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超強磁場を持つ大気のない中性子星“マグネター”からのX線偏光を世界で初めて観測

2022年12月20日 | 宇宙 space
今回、国際共同研究グループが世界で初めて観測したのは、宇宙で最も強い磁場を持つ中性子星“マグネター(磁石星)”からのX線偏光でした。
中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。
マグネター(磁石星)は中性子星の一種で、10秒程度の自転周期を持つ、主にX線で輝く天体。
100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていて、磁気エネルギーを開放することで輝くと考えられている。
これまで、様々な方法で、“マグネター”に超強磁場が存在している可能性が示されてきましたが、観測的に実証されていませんでした。

研究では、地球磁気の26兆倍(130億テスラ)もの強い磁場を持つとされる、カシオペア座の方向約13000光年彼方に位置するマグネター“4U 0142+61”を、X線偏光観測衛星“IXPE”により観測。
2021年12月9日にNASAとイタリア宇宙機関によって打ち上げられたのが、世界初の高感度X線偏光観測衛星“IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)”。日本グループは、主要観測装置の一部を提供するとともに、マグネターをはじめとする様々な天体のX線偏光観測とデータ解析に参加している。
X線偏光の偏り方向“偏光角”とその偏り度合い“偏光度”を測定しています。
偏光は電磁波の持つ性質の一つ。電磁波は電場と磁場が交互に波打ち空間を伝わる。電磁波の偏光は、波の電場がどのくらい偏っているのかの度合いを表す“偏光度”と、偏りの方向を表す“偏向角”の二つの情報からなる。例えば、電球などから放射される電磁波は、電場があらゆる方向を向いて偏っていないので無偏光になる。X線も目で見える光(可視光)と同じ電磁波なので偏光という性質持つ。多くの天体から放射されるX線は、波の振動する面がほとんど偏らない無偏光であるが、特殊な状況で放射されたX線は振動面が偏り変更したX線となる。偏光度は0%(無偏光)から100%までの値をとり、偏向角は-90度から+90度までの値をとる。
得られた偏光角と偏光度は、マグネターが超強磁場を持つと仮定した理論モデルから予測される値と一致し、マグネターが実際に超強磁場を持つことが裏付けられました。

また、中性子星の表面には大気が無く、固体の地殻が宇宙空間にむき出しになっていると考えると、観測結果を上手く説明できることも分かりました。

地上では決して到達することができない超強磁場下における物質の性質や、超強磁場によりゆがめられた特異な真空状態を理解する上で、今回の研究がカギとなるものと期待できます。
マグネター(磁石星)のイメージ図。(Credit: ESO/L. Calçada)
マグネター(磁石星)のイメージ図。(Credit: ESO/L. Calçada)

通常の中性子星よりも大きな磁場を持つ“マグネター”

太陽の10倍もの質量を持つ恒星が、一生の最期に大爆発を起こし、その後に残される天体が中性子星です。

太陽と同程度の質量を持つ中性子星ですが、半径はわずか10キロ程度しかなく、その内部には宇宙において最も高密度な物質で満たされています。

多くの中性子星は、地球上では決して達成できない太陽の数十億倍もの強力な磁場を持つことから、極限状態における物資の性質を探ることができる宇宙の実験室と考えられています。

中性子星のなかには、1秒の間に太陽が1年間で放出する何百万倍ものエネルギーを放出する強力なフレア(爆発現象)を発生させるものがあります。

それらは通常の中性子星よりも、さらに1000倍ほど大きな100億テスラにも及ぶ超強磁場を持ち、その磁気エネルギーを開放することで輝いているとされ、磁石星“マグネター”と呼ばれています。

ただ、中性子星表面の磁場を直接観測することは非常に難しいので、マグネターが本当に100億テスラもの超強磁場を持っているのかは明らかになっていませんでした。

そこで、NASAとイタリア宇宙機関が2021年12月9日に打ち上げたのが、マグネターの超強磁場の検証などを目的とした、世界初の高感度X線偏光観測衛星“IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)”でした。
理研を含む日本グループも、主要観測装置の一部を提供するとともに、X線偏光観測とデータ解析に参加しています。

エネルギーの高低により電磁波の偏光角は大きく変わっている

今回の研究で対象となったのは、カシオペア座の方向約13000光年彼方に位置するマグネター“4U 0142+61”でした。

国際共同研究グループは、X線偏光観測衛星“IXPE”に搭載したX線偏光計を用いて、地球磁場の26兆倍(130億テスラ)もの強い磁場を持つとされる“4U 0142+61”を観測。
放射されるX線偏光の偏り方向“偏光角”と偏り度合い“偏光度”の測定に成功しています。
X線偏光計は、X線の偏光をとらえることができる検出器。目で見える光(可視光)は波としての性質が強いため、市販されている偏光板でも容易に偏光が観測できるが、天体からのX線は波の性質が弱く、その量子性が強く見える(光子)ので単純な偏光板は使えない。アインシュタインが光量子化説により説明した“光電効果”を利用する特殊な計測装置を用いる。
“IXPE”は2~8キロ電子ボルトのエネルギーを持つX線のエネルギーと偏光を同時に観測できます。
電子ボルトは光の持つエネルギーの単位。可視光の光子1粒が持つエネルギーは1電子ボルト程度であり、X線の光子1粒が持つエネルギーは、可視光の1000倍以上の1キロ電子ボルト程度である。
図1に示す観測結果から、X線の偏光度は低エネルギー側では約15%であり、5キロ電子ボルト付近でいったん0%程度まで低下した後、高エネルギー側では約30%まで上昇する様子が確認できました。

さらに分かってきたのは、X線の偏光角が低エネルギー側と高エネルギー側でちょうど90度方向が異なり、偏光度が0%になる5キロ電子ボルト付近で偏光角が90度回転していること。
観測前まで多くの研究者は、X線のエネルギーの高低により偏光角が大きく変わるとは予想していませんでした。
(図1)マグネター“4U 0142+61”において観測されたX線の偏光度と偏向角の分布×と★は、それぞれ別の方法で解析した偏光度と偏向角を示す。偏光度は、低エネルギー側(2~3キロ電子ボルト)では約15%であり、5キロ電子ボルト付近でいったん0%近くまで低下した後、高エネルギー側(5.5~8キロ電子ボルト)では約30%まで上昇した。偏向角は、低エネルギー側(2~4.8キロ電子ボルト)と高エネルギー側(4.8~8キロ電子ボルト)でちょうど90度方向が異なり、偏光度が0%になる5キロ電子ボルト付近で90度回転した。(Credit: 東京理科大学)
(図1)マグネター“4U 0142+61”において観測されたX線の偏光度と偏向角の分布
×と★は、それぞれ別の方法で解析した偏光度と偏向角を示す。偏光度は、低エネルギー側(2~3キロ電子ボルト)では約15%であり、5キロ電子ボルト付近でいったん0%近くまで低下した後、高エネルギー側(5.5~8キロ電子ボルト)では約30%まで上昇した。偏向角は、低エネルギー側(2~4.8キロ電子ボルト)と高エネルギー側(4.8~8キロ電子ボルト)でちょうど90度方向が異なり、偏光度が0%になる5キロ電子ボルト付近で90度回転した。(Credit: 東京理科大学)

電磁波の偏光が90度回転するというのは特徴的なことで、5キロ電子ボルトより低エネルギー側と高エネルギー側で全く異なる成分のX線放射が起きていることを示しています。

中性子星表面の温度を考慮すると、低エネルギー側のX線放射は中性子星表面からのもの。
その一部が中性子星の磁気圏で加速された荷電粒子と散乱し、エネルギーを受け取ることで、高エネルギー側のX線放射を生み出していると考えられます。(図2)
これはマグネターが超強磁場を持つとした理論モデルの一つで、うまく説明することができます。
(図2)マグネターから放射されたX線が偏光するメカニズム中性子星の表面からは、磁力線に平行に偏光する低エネルギーX線が放射される。この低エネルギーX線の一部は放射される途中で、中性子星の磁気圏で加速された荷電粒子と散乱することでエネルギーを受け取り、磁力線に垂直に偏光する高エネルギーX線となる。黒矢印は磁力線を表している。(Credit: 東京理科大学)
(図2)マグネターから放射されたX線が偏光するメカニズム
中性子星の表面からは、磁力線に平行に偏光する低エネルギーX線が放射される。この低エネルギーX線の一部は放射される途中で、中性子星の磁気圏で加速された荷電粒子と散乱することでエネルギーを受け取り、磁力線に垂直に偏光する高エネルギーX線となる。黒矢印は磁力線を表している。(Credit: 東京理科大学)

低エネルギー側の偏光度がこれほど低いことも、多くの研究者が予想していませんでした。
それは、マグネターの表面には大気が存在すると考えられていて、超強磁場中の大気が効率よくX線を生み出すために偏光度は80~100%になると予想されていたからです。

今回の低エネルギーX線が約15%の偏光度を持つという観測結果は、中性子星表面の物質が超強磁場により凝縮状態になっているとした理論モデルの結果と一致しています。
凝縮状態とは、中性子星の超強磁場により、中性子星表面にある物質が磁力線に沿って閉じ込められ、一列に並んだ分子鎖を作る状態のこと。表面にある物質は、最も安定な元素である鉄が有力だと考えられているが、今後のさらなる研究が期待されている。
つまり、マグネター表面には大気は存在せず、超強磁場により凝集された固体地殻が宇宙空間にむき出しになっている可能性が高いことが観測から明らかになったわけです。

X線偏向は新しい宇宙の観測手段

今回の研究では、X線偏光観測衛星“IXPE”によるマグネターのX線偏光観測を初めて成功させています。

さらに、観測から得た偏光度と偏光角の結果が、超強磁場を仮定した理論モデルの結果と合致していることから、マグネターに超強磁場が存在する証拠を得ました。

また、マグネターの表面は超強磁場によって凝縮状態にあることを示していました。

これまでとは違う切り口の観測ができたのは、新しい宇宙の観測手段であるX線偏光がとらえられるようになったからにほかなりません。

130億テスラもの強い磁場は、地球上では決して実現することができません。

なので、強い磁場を持つマグネターは、私たちの知っている電磁気学の枠組みが、身の回りの世界だけでなく、超強磁場中でも本当に成り立っているのかの検証にも使えると期待できます。

そう、宇宙が天然の実験場を提供してくれるんですねー

これまでにデータ解析を終えたマグネターは“4U 0142+61”のみです。

IXPE衛星プロジェクトが今後予定しているのは、“4U 0142+61”以外のいくつかのマグネターの観測。
マグネターの観測数が増えることにより、中性子星の超強磁場や中性子星の表面状態についての理解がより深まるはずです。

一方で“IXPE”によるX線偏光観測は、マグネターのみならずブラックホールや他の種族の天体においても実施されています。

“IXPE”は今後1~2年で、これまで他の方法で見ることができなかった新しい宇宙の姿を、私たちに見せてくれると期待できますね。


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