ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

ムービーをしゃべりながらみる感じ?

2024-12-24 22:32:42 | 対話型鑑賞

みるみるの会11月例会 

日時:2024年11月17日(日)11:30~12:00

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「10番目の感傷」 クワクボ リョウタ 2010

参加者:4名+数名

(来館者2名 みるみる会員1名 美術館関係者1名 入れ替わり数名) 

ファシリテーター:津室和彦

  

1 作品選定について

 真っ暗なブースで動く作品,これまで経験したことのない作品が動く鑑賞だが,本企画展の目玉作品のようだと感じ,挑戦することにした。

 Nゲージのようなレール上を移動する動力車に,小さなライトが積み込まれており,車体が移動するにつれ,レールの周りに置いてあるオブジェの影がダイナミックに周囲の壁や天井に投影される作品である。15分間で1往復の行程を終え,またスタート位置からリピートし続けるという動きをする。展示室には明かりがなく,鑑賞者やファシリテーターも暗闇のため互いの存在や表情がうかがえず,さらに,鑑賞中であっても他の来館者がブースに出入りすることもある。対話型鑑賞を実施するには困難な環境であったが,その困難な状況下であっても対話型鑑賞をやってみたいと思わせる魅力的な作品だった。

2 鑑賞会での具体的な発言

 長くなるが,時系列で以下に示す。○は鑑賞者の発言 ★は不特定の発言やつぶやき Fはファシリテーターの発言である。

〇電車が動いている。電車に乗っているみたい。

F 影というのは,例えば何の影?

〇生活に使うものだけど,ちがうものに見える。

〇駅に人のシルエットが見える。千と千尋の神隠しのシーンのよう。

〇今,秒針がうごいていた。時計の針を横から見たみたい。

★「ああ!大きいですね。」 ※影が大きく変化した

★(つぶやき ささやき)

★「ははは。」「おお~。」 ※どよめきや共感

F 何か気が付いた? ※子供への問いかけ

〇〔親子で〕 今度はこっちにきた。 

F 影が映る場所が,四方の壁のいろんなところに変わるということですね。

★「おお~~~~。」

F 今度は何が見える?

〇〔子ども〕 おちゃわん!

F (子供に向け,おちゃわんの)影が何に見えているか,お話ししてくれないかな?

〇〔こども〕 ビルに見える。

★「ああ~~~~~,すげー」

F さっきまでと逆向きに進んでますね。そこから何か考えられることはないですか?

〇(影が)遠ざかっている。

F 電車に乗っていたら景色は後ろに流れていきますよね。今の方がもしかしたら本当の見え方ですか?スピ  ードも違いますね。

〇一瞬で消えていく感じを表現している。光と影のコントラストを見せるのであれば動かない方がいい。

F 動いているからこそちゃんと見たい。最後まで見たい?

★[おお~~~~~ ](拍手)

F 拍手が起きましたね。お終い?あ,ここから,またスタートなんだ。

F (最前の〇発言について)移ろっていくことのもどかしさを感じるんですか?

〇行きはすごくゆっくり。子供のころは時間の流れがゆっくりだったんだけど,ある程度年齢がいくとものす ごい速さで時間が過ぎていく。切り替わったときにそんな感じがしました。手から離れていく。列車のボックスシートで,進行方向に向かって座るか,反対側に座るか,そんな感じ。

F 列車のスピードはつまり,時の流れとか,人が感じる時間の速さとか・・・。子供のころはゆったりで,  今の方が忙しい・・・実感がこもっていますね。

〇ほんとそうだなあと思ったのが,時間の流れは24時間で同じはずなのに,感覚は全然違う。ゆっくり流れていると子供のころは感じていたのに,今はあっという間。ほんとに実感します。

F さきほど,動いているからもどかしいという発言がありましたが,さっきの時間の流れについての実感の話が結びつくのかな。子供時代は,見たいものをじっくり見たり,心行くまで触ったり眺めたりできたけれども,大人になると過ぎ去っていったり流れて通り過ぎていくというお話にも聞こえるなと思いました。

〇スタートのところにカバンを持った人物がひとりだけぽつんといて,そのあと大勢の中を縫って旅をしているみたいなので,全体がひとりの旅人の旅の様子のような感じもします。

〇作り方とか組み立て方について。影って置いてあるものでできるが,ものによっては色が若干透過する。現代的な作り方。LEDとかバッテリーが発達したからできた作品。

〇光が広がっていくのをうまく使っていて,ものとの距離で影が大きくなったり小さくなったりする。ものは全然変わらないのに,光の当たり方とか壁との距離によって別物に見える。配置が変わらなくても,光の当て方で別物に見える。

〇周りは全部ブラックアウトされる。

〇あ,(時計の)秒針が動いている。

★「ああ,本当だ!」

F あそこだけは,例外的に動いている?

〇動いているからこそ時の流れを感じる。

F みなさんのお話を聞いていると,「時の流れ」のような大テーマはあって,それに付随して身近な材料の使い方と光源の使い方・・・光源が動くことも関係しているのですかね。固定した影ではない・・・そこから考えられることや感じられることってないですか。影の見え方とか大きさとか形とかがどんどん変化していく。

〇それがもう,時間が流れているってことじゃないですか。

〇自分が列車に乗っているような感覚・・でも,実際乗っていると,こんな見え方は絶対しない。

F 乗っていないのに乗っているみたい,に感じてしまう感覚って何なのでしょう。

〇ここで,ぎざぎざしているものの中に入っていくというのは,ただの人工物のトンネルというよりは食べられちゃってるみたい。口の中に入っていく。

〇逆に自分が固定されていて,周りが動いているということもあるかも。

〇ほんとほんと,自分が動いていなくて,向こうが迫ってくるようなしかけかも。

F なんか相対的なもの?

〇別の視点とか,相対的に,昔のビックリハウスみたいに自分が動かないで周りの箱が動いちゃうと錯覚するような。

〇錯覚と見立てが合体したような。

〇改めてものの形の美しさを感じた。籠があんなにきれいになるなんて!とか。

〇籠が広がったり大きくなったりして,衝撃ですよね。

〇二つが重なったり大きさが変わったり,すごくきれい。

〇最初のカバンを持っている人も。遠ざかっていくと違うものに見えたり。

F 他のブースでも,影の作品を見てきたのですが,この作品で特徴的なのが今のお話。身近なものなのに,影にすることでもとのものよりも美しく見えた。動きも伴ってダイナミックな見え方をする。

○すごくきれい 何かの建築物みたい

○京都駅や金沢駅みたい

★「うわ~~~!すご~~い!」

○この作品って見え方が少し違う。360度に通路を置いて見ることができるかも。今はこっち側からだが,あっちから見たら違う見え方がするかもしれない。 

F 作品としてこの場全体の作り方については,いかがですか。

○光と影だから光の後ろ側から見ないと・・・あれが動いているから,いろんな形で影が四方に映る。

F 今の設えでいくと3面に映る。でも,光がこっち向きのときは,ぼくたちの影も後ろに映りましたね

○(列車のスピードが上がった)早回しで時間を巻き戻しているような感じ。

F 逆行・・・再生していた人生をキュルキュルと巻き戻している。

F もしかして,それは回想するとか,変な話ですが死んじゃう直前に走馬灯のように(鑑賞者とハモる)のあのイメージですか?今まで楽しいとかきれいとかいう話もありましたが,人生の時の流れというと,終着としての死とかそんなものも想像するとか。

○でも最後,止まっちゃわないところはいい。

F (死は)言いすぎかな。絶えることなくつづく・・・。

○Nゲージはぐるぐる回すのがメインで,スイッチバックはしない。動かし方そのものにも何か意図がある。1回ぐるっと回って,また元のところからスタートするというのもあり得ると思う。

F 周回するのかと思ったら,そうじゃない動かし方だった。

○最初全部我々は1回見るじゃないですか。その後逆走すると,俯瞰して全体をみることができるようになる。

F なるほど。さっき見たあれだけど,今度は違う見え方ができるという。

○1周が人生だとすると,その人生の終わりに,人生のすべてを逆回ししながら復習できるという・・・。

○ループして戻ってゴール=スタートだったら,また永遠に続くじゃないですか。だけどさっきおっしゃったようにスイッチバックするということは,往路で1回みたものをもう1回別の視点で俯瞰してみるということになる。

F やっぱり閉じていない,周回じゃないからいいと,みなさんは捉えられているのですね。

○あそこのビルの中で1回スイッチが切り替わって電圧が変わってスピードが上がって,また戻ってきて,またスイッチが切り替わって電圧が下がって遅くなるという仕組みじゃないかな。

F テクノロジーというか電気工学が生かされている。

○ここでスイッチバックするとか,直線ですれ違わせるとか全部プログラムされている。 

F 鉄道模型が趣味の人がこれを見たら,唸りますよね。やられた!と。

○いろいろなやり方ができると思うが,こういう組み立て方をしたというのがいい。

F カメラも小型化されているので,あの列車にカメラを積んで,運転席の視点でほんとに車窓にすることも不可能ではないですよね。現代のテクノロジーを使えば,あれもこれもできる。でも,敢えてそうではなく,このような表現にしたのです。

3 対話のフェーズについて

 上記の記録を振り返ると,以下6つのフェーズがあったように思う。

(1)どんどん変化していく様子を追い続け,つぶやくフェーズ

 スイッチバックし始めるまでの前半の時間は,変化につれてのつぶやきやそれに関しての短い同意の表明などの発言がほとんどであった。光源と影がゆっくり動き続け,意外なみえかたが連続するため,新鮮な驚きが多いからだと考える。

(2)動きやスピードの変化に関しての発言が出てくるフェーズ

 往復点から逆向きに,ずいぶん速く動き始めると,これらについての発言が相次いだ。往路で一度みているものなので初見の驚きではないが,光源と影の逆方向への動きやスピード差による印象の違いに,鑑賞者は皆,心を動かされた様子だった。

(3)作品の仕組みやそのことで可能となる表現について話し合うフェーズ

 Nゲージ(列車模型)のような移動体に光源を置くことで,光源の移動につれて影も動くことや,鑑賞者の影も作品の一部になっているのではないかというみかたがでた。

(4)感覚的なみかたについて話し合うフェーズ

 車窓や運転席から自分がみているという捉えと,やはり外からみているという捉えの両方が出てきた。また,相対性や錯覚も感じるという個人の感覚に影響される発言も出てきた。

(5)時間という概念を広げて,人生というみかたが出てくるフェーズ

 ゆっくりな往路に対して速い復路ということから,子供と大人の時間間隔の違いについての考えが示された。また,復路は一度見たものを再度みることから,人生を振り返るというような感覚が生まれたようである。

(6)テクノロジーを活用した作品だという認識がなされたフェーズ

 列車の動きやスピードの細かなコントロールや小型で明るいLEDライトなど,現代的な技術を表現に生かしているという意見が出た。新しい表現方法とノスタルジックな影という,知的な理解と感覚とのギャップも魅力だということであろうか。

4 振り返り

(1)鑑賞の大きな流れ

 スタートこそ通常通り口上を述べたものの,みているものが刻一刻と変化していくので,「(作品の)隅々まで,ひとりでじっくりみてください」という訳に行かない。この時点で,動かない絵画等の鑑賞とはすでに全く違った。

 光や影が変わるにつれ,鑑賞者の心のうちも常に移ろい,しかも口に出して表現した瞬間も動き続ける・・・変化に気づいたり感嘆したりしながら,鑑賞者の口からこぼれ落ちるつぶやきの連続となった。ムービーや音楽のような時間軸のある作品で,刹那的な鑑賞が続くところが絶妙だった。鑑賞者たちも黙って見入る場面と,感嘆の声を上げて俄然話したくなる場面の,両面があったのではないか。時間軸にも緩急があるように感じた。ファシリテーターとしては,発言に添いながら,機を捉えて共感を示したり問いかけたりすることを心がけた。

 実際,個々の場面に感覚的に反応していた鑑賞者は,次第に時の流れやそこから連想される人生,更に後半速度を上げて回想するかのような動きに触発され,解釈を広げていけた。

(2)みるみる会員による振り返り

 みるみるの会メンバーからは,以下のような意見を得た。

 「ああ,この格子がきれいだね。」とか「ああ,すごく大きくなったね。」と誰かが言うと,「あ ほんとだ。」って見るわけで,鑑賞と発話が同時進行していた。話しながらも,その瞬間を見逃したくないし,その瞬間を長々と語ることで古びたものにしたくなかったから。もう瞬間瞬間でみえかたが変わるから,短い言葉の気づきで重ねて行って,それはもうこの作品の特性だった。その特性をみんなで共有できた。空間と時間軸が同時にあった作品だから,その一瞬で共感するしかなかった。鑑賞者がライトを浴びてその影も壁に投影されることから,鑑賞者自身もインスタレーションの一部としてその中に存在した。それをその場に居合わせた鑑賞者と共に時間と空間を共有できたことが嬉しい。あの作品を独りでみてもつまらない。ひとりで感心するだけ。今日はみながら共感しあえる相手がいたからとても楽しい時間が過ごせた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする