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探査機“あかつき”が発見! 金星の高速風スーパーローテーションよりも速い巨大な波動“雲の不連続面”

2020年08月14日 | 金星の探査
雲が全球を覆う金星で探査機“あかつき”が見つけたのは、巨大な“雲の不連続面”でした。
高度50キロ付近を移動する“雲の不連続面”の速度は時速330キロ。
同じ高度で吹いている高速風スーパーローテーションよりも速いので、大気そのものの移動とは考えにくいんですねー
これは太陽系内で初めて観測された現象で、35年もの間気付かれていなかったそうです。


他の惑星では見られない大気現象

その大きさや質量が地球と似ていることから、しばしば地球の双子星と呼ばれる金星。

でも、その大気や環境は地球とは全く異なっています。

金星の地表は太陽系の惑星の中で最も暑く、465度と鉛を溶かすほどの高温に達しています。

さらに、90気圧にもなる大気のほとんどが二酸化炭素で、その中に浮かんでいるのが硫酸の液滴からなる分厚い雲。
惑星全体で常に吹いているスーパーローテーションと呼ばれる東風は、高度約70キロの雲頂では4日で金星を一周するほどの速さを持っています。

そう、太陽系の他の惑星には見られない様々な現象が、金星の環境で観測されているんですねー


金星の下部雲層で発生している惑星規模の波動現象

金星大気では、紫外線で見えるY字模様や、長波赤外線で見える10,000キロにも及ぶ弓型の地形固定重力波模様などの巨大パターンが現れることが知られています。

これらは、いずれも雲頂付近に見られる現象。

一方、今回見つかったのは、金星の全球にわたり高度48~56キロの下部雲層で、光を透過する割合や雲粒子の分布といった大気の性質が大きく変化する境界“雲の不連続面”です。

この現象を見つけることができたのは、中・下部雲層における諸現象を観測することを主目的とした“あかつき”搭載の赤外線カメラ“IR2”による観測データのおかげでした。
2010年5月に打ち上げられたJAXAの“あかつき”は日本初の金星探査機。金星の大気を立体的に観測するため観測波長の異なる複数のカメラを搭載。主な目的は、スーパーローテーションと呼ばれる惑星規模の高速風など、従来の気象学では説明ができない金星の大気現象のメカニズムを探ること。

金星の赤道をはさみ、ときには南北の緯度およそ30度まで7000キロ以上に及ぶほど大きく発達する“雲の不連続面”。
金星を5日で一周する速さ、時速約330キロで移動していることも分かりました。
2016年3月~2018年12月の長期にわたって“あかつき”がとらえた“雲の不連続面”の画像。(Credit: PLANET-C Project Team, NASA, IRTF)
2016年3月~2018年12月の長期にわたって“あかつき”がとらえた“雲の不連続面”の画像。(Credit: PLANET-C Project Team, NASA, IRTF)
“雲の不連続面”が見つかった高度における高速風スーパーローテーションは、およそ7日で金星を一周する速さになります。
なので、スーパーローテーションより速い“雲の不連続面”の移動速度は、大気そのものの移動とは考えにくいんですねー

以前、“IR2”カメラで発見された赤道ジェットは、5日で一周するほどの速さになることもありましたが、永続的な風ではありませんでした。

つまり今回の発見が示唆しているのは、5日で一周するような速さで伝わる何らかの波動であるということ。
金星の雲頂以外の低い大気中で、惑星規模の波動現象が見つかるのは初めてのことでした。

中・下部雲層や大気は、金星地表を加熱する強い温室効果に大きく寄与しています。
その領域における惑星規模の波動の発見は、いまだ謎に包まれている金星地表と大気の相互関係の理解に貢献すると期待されています。


“雲の不連続面”は何十年にもわたって存在していた現象

“雲の不連続面”の発見は、下層大気から運動量とエネルギーを運んでくる波が雲頂へ達する前に消散する、その証拠をついにとらえたといえます。

これが事実であれば、波が運んできた運動量は、その場所の大気に与えられることになります。
そう、長年の謎であった金星のスーパーローテーションに寄与し得る現象ということです。
巨大な“雲の不連続面”が高度50キロ付近の“下部雲層”を駆け巡っている様子。2016年8月25日~28日に取得された画像から作られた“雲の不連続面”の動画。(Credit: J. Peralta, JAXA)
巨大な“雲の不連続面”が高度50キロ付近の“下部雲層”を駆け巡っている様子。2016年8月25日~28日に取得された画像から作られた“雲の不連続面”の動画。(Credit: J. Peralta, JAXA)
さらに、意外だったのは、過去に得られた画像を1983年までさかのぼって調べてみると、同じような構造が認められたこと。
この巨大な構造は、何十年にもわたって存在していた準永続的現象ということになります。

では、どのようにしてこの準永続的現象は発生しているのでしょうか?
これまで誰も、そしてほかの惑星においても見たことのない新しい気象現象です。
コンピュータシミュレーションも行われていますが、まだ分からず… さらなる観測・研究が必要なようです。

ただ、現時点で有力な説はあります。
それは、ケルビン波がこの巨大な“雲の不連続面”に関与しているのではないかというもの。

ケルビン波は大気重力波の一つで、赤道地方で大きな振り幅となり流れの下流(スーパーローテーションと同じ向き)へ伝わるという特徴を持っています。
この特徴が、今回見つかった“雲の不連続面”と一致しているんですねー

ケルビン波が存在すると他の波(たとえば、中緯度で流れの上流へ伝わるロスビー波)と相互作用し、その時生じる不安定を介してスーパーローテーションの運動量を赤道へ運びます。

金星の気象現象を理解するのに興味深い存在といえるケルビン波。
“あかつき”の紫外線カメラのデータから見出された熱潮汐波によるスーパーローテーションの維持メカニズムに加え、ケルビン波も重要な役割を果たしている可能性がありそうです。

現在、ハワイにあるIRTFやカナリア諸島のNOTを用い、金星を周回している“あかつき”と連携した追観測が行われています。
金星の観測データが集まることで研究も進むはず、様々な疑問の解決が期待されますね。
IRTF(Infrared Telescope Facility)はマウナケア山頂にあるNASAの3メートル赤外線望遠鏡。NOT(the Nordic Optical Telescope:北欧光学望遠鏡)はラ・パルマ島のラ・パルマ天文台に設置された2.56メートルの望遠鏡。


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