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太陽系外縁天体の衛星はどうやって作られたのか? 原因は初期の太陽系で起こった、溶融した巨大天体の衝突

2019年07月12日 | 太陽系・小惑星
冥王星など太陽系外縁天体の大きな衛星は、巨大天体衝突によって太陽系初期に形成された可能性が高いことが、数値シミュレーションによる研究で示されたそうです。

海王星軌道の外側を周る天体“太陽系外縁天体”

太陽系外縁天体のうち冥王星やエリス、ハウメアなど直径1000キロ以上の天体には、全てに衛星が見つかっています。

これらの衛星について分かっていることは、質量が中心天体の約10分の1から1000分の1と大きく、軌道はほぼ円形だということ。
  太陽系の惑星の衛星の質量は、
  月を除いてほとんどが中心天体の1万分の1未満。

現在発見されている直径1000キロ以上の太陽系外縁天体とその衛星のイメージ図(下端は地球と月)。
現在発見されている直径1000キロ以上の太陽系外縁天体とその衛星のイメージ図(下端は地球と月)。
ただ、これらの衛星がどのように形成されたのかはよく分かってないんですねー

冥王星とその最大の衛星カロンについては、地球の月と同様に巨大天体衝突によって形成されたという説が提唱されています。

巨大天体衝突によって衛星は形成されるか?

この謎を解くため東京工業大学の研究チームが進めたのは、数値シミュレーションによる調査。
冥王星とカロンの衛星系以外にも、巨大天体衝突によって衛星が形成されるかを調べたんですねー

まず行ったのは、天体衝突の速度や角度、衝突前の2つの天体の組成や質量比などを様々に変化させたシミュレーション。
そして明らかになったのが、衝突速度が脱出速度程度と小さく、衝突角度が約45度以上のかすり衝突の場合には衛星が形成されることでした。

この結果は、天体の分化状態や組成、質量といった条件などには依らないが、衝突の速度や角度によって衛星の質量が変わり、観測されている衛星の質量比も再現されました。

現在の自転・公転周期や離心率を説明するには

次に研究チームが行ったのは、巨大天体衝突後に形成された衛星についての潮汐による軌道進化の計算。
どのような場合に、現在の衛星や中心の天体の自転・公転周期や離心率が説明できるのかを調べています。

このシミュレーションでは、潮汐の大きさが天体の溶融状態によって変化するという条件を取り入れ、衝突後にある程度の時間が経過したところで溶融していた天体が冷却され固化するという過程を考慮しています。
  形成直後の衛星は離心率が大きい(つぶれた楕円軌道である)が、
  観測では現在の離心率は小さい(軌道が円に近くなる)ので、潮汐による軌道進化が必要になる。


計算の結果、衛星系を構成する2つの天体が、衛星形成後すぐに固化していた場合には離心率が上昇するので、観測を説明できないことが示されます。

一方、衛星系の天体が衛星形成後の数万年から数百万年の期間だけ溶融していた場合には、自転・公転周期と離心率の両方が説明できました。

太陽系初期に巨大天体が溶融した状態で衝突して衛星が形成された

さらに、巨大天体衝突や潮汐による加熱量の見積もりから分かったのは、直径1000キロサイズの太陽系外縁天体が衛星形成後に溶融していたとすれば、巨大天体衝突以前から溶融していたはずだということ。

そう、このサイズの天体が溶融するためには、太陽系の初期数百万年以内に形成されなくてはならないんですねー

この「巨大天体衝突が太陽系初期の数百万年程度で発生する」という仮説は、ちょうど「衛星を形成する巨大天体衝突の衝突速度は小さい」という数値シミュレーションから得られた制約と整合することになります。
研究1:巨大天体衝突による衛星形成の数値シミュレーション結果の例。研究2:潮汐による軌道進化の概念図。形成直後の衛星は離心率が大きいが、観測では現在の離心率は小さいので、潮汐による軌道進化が必要になる。右図:潮汐による軌道進化の計算結果。衛星系を構成する2天体が衛星形成後から固化している場合(左)や、衛星形成後1000年間しか溶融していない場合(中央)には観測を説明できないが、衛星形成後100万年間溶融していた場合(右)は離心率が低下し、観測を説明できるようになる。
研究1:巨大天体衝突による衛星形成の数値シミュレーション結果の例。
研究2:潮汐による軌道進化の概念図。形成直後の衛星は離心率が大きいが、観測では現在の離心率は小さいので、潮汐による軌道進化が必要になる。
右図:潮汐による軌道進化の計算結果。衛星系を構成する2天体が衛星形成後から固化している場合(左)や、衛星形成後1000年間しか溶融していない場合(中央)には観測を説明できないが、衛星形成後100万年間溶融していた場合(右)は離心率が低下し、観測を説明できるようになる。
これらのことから、太陽系外縁部に離心率の小さい衛星が普遍的に存在するのは、海王星以遠においても直径1000キロサイズの天体が太陽系初期に形成され、そうした巨大天体が溶融した状態で衝突して衛星が形成された可能性あることです。

今後必要になってくるのは、衛星の軌道や組成をより詳しく調べて仮説を検証していくこと。

すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡などによる太陽系外縁天体とその衛星の観測から、まだ知られていない太陽系の姿が明らかになっていくことが期待されています。


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