今回の研究では、星間空間で検出される代表的で複雑な有機分子“ジメチルエーテル”と“ギ酸メチル”が生成される過程を、量子化学に基づく反応経路自動探索法を用いて検証。
すると、それぞれの分子について極低温(~10K)の分子雲内で反応が進行し得る経路を発見したんですねー
この研究成果は、アストロバイオロジーセンターの小松勇特任研究員、国立天文台の古池健次特任助教たちの共同研究チームによるもの。
詳細は、アメリカ化学会が刊行する地球と宇宙の化学に関する全般を扱う学術誌“ACS Earth and Space Chemistry”に掲載されました。
そのような雲を“分子雲”と呼び、数光年~数十光年と様々な大きさのものがあります。
分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を分子雲コアと呼び、いわゆる星の卵に相当します。
この分子雲コアが、さらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)、その連星が誕生することになります。
この星(原始星)の形成領域には、絶対温度100K(約-173℃)以上に達する高温な領域が存在していて、そこでは多様で複雑な有機分子が検出されています。
ジメチルエーテルやギ酸メチルは、星が誕生しつつある分子雲コアで典型的に観測されている複雑な有機分子で、星形成後の100K以上の高温な気相中の化学反応や、温められた20K(約-253℃)以上のダスト表面におけるラジカル化学反応が、それらの複雑な有機分子の主な生成法だと考えられてきました。
でも、近年になって、10K(約-263℃)程度の極低温でまだ星が生まれていない分子雲コアにおいても、これらの分子が観測されるようになり、これらの分子がどのようにして生成されているのかを再検討する必要がありました。
ジメチルエーテルに関しては、気相中における放射結合による生成が考えられているものの、低温環境で観測されている量を説明するまでには至っていません。
また、ギ酸メチルの生成過程については、そもそもあまり研究されていなかったりします。
これにより、ジメチルエーテルとギ酸メチルの分子が、電子基底状態のままエネルギー的に生成されやすい経路を調べています。
この手法は、ターゲット分子に対して、それぞれ取り得る構造のエネルギープロファイルを完成させていくというもの。
1つのターゲット分子が2つの分子に分かれたところで、逆にターゲット分子までの生成経路をピックアップし、より外部エネルギーを要さない経路を抽出するという方式が採用されています。
計算の結果、どちらの分子についても、反応障壁のない気相発熱反応による生成経路が発見されました。
ジメチルエーテルについては、得られた反応ネットワークから、CH3OとCH3からの生成経路を発見。
これは、部分的には先行研究で推定されていたもので、これらと整合的でより包括的な経路が得られたことになります。
一方、ギ酸メチルについては、より複雑な組成経路が推定されています。
反応障壁無しで進行する経路も発見されましたが、主な生成物は二酸化炭素やメタンなどで、ギ酸メチルはあくまでも副産物ということが明らかになりました。
ギ酸メチルに関しては、気相反応のみならず、ダスト表面反応など他の反応経路の方が重要なのかもしれません。
今回の研究によって、これらの複雑な有機分子が極低温においても生成し得る経路が理論化学的に予測されました。
このことは、複雑な有機分子がいかにして生成されているのかという全貌を解釈する上で、基礎的な指針となる可能性があります。
今回得られた有望な反応ネットワークと反応速度式に基づくモデルを使い、星間空間における複雑な有機分子の量を推定することは、理論・観測を比較する観点で重要になります。
また、今回は気相反応に限定した計算が行われていますが、ダスト表面反応についても同様の研究を行うことは、量子化学計算による評価として有用なものになるはずです。
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すると、それぞれの分子について極低温(~10K)の分子雲内で反応が進行し得る経路を発見したんですねー
この研究成果は、アストロバイオロジーセンターの小松勇特任研究員、国立天文台の古池健次特任助教たちの共同研究チームによるもの。
詳細は、アメリカ化学会が刊行する地球と宇宙の化学に関する全般を扱う学術誌“ACS Earth and Space Chemistry”に掲載されました。
今回の研究で得られた低温の星形成領域で、ジメチルエーテルとギ酸メチルといった複雑な有機分子ができる反応経路のイメージ図。(出所:ABC Webサイト) |
分子雲コアで検出される複雑な有機分子
星間空間に撒き散らされた原子やチリが集まって雲のようになったとき、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始めます。そのような雲を“分子雲”と呼び、数光年~数十光年と様々な大きさのものがあります。
分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を分子雲コアと呼び、いわゆる星の卵に相当します。
この分子雲コアが、さらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)、その連星が誕生することになります。
この星(原始星)の形成領域には、絶対温度100K(約-173℃)以上に達する高温な領域が存在していて、そこでは多様で複雑な有機分子が検出されています。
ジメチルエーテルやギ酸メチルは、星が誕生しつつある分子雲コアで典型的に観測されている複雑な有機分子で、星形成後の100K以上の高温な気相中の化学反応や、温められた20K(約-253℃)以上のダスト表面におけるラジカル化学反応が、それらの複雑な有機分子の主な生成法だと考えられてきました。
ジメチルエーテルとギ酸メチルの構造式。(出所:ABC Webサイト) |
ジメチルエーテルに関しては、気相中における放射結合による生成が考えられているものの、低温環境で観測されている量を説明するまでには至っていません。
また、ギ酸メチルの生成過程については、そもそもあまり研究されていなかったりします。
極低温環境で複雑な有機分子はどうやって生成されるのか
今回の研究では、極低温下におけるジメチルエーテルとギ酸メチルの生成過程を明らかにするため、量子化学の遷移状態理論に基づく化学反応経路の自動経路探索法を使用。これにより、ジメチルエーテルとギ酸メチルの分子が、電子基底状態のままエネルギー的に生成されやすい経路を調べています。
この手法は、ターゲット分子に対して、それぞれ取り得る構造のエネルギープロファイルを完成させていくというもの。
1つのターゲット分子が2つの分子に分かれたところで、逆にターゲット分子までの生成経路をピックアップし、より外部エネルギーを要さない経路を抽出するという方式が採用されています。
計算の結果、どちらの分子についても、反応障壁のない気相発熱反応による生成経路が発見されました。
ジメチルエーテルについては、得られた反応ネットワークから、CH3OとCH3からの生成経路を発見。
これは、部分的には先行研究で推定されていたもので、これらと整合的でより包括的な経路が得られたことになります。
今回発見されたジメチルエーテルを生成する反応ネットワークの一部。エネルギーの高い分子(赤)がより安定な分子(青)になる。(出所:ABC Webサイト) |
反応障壁無しで進行する経路も発見されましたが、主な生成物は二酸化炭素やメタンなどで、ギ酸メチルはあくまでも副産物ということが明らかになりました。
ギ酸メチルに関しては、気相反応のみならず、ダスト表面反応など他の反応経路の方が重要なのかもしれません。
今回の研究によって、これらの複雑な有機分子が極低温においても生成し得る経路が理論化学的に予測されました。
このことは、複雑な有機分子がいかにして生成されているのかという全貌を解釈する上で、基礎的な指針となる可能性があります。
今回得られた有望な反応ネットワークと反応速度式に基づくモデルを使い、星間空間における複雑な有機分子の量を推定することは、理論・観測を比較する観点で重要になります。
また、今回は気相反応に限定した計算が行われていますが、ダスト表面反応についても同様の研究を行うことは、量子化学計算による評価として有用なものになるはずです。
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