津軽海峡線区間で急行「はまなす」を牽引するED79型機関車
客車の灯りにヘッドマークが浮かび上がる
←2009-2010 冬の旅 8、北の秘境駅 室蘭本線小幌駅からの続きです
特急「スーパー北斗16」号で函館駅に18:24到着。
ここで八戸行き
特急「白鳥42」号に乗り換え。
夜の津軽海峡線を走ること約2時間、20:44青森駅到着。
ここで「白鳥42」号から下車。
昨日の朝、大阪からの日本海縦貫線を走るブルートレイン「日本海」号で到着した青森駅にまた戻ってきた。
もう一つのブルートレイン、
急行「はまなす」に乗る為だ。
「はまなす」号は青森と札幌を結ぶ夜行急行。
昭和63年、青函トンネルが完成し津軽海峡線が開業するのと同時に運転を開始した、かつての
青函連絡船夜行便のダイヤを引き継ぐ夜行列車である。
比較的歴史の浅い列車であるが、北へと向かう海峡を越える列車という性格と、昨今では珍しくなった寝台車と座席車、それも自由席車まで雑多な種類の車輌を連ねて連結していることから、
旧き良き夜汽車の雰囲気漂う列車、そして最北の地を走るブルートレインとして知られている。
「はまなす」の青森駅発車時刻は午後10時半過ぎ。
まだだいぶ時間があるので、青森駅のまだ行ったことのない「西口」を見に行ってみた。
青森駅の正面口(東口)は立派なコンコースがあり、駅前には商店街もあって賑わっているが、その裏手にある西口はプラットホーム跨線橋から伸びる長い連絡通路の先にあり、これまでに何度も青森駅を訪れたことのある僕もまだ一度も行ったことがない。
どうせ時間はあるので、この機会にと思い連絡通路の奥へと歩いていくと…
とんがり三角屋根の、小さな駅。
住宅地の中にある、青森県の県庁所在地代表駅とはとても思えない可愛い駅舎だった。
さて、「はまなす」が入ってくるまで、名物のプラットホームの立ち喰いそばでも食べて待つとするか、と思ったが、
何と以前は札幌行き「はまなす」の発車時刻に合わせて午後10時頃から深夜営業することで有名だったホームの立ち喰いそば屋は「はまなす営業」を辞めてしまっており、仕方なく東口コンコースのコンビニで夜食を買い込んで「はまなす」を待つ。
午後10時過ぎ、ディーゼル機関車DE10に牽引されて、「はまなす」が青森駅に入って来た。
プラットホーム入線、据え付け後、列車はそのまま青森駅を出て行けるように函館よりには既に津軽海峡線区間専用機関車ED79が連結されている。
出発時刻まで30分程あるので、これから乗る夜汽車をじっくりと検分して歩くのは旅立ち前の至福のひと時。
「はまなす」は、青森発車時点では函館寄りの先頭の機関車に続いて寝台車が、その青森寄りに座席車が続くという編成を組む。
このように、寝台車と座席車を混結する夜行の客車列車はかつては日本中至る地域で見られたものだが、現在では「はまなす」だけとなってしまった。
通常、寝台車は2輌連結されているが、今夜はやはり年末年始の帰省ピーク時期ということで1輌増結されている。
座席車も大幅に増結されており、合わせて10両を超える長大編成を組んでいるようだ。
僕が今夜乗車するのは、増結された寝台車。増21号車という随分桁の大きい号車番号が振られているが、勿論21輌もの車輌をつないでいる訳ではなく、1号車と2号車の間に増21号車がはさまるというスタイルで編成が組まれている。
その増21号車は、濃紺の車体に金帯を巻いた寝台特急「北斗星」仕様のB寝台オハネ25形式。
これが通常の急行料金に加えてB寝台料金6300円也を支払い手に入れた、僕の今夜のベッド。2段式B寝台下段奇数番号席。
さすが豪華寝台特急「北斗星」の車輌だけあって、車内はベッドのモケットが暖色系のものに張り替えられる等リニューアルされており、とてもこざっぱりとしている。
しかし、このオハネ25は平成21年春に廃止された「はやぶさ」で使用されていたものと同形式車輌。寝台の構造は全く同一だ。
この「2段式B寝台」に乗るのも、「はやぶさ」の廃止ひと月ほど前に熊本から東京まで名残乗車したとき以来だ。懐かしい…
ベッドに座って、発車を待つ。
22:42、青森駅発車。
すぐに車内放送で札幌までの停車駅が案内され、同時に寝台車では明朝の千歳到着前まで放送を入れないことと間もなく消灯する旨、案内が入る。
乗客も夜汽車の寝台車には慣れたもので、発車前から寝支度を整えてしまい車掌氏が巡回してきて車内検札が行われる頃には既にベッドに入っている人が多い。
寝台車の利用者は常連率が高いと思われる。
またピーク時期ということもあってか利用率も非常に高く、「今夜は増結された3輌の寝台車が上段席まですべて埋まり満席となっているので、座席車からの寝台へのきっぷの変更は出来ない」と車内放送でも案内があった。
車内検札が終わると寝台車内は暗くなり、乗客はベッドに横になり眠りの世界に入る。僕のベッドのある区画にいる乗客の方々も、簡単な会釈を交わすとすぐに各々ベッドに這入りカーテンを閉めた。
だが、僕は寝台車に乗りたくてわざわざ北海道までやって来たようなもの。
このまま寝る訳にはいかない!
ベッドに座ったまま、ひとり寝台車の夜を噛み締め満喫する。
「この寝台車のベッド…今までに何回、これで寝たかな…」
列車は青函トンネルに向かい津軽線を走っている。
でも、僕の瞼の裏にはこれまでにこの寝台車に乗って旅した路線…
「はやぶさ」「富士」「あさかぜ」「なは」「みずほ」「彗星」「銀河」の東海道本線、山陽本線、
「かいもん」の鹿児島本線、
「日南」の日豊本線、
「あかつき」「さくら」の長崎本線、
「だいせん」「出雲」の山陰本線、
「はくつる」の東北本線、
「瀬戸」の瀬戸大橋線、
「オホーツク」の石北本線、
「まりも」「おおぞら」の根室本線、
「利尻」の宗谷本線…
今までに寝台車で旅した日本各地の鉄道路線と夜汽車たちの想い出が次々に蘇ってきた…
「みんな、いなくなってしまったね…寂しいよ」
「はまなす」は青函トンネルに入った。ロールカーテンを上げた窓の外を、海底トンネル突入を示す青いライトが流れて行く。また北海道に入る。
「そろそろ寝ようか…」
B寝台のベッドメイクは乗客のセルフサービス。
とは言え僕も、今までに数知れぬ回数このベッドを支度してきたのだ、シーツをマットレスに張って毛布を広げる作業はお手の物。
JR北海道の用意した寝具、ウールマーク付の分厚い毛布には同社の看板列車であるブルートレイン「北斗星」のヘッドマークを模したロゴが入る。
「北斗星」が、そしてこの「はまなす」がいつまでも北への旅人の夢を運ぶ列車として夜を走り続けることを願って、ベッドに横になった。
第4日目 2009(平成21)年12月30日
ハイケンスのセレナーデの車内放送オルゴールで目が覚めた。
「はまなす」は定時で走行しており、間もなく終着駅札幌に到着するので寝台車の乗客は目を覚まして降りる支度を整えるようにと車内放送で促される。
列車は青函トンネル通過後、函館駅で機関車を交換し進行方向も変えて、現在は青森出発時点とは逆向きに走行しているが、浅く短い眠りから醒めたばかりの頭ではそれはどこか遠くの世界の出来事のように感じる…
「顔を洗ってこよう」
慌ただしく身支度を整えると、列車はもう札幌駅へと続く高架橋を走っている。
まだ真っ暗な早朝06:07、寝台夜行急行「はまなす」は終着の札幌駅に到着した。
まだ夢の中に居たいような、早すぎる朝に最北のブルートレインの旅は終わった。
昨夜とは逆方向、座席車側に連結されていた北海道内区間用大型ディーゼル機関車DD51型。
通常、「北斗星」等の寝台特急牽引の際は雪の抵抗に負けず高速走行する為に2輌で重連を組むが、急行の「はまなす」では単機で牽引にあたる。
この寒さと雪の中、10輌以上の客車を夜通し独りで牽いてここまで連れてきてくれたのか、ありがとうお疲れ様と声を掛けたくなる。
任務を終えた「はまなす」が回送列車として車庫に引き揚げるのを見送って、
さぁ今日は旅の休息日だ、先ずは立ち喰いそばでも食べて暖まってから、雪山に行く列車に乗って、のんびり温泉にでも入ろうかな!
ここまでの鉄旅データ
走行区間:函館駅→青森駅→札幌駅(津軽海峡線/津軽線・海峡線・江差線・函館本線・室蘭本線・千歳線・函館本線経由)
走行距離:639.5キロ(JR営業キロで算出)
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