ずいぶん前のことだけど、ある中国人の女の子とおしゃべりしていたら、誰かいい人はいないかという話になった。彼氏がいなくてさびしいそうだ。知り合いの中国人の男の子を紹介してあげるよと言うと彼女ははしゃぐ。好みを訊くと、キムタクがタイプなのだとか。調子づいた彼女は、このほかにも、車を持っていることだとか、自分の欲しいものはなんでも買ってほしいだとか、なんだかんだといろいろ条件を出してくる。
「それはちょっとレベルが高すぎるよ。白馬の王子様だよね。そんな男の子はなかなかいないからねえ。もっと現実的な条件を言ってよ」
と僕は言った。
その女の子は二十歳過ぎのごく普通の女の子だ。夢見る年頃なのかもしれない。でも、キムタクみたいな男前をリクエストされても紹介のしようがないではないか。僕は条件を値切ったけど、やはり理想はゆずれないらしい。結局、イケメンで優しくて、自分のことだけを見てくれる人という線にまでしか下がらなかった。恋人募集中の時は、あれこれと理想を思い浮かべるものだからしかたないのかもしれない。
「ハードルが高いなあ。あいにく、知り合いでそういった男の子はいないねえ。ところで、その三つのうちでいちばんだいじなのはなに?」僕は訊いてみた。一つだけなら、条件にあてはまる人がいるだろう。
「イケメン!」
すかさず元気な答えが返ってくる。
「それじゃ、イケメンだけど、自分だけを見てくれるんじゃなくて、あっちこっちで浮気する人でもいいの?」
「そんなのいやだ」
「優しくなくて、俺の言うことはなんでも聞けっていう人でもいいの? 亭主関白みたいな感じの男の子は?」
「そんなの困る。料理も家事もできて、わたしの身の回りの世話はみんなやってくれる人がいい」
「えっ? 君はなんにもしないの?」
「だって、上海人は料理も家事もみんな男がやってくれるのよ」
「でも、ここは上海じゃないよ」
「そうだけど、だって、わたしは料理も家事もできないもの。家ではなんにもやらないし」
「勉強すればいいじゃない。家事くらい誰だってできるよ」
「そんなのむりよ」
「イケメンはもてるから、けっこう面倒なことになるかもよ。いろんな女の子が追いかけるからね」
「でも、やっぱり、キムタクみたいにスーパー格好いい男がいい。私の希望は三つだけなんだから、ぴったりの人を紹介してよ」
彼女は目をきらきらさせる。
うーん。できない。
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第21話として投稿しました。『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/