッシュ・ローズマンとトランペットのラッスール・シ ド ゥ ッ ク を 紹 介 し 「彼等に譜面を見せてもらうといい。ソロは好きな ところで吹いていいからね。」と穏やかな笑顔で私に言った。さあ、一体どうなる・・・?? (つづく)


昨年のストリート以来すっかりお世話になっているドラマーの 本田さんが見つけてくれた住処に飛行場から直行した。ちょうど 3か月だけ日本に帰るという日本人ミュージシャンの部屋は、ダ ウンタウンのはずれ(ロウワーイースト)にあるエルドリッジス トリートに面した地下室付きのアパートだった。
同じ大きさの細長い建物が立ち並ぶこの通りは、普通の観光客はめったに近寄らないドラッグディーラーだらけの危険な通りだったが、家賃が安いので文句は言えない。ストアフロントといって店鋪を改造した もので、正面の入り口は全てガラス張り、床は石畳、おそらく元は床屋だったのではなかろうかという細長い造り。ひんやりと した空気とカビの臭いにつつまれた地下室に降りて行くと、ドラ ムセットやキーボードがセットされていていつでも音が出せるよ うになっていた。ミュージシャンにとってこんなに嬉しい環境はない。
まず手始めに簡単な家財道具を買う為チャイナタウンに繰 り出した。ここからリトルイタリーまで徒歩5分。隣駅のキャナ ルSt.には中華街があり買い物には不自由しない便利な場所だ。 チャイナタウンに近いのが主婦にとってなにより嬉しい。(なんて 書いているとなんだか音楽の話から遠ざかってしまいそうだが) さっそく包丁とお米、食料、そして冷たい石床の上に敷くゴザを 入手。日本にいたって、こんなゴザが買える場所を私は知らない。恐るべしチャイナタウン。アパートには、日本人の住処だけ あって電気釜や鍋はちゃんと置いてある。さあ、やれるだけの事 をやってやるぞ〜。エネルギーの塊の街、NYの中心にまた一歩足を 踏み入れてしまった私達の新たな挑戦がここから始まった。
さっそくNYの友人たちに電話するとみんな「お帰り〜!」と歓迎 してくれた。そしてまず1番にやってきたのは缶コーラと英字新聞を抱えたジャッキーだった。「ハ~イ、サチ、トシキ」挨拶を 交わしたジャッキーは今回の長期滞在をとても喜んでくれている。積もる話は山ほどあるけど訛りの強いジャッキーとは心で交 流するしかないな、とあきらめかけていると、タイミング良く親友のDちゃん登場。前回Dちゃんがジャッキーとの通訳を務 めてくれたお陰で随分助かったのだが、今回もまたお世話になる しかない。DちゃんはNYに移住するなら結婚してもいいわ、と 条件付きでハンサムな日本人カメラマンとNYに渡り、唄や芝居の 勉強をしているエネルギッシュでキュートな女の子。NYに来て3 年だが、すっかりニューヨーカーになりきっている彼女と、無理 やり連れてこられてしまって未だに日本をこよなく愛している旦那様となんとか楽しく暮らしているようだ。
「Dちゃんと夕食に行くからジャッキーも一緒に行かない?」 と誘うと照れくさそうに首を振り「明日の予定は?また顔出すよ。バーイ。」とちょっと足をひきずりながらグランドSt. 駅に向かって歩き出していた。
そういえば去年1度だけDちゃんの友人の家でパーティがありジャッキーを誘った事が あった。ヤヒロ君が帰るので3人で演奏するのはこれが最後だ から、という理由で一緒について来たのだが、周りがみんな白人だった為なのか、ジャッキーは私たち以外とは殆ど喋らず、 ちょっと居心地悪そうにしていた。そう言えば日本人レストラ ンに出かけた時も、いくらご馳走するからと誘っても一緒に食 事をしようとしなかった。きっと私たちにはわからない、黒人の何かがあるのだろう。

とりあえず今ライブが決定しているのは昨年同様<ザンジ バー&グリル>と<ニッティングファクトリー>。メンバーを 探してNY版 "Stir Up!"(私の東京でのバンド名)を結成しよう、せっかくNYに来ているのだから素晴らしいミュージシャ ン達と交流しよう、というのが今回最大の目的だ。しかし「俺 も行きたい!一緒にやらせてよ。」と日本からドラムのつの犬 がそのライブにあわせて、約2週間転がりこんで来る事になっている。果たして3か月でどこまでできるのだろうか。 私達はまず手始めに前回知り合った音楽プロデューサー・ダ ニエル氏が紹介してくれたシスター・チャイナという女性にコ ンタクトをとる事にした。
<初体験、レゲエバンド>
「彼女は音楽業界で沢山の仕事を手掛けているから、きっと 君達の役にたってくれると思うよ。」ダニエルの言葉を頼り に、私達は待ち合わせの<ニッティングファクトリー>のバー に向かった。「ハーイ」時間通りやってきた彼女は真っ黒な大 きめのサングラスに黒いボブカットの美しい、キャリアウーマ ンといった中国系アメリカ人。
「あなたの演奏が聴きたいわ。 明日レゲエの店で友達が出演するの、よかったらそこで演奏し ない?」喜んでこの申し出を受けシスターチャイナと握手を交 わした。
翌日、待ち合わせのライブハウスはダウンタウン・ キャナルストリートの<ウェットランド>。ドアを開くとサイ ケ調の蛍光色のペインティングがブラックライトで怪しく照ら しだされ、地下にもバーがあり熱気が充満し、少し息苦しい。 既に演奏が始まっており大勢の客たちが音楽を楽しみつつ、好 き勝手に飲んだり踊ったりしている。バンドリーダーはボーカ ル&ギターの白人だが、もう1人ラスタヘアーの黒人も歌を歌 いながら観客に向かって片手を上げ「アユーリ!」と叫び客と 呼応しあっている。きっと「最高!」って意味だろう。小柄でや さしそうなトランぺッターの美しい音色、そして隣の短いド レッドヘアーの黒人トロンボーンがあまりに格好良くて私の目 は釘ずけ状態に・・・。コーラスのラスタ娘もめちゃくちゃ可 愛い。思わず体が動きだしてしまうヒップなレゲエバンドだっ た。1セットが終わるとチャイナは私をさっそく楽屋に連れて 行き、リーダーのジャー・リーバイに紹介し、次の演奏に飛び 入りさせてもらえるよう頼んでくれた。リーバイはトロンボー ンのジョッシュ・ローズマンとトランペットのラッスール・シ ド ゥ ッ ク を 紹 介 し 「彼等に譜面を見せてもらうといい。ソロは好きな ところで吹いていいからね。」と穏やかな笑顔で私に言った。さあ、一体どうなる・・・?? (つづく)

