みるみるの会6月オンライン例会 対話型鑑賞会 2023.6.17(土)20:00
参加者:みるみるの会メンバー:3名
ファシリテーター:津室和彦
鑑賞作品:「〈11時02分〉NAGASAKI」 東松照明 ゼラチン・シルヴァーー・プリント 1961
出雲文化伝承館でのリアル鑑賞会に続いての,オンライン鑑賞会でした。
3名の鑑賞者という最小構成ではありましたが,それぞれに沢山の発言をしていただけました。ファシリテーターとしては,ディスクリプションを重ね,思考の階層をシフトアップしたいと考えて臨みましたが,機を逸したのが反省です。
- 話し合いを深めるための,情報提供
今回一番の反省点は,撮影された場が「日本」だという情報を提供しなかったことです。振り返りでも指摘していただいたように,情報を示す事によって,対話が大きく変わった可能性があります。
3名の鑑賞者それぞれが,ギリシアやローマの古代遺跡のような場所という見解を示し,そこに基づいて話し合いが進み始めた辺りが,情報を提示するタイミングだったように思います。次項,鑑賞の流れとともに記します。
- 鑑賞の流れ
- 像についての発言
・石の神殿の跡に顔の彫像が7つ 横に翼みたいなものがあることから,女神ではないか
・石が並んでるところからお墓っぽい 意図して配置された墓か石碑か
・怖いという第一印象 影が多く黒い部分が目に入ってくる
・顔だけ不自然に上を向いている わざわざ上に向けられているのかもしれない
・人の顔を潰したり塞いだりというのには心情的に抵抗がある 人間の顔を下向きのままにし
ておくのは気の毒に感じたのでは
・向日葵が太陽を向くのと同じような生理的なものを感じる 太陽を向くベストポジション
- 周りの様子について
・自然に倒れた遺構のような感じ 恣意的に破壊されたのではない 宗教が変わったり侵略者
が他民族を駆逐したりしたのならば,もっと徹底的に破壊されるから
文化的に源流を同じくする民族だったら,顔の崩れや破壊はいたたまれない
・遺構全体には手が付けようもないが,せめて顔は上を向けてあげようというもの
・石積みの建物が,風化等で自然と崩れたのかもしれない
・地震かもしれない(ヨーロッパでは地震は少ない)
- 像と周りの様子を合わせてみて
・草が生い茂っておらず,それほど荒れていない
・遺跡で何世紀も放置された感じではなく,やはり配置されている
- 写真作品としての撮り手の意図,そしてそれを超えて訴えかけるもの
・わざわざ写真に撮って作品として残す意図は?と考えると,やはり頭像の並び方に規則性や
意図的なものなどを感じる 顔を放置できなかった人の行いや気持ちをこそ撮りたかったの
ではないか
・倒れたり壊れたりした雑然としたものの中に,(偶然であっても)上を向いたものがあるこ
とで,前向きな気持ちになる 先を見るとかそういう心情に感じるところがあったから撮っ
た
・モノクロでわざと撮っている 光と影のコントラストを際立たせるため色を排除している
・やっぱり光の方向をみたいと人は思うんじゃないか こんな風に壊れたり崩れたり打ち棄て
られたりしていても,顔は光の方向を向いていたいとか,向いているといいなという撮り手
の気持ちとか,顔を光の方に向けた人の優しさとかが,にじみ出ている作品
3 全体を通して
3名の鑑賞者それぞれが,②③でギリシアやローマの古代遺跡のような場所という見解を示し,そこに基づいて話し合いが進み始めたところで,「皆さん,海外に見えていらっしゃるようですが,この場は日本です。だとすると,そのことから,どんなことが考えられますか。」と問うことで,話し合いが再び活性化したのではないかと考えられます。
振り返りで,この場が「日本」であることを情報として示すべきだったと反省を述べたところ,鑑賞者の3名から次々に以下のようなコメントを得ました。
○(情報を知ったら,)大きく流れが変わっただろう
○ヨーロッパの遺跡というような第一印象から離れられたかもしれない
○西洋風の人物像が日本にあることから,キリスト教に関係があるかもと発展的に考えられた
○日本でキリスト教が比較的信仰されている地域として,長崎などが発想に浮かぶ
○長崎で,倒壊しているキリスト教関連の施設となると,更に原爆の影響も考えられる
○キリスト教の歴史や原爆の惨禍,長崎の人たちの心情を踏まえると,複合的に深く考えられたのではないか
鑑賞者の皆さんに共通していたのは,光に向かって生きていきたいという根源的な欲求や,像であっても上向きにしたいという優しさのような,人間の普遍的な心の在りようを感じていただけたように思います。
鑑賞者自身の気持ちや性格も,反映されたような鑑賞になりました。
「はじめは怖いという印象だったけど,みなさんとの鑑賞を通して,みえかたが変わりました。」という発言は,嬉しいものでした。