ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

集まると・・・

2024-12-27 17:18:28 | 対話型鑑賞

2024年11月17日(土)11:00~11:25  浜田市世界こども美術館 企画展「光と影の不思議展」

作品:佐藤江美「Pride of Bag Closures:type FREE」 2021年

(プラスチックの留め具を組み合わせ、壁にその影を投影することで、フランス革命の自由の女神を表現)

参加者:一般最大7名(鑑賞中、流動的に増減)、みるみるメンバー1名 

ファシリテーター:房野伸枝

   

 展示会場には、佐藤江美さんの作品がカーテンに仕切られて、7つのブースに分かれて影を投影してありました。そのどれもが、手前に身近な3次元の物質(パッククロージャー、本、植物、チョコレート、カード、ケータイや時計など)を組み合わせ、それに手前から光を当てて向こう側に陰を投影するという影絵の手法を使った作品でした。組み上げられた物質の形からは、向こうに映る影の形は想像できません。けれど、その物質と影の組み合わせには深い意味が感じられ、対話を通してそれらをみつけたいと思わせる作品でした。

 10月に同じ作者の「自由の女神」をテーマにした作品を鑑賞していました。前回に続いて常連の方の参加もありましたので、別の作品で「自由の女神」をモチーフにした今作品を選びました。テーマが似ていても、影を形作る物質に違いがあれば(前回はスマホやケータイ、時計などの人工物で、今回はパッククロージャー)どのような鑑賞内容になるのか、楽しみでもありました。

 その場に居合わせた、小学校中学年くらいのお子さんとお母さんが2組参加してくれました。会場が広くないことと、小さなお子さんの目線に合わせるためにファシリテーターがかがんで進めることにしました。何が見えるか問いかけると、子どもたちが影の部分から見つけたことをつぶやき始めました。(アルファベットは鑑賞者の発言。Fはファシリテーターの言葉。( )はファシリテーターの意図)

~以下、鑑賞の流れ~

影の形から

こどもA:鉄砲とか剣を持っている人に見える。

F:他には何かある?

A:旗持ってる。

F:左側にある手のところあれ旗なんだね。どこから旗に見えたの?

A:棒みたいなのを持ってるから

F:棒みたいなのを持っててその先に旗がついてるんだね。何の旗だろうね。なんで旗を持ってるのかな。

A:敵か味方か分かりやすくするため。

F:じゃあこの旗を持っているのは味方だよって教えてるのかな?

A:そうだよ。

F:じゃあもしかして味方がいるの?

A:えー・・・一人しかいない。(影は一人の人物のものだけが映っている。)

F:一人しかいないね。本当だね。ここに映ってるのは一人みたいだけど、旗を持ってるっていうことはどうなんだろうね。

A:仲間がいるんじゃないかな。

F:じゃあ今見えないけど、周りには仲間がいるのかも?すごいね!旗一つからそんなことまで分かるんだね。

こどもB:右の手に鉄砲みたいなものをもってる。でも、とんがってるから剣かな。

F:銃を持って向かって左側の手には旗を持っている。それは(小まとめ)それを聞かれていかがでしょうか。はい大人の方どうぞ。

影の形・もとになっている絵画作品への言及と、手前の物質について

(Aのお母さんに話しかけてみた)どうですか?

C:(影について)どこの誰が描いたのか全然わからないんですけど、なんか見たことがあります。

A:(前の物質を指して)プラスチックで止めるやつ、あれで作っている。

F:はい、後ろの絵はなんか見たことがある絵の一部のようで、手前にある、影を作るためのものはプラスチックっていうことを言ってくれました。プラスチックの何ですか?

A:えっと、パンの袋の口をとめるもの

F:(ここでは、あっさりこの物質が何かを共有し、その意味を考えることに集中させようとした)それをあんな風に重ねると後ろにあんな影ができてるんだね。これはどういうことなんでしょうか?またちょっと考えてみてください

D:シルエット見ると、なんていうか、腰がね、丸くなってて女性かなって思うんですけど、丸みがあるかなと。でも、影のもとになってるそのパンの袋止めるやつはカクカクしててとんがってて。なんていうか、全然丸みがないのにそれなのに影は丸くなってるのが不思議だなと。

F:、あの腰あたりの形から、あれば女性のシルエットじゃないか。丸みを帯びてるんだけど手前の影を作っている物体はとってもカクカクしている。そのというか違いがすごく際立っているということでしょうか。(パラフレイズで要約)

物質と影との関係性について

E:この作家さんの他の作品もそうなんですけども、よくこんな素材で、組み立て方からこんな影が出せるなあと、それは本当に感動というか感心します。出てくる影の絵がすごいなと思います。さっきの子どもさんの発言にちょっとびっくりして、全部伝わってるじゃん!と思いました。

F:手前はとっても身近なもので我々も手に入れやすいもの。だけどもそれをうまく組み合わせることで後ろにああいうシルエットができるということですね。

G:前のものともすごいギャップがやっぱ大きいなって思うんですが、前のものだけ見るとすごくトゲトゲした、さっきカクカクって言われたんですけど、触ると痛いような感じがして、で、写っている影も銃剣を持っていたり旗を持っていたり、なんかこれから戦いに行く感じだから、どっちもなんかちょっと痛々しい、痛みを伴うようなそんな感じを受けました。

F:なるほど、身近なものではあるけどトゲトゲしくて、もしかしたら触ると痛そう。後ろのテーマも丸みを帯びた女性の体ではあるけれども戦いを意味するようなそんなものだということですね。それを聞かれていかがでしょうか?この手前のものと後ろとの今、違いや共通したことについて話をしてくださっているかと思います。(フレーミング)

D:今、材料もトゲトゲしてて、影もちょっとトゲトゲした部分があると言われたんだけど、言われてみれば、例えばあのパンを止めるやつが全部丸っこかったら銃剣の先っぽとか本当に鋭い影は、まん丸いものからは尖った影は出せないと思うので、さっき僕、影は丸くて材料はトゲトゲって言ったけれども、トゲトゲの影を出すにはトゲトゲみたいな材料が必要なのかなっていうのはあって。やっぱり作った人は、一応、材料を出したい影に合わせて選んでいるのかなとは思いました。玉みたいな、えーと、なんていうか、ビー玉みたいな素材だけだったら、この尖った影は出せないなと思うので、そういうことを思いました

F:手前の物質の材料のことと、後ろの関連性について言ってくださいました。(フレーミング)

物質と影との意味について

さっき手前のがプラスチックの口を止めるものであると言ってくれましたが、あの口を止めたりすることの意味と、あのシルエットの関連についていかがですか?(解釈へ移る問いかけ)

さらに深い解釈

H:口を閉じるものなら、よくピーマンとか野菜の袋もクローズするやつがあるけれど、形が違うんです。これはパンのやつだからフランス革命ってパンを求める、本当に食べることにもすごく困った民衆が蜂起したっていうところも、もしかして関連しているのかな。パンを求める声を封じられてきた人々が自由を求める。もしかしてそんな作者の意図としての素材選びもしかしたらあったのかなと。

F:すごいですね~~~!食うに食われない苦しい生活をしていた民衆がパンを求めて立ち上がったと。だからこのパンに関連した口を閉じるものを使ったということですね。

D:さっきお子さんが仲間がいるって言ったじゃないですか。仲間がいるってことは、その民衆を率いる自由の女神だとしたら、人を束ねる=仲間を束ねる一つにするっていうのが、そういう人の心を束ねるっていうか、一緒に戦おうじゃないか、何とかしようって束ねるっていうのも、もしかしたら意味は繋がるかなと思いました。

F:なるほどですね。袋の口を束ねるというものの道具の意味合いから、この後ろの影との関連性からパンを求める人々、その人々を民衆を束ねる団結するということをここにも意味が入っているんじゃないかということでしょうか(小まとめ)

F:そう考えると手前の材料、あれを使ったという意味がとっても際立ってきますよね。

(お子さんが少し退屈そうになってきたので声をかけた)すごいね。あなたが最初に言ってくれたことが大人のみんなの考えをね、どんどん引き出してくれてるよ。

E:影絵って、本来、影が主体なんだけど、これらの作品はその影を作るものはみんな誰もが触ったことがあるもの・影を作るツールということで、そこにも意味があるのが分かる。

F:この影がなかったら、手前のものと何の関係があるのかは全然わかりませんよね。でも影にすると意味が浮かび上がってくる。手前のものが影とは全然関係がなさそうなものなのに、この2つには実は意味があるということがみえてきました。

F:そのほか、何か気がつかれることはないですか?さっき、「旗を持ってる!」って言ってくれたけど、どこの旗なんですかね?

A:フランス。

F:すごい、フランスの旗知ってるの?

A:赤、白、青だった。

F:すごい!よく知ってるね! これも 3つの色に分かれてるみたいに見えるね。赤、白、青、はフランスの国旗です。だからこれはフランスの民衆を率いて立ち上がろうっていう自由の女神なんですね。

制作過程について

E:テクニックの面では、シルエットだけで、よくそれが表現できるなって思う。多分一個ずれたらアウトかも。

F:これは影を映しながら作るんでしょうね・・・。

E:ちょっと一個ずれてもダメだっていうことから、試行錯誤の積み重ねだと思う。実際に光当てながらちょっとずつちょっとずつ動かしたりとか、もしくはくっつけるんですよね、接着剤つけながら。だから、えっと、なんていうんかな、これはちょっとこじつけっぽいんだけど、その革命とか起こすのにも時間かかると思うんだけど、作品作りにもものすごい時間が、根気とか、情熱とか、時間とかがいるんだろうなっていうことを想像しました。

F:制作過程なんかも、もしかしたらここにリンクしている意味合いがあるのかもしれませんね。

題名の情報提供と鑑賞内容のまとめ

F:題名になんて書いてあるかというと、「Ride of Packclosures Type FREE」って書いてありますが、下に、「集まると強い」と書いてあります。

一同:へぇー!!(それまで話していたことと題名との関連について納得した様子)

F:袋を閉じるっていうことで、その、団結する、結束する、っていうパッククロージャーっていうことで、袋を結束させることが、民衆を結束させることにもつながっているという、そういう作品だったんじゃないかと思います。今日は影だけじゃなくて、手前のものと、その関係性やいろんな意味を皆さんでお話できました。ありがとうございました。

 

~振り返り~

 みるみるメンバーからは以下のコメントをいただきました。

・作品選びについて、作品の元ネタを知っているからこそ、語ることができる作品だった。

・物と影のギャップ・意外性が興味深かった。

・対話の流れは、子どものつぶやきから大人へ徐々に自然につないでいた。後半、メタな内容に、子どもが置いてきぼりになる場面があった。大人と子供、美的発達段階の違う人が混在しているときの難しさがある。2階層あってもよかったかも。しかし、子どもさんは途中、わからなくても、楽しいと思ってくれたようで、最後はとても満足していた様子だった。

・絵や国旗についての情報はファシリテーターが出すよりも、鑑賞者から引き出せるほうがよい。

・鑑賞者のするどい気づきにはもっと驚きをもって受け入れ、称賛するとよいのでは。

 前回、子どもの目線に合わせる大切さについて自分自身の反省があったので、今回はそのことにも配慮し、子どもが話しやすいムード作りを心がけました。今回の鑑賞会では、前半こどもたちが作品をよくみて柔軟に発想を広げ、それに大人たちの深い洞察が相まって、パッククロージャーと自由の女神との関連について豊かな解釈が生まれたと思います。対話を重ねることで「集団の力」や「自由」といった普遍的なテーマについて考えることができました。大人の気づきを引き出してくれたお子さんたちとのやり取りも楽しく、こども美術館ならではの鑑賞会となりました。ありがとうございました。

 

~次回例会のお知らせ~

 6月から12月まで,7回にわたって浜田市世界こども美術館で例会を行ってきました。貴重な場を快く提供してくださった世界こども美術館の皆様に深く感謝いたします。

 新年の例会は,益田市の島根県立石見美術館にて開催します。

 鑑賞者として,是非多くの皆様のご参加をお待ちしています。

みるみるの会

 2025年1月例会:2025年1月12日(日)14:00~  島根県立石見美術館 石岡瑛子展orコレクション展にて

 2025年2月例会:2025年2月15日(土)14:00~  島根県立石見美術館 石岡瑛子展orコレクション展にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ムービーをしゃべりながらみる感じ?

2024-12-24 22:32:42 | 対話型鑑賞

みるみるの会11月例会 

日時:2024年11月17日(日)11:30~12:00

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「10番目の感傷」 クワクボ リョウタ 2010

参加者:4名+数名

(来館者2名 みるみる会員1名 美術館関係者1名 入れ替わり数名) 

ファシリテーター:津室和彦

  

1 作品選定について

 真っ暗なブースで動く作品,これまで経験したことのない作品が動く鑑賞だが,本企画展の目玉作品のようだと感じ,挑戦することにした。

 Nゲージのようなレール上を移動する動力車に,小さなライトが積み込まれており,車体が移動するにつれ,レールの周りに置いてあるオブジェの影がダイナミックに周囲の壁や天井に投影される作品である。15分間で1往復の行程を終え,またスタート位置からリピートし続けるという動きをする。展示室には明かりがなく,鑑賞者やファシリテーターも暗闇のため互いの存在や表情がうかがえず,さらに,鑑賞中であっても他の来館者がブースに出入りすることもある。対話型鑑賞を実施するには困難な環境であったが,その困難な状況下であっても対話型鑑賞をやってみたいと思わせる魅力的な作品だった。

2 鑑賞会での具体的な発言

 長くなるが,時系列で以下に示す。○は鑑賞者の発言 ★は不特定の発言やつぶやき Fはファシリテーターの発言である。

〇電車が動いている。電車に乗っているみたい。

F 影というのは,例えば何の影?

〇生活に使うものだけど,ちがうものに見える。

〇駅に人のシルエットが見える。千と千尋の神隠しのシーンのよう。

〇今,秒針がうごいていた。時計の針を横から見たみたい。

★「ああ!大きいですね。」 ※影が大きく変化した

★(つぶやき ささやき)

★「ははは。」「おお~。」 ※どよめきや共感

F 何か気が付いた? ※子供への問いかけ

〇〔親子で〕 今度はこっちにきた。 

F 影が映る場所が,四方の壁のいろんなところに変わるということですね。

★「おお~~~~。」

F 今度は何が見える?

〇〔子ども〕 おちゃわん!

F (子供に向け,おちゃわんの)影が何に見えているか,お話ししてくれないかな?

〇〔こども〕 ビルに見える。

★「ああ~~~~~,すげー」

F さっきまでと逆向きに進んでますね。そこから何か考えられることはないですか?

〇(影が)遠ざかっている。

F 電車に乗っていたら景色は後ろに流れていきますよね。今の方がもしかしたら本当の見え方ですか?スピ  ードも違いますね。

〇一瞬で消えていく感じを表現している。光と影のコントラストを見せるのであれば動かない方がいい。

F 動いているからこそちゃんと見たい。最後まで見たい?

★[おお~~~~~ ](拍手)

F 拍手が起きましたね。お終い?あ,ここから,またスタートなんだ。

F (最前の〇発言について)移ろっていくことのもどかしさを感じるんですか?

〇行きはすごくゆっくり。子供のころは時間の流れがゆっくりだったんだけど,ある程度年齢がいくとものす ごい速さで時間が過ぎていく。切り替わったときにそんな感じがしました。手から離れていく。列車のボックスシートで,進行方向に向かって座るか,反対側に座るか,そんな感じ。

F 列車のスピードはつまり,時の流れとか,人が感じる時間の速さとか・・・。子供のころはゆったりで,  今の方が忙しい・・・実感がこもっていますね。

〇ほんとそうだなあと思ったのが,時間の流れは24時間で同じはずなのに,感覚は全然違う。ゆっくり流れていると子供のころは感じていたのに,今はあっという間。ほんとに実感します。

F さきほど,動いているからもどかしいという発言がありましたが,さっきの時間の流れについての実感の話が結びつくのかな。子供時代は,見たいものをじっくり見たり,心行くまで触ったり眺めたりできたけれども,大人になると過ぎ去っていったり流れて通り過ぎていくというお話にも聞こえるなと思いました。

〇スタートのところにカバンを持った人物がひとりだけぽつんといて,そのあと大勢の中を縫って旅をしているみたいなので,全体がひとりの旅人の旅の様子のような感じもします。

〇作り方とか組み立て方について。影って置いてあるものでできるが,ものによっては色が若干透過する。現代的な作り方。LEDとかバッテリーが発達したからできた作品。

〇光が広がっていくのをうまく使っていて,ものとの距離で影が大きくなったり小さくなったりする。ものは全然変わらないのに,光の当たり方とか壁との距離によって別物に見える。配置が変わらなくても,光の当て方で別物に見える。

〇周りは全部ブラックアウトされる。

〇あ,(時計の)秒針が動いている。

★「ああ,本当だ!」

F あそこだけは,例外的に動いている?

〇動いているからこそ時の流れを感じる。

F みなさんのお話を聞いていると,「時の流れ」のような大テーマはあって,それに付随して身近な材料の使い方と光源の使い方・・・光源が動くことも関係しているのですかね。固定した影ではない・・・そこから考えられることや感じられることってないですか。影の見え方とか大きさとか形とかがどんどん変化していく。

〇それがもう,時間が流れているってことじゃないですか。

〇自分が列車に乗っているような感覚・・でも,実際乗っていると,こんな見え方は絶対しない。

F 乗っていないのに乗っているみたい,に感じてしまう感覚って何なのでしょう。

〇ここで,ぎざぎざしているものの中に入っていくというのは,ただの人工物のトンネルというよりは食べられちゃってるみたい。口の中に入っていく。

〇逆に自分が固定されていて,周りが動いているということもあるかも。

〇ほんとほんと,自分が動いていなくて,向こうが迫ってくるようなしかけかも。

F なんか相対的なもの?

〇別の視点とか,相対的に,昔のビックリハウスみたいに自分が動かないで周りの箱が動いちゃうと錯覚するような。

〇錯覚と見立てが合体したような。

〇改めてものの形の美しさを感じた。籠があんなにきれいになるなんて!とか。

〇籠が広がったり大きくなったりして,衝撃ですよね。

〇二つが重なったり大きさが変わったり,すごくきれい。

〇最初のカバンを持っている人も。遠ざかっていくと違うものに見えたり。

F 他のブースでも,影の作品を見てきたのですが,この作品で特徴的なのが今のお話。身近なものなのに,影にすることでもとのものよりも美しく見えた。動きも伴ってダイナミックな見え方をする。

○すごくきれい 何かの建築物みたい

○京都駅や金沢駅みたい

★「うわ~~~!すご~~い!」

○この作品って見え方が少し違う。360度に通路を置いて見ることができるかも。今はこっち側からだが,あっちから見たら違う見え方がするかもしれない。 

F 作品としてこの場全体の作り方については,いかがですか。

○光と影だから光の後ろ側から見ないと・・・あれが動いているから,いろんな形で影が四方に映る。

F 今の設えでいくと3面に映る。でも,光がこっち向きのときは,ぼくたちの影も後ろに映りましたね

○(列車のスピードが上がった)早回しで時間を巻き戻しているような感じ。

F 逆行・・・再生していた人生をキュルキュルと巻き戻している。

F もしかして,それは回想するとか,変な話ですが死んじゃう直前に走馬灯のように(鑑賞者とハモる)のあのイメージですか?今まで楽しいとかきれいとかいう話もありましたが,人生の時の流れというと,終着としての死とかそんなものも想像するとか。

○でも最後,止まっちゃわないところはいい。

F (死は)言いすぎかな。絶えることなくつづく・・・。

○Nゲージはぐるぐる回すのがメインで,スイッチバックはしない。動かし方そのものにも何か意図がある。1回ぐるっと回って,また元のところからスタートするというのもあり得ると思う。

F 周回するのかと思ったら,そうじゃない動かし方だった。

○最初全部我々は1回見るじゃないですか。その後逆走すると,俯瞰して全体をみることができるようになる。

F なるほど。さっき見たあれだけど,今度は違う見え方ができるという。

○1周が人生だとすると,その人生の終わりに,人生のすべてを逆回ししながら復習できるという・・・。

○ループして戻ってゴール=スタートだったら,また永遠に続くじゃないですか。だけどさっきおっしゃったようにスイッチバックするということは,往路で1回みたものをもう1回別の視点で俯瞰してみるということになる。

F やっぱり閉じていない,周回じゃないからいいと,みなさんは捉えられているのですね。

○あそこのビルの中で1回スイッチが切り替わって電圧が変わってスピードが上がって,また戻ってきて,またスイッチが切り替わって電圧が下がって遅くなるという仕組みじゃないかな。

F テクノロジーというか電気工学が生かされている。

○ここでスイッチバックするとか,直線ですれ違わせるとか全部プログラムされている。 

F 鉄道模型が趣味の人がこれを見たら,唸りますよね。やられた!と。

○いろいろなやり方ができると思うが,こういう組み立て方をしたというのがいい。

F カメラも小型化されているので,あの列車にカメラを積んで,運転席の視点でほんとに車窓にすることも不可能ではないですよね。現代のテクノロジーを使えば,あれもこれもできる。でも,敢えてそうではなく,このような表現にしたのです。

3 対話のフェーズについて

 上記の記録を振り返ると,以下6つのフェーズがあったように思う。

(1)どんどん変化していく様子を追い続け,つぶやくフェーズ

 スイッチバックし始めるまでの前半の時間は,変化につれてのつぶやきやそれに関しての短い同意の表明などの発言がほとんどであった。光源と影がゆっくり動き続け,意外なみえかたが連続するため,新鮮な驚きが多いからだと考える。

(2)動きやスピードの変化に関しての発言が出てくるフェーズ

 往復点から逆向きに,ずいぶん速く動き始めると,これらについての発言が相次いだ。往路で一度みているものなので初見の驚きではないが,光源と影の逆方向への動きやスピード差による印象の違いに,鑑賞者は皆,心を動かされた様子だった。

(3)作品の仕組みやそのことで可能となる表現について話し合うフェーズ

 Nゲージ(列車模型)のような移動体に光源を置くことで,光源の移動につれて影も動くことや,鑑賞者の影も作品の一部になっているのではないかというみかたがでた。

(4)感覚的なみかたについて話し合うフェーズ

 車窓や運転席から自分がみているという捉えと,やはり外からみているという捉えの両方が出てきた。また,相対性や錯覚も感じるという個人の感覚に影響される発言も出てきた。

(5)時間という概念を広げて,人生というみかたが出てくるフェーズ

 ゆっくりな往路に対して速い復路ということから,子供と大人の時間間隔の違いについての考えが示された。また,復路は一度見たものを再度みることから,人生を振り返るというような感覚が生まれたようである。

(6)テクノロジーを活用した作品だという認識がなされたフェーズ

 列車の動きやスピードの細かなコントロールや小型で明るいLEDライトなど,現代的な技術を表現に生かしているという意見が出た。新しい表現方法とノスタルジックな影という,知的な理解と感覚とのギャップも魅力だということであろうか。

4 振り返り

(1)鑑賞の大きな流れ

 スタートこそ通常通り口上を述べたものの,みているものが刻一刻と変化していくので,「(作品の)隅々まで,ひとりでじっくりみてください」という訳に行かない。この時点で,動かない絵画等の鑑賞とはすでに全く違った。

 光や影が変わるにつれ,鑑賞者の心のうちも常に移ろい,しかも口に出して表現した瞬間も動き続ける・・・変化に気づいたり感嘆したりしながら,鑑賞者の口からこぼれ落ちるつぶやきの連続となった。ムービーや音楽のような時間軸のある作品で,刹那的な鑑賞が続くところが絶妙だった。鑑賞者たちも黙って見入る場面と,感嘆の声を上げて俄然話したくなる場面の,両面があったのではないか。時間軸にも緩急があるように感じた。ファシリテーターとしては,発言に添いながら,機を捉えて共感を示したり問いかけたりすることを心がけた。

 実際,個々の場面に感覚的に反応していた鑑賞者は,次第に時の流れやそこから連想される人生,更に後半速度を上げて回想するかのような動きに触発され,解釈を広げていけた。

(2)みるみる会員による振り返り

 みるみるの会メンバーからは,以下のような意見を得た。

 「ああ,この格子がきれいだね。」とか「ああ,すごく大きくなったね。」と誰かが言うと,「あ ほんとだ。」って見るわけで,鑑賞と発話が同時進行していた。話しながらも,その瞬間を見逃したくないし,その瞬間を長々と語ることで古びたものにしたくなかったから。もう瞬間瞬間でみえかたが変わるから,短い言葉の気づきで重ねて行って,それはもうこの作品の特性だった。その特性をみんなで共有できた。空間と時間軸が同時にあった作品だから,その一瞬で共感するしかなかった。鑑賞者がライトを浴びてその影も壁に投影されることから,鑑賞者自身もインスタレーションの一部としてその中に存在した。それをその場に居合わせた鑑賞者と共に時間と空間を共有できたことが嬉しい。あの作品を独りでみてもつまらない。ひとりで感心するだけ。今日はみながら共感しあえる相手がいたからとても楽しい時間が過ごせた。

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光と影から・・・

2024-11-07 23:06:10 | 対話型鑑賞

みるみるの会10月例会 

日時:2024年10月20日(日)11:20~11:48

浜田市世界こども美術館 『光と影の不思議展』にて

鑑賞作品:「Lifelog.シャンデリア」2010-2022年 小松宏誠 作 羽根(ガチョウ)ベアリング、ワイヤー

     「Secret garden」2010-2022年 羽根(ガチョウ)、ACファンLED、アクリルなど

参加者:一般鑑賞者 3名  みるみる会員2名

ファシリテーター:房野伸枝 

  

 1作品目が、人工物を使って、その影も含めて鑑賞をする作品でしたので、2作品目は自然物による空間を使った作品を選びました。本来、大きな作品「Lifelog.シャンデリア」とその両脇に対で展示してある「Secret garden」は別の作品ですが、その3つで大きな空間を表現しているように展示してありました。使用されている白い羽根も共通の材料でしたので、キャプションを見なければ、ひとつの作品のようにも見えます。そこで、特に分けることなく、この空間を皆さんがどう感じるのかを楽しみに鑑賞をスタートしました。

<鑑賞の流れ>

〇前半・作品全体や部分について

 まず、壁に移った影から木の枝や葉を感じ、森にいるような感覚になったという意見の後、通りがかった小さなお子さんが二人、展示室に入るなり、作品を見て「おお~」と声を上げたので、「どう?何が見える?」と尋ねると、

・葉っぱみたい

・浮いてる

・下から風が吹いているから、羽根、しっぽみたい

・ヘリコプターみたいにクルクルしてる

・影がある

と立て続けに発見したことを発言して、去っていきました。

 そのあと、それらに関連した意見を大人の方が詳しく発言されました。

・作品の中心部分が回転しており、その周りに羽根のような部品が配置されていて、作品全体が浮遊している。

という特徴にも注目が集まりました。

〇後半・作品の象徴性の解釈

・真ん中の一つの作品に光が当たって、二つの影ができている。

・両脇の二つの作品など、対になっているものがあることからどういう意味があるのか。

・中心部分が仏像のように鎮座して、両脇の小さな作品が脇侍のように見えることから、作品がシンボリックな意味を持っているように感じる。

・作品の白い色彩や浮遊する様子から、神聖さや荘厳さを感じる。

・作品の構造がらせん状に回転しており、風が吹いていることからも、自然や生命力を表現している。

など、みえているもの、感じたことから解釈が生まれてきました。

〇作品の動きと時間の表現

・作品の中心部分がゆっくりと回転しているのに対し、両脇の小さな作品が速く回転していることに注目。これらの異なる速度の動きが、ゆっくりと変化する進化などの時間と、急速に変化する時間を表現しているのではないか。

〇作品の素材と自然との関係

・作品に使用されている素材がガチョウの羽根であることから、羽根が自然界の要素を表しており、作品全体が自然との関係性を持っているのではないか。

・特に、両脇の回転体は種にも見える。

・羽根が種を運ぶ鳥の役割を連想させることから、作品が自然の循環を表現している。

・当たっている光もゆっくり点滅していて、ひとつとして止まっている部分がない。

・影が森のように映っていることから実際の空間よりも大きな空間を感じさせる。

・回転も部分によっては逆回転になっていて、影もそれに従って動いている。

・動きが生命を感じさせ、自然の営みを感じさせる。

<振り返り>

・子どもが加わった時には、ファシリとしてはかがんで目線を合わせたほうが良い。

・要素が多く羅列的になってしまったので、ファシリはフレーミングやサマライズ(こまとめ)で、構築的に解釈を深められるように進めたい。ディスクリプションの点をつなげて面にして、それを立体にするような感覚で。

・最後に「今回の鑑賞ではこの作品をこんな風に皆さんでみましたね」という一言があったほうが、鑑賞者の満足度は高い。

 風や光、動きのある空間そのものを鑑賞するにあたり、形状や影、色、動きなどに着目し、それらが草木や森、自然や生命力、神聖さを連想させるなど、作品に込められた意味や象徴性について語られていきました。最終的には空間全体をDNAのような微細なものから大きな自然の循環まで感じさせるなど、様々な視点から解釈が進み、私自身も気づかなかった発見やハッとさせられる意見を伺うことができ、ワクワクした鑑賞になりました。参加されたみなさまの深い鑑賞のおかげです。ありがとうございました。

<次回に向けて>

・フレーミングとサマライズによる構築を意識してファシリテーションをしたいと思います。

 

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浜田港 今昔

2024-09-23 21:39:51 | 対話型鑑賞

みるみるの会9月例会 

日時:2024年9月15日(日)11:30~12:00

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「浜田の港」 デイビッド=スミス 1998‐1999

参加者:5名(来館者3名 みるみる会員1名 美術館関係者1名) 

ファシリテーター:津室和彦

 

作品選定について

 館蔵品の中から,色遣いが印象的な作品を選んだ。7月の例会でメンバーの嶽野がファシリテーションした作品と同じく,浜田にゆかりのあるイギリス人画家の作品。

 横長のキャンバスに,浜田の港が文字通りすっぽり収められている。山陰の小さな漁港が,前回鑑賞した作品とはまた少し違うタッチで描かれていることにも惹かれた。

1 鑑賞の流れ(〇=鑑賞者発言の概要 F:ファシリテーターの発言)

◆季節や光を感じる

〇夏に向かう季節 新緑から濃い緑に変わりつつある

〇夕方の時間帯ではないか 水平線上の黄色と紫から,夕日の残光で雲が染まることがある

〇雲を通って光が降りてくることがある その光が海に映っている

〇建物や道,波止場など白く光っていて季節は真夏

〇一定の時刻や一定の景色を見て,そのまま描いたのではないのではないか 汚れた倉庫,新しい大きな橋,    日本海に沈む夕日,緑の豊かさ・・・などてんこ盛りにしたいのでは

F:写真のようにその瞬間を切り取ったのではなく,浜田のいいところ・・・あ,みなさん,浜田の方です か?よろしければどちらからいらしたか教えてもらえますか?

 浜田のこの景色を見られているかどうかはわかりませんが,浜田のいいところっていうのは,この絵をみて思い出されることはないですか?

◆浜田のよさを描いている?

F:浜田のよさというものを,この絵の中に見つけられるところはないですか?

〇港の風景のどんどん積み重ねて新しいものをつくってきて,それが必ずしも成功じゃなかったとしても,新 しいものをつくろうとか何とかしようというエネルギーを感じる

 そう思ってこの景色をみると,きれいだなと思う ゆうひパーク辺りで見ると,このように見える

〇マリン大橋やその向こうの瀬戸ヶ島には,リゾート化計画もあった

F:なるほど,それが新しいものですね。古いものにはどんなものがありますか?

〇手前の漁港には,昔のセリ場や倉庫があってトロ箱がいっぱい積んであった 古いドックもあった 姿をどんどん変えながら船の形になってきていた

F:さっき,ある特定の一日を写したものではないというお話がありましたが,長い漁港としての歴史と,新しい街づくりをすすめてきた象徴のような大きな橋とか,そういうものが一緒くたになった時間の流れのようなものを感じ取られたのですね。

〇人のいる街並みをかいたものなので,人口の光と自然の光が混在したようなイメージもある 夕方出る漁船もいる 市街地の明かりもある

〇新旧が混在している 町を発展させようとしてやっているけれど,昔ながらの暮らしも残っている 古いものを切り捨てていくのではなく残しつつやっていくというこの町の人情というかそういうものを描きたかったのではないか

F:人情と言われました。人物らしきものはここには描かれていないですが,町の様子から人情とかを感じられるところはないですか?

〇ここにバイクのようなものがある 働くバイク カブ

◆作品の背景と併せてみる

F:作者はデイビッド=スミスさんというイギリスの方で,こちらに住んでおられた画家です。1999年 まで生きられた方ですが,この作品の制作年は1999年・・絶筆かどうかはわからないけれど,最後の年にかかれた作品なのですね。

〇(作家の)娘さんが島大で教鞭をとっていて,その関係で会いに来て浜田に滞在していた ずっと日本に住んでいたわけではない

〇絵をみるとき,ぱっとみて好きか嫌いかでみてしまうのだけど,これは正直好きになれない 海の色をああいうふうにかいているけど,海らしくかいてほしい 構図はすごくいい

F:構図はいいと言われましたが,どんなところが?

〇構図は最高にいい こう緑があって橋があって,ふくらみを感じる 真ん中の色がクオリティを下げる

F:ふくらみと言われましたけど,こう包まれている感じ?だからこそ真ん中に目がいく?

〇もしかしたら,海をこういう色にしたいという気持ちが作者にあったのではないか

F:ポジティブな?

〇そうそう だから敢えて海の色を青だけにしたくなかったのかな 古い部分がもっているポテンシャルみたいなもの すべてにつながる・・海ってそういう思いもある

 隣の作品もそうだが,日本人にはない色彩感覚もあるのでは

〇この見えている景色は,全て人間がつくった 埋立地や護岸が広がっていて,家の裏に直接船を引き揚げていたような陸地は全くない 里山じゃないけれど,海辺を人間が何十年もかけて作り上げてきた そういう人間のエネルギーをこの風景から感じる

F:松江の海の景色と結び付けて,考えられることはないですか?

〇人の姿はないけれど,人の暮らしが感じられる

F:今日みなさんとこの作品を鑑賞して,色遣いが印象的で,ちゃんとゆうひパークから見たような浜田の漁港の様子がきれいに収められている構図だというお話ができました。色遣いについては,作者の思いをみなさんそれぞれに考えていただけたのかなと思います。

2 みるみるメンバーとのファシリテーションの振り返り

◆対話型鑑賞は,エンターテインメントである

 美術館など公の場では特に,一期一会の参加者もいるのだから,参加してくださった人たちが作品鑑賞を楽しめる場をつくらないといけない。

 例えば,本日,二人組の鑑賞者が松江から来館したということが分かったときに,ファシリテータ-としてはそこで終わらずに,「よく浜田には来られるのですか?」などとちょっとした雑談を続けるのもひとつの手。その人たちの背景を探りつつ,人前で話しをする緊張感をほぐすような働きかけがあるとよかったという指摘をいただいた。勇気をもって飛び込んでくださった鑑賞者が話しやすくなるような適切なアイスブレイクで,鑑賞の場を温めることが大切である。

◆構成メンバーの特性を踏まえたゴール設定を探る

 本日の鑑賞者は,上記松江からの二人と浜田出身の方,これまた浜田をよく知るこども美術館館長,みるみるメンバーであった。30分間という短い時間の中で,このようなメンバー構成について知り得たのだから,この人たちの発言やそこから垣間見える経験や感性を踏まえて,鑑賞のゴール設定をすることこそがファシリテーターの役割である,との指摘を受けた。

 松江の二人と浜田をよく知る三人は,山陰の町同士という類似性,しかしながら当然ある地理や文化の違いなどについて自らの経験というフィルターを通してこの作品をみている。このことを臨機応変に捉え,軌道修正しながら,本日の鑑賞の行く先を定めていくことができるようになりたいと思う。

おわりに

 色の鮮やかさについて,空・海・港・町を取り巻く光の表現であるというのは共通していたが,よいものと感じる人とそうではないと感じる人がいるというのが興味深く,違う感覚があるという当たり前のことを理解する場となった。この特徴的な表現にまつわり,季節感や自然・人工の光,自然豊かな海辺の町が近代的に発展してきた様子,人々の努力や時間の積み重なり,イギリス人の作者の感性など,幅広く考えられる楽しい時間となったように思う。

 

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こどももオトナもいっしょにみました!!

2024-09-16 17:55:09 | 対話型鑑賞

みるみるの会9月例会① 海とあそぶアート展

美術館HP   https://www.hamada-kodomo-art.com/

日時:2024年9月15日(日)11:00~11:20

場所:浜田市世界こども美術館 

1作品目

鑑賞作品「海を守るクジラとカメ」 作家:sobolon(ソボロン)

参加者:幼児(4歳くらい)~孫と一緒のお祖母さんまでこどもとオトナ約10名+みるみるメンバー1名)

ファシリテーター:春日美由紀

作品選定の理由

 7月13日から開催されているこの企画展で私たち「みるみるの会」の月例会を開催するのは3回目となる。

 7月の月例会に参加したが、夏休みに入ったばかりの日曜日で、多くの家族連れで賑わっており、企画展会場でアート鑑賞会を行うスペースを確保するのは困難だなと感じたことを覚えている。それでもと開始前に会場にいた皆さんに参加を呼びかけたが、皆、思い思いの活動に向き合っていて飛び入りの参加者はおられなかったので、オトナだけでの鑑賞会を行ったのは先の嶽野さんのレポートの通りである。

 8月も同様の状況だったことを津室さんのレポートが伝えている。

 長期にわたったこの企画展は来館者参加型となっている。特に子どもにはワクワクする仕掛けがいたるところにある。その活動に参加している我が子の様子を画像に収めたり、一緒に取り組んだりするオトナ(親)の姿が多くみられたので、最終回となる9月はなんとか、今日この時間にこの会場にいる子どもたちに参加して欲しいと考え、会場を何度も見回った。5階のスロープを下った先にある部屋の奥にはテーブルと椅子があり、子どもたちが万華鏡を作ったり、テーブルに海から拾ってきた様々な物を並べたりして楽しんでいた。そこの部屋の壁には大きな作品が2つ並べて展示してある。この作品は、はっきりとした色調でクジラやカメ、魚たちが海の中で泳いでいるようにみえる。クジラやカメ、魚は分かりやすい形態をしており、そのもの自体が大きいので、ちょっと離れたテーブルからもよくみえるし、テーブルで活動に取り組んでいても、声をかければ手を止めて、考えたり、話したりしてくれるのではないかと考え、作品というより、この場所でやろうと決めた。

鑑賞会の様子

 5階のエレベーターホールから「今から、この下の部屋で、みんなでおしゃべりしながら作品をみていこうという会をやりますので、よろしかったら参加しませんか?子どもさん大歓迎です。もちろん親さんも、ご一緒に。いかがですか?」と声をかけた。1度だけでなく、スロープの中ほど、下、でも同様の声かけをした。会場となるスペースに着いた時にも声かけをした。ありがたいことに、部屋の奥には子どもたちがたくさんいて、各々の活動に取り組んでいた。傍らに親さんの姿もあった。声かけに誘われて移動して来てくださった家族の姿もあった。また、テーブルについていた親子さんも声かけに反応してくださったので始めることにした。

 「今から、この壁にあるこの作品について、みつけたことや感じたこと、パッとみたときの印象とか話してもらいたいなと思います。しばらく時間を取りますので、ちょっとじっくりみてください。」と声を張って伝えた。その部屋にいた総ての人が、ちょっと身を乗り出すような感じで会場がすこし「シン」とした。その空気感にうまくいきそうな手応えを感じた。

 「いかがですか?みつけたものとか、感じたことはないですか?」と始めた。

 「カメがいる。」4~5歳くらいの女の子が言う。

 「どこにカメがいるかな?」

 「あそこ。」と指さす。

 「魚がいる。」と、男の子。

 「どこにいる?」

 「あそこ。目がペットボトルのキャップ」とみつけたことを話す。

脈絡なく会話が進んでいったが、あまりコントロールせず、思い思いに話せる雰囲気を大切にすると、オトナも「クジラがいる」などの発言も出た。「黄色い魚」が好きだと言った男の子がいたので、

 「他にどんな色の魚がいるかな?」

 「赤い魚は何匹いる?」

 「オレンジの魚は何匹?」

 「じゃあ、魚は全部で何匹いるの?」

などと、そこにいる子どもの年齢に応じた問いを投げて、子どもたちが作品をよくみるように促した。また、

「10匹の魚の中で好きなのはどの魚?」と、みて考えることを「自分ごと」にする問いを投げ、誘われてこの部屋に来たのに隅っこの方にいるお孫さんと一緒のお祖母さんにも訊ねた。

 「あの赤い魚。」と話されたので「どこがお気に入りですか?」と重ねて尋ねると「小さいから。」と答えてくれたので「赤い魚は6匹いますが1番小さい魚がお気に入りだとお話してくださいました。」とパラフレーズした。続けて

 「魚は何でできているかな?」

 「このモノは何かな?」

と、素材に関わる問いも投げた。

 「プラスチック」と男の子が応えてくれたので

「このプラスチックは新しい?それとも古い?」と少し考える問いを投げた。しばらく考える時間が流れた。作品の脇に砂浜で回収した作品の素材となっている様々なプラスチックでできた物やゴム長靴が入れてある透明なケースが置いてあるので、そちらを示しながら

 「あの中に入っているものが、この作品の素材になったもののようです。」と紹介した。よく話してくれる男の子が駆け寄ってみてくれたので

 「何があった?」と近くに寄って訊ねると

 「プラスチックでできたものや長靴」と答えてくれた。

「これらの海から拾ってきたプラスチックなどでこのクジラやカメや魚が作られているということについて何か考えられることはないですか?ちょっと、子どもさんには難しいかも知れないので、オトナの方に考えていただけたらと思います。」と、この作品の核心になりそうなことについて最後考えてもらって終わることにしようと考えた。オトナが答えるより先に、さっきの男の子が

 「魚にもよくないから、人間にもよくない。」と言った。

 「どういうことか、もうちょっと話してくれる?」と伝えると

 「魚が食べて、その魚を人間が食べるから。」と言った。

 「プラスチックは無くならないので、簡単に捨ててはいけないな。」というオトナの声もあった。

 「今日はこの作品を皆さんとみてお話して行きましたが、海から拾った主にプラスチックで出来ているということで、このプラスチックが海やクジラ、カメ、魚とどんな関係にあるかについて、少し考えていただくことができたのかな?と、思います。ありがとうございました。」と告げて締めくくった。約20分の鑑賞だった。

振り返り

 今日の鑑賞会はそこに居合わせた子どもやオトナをどれだけ鑑賞会に巻き込むことができるか、というものだったので鑑賞の中身より

 ①活動に興味をもってもらって参加を促す。

 ②話しやすさ、何でも言える雰囲気。

 ③子どもの発言にオトナが触発される。

 ④海洋ゴミについて考えることができればよい。

で進めたので概ね成功したのではないか?と思う。終わったときに松山から来ていた男の子が「おもしろかった。」と話してくれたのが何よりの成果だったと感じている。

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