グラントワ内石見美術館で開かれた「みるみると見てみる?」の第4弾レポートをお届けします。
みるみると見てみる? ナビレポート
日時:平成30年2月10日 14:00~14:30
場所:島根県立石見美術館 展示室A
作品名:「圏谷の残雪」1967 「火の山」1973 「ささやき」1978 「鳥と山男」1983
作 者:畦地梅太郎
島根県立石見美術館 蔵
ナビゲーター:津室和彦 参加者:15名(内みるみる会員4名)
1 事前の心づもり
①一見わかりやすそうだが,モチーフがかなり単純化されていることと,登山の特性や知識があるとよりわかりやすくなる4作だったので,情報をどこでどの程度出していくかを考えなければならないと思った。
②反面,作者の手による鉛筆書きのタイトル自体が,大きな情報である。
③4作品の流れをどうするか
自分としては,左上の「圏谷の残雪」から入ろうかと思っていたが,思いの外参加者が多かったので投げかけることにした。雪つながりで,「鳥と山男」へと進み,鳥つながりで下の2作について話す流れを考えていた。
2 トークの流れ
表記:●鑑賞者の発言 『ナビの発言』 ☆ナビの発言・見解 ○振り返り時のメンバーの発言
※各自がじっくりとみた後,参加者の意見から「ささやき」からトークに入った。
●「ささやき」というタイトルから,鳥(鷹)のささやきを男が聞いている。
●続いて,何かを聴いている様子だという意見。鳥と男がともに自然のささやき,たとえば「星のささやき」を聴いている。→うなずき,感嘆の声多数
☆男が鳥のささやきをきいているという考えと,男と鳥が共に自然のささやきをきいているという二通りのとらえ方があったことを確認。作者自身によるタイトルが書いてあることも手がかりになるかもしれないという情報提供をする。
●青い背景と男の服装から,北の方の国の人の暮らしぶりを表している。
●寒いところにすんでいる人。人と鳥は仲がよさそう。そのへんにはいない珍しい(絶滅危惧種のような)鳥で,それを救いに来た人。
●「山男」というタイトルもあるが,4点全部,登山というシチュエーション。ピッケルもある。「火の山」以外の3点は,雪山。「鳥と山男」の鳥は,雷鳥ではないか。自然と人とが身近な存在である世界。雷鳥は,雪の季節は保護色で白くなる。鳥と人間が身近にいる様子
☆他の作品にもシフトしていく機と捉え,全体に呼びかけた。
●「みるみると見てみる」展の作品は全部同じ作家のものなのか。また,今取り上げている4点は同じ作家なのか。
☆迷ったが,サインが同じであり畦地梅太郞作の4点であることを伝えた。
○『なぜ,同じ作家だと思いますか。』『どこから,同じ作家だと思うのですか。』と問い返すのもよかったかもしれない。その上で,情報を示してもよかったのではないか。
(4点それぞれについてのトークとなった)
●厳しい自然の中での人間の意識,命ある者同士(人と鳥)の交わり,生業としての山男など
●「圏谷の残雪」で人物の上にあるものは,テントではないか。
●「ささやき」の人物を木に見立てて表現しているのではないか。肩がなくストレートなこけしのように表しているから。
☆大変興味深く聴いた。この発言をきいたナビの私は,逆に鳥の止まっている木を擬人化したのかもしれないという考えにも至り,みなさんに伝えてみた。
●(最後の発言を促したところ)4作はそれぞれ四季を表しているのではないか。
☆発言の根拠もきちんと話していたのでナビとして価値付け,ただし,解釈は,各人の胸の中にあるということを話しトークを終えた。
※続いて行われたトークも終わった後,それぞれ気になる作品の前に行き,誰彼となくミニトークが再開していたのは,とても嬉しい光景だった。
4 参加者の感想文より
・宮沢賢治の詩のような絵だと思いました。自然と共存し自給自足の生活をしているような絵だなと思いました。
・人がいて地があって人以外の生物がいて,何を伝えたいかなどを考えていて,人の意見や感じたことを聞いて,なんていうか絵っておもしろいなぁと思いました。
・学生さんは,見る事から現実にあるところに接地点を持っていくのだと知りました。やはり内面性を見,考える力はすごいなと思いました。(若いことの感受性はすごいです。)新たな点を知るきっかけとなってよかったです。枠をはずしていく世界はすばらしい。心を柔和にすることの大切さに気づく時となりました。
5 振り返り
自身の振り返り
ナビとしては,積極的な発言が多いからこそ,発言の真意をくみ取り,わかりやすくパラフレーズして皆さんに返していくことが大切だと感じた。特に今回は高校生の発言も多く,直感的でストレートな表現が多かったので,ナビ自身が傾聴し,瞬時に咀嚼して返せるように心がけた。また,パラフレーズが,発言者の意図とずれていないかを,本人に確認しながら進めるようにもした。
登山の世界ならではのモチーフもあり,抽象化されていることから,情報をどの程度示していくかについて悩んだ。たとえば,圏谷という言葉の意味を参加者に問いかけて引き出せなければ解説をするパターンも考えられた。具体的には,テントの話が出たときにも穂高連峰の涸沢の様子などを話してもよかったと思う。
みるみるメンバーの意見
○4点が固めて展示してあるので,入り口になる作品を募るのもいいなと思った。参加者が多い今回のようなときにはおもしろい入り方。
○「ささやき」のみでこれ以上時間を使うのかと心配したが,男性の発言で登山・雪山・鳥などのつながりが示され,他の3点にうまく移っていった。
○「作者は同じ人ですか?」に対して,すぐに応えずに,「どうして作者が(同じと)思ったのですか。」と問い返すとよかったのではないか。
○パラフレーズが丁寧で,参加者は聴いてもらえている感じがしたと思う。
○4作の配置は,縦長のまとまりだったが,たとえば横一列に並べていたら違った見方をされたかもしれない。
○今日は山男でまとまったが,単体で見たら,ファンシーさや,孤独感など,違った見方ができたかもしれない。
トークの最後に、ナビゲーター津室さんからサプライズが!
Tシャツの胸にプリントされていたのは、なんと畦地梅太郎さんの作品!アウトドア・ブランドのTシャツだそうです。
<お知らせ>
みるみるの会の鑑賞会は、3・4月はお休みです。5月から再開の予定です。日時・場所等について、またこちらでお知らせいたします。
「みるみると見てみる?」のレポートは、これからも順次お届けしていきます。お楽しみに!