新型コロナウイルスは収束の兆しを見せておらず、福井県内でも2020年3月以降362人(21年1月5日時点)が感染し12人が亡くなった。英国や米国でワクチン接種が始まり新たな局面に入っているが、福井大学医学部附属病院感染制御部の岩﨑博道教授は「日本で接種が始まった後も、マスク着用など新しい生活様式が当面続くだろう」とみている。岩﨑教授に現状や今後の見通しを聞いた。
人類が初めて撲滅に成功した感染症の天然痘は、新型コロナよりも感染力、致死率は高い。ただ、ウイルスの変異がほぼなく、ワクチンの安全性や有効性が高いため世界中に普及した。
米製薬大手ファイザーなどが開発した新型コロナのワクチンの有効性は95%とされる。現状なら1万人のうち100人が感染するところを5人に抑えることができ、感染者は劇的に減るだろう。
ただ、新型コロナは初期の中国・武漢型から欧州、さらに別の系統への変異がみられ、そのたびに感染が拡大したとの仮説がある。ワクチンがウイルスの変異にどこまで対応できるかはまだ分からないが、感染が落ち着いたり、拡大したりを繰り返す可能性も否定できない。
もう一つ大事なのがワクチンの安全性。人種によってどんな副作用が出るかやその強さが異なることも考えられ、国内での臨床試験のデータが重要になる。子宮頸(けい)がんのワクチンは早い段階で導入されたが、副作用を懸念して厚生労働省の積極的勧奨が中止された経緯もある。迅速に、かつ慎重に進める必要がある。
日本では2月下旬からのワクチン接種を目指しているが、遅れる可能性は十分にあり、国民全員に行き渡るのにどれほど時間がかかるのか、どれだけの国民が受けるのか現時点では分からない。接種しない人が多くなれば、流行がくすぶる恐れがある。感染しないことを確約するものでもなく、今後も新しい生活様式は続くだろう。
SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)も撲滅したわけではなく、パンデミック(世界的大流行)に至っていないだけ。インフルエンザは毎冬流行し国内の年間死者数は約千人に上る。マスクなしの生活に戻るかどうかは、私たちが新型コロナによる死者数などをどこまで許容するかということにも関わる。
新型コロナは当初「未知のウイルス」だったが、分かってきたことも多くある。致死率はSARSが10%、MERSが35%に対し、新型コロナは国内で1・5%。症状はさまざまで、感染が分かりづらい。気付かないうちに広がり大きなクラスター(感染者集団)を形成する、したたかなウイルスだ。
全国は感染第3波にあるが、県内は感染者の周囲を広く検査してクラスター発生を防いでいる。一人一人の予防意識の高さも爆発的拡大を防いでいるのだろう。感染の多くは飛沫(ひまつ)によるもので、マスクを外した時の会話や飲食はリスクを伴う。リスクの高い行動を避けるよう家族間でも声を掛け合ってほしい。