Photo:タイ国鉄マハーチャイ線の日本製気動車
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タイの首都バンコクにはタイ国鉄のターミナル駅が3つあるが、その中で唯一他の路線との接続が無く孤立した路線の始発駅となっているのがマハーチャイ線・メークロン線のウォンウィエンヤイ駅である。
バンコク市街地の下町の横丁のような場所に、市場に隠れるように存在するウォンウィエンヤイ駅からタイ国鉄の日本製ディーゼル列車に乗って出発。
バンコクの街並みを抜けると、車窓には一面の緑が広がる。
ウォンウィエンヤイ駅を出てから50分程でマハーチャイ駅に到着。
ここまでの運賃はエアコン無し車両ならわずか10バーツ(約30円)。
マハーチャイ駅はマハーチャイ線の終点であり、駅構内にはマハーチャイ線の列車で使用される車両のメンテナンスを行う整備工場も併設されている。
マハーチャイ駅の構内の片隅にあった、鉄道車両の車輪を用いてつくられた不思議なオブジェ。マハーチャイ線のシンボルだろうか。
さて、マハーチャイ駅で線路は途切れているが、実はこの先にも線路は続いている。
マハーチャイの町を二分して流れるターチーン川の向こう岸に、メークロン線の起点となるバーンレーム駅があるのだ。
マハーチャイ駅周辺に広がる市場を抜けた川岸にターチーン川の渡し船の発着場があり、ここから小さな船に乗って川を渡る。
ターチーン川の川幅は結構広く、また河口部に近いために大型船も行き交うため、橋を架けられなかったらしい。
バーンレーム駅から再びタイ国鉄の日本製ディーゼル列車に乗車。改めて、メークロン線の終点メークロン駅を目指す。
メークロン線の車窓には、エビを養殖していると思われる池や、バンコク湾に程近い海沿いの地域という特色を活かした塩田が広がる。
順調に走っていたメークロン線のディーゼル列車だが、突然、駅でもない場所で停車…
一体何ごとか、まさか故障!?
建屋も無いが行き合い設備だけが設けられた信号所のような場所で停車したメークロン線のディーゼル列車は、逆向きに進み出して側線に最後尾の車両を押し込むと連結を切り離し、そのまま最後尾の車両を置いて再び何ごとも無かったかのように走り始めた…
どうやら、ここはメークロン線の「露天車両整備工場」らしくて、最後尾に連結していた回送車をここで切り離したらしい。
…つまり乗客の乗っている営業列車をそのまま使って、本線を運行中に構内入れ替えを行ったということのようだ。日本では考えられないやり方だが、なんともタイらしくて鉄道好きならずとも思わず笑ってしまいそうな長閑すぎる光景だ。
これぞまさしく“微笑みの国”の鉄道風景、といったところか。
バーンレーム駅からおよそ1時間。車窓の風景が一面の塩田から開けた街並みに変わると、終点のメークロン駅に到着する。
…そして、ここメークロン駅こそが世界的に有名な“市場の中を走る鉄道”の駅なのだ!
本当に「線路の上に市場が立っていて、列車が通る時だけ市場がよける」状態なので、車窓のすぐ真下のレールとの隙間には市場の商品が並べられたままの状態だ!
…列車が通る直前に一斉に屋台を片付けて日除けを畳む様子から、メークロン駅周辺の線路上市場は“傘たたみ市場”と呼ばれ親しまれているらしい。
果たして親しんでていいのかどうか、余りにもスリリングで危なっかしい市場通過に列車上の僕までヒヤヒヤしっ放しだが、今まで重大な事故が起きたという話も聞かないのでどうやら「何とかなっている」ようだ。
列車は無事に駅構内を通過して線路の上に市場が戻り、メークロン駅に到着した。
バーンレーム駅からここまでの運賃はエアコン無し車両で10バーツ(約30円)。
メークロン駅でも線路はマハーチャイ駅同様に川で途切れている。だが、この川の向こう岸にはもう線路は続いていない。
ここが正真正銘のマハーチャイ線・メークロン線の終着駅だ。
そして、メークロン線の線路を遮るかのように流れるこの川こそ路線名ともなっているメークロン川。
…大ヒットした戦争映画「戦場にかける橋」の舞台として有名なクワイ川の下流域に当たる。
映画ではこの川の上流部に泰緬鉄道の橋がかけられるが、メークロン線では今後もこの川に橋をかけて延伸する事は無いだろう。僕もそろそろ、旅を終えてバンコクに戻ることにする。
帰りの列車も、“傘たたみ市場”をかき分けるようにして出発!
何とか無事に市場をすり抜けて、一路バーンレーム駅、そしてバンコクを目指す。
バンコクのウォンウィエンヤイ駅から“傘たたみ市場”のメークロン駅まで、乗車時間は合計約2時間と途中のターチーン川の渡し船に小一時間。
きっぷ代はエアコン無しならたったの10バーツずつ。
タイ国鉄マハーチャイ線・メークロン線の旅は、特にあても無くふらりとどこかに出かけたくなったときにうってつけの、日常を忘れる不思議な小旅行だ。
もしあなたがタイ王国を訪れて大都会バンコクの喧騒に少々疲れたなら、旅の一日を“傘たたみ市場”を見に行く列車に乗って過ごしてみるのも、きっと悪くない筈。
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