ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

懐かしくも存在感大・・「くど」のある作品を鑑賞しました

2025-01-07 20:22:34 | 対話型鑑賞

2024.12.15 浜田市世界こども美術館  「コレクション展」

1.鑑賞作品

「ひととき」 中木征一郎 (制作:2007年) 油彩100号 キャンバス

 描かれている女性とその脇のくどというモチーフより、対話型鑑賞を初めて体験する人でも発言しやすい作品であろうと考えたため、物語性の強い作品を選んだ。郷愁を感じる作品というだけでなく、作者の作画の思いや描かれている女性との関係について発言が及ぶことを期待して鑑賞を始めた。

2.鑑賞者 

60代男性1名・ 50代女性1名・ 途中参加男女2名・会員1名 計5名

ファシリテーター(F)正田裕子

3.対話型鑑賞の流れ

F:見える物、何でも良いので言っていただいてもよろしいですか。(対話型鑑賞に初めて参加される方あり。)

・缶コーヒーの発見

 鑑賞者1:右下に長年デザインの変わらない缶コーヒーがある。

・高齢女性の描写

 鑑賞者3:おばあちゃんに近いぐらいの年齢の女性が座っている。缶コーヒーの傍に座っているからちょっと1人になって一息入れているのではないか。

・くど(竈)の存在           

 鑑賞者2:幼少期の頃を思い出す。家の中にくどがあってこんな感じにおじいちゃんがくどの隅に腰かけていた。ご飯を炊いていた。(その後、くどの使用方法を自らの体験も交えて説明をする。)

F:おじいさんの手伝いをされた事を思い出されたのですね。作品は年代としてはどれぐらいですか。

・時代背景

 鑑賞者3:昭和40年代ぐらいまでは残っていた。缶コーヒーがあるので、はっきりわからない。

 鑑賞者2:昭和50年代には、我が家にもなかった。

 鑑賞者3:羽釜や神棚があって,くどは傷んではいるが日常的に使っている感じがする。だから、昭和30年代から戦後とか……ぐらいの感じがある。

 鑑賞者1:私は、昭和30年代か40年代ぐらいかなと思った。

 鑑賞者2:電球が裸電球である。くどの近くには、火事が起きないように神棚があった。

F:裸電球が使われていた時代なのですね。神棚と思われたのはどこからですか。

・家屋と当時の家庭の様子

 鑑賞者2:榊が立ててある。そしてろうそくみたいなものがあるから。

F:あと何か見える物とかありますか。

 鑑賞者2:土壁がある。

 鑑賞者1:バックは土壁ではないか。そして、ここは土足で入る土間ではないか。

 鑑賞者1・2:日本家屋の構造と土間の様子について語る。

F:土間で食事の準備か何か……ご飯を炊くなどしていらっしゃる方なのでしょうかね。

 鑑賞者1:女性の服装の様子から女性の生業が農業を主体としている家庭の人ではないか。

・窓の向こう側の景色の発見

 鑑賞者1:この家、先程の薪や木の枝の話からも、多分近くに畑や田圃が広がっているか、もしくは山の途中にあるバックグラウンドではないか。窓の向こう側には、緑色も見えるし。

F:すごいですね。私は気付かなかったのですが、窓の向こう側に緑が鮮やかに見えていますね。

・女性について 

 鑑賞者1: 女性の表情とくどに火が熾きていない状況から、時間的に晩ご飯の支度前の午後ではないか。のんびりさせてもらえる時間だと思う。

 鑑賞者2:缶コーヒーもそうだったんですね。

F:さっき、表情のお話が出たのですが、この方はどんな風に感じたり思ったりしているでしょうか。また、どんな生活をしていらっしゃると考えますか。

 鑑賞者3:表情だけでなく首を傾けている様子から、夕飯を作る前の一息休んでいる状況ではないか。 目をつむっていることからも、オンタイムの前で居眠りしていてもおかしくない。

 鑑賞者1:キャプションの「ひととき」にもあるように、オンとオフならオフの一時かな。

F:キャプションも確認して頂きました。この方にとって、ゆったりしている時間ということですね。

・季節の推測

 鑑賞者1:季節なんですが、今は夏ではないかと思います。団扇もあるし。(F:根拠を確認する)そうです。服装にしても、袖をまくっている様子と肌がちょっと黒くて働き者のお母さんかな。

F:服装などから季節やこの方の人柄、今の状況について話していただきました。では、この方と作者の関係についてはどうでしょうか。

 鑑賞者1:キャプションにより作者の年齢が10代の頃ではないか。するとおばあちゃんを描いたことになる。昭和50年頃の時代を描いたとすると、当時中学生の頃を描いたのではないか。ぱっと見た様子からもモデルとして描いた状況ではないと思う。とすると、祖母か母親を描いた作品で、こ ういった風景の頭の中の印象で……穏やかなとか優しい感じがする。色合いからも。

F:キーワードとなる雰囲気が出ていると思われたのですね。(新たに2名の鑑賞者が加わる)

F:(それまでの対話の概略を伝える。)作品で何かこれって気になる点はありませんか。

・くどの火の焚き方と日常生活の描写

 鑑賞者4:かまどでご飯を炊いているところだと思う。モンペのズボンもはいとるし、それなりに高齢の人だと思う。今時はこのような様子もないからね。

 鑑賞者5:こういう物が昔はありました。モンペも…モンペをはいて働いている人は大変やもんね。

 鑑賞者1・4:手ぬぐいとマッチを見なくなった。マッチは、ちょっとした時にも使っていた。神棚も。

F:(くどを指し)ここに使うだけでなく、神棚など生活の中で必要だったということですね。

 鑑賞者2:奥には白い陶器の調味入れがある。今はプラスチックですよね。そう思って見るとプラスチックの物が何もないなあと思って見ていました。

 鑑賞者全員:おおっ。(相づち多数あり。)

 鑑賞者2:しゃもじも木だし。(その後に、くどのお湯でお酒を燗にする生活などの話題に繋がる。)

 鑑賞者4:くどの火焚きの仕事は子どもの自分の仕事であったこと。くどだけでなく、五右衛門風呂の火焚きについても発言あり。(鑑賞者2:同意する発言)

 鑑賞者5:(描かれている煙突に着目して、くどで調理した実体験が述べられる。)こういうのを使っていましたよ。この人は私のような人だなと思いました。(微笑ましい笑いがもれる。)

 鑑賞者2:優しい感じですよね。(鑑賞者5「ふふふ」と笑みがこぼれる。)

F:(くどを指し)この辺りの熱や温かさが感じられたようです。そして、何か温かいぬくもりや雰囲気も感じてくださったようです。最後に、作品を見られてどんなお気持ちになられましたか。

・人物の特徴と当時の生活そして描いた作者との関係へ  

 鑑賞者4:懐かしい感じ。自分のおばあさんとかモンペスタイルだったから。

 鑑賞者3:手が日焼けしていて、たくましくて働き者であったという話もあったのですが、団扇の花柄もそうだけれど、モンペの上の前掛けも淡いピンク色で藍色の入った手ぬぐいを被っていておしゃれな感じだと思う。働く時の野良着の格好だけれど結構キレイにおばあちゃんを描いてあって、そこから思うと、作者のこの人に対する愛情というかね、うちのおばあちゃんおしゃれなんよという配慮というか、そういう気持ちもあったかなと思う。そして缶コーヒーも含めて、当時あったかどうかはっきりしないが、当時の時代背景の中でもおしゃれな女性に描かれていたのではないかな。

 鑑賞者1:キャプションの制作年代と描かれている時代背景から、作者が中学生くらいの時期に印象深く残っている光景を後になって描いた心象風景ではないかな。

・締めくくりと感謝

F:「懐かしい感じのする作品」だったり「作者の作画の思いや描かれている女性との関係」だったり、とそれぞれに見ていただいたように思います。貴重な時間の中、沢山発言いただき、ありがとうございました。

4.対話を深める可能性があった発言

・「心象風景ではないか。」という発言について、「そこから何を思いながらこの作品を描いたと思われますか?」とこのタイミングで訊くことによって、作者と描かれている女性との関係について話題が繋がった可能性がある。それぞれの鑑賞者の多様な意見を求めるチャンスとなり得た。

・キャプションの情報から生まれた発言を作品の描かれているもの・ことがら・色や形に求めていく必要があった。鑑賞者の活発な意見に流された感が否めない。鑑賞者同士で意見を繋いでいく様子もあったが、さらに作品の見方を広げ深めていくためにも、「どこからそう思ったのか」という基本的な問いかけを大切にしたい。

5.ふり返り

・「プラスチックが一つもない」という発言より、鑑賞者の共通認識として描かれている時代は限定できていた。

・鑑賞者1人1人が、自分の体験を語りながらも、「家事の前の一休みできる憩いの時間を描いた作品」「優しいおばあちゃんを描いた作品」「作者との親しい人との日常を描いた作品」などの解釈が生まれた。途中参加の鑑賞者もいたが、互いの発言を大切にする雰囲気があり、温もりのある鑑賞会となった。

・経済成長期に幼少期を過ごした人々にとっては「郷愁」を誘う作品で、鑑賞者の体験を踏まえた対話になるであろうと予想はしたが、それだけでなく、描かれている女性と作者との関係性まで考えられることを目標とした。何とか描かれている女性と作者との関係について話すことはできたが、それまでに、実体験を元にした発言と見えたことからの推測とを往復することが多かった。解釈をさらに深める対話にしていくためには、サマライズのタイミングを逃さないことやパラフレイズの質を上げていくことが今後の課題である。

・作品に描かれていることを根拠として確認し、鑑賞者の発言に対して「そこからどう思うか」具体的な問いとして対話を広げられるとよかった。

【今後にむけて】

 会員からもあったが、大きく描かれているくど自体の様子を人物との関係性として見ることができれば、「このくどを使うことで家族の生活や人生を支えてきた女性」、「隣に描かれたくどと共に、誇りを持ちながら自分の人生を生きた女性」、「くどは描かれている女性を象徴している」など多様な解釈に繋げることができた。大きく描かれていることにはやはり意味があり、詳細なディスクリプションを求め、そこから考えられることをくり返し問いかけることで、さらに豊かな鑑賞者の解釈に繋げていきたい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

研修会のご案内です

2025-01-06 23:01:17 | 対話型鑑賞

新年を迎えました。今年もみるみるブログをよろしくお願いします。

1月の連休に,以下の内容で冬季研修会を行います。

 ①②は実践してみたい方向けの研修会です。

 ③④は,みるみるの会の例会としての鑑賞会です。こちらは,いつも通り鑑賞者としての参加も大歓迎です。

 対話型鑑賞の基礎基本とファシリテーションについて興味のある方は,経験の有無に関わらずお気軽に下記のQRコードからお申し込みください。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

じゆうのめがみをかたちづくるのは・・

2024-12-31 21:31:42 | 対話型鑑賞

みるみるの会 10月例会①

浜田市世界こども美術館 光と影の不思議展 https://www.hamada-kodomo-art.com/

日時:2024年10月20日(日)11:00~11:45

鑑賞作品:佐藤江未「FREE?」

参加者:10名(来館者8名、みるみるメンバー2名)

ファシリテーター:吉田理沙

 

1.作品選定について

 企画展「光と影の不思議展」は体験型の作品が多かったため、じっくりみて鑑賞できる作品を選んだ。中でも佐藤江未さんの作品は、光を当てたときに実物からは想像もできないようなシルエットが浮かび上がり、また、実物と照らし出される影(シルエット)の持っているメッセージが強く感じられる作品だったので、みんなでじっくりみて作品のもつメッセージについても考えたいと思った。

2.鑑賞の流れ

【前半】作品について、素材について

F:「まずはじめに、何がみえるかとか、感じたこと、なんでもいいのでお話しください。」

〇自由の女神

〇怪獣とかロボット

〇望遠鏡

〇武者の姿

 作品はゆっくりと回転しているため、角度によって壁に映る形(見え方)が変わるので、それぞれどんなものに見えるか話した。

 「何かに見ないといけないんですか。」という意見も。

 見えたものをどんどん尋ねていったので、何かの形に見立てないといけないという風にうけとられてしまったようだった。

〇何にも見えないときもある

 影の形ばかりを見ていたが、手前にある物体をみてみてもいいのでは、との声から手前にある物体に注目する。

〇ケータイやスマホ

〇基盤

〇腕時計

〇タブレット(土台)

〇最新機種ではなく古いもの、ガラケーとか

〇ケータイについてるストラップ→誰かが使っていたもの?

【後半】作品のもつメッセージについて

 前半に出てきた、投影された形と、実際に手前においてある物を結び付けて、考えられることを話してもらった。

〇積み上げられている形がぐるぐる回っている。「バベルの塔」のよう。文明のツール、通信手段であるこの素材で作られているのにも意味があるのでは。

F:「スマホなどを積み上げてつくった意味とは?」「他のものではだめだったのでしょうか。」

〇スマホは情報を得られるものだが、それについつい時間をとられてしまう。自由に情報を得られるけど、それに費やした時間って気づいたらものすごい時間になっていることもある。

F:「ご自身の経験とむすびつけていかがですか。」

〇怪獣に見える。スマホって一見自由にコントロールできそうなものだけど、怪獣のように私たちを侵食するものととらえることもできるのでは。

〇(ここにあるものは)この30年くらい?アナログ時計、ガラケー、音楽プレーヤーなど。時代の流れを感じる。作品が回ってる(動いてる)ことにも意味があるのかな。

〇手前にみえるものは3次元で、影でみえるものは2次元。実際にあるものとないものの対比?シルエットは光があって成り立つもの。ケータイも電気がないと成り立たない。

〇物質文明に対する批判?私たちは電気に頼っているが、電気を生み出すことが温暖化、自然破壊につながっている。でもこの便利なもの、もう手放すことはできない。手放すことができないもので自由の女神をつくっている。私たちは便利なものを手に入れたけど、本当に私たちは自由なのか?アイロニー…皮肉めいている。私たちに「気づけよ!」と言っているよう。

 作者が何を伝えようとしているのか、さまざまな視点からお話いただき、聴いている方にもさまざまな発見があった様子。物体とそれがつくる影(シルエット)からさまざまな解釈ができる作品だった。

3.ふりかえり

・現代アートは作品のメッセージ性が強いものが多いので、作品のもつメッセージを読み取る力が求められる。

・意見を出してもらうだけでなく、ときどき整理して、どんなふうにみてきたのかをまとめることも必要。

・鑑賞者から出てきた意見をどうつないでいくか。

4.今後に向けて

 点(要素)→線(そこから考えられること)→面(作品のもつメッセージ)へとひろげていけるかがファシリテーターの腕のみせどころだと感じました。

 鑑賞者と一緒になって楽しむ、というよりは、作品の世界へ誘う(いざなう)力が求められるので、今後もっと経験を積んでいきたいです。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

集まると・・・

2024-12-27 17:18:28 | 対話型鑑賞

2024年11月17日(土)11:00~11:25  浜田市世界こども美術館 企画展「光と影の不思議展」

作品:佐藤江美「Pride of Bag Closures:type FREE」 2021年

(プラスチックの留め具を組み合わせ、壁にその影を投影することで、フランス革命の自由の女神を表現)

参加者:一般最大7名(鑑賞中、流動的に増減)、みるみるメンバー1名 

ファシリテーター:房野伸枝

   

 展示会場には、佐藤江美さんの作品がカーテンに仕切られて、7つのブースに分かれて影を投影してありました。そのどれもが、手前に身近な3次元の物質(パッククロージャー、本、植物、チョコレート、カード、ケータイや時計など)を組み合わせ、それに手前から光を当てて向こう側に陰を投影するという影絵の手法を使った作品でした。組み上げられた物質の形からは、向こうに映る影の形は想像できません。けれど、その物質と影の組み合わせには深い意味が感じられ、対話を通してそれらをみつけたいと思わせる作品でした。

 10月に同じ作者の「自由の女神」をテーマにした作品を鑑賞していました。前回に続いて常連の方の参加もありましたので、別の作品で「自由の女神」をモチーフにした今作品を選びました。テーマが似ていても、影を形作る物質に違いがあれば(前回はスマホやケータイ、時計などの人工物で、今回はパッククロージャー)どのような鑑賞内容になるのか、楽しみでもありました。

 その場に居合わせた、小学校中学年くらいのお子さんとお母さんが2組参加してくれました。会場が広くないことと、小さなお子さんの目線に合わせるためにファシリテーターがかがんで進めることにしました。何が見えるか問いかけると、子どもたちが影の部分から見つけたことをつぶやき始めました。(アルファベットは鑑賞者の発言。Fはファシリテーターの言葉。( )はファシリテーターの意図)

~以下、鑑賞の流れ~

影の形から

こどもA:鉄砲とか剣を持っている人に見える。

F:他には何かある?

A:旗持ってる。

F:左側にある手のところあれ旗なんだね。どこから旗に見えたの?

A:棒みたいなのを持ってるから

F:棒みたいなのを持っててその先に旗がついてるんだね。何の旗だろうね。なんで旗を持ってるのかな。

A:敵か味方か分かりやすくするため。

F:じゃあこの旗を持っているのは味方だよって教えてるのかな?

A:そうだよ。

F:じゃあもしかして味方がいるの?

A:えー・・・一人しかいない。(影は一人の人物のものだけが映っている。)

F:一人しかいないね。本当だね。ここに映ってるのは一人みたいだけど、旗を持ってるっていうことはどうなんだろうね。

A:仲間がいるんじゃないかな。

F:じゃあ今見えないけど、周りには仲間がいるのかも?すごいね!旗一つからそんなことまで分かるんだね。

こどもB:右の手に鉄砲みたいなものをもってる。でも、とんがってるから剣かな。

F:銃を持って向かって左側の手には旗を持っている。それは(小まとめ)それを聞かれていかがでしょうか。はい大人の方どうぞ。

影の形・もとになっている絵画作品への言及と、手前の物質について

(Aのお母さんに話しかけてみた)どうですか?

C:(影について)どこの誰が描いたのか全然わからないんですけど、なんか見たことがあります。

A:(前の物質を指して)プラスチックで止めるやつ、あれで作っている。

F:はい、後ろの絵はなんか見たことがある絵の一部のようで、手前にある、影を作るためのものはプラスチックっていうことを言ってくれました。プラスチックの何ですか?

A:えっと、パンの袋の口をとめるもの

F:(ここでは、あっさりこの物質が何かを共有し、その意味を考えることに集中させようとした)それをあんな風に重ねると後ろにあんな影ができてるんだね。これはどういうことなんでしょうか?またちょっと考えてみてください

D:シルエット見ると、なんていうか、腰がね、丸くなってて女性かなって思うんですけど、丸みがあるかなと。でも、影のもとになってるそのパンの袋止めるやつはカクカクしててとんがってて。なんていうか、全然丸みがないのにそれなのに影は丸くなってるのが不思議だなと。

F:、あの腰あたりの形から、あれば女性のシルエットじゃないか。丸みを帯びてるんだけど手前の影を作っている物体はとってもカクカクしている。そのというか違いがすごく際立っているということでしょうか。(パラフレイズで要約)

物質と影との関係性について

E:この作家さんの他の作品もそうなんですけども、よくこんな素材で、組み立て方からこんな影が出せるなあと、それは本当に感動というか感心します。出てくる影の絵がすごいなと思います。さっきの子どもさんの発言にちょっとびっくりして、全部伝わってるじゃん!と思いました。

F:手前はとっても身近なもので我々も手に入れやすいもの。だけどもそれをうまく組み合わせることで後ろにああいうシルエットができるということですね。

G:前のものともすごいギャップがやっぱ大きいなって思うんですが、前のものだけ見るとすごくトゲトゲした、さっきカクカクって言われたんですけど、触ると痛いような感じがして、で、写っている影も銃剣を持っていたり旗を持っていたり、なんかこれから戦いに行く感じだから、どっちもなんかちょっと痛々しい、痛みを伴うようなそんな感じを受けました。

F:なるほど、身近なものではあるけどトゲトゲしくて、もしかしたら触ると痛そう。後ろのテーマも丸みを帯びた女性の体ではあるけれども戦いを意味するようなそんなものだということですね。それを聞かれていかがでしょうか?この手前のものと後ろとの今、違いや共通したことについて話をしてくださっているかと思います。(フレーミング)

D:今、材料もトゲトゲしてて、影もちょっとトゲトゲした部分があると言われたんだけど、言われてみれば、例えばあのパンを止めるやつが全部丸っこかったら銃剣の先っぽとか本当に鋭い影は、まん丸いものからは尖った影は出せないと思うので、さっき僕、影は丸くて材料はトゲトゲって言ったけれども、トゲトゲの影を出すにはトゲトゲみたいな材料が必要なのかなっていうのはあって。やっぱり作った人は、一応、材料を出したい影に合わせて選んでいるのかなとは思いました。玉みたいな、えーと、なんていうか、ビー玉みたいな素材だけだったら、この尖った影は出せないなと思うので、そういうことを思いました

F:手前の物質の材料のことと、後ろの関連性について言ってくださいました。(フレーミング)

物質と影との意味について

さっき手前のがプラスチックの口を止めるものであると言ってくれましたが、あの口を止めたりすることの意味と、あのシルエットの関連についていかがですか?(解釈へ移る問いかけ)

さらに深い解釈

H:口を閉じるものなら、よくピーマンとか野菜の袋もクローズするやつがあるけれど、形が違うんです。これはパンのやつだからフランス革命ってパンを求める、本当に食べることにもすごく困った民衆が蜂起したっていうところも、もしかして関連しているのかな。パンを求める声を封じられてきた人々が自由を求める。もしかしてそんな作者の意図としての素材選びもしかしたらあったのかなと。

F:すごいですね~~~!食うに食われない苦しい生活をしていた民衆がパンを求めて立ち上がったと。だからこのパンに関連した口を閉じるものを使ったということですね。

D:さっきお子さんが仲間がいるって言ったじゃないですか。仲間がいるってことは、その民衆を率いる自由の女神だとしたら、人を束ねる=仲間を束ねる一つにするっていうのが、そういう人の心を束ねるっていうか、一緒に戦おうじゃないか、何とかしようって束ねるっていうのも、もしかしたら意味は繋がるかなと思いました。

F:なるほどですね。袋の口を束ねるというものの道具の意味合いから、この後ろの影との関連性からパンを求める人々、その人々を民衆を束ねる団結するということをここにも意味が入っているんじゃないかということでしょうか(小まとめ)

F:そう考えると手前の材料、あれを使ったという意味がとっても際立ってきますよね。

(お子さんが少し退屈そうになってきたので声をかけた)すごいね。あなたが最初に言ってくれたことが大人のみんなの考えをね、どんどん引き出してくれてるよ。

E:影絵って、本来、影が主体なんだけど、これらの作品はその影を作るものはみんな誰もが触ったことがあるもの・影を作るツールということで、そこにも意味があるのが分かる。

F:この影がなかったら、手前のものと何の関係があるのかは全然わかりませんよね。でも影にすると意味が浮かび上がってくる。手前のものが影とは全然関係がなさそうなものなのに、この2つには実は意味があるということがみえてきました。

F:そのほか、何か気がつかれることはないですか?さっき、「旗を持ってる!」って言ってくれたけど、どこの旗なんですかね?

A:フランス。

F:すごい、フランスの旗知ってるの?

A:赤、白、青だった。

F:すごい!よく知ってるね! これも 3つの色に分かれてるみたいに見えるね。赤、白、青、はフランスの国旗です。だからこれはフランスの民衆を率いて立ち上がろうっていう自由の女神なんですね。

制作過程について

E:テクニックの面では、シルエットだけで、よくそれが表現できるなって思う。多分一個ずれたらアウトかも。

F:これは影を映しながら作るんでしょうね・・・。

E:ちょっと一個ずれてもダメだっていうことから、試行錯誤の積み重ねだと思う。実際に光当てながらちょっとずつちょっとずつ動かしたりとか、もしくはくっつけるんですよね、接着剤つけながら。だから、えっと、なんていうんかな、これはちょっとこじつけっぽいんだけど、その革命とか起こすのにも時間かかると思うんだけど、作品作りにもものすごい時間が、根気とか、情熱とか、時間とかがいるんだろうなっていうことを想像しました。

F:制作過程なんかも、もしかしたらここにリンクしている意味合いがあるのかもしれませんね。

題名の情報提供と鑑賞内容のまとめ

F:題名になんて書いてあるかというと、「Ride of Packclosures Type FREE」って書いてありますが、下に、「集まると強い」と書いてあります。

一同:へぇー!!(それまで話していたことと題名との関連について納得した様子)

F:袋を閉じるっていうことで、その、団結する、結束する、っていうパッククロージャーっていうことで、袋を結束させることが、民衆を結束させることにもつながっているという、そういう作品だったんじゃないかと思います。今日は影だけじゃなくて、手前のものと、その関係性やいろんな意味を皆さんでお話できました。ありがとうございました。

 

~振り返り~

 みるみるメンバーからは以下のコメントをいただきました。

・作品選びについて、作品の元ネタを知っているからこそ、語ることができる作品だった。

・物と影のギャップ・意外性が興味深かった。

・対話の流れは、子どものつぶやきから大人へ徐々に自然につないでいた。後半、メタな内容に、子どもが置いてきぼりになる場面があった。大人と子供、美的発達段階の違う人が混在しているときの難しさがある。2階層あってもよかったかも。しかし、子どもさんは途中、わからなくても、楽しいと思ってくれたようで、最後はとても満足していた様子だった。

・絵や国旗についての情報はファシリテーターが出すよりも、鑑賞者から引き出せるほうがよい。

・鑑賞者のするどい気づきにはもっと驚きをもって受け入れ、称賛するとよいのでは。

 前回、子どもの目線に合わせる大切さについて自分自身の反省があったので、今回はそのことにも配慮し、子どもが話しやすいムード作りを心がけました。今回の鑑賞会では、前半こどもたちが作品をよくみて柔軟に発想を広げ、それに大人たちの深い洞察が相まって、パッククロージャーと自由の女神との関連について豊かな解釈が生まれたと思います。対話を重ねることで「集団の力」や「自由」といった普遍的なテーマについて考えることができました。大人の気づきを引き出してくれたお子さんたちとのやり取りも楽しく、こども美術館ならではの鑑賞会となりました。ありがとうございました。

 

~次回例会のお知らせ~

 6月から12月まで,7回にわたって浜田市世界こども美術館で例会を行ってきました。貴重な場を快く提供してくださった世界こども美術館の皆様に深く感謝いたします。

 新年の例会は,益田市の島根県立石見美術館にて開催します。

 鑑賞者として,是非多くの皆様のご参加をお待ちしています。

みるみるの会

 2025年1月例会:2025年1月12日(日)14:00~  島根県立石見美術館 石岡瑛子展orコレクション展にて

 2025年2月例会:2025年2月15日(土)14:00~  島根県立石見美術館 石岡瑛子展orコレクション展にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ムービーをしゃべりながらみる感じ?

2024-12-24 22:32:42 | 対話型鑑賞

みるみるの会11月例会 

日時:2024年11月17日(日)11:30~12:00

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「10番目の感傷」 クワクボ リョウタ 2010

参加者:4名+数名

(来館者2名 みるみる会員1名 美術館関係者1名 入れ替わり数名) 

ファシリテーター:津室和彦

  

1 作品選定について

 真っ暗なブースで動く作品,これまで経験したことのない作品が動く鑑賞だが,本企画展の目玉作品のようだと感じ,挑戦することにした。

 Nゲージのようなレール上を移動する動力車に,小さなライトが積み込まれており,車体が移動するにつれ,レールの周りに置いてあるオブジェの影がダイナミックに周囲の壁や天井に投影される作品である。15分間で1往復の行程を終え,またスタート位置からリピートし続けるという動きをする。展示室には明かりがなく,鑑賞者やファシリテーターも暗闇のため互いの存在や表情がうかがえず,さらに,鑑賞中であっても他の来館者がブースに出入りすることもある。対話型鑑賞を実施するには困難な環境であったが,その困難な状況下であっても対話型鑑賞をやってみたいと思わせる魅力的な作品だった。

2 鑑賞会での具体的な発言

 長くなるが,時系列で以下に示す。○は鑑賞者の発言 ★は不特定の発言やつぶやき Fはファシリテーターの発言である。

〇電車が動いている。電車に乗っているみたい。

F 影というのは,例えば何の影?

〇生活に使うものだけど,ちがうものに見える。

〇駅に人のシルエットが見える。千と千尋の神隠しのシーンのよう。

〇今,秒針がうごいていた。時計の針を横から見たみたい。

★「ああ!大きいですね。」 ※影が大きく変化した

★(つぶやき ささやき)

★「ははは。」「おお~。」 ※どよめきや共感

F 何か気が付いた? ※子供への問いかけ

〇〔親子で〕 今度はこっちにきた。 

F 影が映る場所が,四方の壁のいろんなところに変わるということですね。

★「おお~~~~。」

F 今度は何が見える?

〇〔子ども〕 おちゃわん!

F (子供に向け,おちゃわんの)影が何に見えているか,お話ししてくれないかな?

〇〔こども〕 ビルに見える。

★「ああ~~~~~,すげー」

F さっきまでと逆向きに進んでますね。そこから何か考えられることはないですか?

〇(影が)遠ざかっている。

F 電車に乗っていたら景色は後ろに流れていきますよね。今の方がもしかしたら本当の見え方ですか?スピ  ードも違いますね。

〇一瞬で消えていく感じを表現している。光と影のコントラストを見せるのであれば動かない方がいい。

F 動いているからこそちゃんと見たい。最後まで見たい?

★[おお~~~~~ ](拍手)

F 拍手が起きましたね。お終い?あ,ここから,またスタートなんだ。

F (最前の〇発言について)移ろっていくことのもどかしさを感じるんですか?

〇行きはすごくゆっくり。子供のころは時間の流れがゆっくりだったんだけど,ある程度年齢がいくとものす ごい速さで時間が過ぎていく。切り替わったときにそんな感じがしました。手から離れていく。列車のボックスシートで,進行方向に向かって座るか,反対側に座るか,そんな感じ。

F 列車のスピードはつまり,時の流れとか,人が感じる時間の速さとか・・・。子供のころはゆったりで,  今の方が忙しい・・・実感がこもっていますね。

〇ほんとそうだなあと思ったのが,時間の流れは24時間で同じはずなのに,感覚は全然違う。ゆっくり流れていると子供のころは感じていたのに,今はあっという間。ほんとに実感します。

F さきほど,動いているからもどかしいという発言がありましたが,さっきの時間の流れについての実感の話が結びつくのかな。子供時代は,見たいものをじっくり見たり,心行くまで触ったり眺めたりできたけれども,大人になると過ぎ去っていったり流れて通り過ぎていくというお話にも聞こえるなと思いました。

〇スタートのところにカバンを持った人物がひとりだけぽつんといて,そのあと大勢の中を縫って旅をしているみたいなので,全体がひとりの旅人の旅の様子のような感じもします。

〇作り方とか組み立て方について。影って置いてあるものでできるが,ものによっては色が若干透過する。現代的な作り方。LEDとかバッテリーが発達したからできた作品。

〇光が広がっていくのをうまく使っていて,ものとの距離で影が大きくなったり小さくなったりする。ものは全然変わらないのに,光の当たり方とか壁との距離によって別物に見える。配置が変わらなくても,光の当て方で別物に見える。

〇周りは全部ブラックアウトされる。

〇あ,(時計の)秒針が動いている。

★「ああ,本当だ!」

F あそこだけは,例外的に動いている?

〇動いているからこそ時の流れを感じる。

F みなさんのお話を聞いていると,「時の流れ」のような大テーマはあって,それに付随して身近な材料の使い方と光源の使い方・・・光源が動くことも関係しているのですかね。固定した影ではない・・・そこから考えられることや感じられることってないですか。影の見え方とか大きさとか形とかがどんどん変化していく。

〇それがもう,時間が流れているってことじゃないですか。

〇自分が列車に乗っているような感覚・・でも,実際乗っていると,こんな見え方は絶対しない。

F 乗っていないのに乗っているみたい,に感じてしまう感覚って何なのでしょう。

〇ここで,ぎざぎざしているものの中に入っていくというのは,ただの人工物のトンネルというよりは食べられちゃってるみたい。口の中に入っていく。

〇逆に自分が固定されていて,周りが動いているということもあるかも。

〇ほんとほんと,自分が動いていなくて,向こうが迫ってくるようなしかけかも。

F なんか相対的なもの?

〇別の視点とか,相対的に,昔のビックリハウスみたいに自分が動かないで周りの箱が動いちゃうと錯覚するような。

〇錯覚と見立てが合体したような。

〇改めてものの形の美しさを感じた。籠があんなにきれいになるなんて!とか。

〇籠が広がったり大きくなったりして,衝撃ですよね。

〇二つが重なったり大きさが変わったり,すごくきれい。

〇最初のカバンを持っている人も。遠ざかっていくと違うものに見えたり。

F 他のブースでも,影の作品を見てきたのですが,この作品で特徴的なのが今のお話。身近なものなのに,影にすることでもとのものよりも美しく見えた。動きも伴ってダイナミックな見え方をする。

○すごくきれい 何かの建築物みたい

○京都駅や金沢駅みたい

★「うわ~~~!すご~~い!」

○この作品って見え方が少し違う。360度に通路を置いて見ることができるかも。今はこっち側からだが,あっちから見たら違う見え方がするかもしれない。 

F 作品としてこの場全体の作り方については,いかがですか。

○光と影だから光の後ろ側から見ないと・・・あれが動いているから,いろんな形で影が四方に映る。

F 今の設えでいくと3面に映る。でも,光がこっち向きのときは,ぼくたちの影も後ろに映りましたね

○(列車のスピードが上がった)早回しで時間を巻き戻しているような感じ。

F 逆行・・・再生していた人生をキュルキュルと巻き戻している。

F もしかして,それは回想するとか,変な話ですが死んじゃう直前に走馬灯のように(鑑賞者とハモる)のあのイメージですか?今まで楽しいとかきれいとかいう話もありましたが,人生の時の流れというと,終着としての死とかそんなものも想像するとか。

○でも最後,止まっちゃわないところはいい。

F (死は)言いすぎかな。絶えることなくつづく・・・。

○Nゲージはぐるぐる回すのがメインで,スイッチバックはしない。動かし方そのものにも何か意図がある。1回ぐるっと回って,また元のところからスタートするというのもあり得ると思う。

F 周回するのかと思ったら,そうじゃない動かし方だった。

○最初全部我々は1回見るじゃないですか。その後逆走すると,俯瞰して全体をみることができるようになる。

F なるほど。さっき見たあれだけど,今度は違う見え方ができるという。

○1周が人生だとすると,その人生の終わりに,人生のすべてを逆回ししながら復習できるという・・・。

○ループして戻ってゴール=スタートだったら,また永遠に続くじゃないですか。だけどさっきおっしゃったようにスイッチバックするということは,往路で1回みたものをもう1回別の視点で俯瞰してみるということになる。

F やっぱり閉じていない,周回じゃないからいいと,みなさんは捉えられているのですね。

○あそこのビルの中で1回スイッチが切り替わって電圧が変わってスピードが上がって,また戻ってきて,またスイッチが切り替わって電圧が下がって遅くなるという仕組みじゃないかな。

F テクノロジーというか電気工学が生かされている。

○ここでスイッチバックするとか,直線ですれ違わせるとか全部プログラムされている。 

F 鉄道模型が趣味の人がこれを見たら,唸りますよね。やられた!と。

○いろいろなやり方ができると思うが,こういう組み立て方をしたというのがいい。

F カメラも小型化されているので,あの列車にカメラを積んで,運転席の視点でほんとに車窓にすることも不可能ではないですよね。現代のテクノロジーを使えば,あれもこれもできる。でも,敢えてそうではなく,このような表現にしたのです。

3 対話のフェーズについて

 上記の記録を振り返ると,以下6つのフェーズがあったように思う。

(1)どんどん変化していく様子を追い続け,つぶやくフェーズ

 スイッチバックし始めるまでの前半の時間は,変化につれてのつぶやきやそれに関しての短い同意の表明などの発言がほとんどであった。光源と影がゆっくり動き続け,意外なみえかたが連続するため,新鮮な驚きが多いからだと考える。

(2)動きやスピードの変化に関しての発言が出てくるフェーズ

 往復点から逆向きに,ずいぶん速く動き始めると,これらについての発言が相次いだ。往路で一度みているものなので初見の驚きではないが,光源と影の逆方向への動きやスピード差による印象の違いに,鑑賞者は皆,心を動かされた様子だった。

(3)作品の仕組みやそのことで可能となる表現について話し合うフェーズ

 Nゲージ(列車模型)のような移動体に光源を置くことで,光源の移動につれて影も動くことや,鑑賞者の影も作品の一部になっているのではないかというみかたがでた。

(4)感覚的なみかたについて話し合うフェーズ

 車窓や運転席から自分がみているという捉えと,やはり外からみているという捉えの両方が出てきた。また,相対性や錯覚も感じるという個人の感覚に影響される発言も出てきた。

(5)時間という概念を広げて,人生というみかたが出てくるフェーズ

 ゆっくりな往路に対して速い復路ということから,子供と大人の時間間隔の違いについての考えが示された。また,復路は一度見たものを再度みることから,人生を振り返るというような感覚が生まれたようである。

(6)テクノロジーを活用した作品だという認識がなされたフェーズ

 列車の動きやスピードの細かなコントロールや小型で明るいLEDライトなど,現代的な技術を表現に生かしているという意見が出た。新しい表現方法とノスタルジックな影という,知的な理解と感覚とのギャップも魅力だということであろうか。

4 振り返り

(1)鑑賞の大きな流れ

 スタートこそ通常通り口上を述べたものの,みているものが刻一刻と変化していくので,「(作品の)隅々まで,ひとりでじっくりみてください」という訳に行かない。この時点で,動かない絵画等の鑑賞とはすでに全く違った。

 光や影が変わるにつれ,鑑賞者の心のうちも常に移ろい,しかも口に出して表現した瞬間も動き続ける・・・変化に気づいたり感嘆したりしながら,鑑賞者の口からこぼれ落ちるつぶやきの連続となった。ムービーや音楽のような時間軸のある作品で,刹那的な鑑賞が続くところが絶妙だった。鑑賞者たちも黙って見入る場面と,感嘆の声を上げて俄然話したくなる場面の,両面があったのではないか。時間軸にも緩急があるように感じた。ファシリテーターとしては,発言に添いながら,機を捉えて共感を示したり問いかけたりすることを心がけた。

 実際,個々の場面に感覚的に反応していた鑑賞者は,次第に時の流れやそこから連想される人生,更に後半速度を上げて回想するかのような動きに触発され,解釈を広げていけた。

(2)みるみる会員による振り返り

 みるみるの会メンバーからは,以下のような意見を得た。

 「ああ,この格子がきれいだね。」とか「ああ,すごく大きくなったね。」と誰かが言うと,「あ ほんとだ。」って見るわけで,鑑賞と発話が同時進行していた。話しながらも,その瞬間を見逃したくないし,その瞬間を長々と語ることで古びたものにしたくなかったから。もう瞬間瞬間でみえかたが変わるから,短い言葉の気づきで重ねて行って,それはもうこの作品の特性だった。その特性をみんなで共有できた。空間と時間軸が同時にあった作品だから,その一瞬で共感するしかなかった。鑑賞者がライトを浴びてその影も壁に投影されることから,鑑賞者自身もインスタレーションの一部としてその中に存在した。それをその場に居合わせた鑑賞者と共に時間と空間を共有できたことが嬉しい。あの作品を独りでみてもつまらない。ひとりで感心するだけ。今日はみながら共感しあえる相手がいたからとても楽しい時間が過ごせた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする