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誕生間もない惑星の公転面は傾いていない? すばる望遠鏡が若い系外惑星の公転軸の観測に成功。

2020年09月09日 | 宇宙 space
最近発見された二つの若い惑星系を、すばる望遠鏡の新赤外線分光器“IRD”を用いて観測してみると、惑星の公転軸と恒星の自転軸がほぼ揃っていることが分かりました。
誕生から2000万年ほどの若い惑星系で公転面の情報が得られたのは史上初のこと。
惑星系の進化の解明にとって非常に重要なことになるようです。
太陽以外の恒星を回る若い惑星系のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
太陽以外の恒星を回る若い惑星系のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター)


恒星の表面活動と惑星探査

太陽以外の恒星を回る惑星“系外惑星”の多くは、主に誕生してから10億年以上たった(太陽のような)壮年期の恒星の周囲で行われてきました。

それは、壮年期の恒星は若い恒星と異なり、フレアや黒点などの表面活動が少ないので惑星の探索が行い易いから。
でも、観測手法が向上してくると、誕生後間もない表面活動が活発な若い恒星の周囲でも、惑星の発見は相次ぐことになります。


より若い惑星系の観測が必要

一般に惑星は、時間とともに軌道や大気成分などが変化していくことが知られています。

なので、若い惑星には、系内のどの位置で誕生し、どのような大気を獲得したかなど、惑星の形成にかかわる原始的な情報をまだ保持していると考えられます。

そう、若い惑星は、惑星系の起源を探る上で重要な観測対象になるということです。

特に、重要なのが惑星の公転面の傾き、つまり恒星の自転軸に対する惑星の公転軸の角度です。
それは、この傾きが惑星同士の重力的な相互作用や、恒星との潮汐相互作用によって時間とともに変化することが理論から示唆されているからです。

これまで惑星の公転面の傾きが調査された惑星系は100個以上存在しています。

でも、その大半が10億年以上の年齢… そう、壮年期に入った恒星の惑星系を対象とした観測。
惑星が、どのような軌道で誕生したのかを探るのに必要なのは、より若い惑星系を観測することでした。


公転面が観測された最も若い惑星

今回の研究で着目しているのは、発見されて間もない若い惑星系を持つ二つの恒星“けんびきょう座AU星”と“K2-25”。
“けんびきょう座AU星”は“がか座β星運動星団(年齢約2300万年)”、“K2-25”は“ヒアデス星団(年齢約6億年)”という、どちらも若い星団に属しています。

そして、トランジット法によって確認されたのは、二つの恒星には海王星サイズの惑星が公転していることでした。
トランジット法では、地球から見て惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る。

この二つの若い恒星は、表面温度が低いので可視光線では暗く観測が難しいのですが、赤外線では明るく観測しやすくなります。
さらに、赤外線での観測は若い恒星の表面活動の影響を受けにくくなるというメリットもあります。

そこで観測には、すばる望遠鏡に搭載された新型の赤外線分光器“IRD”が用いられることになります。
赤外線分光器“IRD(InfraRed Doppler:赤外線ドップラー装置)”は、すばる望遠鏡に搭載された太陽系外惑星探査のための観測装置。

惑星が恒星の手前を通過する間に、恒星のスペクトル中を惑星の影がどのように動いていくかを、ドップラー効果を用いて調べるドップラーシャドウという手法があります。
ドップラーシャドウとは、恒星スペクトルの吸収線の中に惑星の“影”を見る手法。吸収線は恒星の自転によるドップラー効果で広がっているが、トランジット中に惑星が恒星面を部分的に隠すことで吸収線にもその影が現れることになる。この影の時間変化を詳しく調べることで、惑星公転面の傾きを調べることができる。

この手法による解析で確認されたのは、どちらの惑星もその公転軸が恒星の自転軸とよく揃っていること。
その結果、年齢が2000万年ほどの“けんびきょう座AU星”の惑星は、公転面が観測された最も若い惑星になっています。
特に、若い恒星の年齢を決めることは難しいが、ここでは恒星が属している星団の年齢を、惑星系の年齢の上限と見なしている。


誕生直後の惑星の公転面は傾いていない?

若い惑星系で惑星の公転面が傾いていないということは、これまでの観測結果を解釈するうえでも重要な意味を持つことになります。

太陽系では、水星だけ他の7つの惑星と比べて公転面に傾きがありますが、ほぼ公転面は傾いていないといっても差し支えないレベルです。
ただ、これまでに惑星の公転面の傾きが測定された惑星系の約3分の1では、惑星の公転面が大きく傾いていました。
惑星系の模式図。(a)は恒星の自転軸(赤の太線)と、惑星の公転軸(緑の線)が揃っている場合。(b)は惑星の公転軸が恒星の自転軸に対して傾いている場合。惑星系の進化論では、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐作用によって、(b)のような公転面の傾いた状態に至ると予想されている。惑星の年齢と公転面の傾きの関係を観測により明らかにすることは、惑星系の進化を探る上で重要な課題になっている。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
惑星系の模式図。(a)は恒星の自転軸(赤の太線)と、惑星の公転軸(緑の線)が揃っている場合。(b)は惑星の公転軸が恒星の自転軸に対して傾いている場合。惑星系の進化論では、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐作用によって、(b)のような公転面の傾いた状態に至ると予想されている。惑星の年齢と公転面の傾きの関係を観測により明らかにすることは、惑星系の進化を探る上で重要な課題になっている。(Credit: アストロバイオロジーセンター)

そのため、研究者の間では、公転面がいつ、どのようにして傾いたのかについて議論が続いています。

それでは、二つの惑星の公転面が傾いていないという今回の観測結果は、何を意味して言うのでしょうか。
それは、惑星は誕生直後から公転面が傾いているのではなく、一部の惑星系で誕生後しばらく経ってから傾いたということです。

でも、若い三連星“オリオン座GW星”の観測結果では、三連星の公転面から大きく傾いた原始惑星系円盤が発見されていて、生まれたときから公転面が傾いている惑星も存在する可能性はありそうです。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

若い惑星系において、惑星の公転面の観測例は少ない状況です。
研究チームは、今後さらに多くの若い惑星系で同様の観測を行い、惑星の公転面が傾いた原因や時期などを明らかにしていくようです。


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