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空飛ぶ天文台“SOFIA”が金星の昼側で単独の状態で存在する酸素原子の観測に成功! なぜ、これまでの観測では見つからなかったのか?

2024年01月16日 | 金星の探査
金星の大気中には“原子状酸素”という、単独の原子の状態となった酸素が存在すると考えられています。
でも、これまでの観測では、太陽光のあたる昼側で原子状酸素は見つかっていませんでした。

今回の研究では成層圏赤外線天文台“SOFIA”によって金星を観測。
金星の昼側では、初めて原子状酸素を観測することに成功しています。

その観測結果は、原子状酸素の発生に関する事前の予測と一致するものでした。
この研究は、ドイツ航空宇宙センター(DLR)のHeinz-Wilhelm Hobersさんたちの研究チームが進めています。
図1.金星探査機“あかつき”によって赤外線および紫外線で撮影された金星の合成画像。(Credit: Kevin M. Gill)
図1.金星探査機“あかつき”によって赤外線および紫外線で撮影された金星の合成画像。(Credit: Kevin M. Gill)


昼側では見つからない原子状酸素の謎

金星は、約97%が二酸化炭素で構成された非常に分厚い大気を持っています。

二酸化炭素は化学的に非常に安定した分子なので、一見すると金星大気内で発生する化学反応は乏しく見えます。

でも、金星大気の上層では状況が異なるんですねー

強力な紫外線を含む強い太陽光に晒されると二酸化炭素は分解され、酸素原子が単独の状態で存在する“原子状酸素”の状態になります。

原子状酸素は極めて不安定で、他の分子と出会うと分解や化合などの化学反応を起こしてしまいます。
なので、金星大気中での化学反応の主因になっていると考えられています。

このため、原子状酸素は太陽光のあたる昼側で多く生成され、その後の大気循環で夜側に運ばれると考えられています。

でも、これまでの観測では原子状酸素が見つかっているのは夜側だけで、昼側では見つかっていませんでした。

原子状酸素を見つけるには、原子状酸素から放射される固有の波長の光をとらえる必要があります。

ただ、金星の雲は太陽光を強く反射してしまい、原子状酸素から放たれる微弱な光を隠してることが問題となっていました。


空飛ぶ天文台で金星の原子状酸素を観測

今回の研究では、ドイツ航空宇宙センターとNASAが共同で運用していた“SOFIA”を用いた金星の観測が実施されています。

“SOFIA”は、ボーイング747型機に口径2.5メートルの赤外線望遠鏡を搭載し、高度約14キロの成層圏を飛びながら観測する「空飛ぶ天文台」として知られています。
図3.NASAとドイツ航空宇宙センターが2022年9月まで運用していた成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA/Carla Thomas)
図3.NASAとドイツ航空宇宙センターが2022年9月まで運用していた成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA/Carla Thomas)
物質は、その組成や構造によって、特定の波長の光を吸収したり放射したりする性質があります。
なので、その光を観測することで天体の組成を調べることができます。

特に赤外線の波長域を使えば、水をはじめ、可視光の波長域では見られない様々な物質を調べることができます。

でも地上だと、地球の大気に含まれる水蒸気や二酸化炭素の吸収や放射の影響を受けてしまいます。
なので、地上の天文台からは赤外線領域を精度良く観測することが原理的に難しいんですねー

一方、衛星や探査機などに搭載して宇宙に望遠鏡を持って行くには、大きさや質量などに大きな制約があり、性能が限られてしまいます。

そこで、大気の薄い成層圏から、衛星に搭載が難しい大きな望遠鏡で観測できる“SOFIA”の登場になったわけです。

今回の観測では2021年11月に3回の飛行で観測を行い、分光計“upGREAT”を用いて金星からの光を詳細に分析。
金星の17か所(昼側が7か所、夜側が9か所、昼夜の境目が1か所)からの分光データを取得しています。
図2.“SOFIA”によって観測された金星の輝度温度(a)、原始状酸素の温度(b)、原始状酸素の濃度(c)。昼側(円の右側)は夜側(円の左側)と比べて濃度が高い。(Credit: DRL, Heinz-Wilhelm Hübers, nature)
図2.“SOFIA”によって観測された金星の輝度温度(a)、原始状酸素の温度(b)、原始状酸素の濃度(c)。昼側(円の右側)は夜側(円の左側)と比べて濃度が高い。(Credit: DRL, Heinz-Wilhelm Hübers, nature)
その結果、観測で得た全ての分光データから、原子状酸素の存在を示す情報を得ることが出来ました。

実は、原子状酸素は地球の大気にも含まれています。
ただ、金星の原子状酸素から放射される光は、ドップラー効果により波長がズレていたので区別が可能でした。
さらに、“upGREAT”の性能が優れていたことで、原子状酸素の光が地球と金星のどちらから来たのかを区別することが出来ました。

金星の昼側で原子状酸素を観測したのは、今回が初めてのこと。
この観測によって、昼側と夜側で原子状酸素の濃度を比較することも可能になりました。
夜側より昼側の方が、原子状酸素の濃度が高いという結果となり、これは太陽光で原子状酸素が生成されているという事前の予測にもよく合致するものでした。

興味深い観測結果として、原子状酸素の温度を測定したデータがあります。

今回観測された原子状酸素の温度は、昼側で-93度、夜側では-158℃あり、どちらも高度100キロに相当します。

金星全体を巡る大きな大気循環としては、高度70キロのスーパーローテーション(※1)と、高度120キロの昼側から夜側への大気の流れがあります。
※1.金星の自転周期は地球時間で243日、公転周期は225日。ただ、金星は自転と公転の向きが逆なので、金星の一日の長さは地球の117日に相当する。このゆっくり自転する金星自身を軽々と追い越してしまうほどの速度で回転しているのが、金星の分厚い大気。この現象は“スーパーローテーション”と呼ばれ、一番速度が大きい雲層の上端付近(高度約50~70キロ)では、自転速度の60倍にも達している。
高度100キロは、ちょうど中間に位置しているので、原子状酸素の発生現場と大気循環に何か関連があるのかもしれません。

金星の直径や質量は地球と類似していて、“双子星”と表現されることもありますが、大気の性質は大きく異なります。

大気のどのような違いが地球と金星の運命を分けたのでしょうか?
それを知るためにも、今回の原子状酸素の発見のような観測が必要になるんですね。


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