短時間に高エネルギーのガンマ線を放出する、宇宙で最も高エネルギーな天文現象の1つが“ガンマ線バースト”です。
2022年に観測されたガンマ線バースト“GRB 221009A”は、観測史上最も明るいガンマ線バーストとして天文学者の注目を集めました。
このガンマ線バーストについては、どうしてこれほど明るいのかという議論が生じ、中には既存の物理学では説明できない現象が起きているとする説もあります。
今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて“GRB 221009A”の残光を観測。
その正体が、特徴がない普通の超新星爆発(II型超新星)だったことを突き止めています。
ただ、発生源が普通の現象だったと判明した一方で、新たな謎も生じているんですねー
超新星爆発は鉄よりずっと重い元素を生成すると考えられてきましたが、特徴がない普通の超新星であるはずの“GRB 221009A”では、重い元素が検出されないという予想外な結果が得られています。
その理由は謎… “GRB 221009A”に関する研究はまだまだ続くようです。
宇宙最大規模の爆発
宇宙最大規模の爆発とされるガンマ線バーストは、天体の一点から太陽光度の約1018倍という、極めて高いエネルギーのガンマ線が短時間だけやって来る突発的天体現象の一つです。
0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象で、1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象でした。
これまでの研究により、ガンマ線の放出時間が2秒未満の“ショートガンマ線バースト”と、2秒以上続く“ロングガンマ線バースト”では、その起源が大きく異なることが分かってきています。
ショートガンマ線バーストは、中性子星やブラックホールなどのコンパクト星同士が合体したときに発生すると考えられている現象。
一方、ロングガンマ線バーストは、非常に質量の大きな恒星の核が重力崩壊することで誕生したブラックホールの活動によって発生すると考えられています。
観測史上最も明るいガンマ線バースト
2022年10月19日に観測された“GRB 221009A”は、2024年4月時点で観測史上最も明るいガンマ線バーストです。
このガンマ線バーストは、あまりにも明るかったのでNASAが運用中の高エネルギーガンマ線天文衛星“フェルミ”では、とらえきれないほどでした。
また、“GRB 221009A”の発生後、ガンマ線バーストとは無関係の観測装置である、宇宙線・太陽風・雷をとらえる検出装置が反応を示すことに…
これは強力なガンマ線が、各検出装置に誤検出を起こすほどの影響を地球大気に与えたためでした。
通常のガンマ線バーストと比べて数十倍も明るかった“GRB 221009A”には、史上最も明るいことを示す“BOAT(Brightest Of All Time)”という愛称が付けられています。
見積もりから分かったのは、このような極端に明るいガンマ線バーストが、地球で観測できるのは1万年に1回程度のこと。
このことから、“GRB 221009A”はとても貴重な観測対象として、天文学者の注目を集めることになります。
ガンマ線バーストの正確な起源は、宇宙物理学における大きな謎の一つです。
有力視されているのは、太陽よりも重い恒星が一生の最期に起こす“超新星爆発”に関連しているという説です。
ただ、仮にガンマ線バーストのエネルギーが、どの方向から見ても同じ強さの場合には、恒星の質量をすべてエネルギーに変換しても足りないんですねー
そこで、考えられているのが、光を絞って明るくする懐中電灯のように、エネルギーの噴出方向を狭い範囲に絞るような現象が起きていること。
また、“GRB 221009A”はあまりにも明るすぎたので、暗黒物質の崩壊のように、現在の物理学の枠組みを超える現象が起きたとする予測もありました。
理論やシミュレーションと比較できるガンマ線バーストはあまり観測されていないので、そのメカニズムはよく分かっていません。
“GRB 221009A”の観測は、これらの説を検証できる貴重な機会なのかもしれません。
観測史上最も明るいガンマ線バーストの正体は特徴がない普通の超新星爆発だった
今回の研究では、“GRB 221009A”の残光をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて詳細に観測することで、その正体に迫る研究を進めています。
1万年に一度と言われるほど明るかったガンマ線バーストが、2022年7月に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるタイミングで出現したことは、文字通り幸運な出来事と言えます。
ただ、“GRB 221009A”はあまりにも明るすぎたので、発生直後から観測しても意味のあるデータを得ることはできませんでした。
これは、暗闇の中での明るすぎるヘッドライトが、車体を隠してしまう現象と似ています。
そこで、研究チームでは、“GRB 221009A”の残光が充分に暗くなるタイミングを見計らい、発見から168日後と170日後の2回に分けて観測を行っています。
観測の結果、超新星爆発に関連して見られる酸素、カルシウム、ニッケルなどの元素の存在を示す光(近赤外線の吸収及び放射スペクトル)をとらえることに成功。
その光には、他の超新星爆発と比較して際立った特徴がないことが分かりました。
意外なことに、史上最も明るいガンマ線バースト“GRB 221009A”の正体は、“特徴がない普通の超新星爆発”だったことになります。
この結果から、“GRB 221009A”が特別明るかった理由として、“方向”という重要な要素にあった可能性が考えられます。
ガンマ線バーストが超新星爆発に関連しているとすると、エネルギー放射が狭い範囲に絞りこまれていることが推定されます。
“GRB 221009A”では、そのエネルギーの放射が完璧に地球の方向に向いていたので、極めて明るいガンマ線バーストとして観測された可能性がるという訳です。
また、今回の観測から分かっているのは、超新線爆発を起こした恒星が属する銀河が重い元素が少ないという特徴を持つこと。
“GRB 221009A”が今から約19億年前の宇宙で発生した爆発だったことと統合すると、“GRB 221009A”の元となった恒星は非常に重く、重い元素が少なく、高速で自転している、という特徴があったと推定されます。
この推定は、正しいのでしょうか?
さらに、宇宙全体ではどれくらいの頻度で、この条件が揃うのでしょうか?
このことが解明されることで、“GRB 221009A”のような極端に明るいガンマ線バーストがどの程度珍しいのか、そしてどのようなメカニズムで発生するのかが明らかになるかもしれません。
生成されるはずの重元素が見つからない超新星爆発
一方、今回の観測で判明しているのは、超新星爆発で発生するはずの重い元素が、“GRB 221009A”の残光からはほとんど見つからなかったこと。
“GRB 221009A”が普通の超新星爆発だとする分析結果を考慮すると、これは大きな謎となります。
誕生直後の宇宙には、ほぼ水素とヘリウムしか存在せず、これよりも重い元素は何らかの核反応によって生じたことが分かっています。
水素とヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼びます。
この重元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成されることが分かっています。
それは、鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されず、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまうからです。
また、鉄よりも重い元素は、超新星爆発などの激しい現象に伴う核反応で生成されると考えられています。
その中でも実態がよく分かっているのは、非常に高密度な天体“中性子星”同士が合体した時です。
でも、中性子星が形作られ、お互いが衝突するほど接近するには、数十億年もの時間がかかってしまいます。
実際には、中性子星が合体するのに十分な条件が整っていないであろう初期の宇宙でも重元素は見つかっています。
なので、重元素を生成する別のルートがあるはずです。
そんな別の生成ルートの有力な候補に超新星爆発がなるはずでした。
ところが、普通の超新星爆発であるはずの“GRB 221009A”の残光に重元素が見つからなかったことで、超新星爆発と重元素を結び付けることに疑問符が付くことになります。
この疑問符を除去する仮説には以下のようなものが考えられています。
1.今回の研究で示された“GRB 221009Aは普通の超新星爆発”という考察は間違いで、実際には何らかの特異な性質を持っている。
2.超新星爆発によって生じる重元素は、長年信じられてきた予測よりもずっと少ない。
3.観測のセッティングにおかしな部分があり、“GRB 221009A”からの重元素のシグナルをとらえることに失敗している。
4.観測のセッティングは正しいものの、観測結果の解釈に誤りがあり、重元素のシグナルを見逃している。
どの説が正しいにせよ、証明するには更なる観測が必要です。
今回の研究は、“GRB 221009A”のように普通の超新星爆発と結び付けられる明るいガンマ線バーストを、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測する動機づけとなるかもしれません。
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2022年に観測されたガンマ線バースト“GRB 221009A”は、観測史上最も明るいガンマ線バーストとして天文学者の注目を集めました。
このガンマ線バーストについては、どうしてこれほど明るいのかという議論が生じ、中には既存の物理学では説明できない現象が起きているとする説もあります。
今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて“GRB 221009A”の残光を観測。
その正体が、特徴がない普通の超新星爆発(II型超新星)だったことを突き止めています。
ただ、発生源が普通の現象だったと判明した一方で、新たな謎も生じているんですねー
超新星爆発は鉄よりずっと重い元素を生成すると考えられてきましたが、特徴がない普通の超新星であるはずの“GRB 221009A”では、重い元素が検出されないという予想外な結果が得られています。
その理由は謎… “GRB 221009A”に関する研究はまだまだ続くようです。
この研究は、ノースウェスタン大学のPeter K. Blanchardさんたちの研究チームが進めています。
図1.“GRB 221009A”のイメージ図。(Credit: Aaron M. Geller, Northwestern, CIERA, IT Research Computing & Data Services) |
宇宙最大規模の爆発
宇宙最大規模の爆発とされるガンマ線バーストは、天体の一点から太陽光度の約1018倍という、極めて高いエネルギーのガンマ線が短時間だけやって来る突発的天体現象の一つです。
0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象で、1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象でした。
これまでの研究により、ガンマ線の放出時間が2秒未満の“ショートガンマ線バースト”と、2秒以上続く“ロングガンマ線バースト”では、その起源が大きく異なることが分かってきています。
ショートガンマ線バーストは、中性子星やブラックホールなどのコンパクト星同士が合体したときに発生すると考えられている現象。
一方、ロングガンマ線バーストは、非常に質量の大きな恒星の核が重力崩壊することで誕生したブラックホールの活動によって発生すると考えられています。
観測史上最も明るいガンマ線バースト
2022年10月19日に観測された“GRB 221009A”は、2024年4月時点で観測史上最も明るいガンマ線バーストです。
このガンマ線バーストは、あまりにも明るかったのでNASAが運用中の高エネルギーガンマ線天文衛星“フェルミ”では、とらえきれないほどでした。
また、“GRB 221009A”の発生後、ガンマ線バーストとは無関係の観測装置である、宇宙線・太陽風・雷をとらえる検出装置が反応を示すことに…
これは強力なガンマ線が、各検出装置に誤検出を起こすほどの影響を地球大気に与えたためでした。
通常のガンマ線バーストと比べて数十倍も明るかった“GRB 221009A”には、史上最も明るいことを示す“BOAT(Brightest Of All Time)”という愛称が付けられています。
見積もりから分かったのは、このような極端に明るいガンマ線バーストが、地球で観測できるのは1万年に1回程度のこと。
このことから、“GRB 221009A”はとても貴重な観測対象として、天文学者の注目を集めることになります。
ガンマ線バーストの正確な起源は、宇宙物理学における大きな謎の一つです。
有力視されているのは、太陽よりも重い恒星が一生の最期に起こす“超新星爆発”に関連しているという説です。
ただ、仮にガンマ線バーストのエネルギーが、どの方向から見ても同じ強さの場合には、恒星の質量をすべてエネルギーに変換しても足りないんですねー
そこで、考えられているのが、光を絞って明るくする懐中電灯のように、エネルギーの噴出方向を狭い範囲に絞るような現象が起きていること。
また、“GRB 221009A”はあまりにも明るすぎたので、暗黒物質の崩壊のように、現在の物理学の枠組みを超える現象が起きたとする予測もありました。
理論やシミュレーションと比較できるガンマ線バーストはあまり観測されていないので、そのメカニズムはよく分かっていません。
“GRB 221009A”の観測は、これらの説を検証できる貴重な機会なのかもしれません。
図2.ジェミニ天文台で撮影された“GRB 221009A”。(Credit: International Gemini Observatory, NOIRLab, NSF, AURA, B. O’Connor (UMD/GWU) & J. Rastinejad & W Fong(Northwestern)) |
観測史上最も明るいガンマ線バーストの正体は特徴がない普通の超新星爆発だった
今回の研究では、“GRB 221009A”の残光をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて詳細に観測することで、その正体に迫る研究を進めています。
1万年に一度と言われるほど明るかったガンマ線バーストが、2022年7月に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるタイミングで出現したことは、文字通り幸運な出来事と言えます。
ただ、“GRB 221009A”はあまりにも明るすぎたので、発生直後から観測しても意味のあるデータを得ることはできませんでした。
これは、暗闇の中での明るすぎるヘッドライトが、車体を隠してしまう現象と似ています。
そこで、研究チームでは、“GRB 221009A”の残光が充分に暗くなるタイミングを見計らい、発見から168日後と170日後の2回に分けて観測を行っています。
観測の結果、超新星爆発に関連して見られる酸素、カルシウム、ニッケルなどの元素の存在を示す光(近赤外線の吸収及び放射スペクトル)をとらえることに成功。
その光には、他の超新星爆発と比較して際立った特徴がないことが分かりました。
意外なことに、史上最も明るいガンマ線バースト“GRB 221009A”の正体は、“特徴がない普通の超新星爆発”だったことになります。
この結果から、“GRB 221009A”が特別明るかった理由として、“方向”という重要な要素にあった可能性が考えられます。
ガンマ線バーストが超新星爆発に関連しているとすると、エネルギー放射が狭い範囲に絞りこまれていることが推定されます。
“GRB 221009A”では、そのエネルギーの放射が完璧に地球の方向に向いていたので、極めて明るいガンマ線バーストとして観測された可能性がるという訳です。
また、今回の観測から分かっているのは、超新線爆発を起こした恒星が属する銀河が重い元素が少ないという特徴を持つこと。
“GRB 221009A”が今から約19億年前の宇宙で発生した爆発だったことと統合すると、“GRB 221009A”の元となった恒星は非常に重く、重い元素が少なく、高速で自転している、という特徴があったと推定されます。
この推定は、正しいのでしょうか?
さらに、宇宙全体ではどれくらいの頻度で、この条件が揃うのでしょうか?
このことが解明されることで、“GRB 221009A”のような極端に明るいガンマ線バーストがどの程度珍しいのか、そしてどのようなメカニズムで発生するのかが明らかになるかもしれません。
生成されるはずの重元素が見つからない超新星爆発
一方、今回の観測で判明しているのは、超新星爆発で発生するはずの重い元素が、“GRB 221009A”の残光からはほとんど見つからなかったこと。
“GRB 221009A”が普通の超新星爆発だとする分析結果を考慮すると、これは大きな謎となります。
誕生直後の宇宙には、ほぼ水素とヘリウムしか存在せず、これよりも重い元素は何らかの核反応によって生じたことが分かっています。
水素とヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼びます。
この重元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成されることが分かっています。
それは、鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されず、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまうからです。
また、鉄よりも重い元素は、超新星爆発などの激しい現象に伴う核反応で生成されると考えられています。
その中でも実態がよく分かっているのは、非常に高密度な天体“中性子星”同士が合体した時です。
でも、中性子星が形作られ、お互いが衝突するほど接近するには、数十億年もの時間がかかってしまいます。
実際には、中性子星が合体するのに十分な条件が整っていないであろう初期の宇宙でも重元素は見つかっています。
なので、重元素を生成する別のルートがあるはずです。
そんな別の生成ルートの有力な候補に超新星爆発がなるはずでした。
ところが、普通の超新星爆発であるはずの“GRB 221009A”の残光に重元素が見つからなかったことで、超新星爆発と重元素を結び付けることに疑問符が付くことになります。
この疑問符を除去する仮説には以下のようなものが考えられています。
1.今回の研究で示された“GRB 221009Aは普通の超新星爆発”という考察は間違いで、実際には何らかの特異な性質を持っている。
2.超新星爆発によって生じる重元素は、長年信じられてきた予測よりもずっと少ない。
3.観測のセッティングにおかしな部分があり、“GRB 221009A”からの重元素のシグナルをとらえることに失敗している。
4.観測のセッティングは正しいものの、観測結果の解釈に誤りがあり、重元素のシグナルを見逃している。
どの説が正しいにせよ、証明するには更なる観測が必要です。
今回の研究は、“GRB 221009A”のように普通の超新星爆発と結び付けられる明るいガンマ線バーストを、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測する動機づけとなるかもしれません。
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