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金星の極域では強い上下方向の大気の運動が発生している? 地球では赤道上空で発生している現象です。

2020年03月24日 | 金星の探査
質量や大きさが地球とよく似ているので、地球の双子星と呼ばれる金星。
これまで金星大気の温度構造は、ごく限られた場所でしか測定されなかったので、金星大気で起こっている様々な現象や、雲の構造を理解するのは難しい状況でした。
今回、金星探査機“あかつき”を用いることで、地球の大気構造とは真逆の傾向があることが分かってきたようです。


金星は地球の双子星だけど大気や気候が全く違っている

金星は地球の双子星と呼ばれるほど、その質量や大きさが地球に似ている惑星です。
でも、金星と地球の大気や気候は全く異なっているんですねー
金星探査機“あかつき”の赤外線カメラ“IR2”がとらえた金星の夜面(疑似カラー画像)。“IR2”では夜面の雲を透過してきた赤外線を観測しているので、雲は影絵のように暗く写るが、画像では明暗反転して雲を明るく表示している。
金星探査機“あかつき”の赤外線カメラ“IR2”がとらえた金星の夜面(疑似カラー画像)。“IR2”では夜面の雲を透過してきた赤外線を観測しているので、雲は影絵のように暗く写るが、画像では明暗反転して雲を明るく表示している。(Credit:PLANET-C Project)
金星大気の成分は主に二酸化炭素です。
このため金星では温暖化が進んでいて、金星地表の気温は約460度、気圧は90気圧にも達しています。

そして、雲の主成分は濃硫酸… 金星全体はこの雲で覆われています。

さらに、金星では、自転スピードの60倍もの速さで大気が回転しています。
これは“スーパーローテーション”と呼ばれる現象で、なぜこのような大気の高速運動が起こっているのかは分かっていません。

太陽系の中で地球と隣り合った公転軌道を持ち、惑星そのものの質量や大きさが似ている金星。
なぜ、地球と金星では気候や大気の状態がこれほど違うのでしょうか?

この謎の解明に必要なのは金星の大気を調べ理解すること。
そうすれば、金星大気やそこで起こる現象を地球のものと比較ができ、地球の大気をより深く理解することにもつながります。


必要なのは全球的な温度の高度分布

金星の大気データを集め、大気で起こる様々な現象を理解すること。
このために打ち上げられたのがJAXAの金星探査機“あかつき”です。いわば金星の気象衛星なんですねー
“あかつき”による観測の概念図。
“あかつき”による観測の概念図。(Credit:PLANET-C Project)
異なる波長で金星を観測すると、様々な高度での大気の情報を得ることができます。

たとえば、撮像観測装置(カメラ)が得意とするのは、特定の高度(主に雲頂あたり)における大気の水平構造を明らかにすることです。
すでに、金星大気の大規模な弓状構造や極域のS字構造など、特定の高度で見た雲の構造を見つけています。

でも、水平方向の情報だけでは大気を理解することできません。
地球の場合もそうですが、大気が高さ方向にどのような構造になっているかを知ることは、金星の大気の変化を明らかにするために重要な情報になります。

また、地球では地形が大気の変化や雲の発生に影響していることも知られています。

では、金星でも地形によって大気は影響を受けているのでしょうか?

これを明らかにするのに必要なのが雲の下の大気を調べることです。
特に大気の温度分布は、雲の発生や雲の変化を知るために重要な情報をもたらしてくれます。
なので、惑星大気や気象現象を理解するのに不可欠なデータといえます。

ただ、金星には分厚い雲があるんですねー
観測波長を変えたとしても、撮像観測で雲の中や下を観測するのは難しい状況です。

もちろん、これまでに着陸機などを用いた観測では温度の高度分布が測定されています。
これは特定の地点における観測であり、観測数も少なく、緯度60度より高緯度のデータはありませんでした。

限られた場所での分布ではなく、全球的な温度分布が、金星大気を理解するために必要になります。


電波掩蔽(えんぺい)観測により金星全球のデータを取得

今回の研究では京都産業大学のチームが、電波掩蔽観測データを用いた金星大気の高度方向気温分布の調査を実施しています。

電波掩蔽観測とは、地上から見て探査機が惑星の背後に隠れるとき、または背後から現れるときに探査機から電波を発し、地上のアンテナで電波を受信。このときの周波数変化から、惑星大気の温度を測定する手法です。
電波掩蔽観測の概念図。
電波掩蔽観測の概念図。(Credit:PLANET-C Project)
探査機から送信された電波は、探査機の軌道運動と通過した大気の屈折によって周波数が変化します。

探査機の軌道運動は、電波掩蔽観測とは独立したデータがあります。
一方、大気の屈折率は大気の温度によって変化するので、電波の周波数変化によって大気の温度が推測できるわけです。

さらに、探査機は軌道上を動いています。
なので、違う時刻に探査機から送信された電波は、金星大気の違う場所を通過して地球に届くことになります。
そう、違う場所(具体的には高度)の大気の温度を見積もることができるんですねー

研究チームが用いた電波掩蔽観測データは、“あかつき”とヨーロッパ宇宙機関の金星探査機“ビーナス・エクスプレス”によるもの。
これにより、雲層の下になる高度40キロ~85キロにおける温度の高度分布を、金星全球で取得することに成功しています。
電波掩蔽観測によって得られた温度の緯度-高度分布(パネルa)と大気安定度の緯度-高度分布(パネルb)。
電波掩蔽観測によって得られた温度の緯度-高度分布(パネルa)と大気安定度の緯度-高度分布(パネルb)。(Credit:PLANET-C Project)
今回の研究で得られた温度の緯度-高度分布から分かるのは、高度60キロより低い領域では、温度が緯度とともに単調に下がっていること。
逆に、高度60キロより上空では、温度は緯度と共に上昇していました。
  緯度65度付近に局所的に冷たい領域が存在していることも分かっている。

過去のデータがある場所については、今回の研究で得られたデータと過去の観測結果が整合していることを確認しています。


大気安定度は金星と地球では真逆の傾向にあった

次に、大気構造をより詳しく調べるため、研究チームが注目したのは大気安定度でした。

大気安定度は気流やどのような雲が発達するのかを知るための重要な指標。
大気安定度が低いと上昇気流や下降気流が発生し、積雲や積乱雲のように垂直方向に雲が発達することになります。

今回の観測結果から見積もられた緯度70度よりも低緯度の大気安定度は、高度50~55キロでは大気安定度が低く、高度55キロより上空では高安定、逆に高度50キロより下では弱安定でした。

これらの特徴は過去の観測結果と一致しているので、金星大気が長年にわたって構造を維持していることを示しています。
  1961年と1984年に行われたソビエト連邦の金星探査機“ベネラ”や、1978年から1992年まで行われたNASAの金星探査機“パイオニア・ヴィーナス”で実施された観測結果と一致していた。

一方、緯度が70度よりも高緯度の領域で初めて明らかになったことがあります。
それは、大気安定度の低い領域が高度40キロまで広がっていること。
金星の高緯度上空では、大気の不安定な領域が低緯度よりも広く存在していることを示していました。

地球では、大気安定度の低い領域は赤道上空が最も広く、高緯度に行くに従い大気安定度の低い領域は狭くなります。

つまり、金星と地球は大気安定度という観点から見ると、真逆の傾向を持っていることになります。

金星の極域で大気安定度が低い領域が広がっているということは、そこで強い上下方向の大気の運動が発生していることになります。

このような大気の垂直方向の運動が、下層から水蒸気や硫酸蒸気などの雲の材料になる物質を速やかに上空へ運び、分厚い雲の生成や維持につながっている可能性があります。

実際、金星の雲は極域で最も分厚いことが観測により示されています。
金星の大気安定度の緯度分布の概念図。
金星の大気安定度の緯度分布の概念図。(Credit:京都産業大学)
これまでのモデルは、着陸機などによるわずか数回の直接観測データに基づいて作られていました。

でも、今回の研究で用いられたのは、金星全球にわたり均一に取得したデータで、より信頼性が高く、不定性が低いもの。
金星の大気で起こる気象現象を理解するための新しいモデルの構築や、モデルにより観測結果を解釈するときに大いに役立つはずです。


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