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増大する家庭教会の存在感と期待される役割(劉燕子論文)

2015-05-01 16:36:59 | 中国、中国のキリスト教
[野外礼拝の場面 2009.8月]

中国のキリスト教会(政府公認の三自教会と非公認の家庭教会)に対する私の見方が変わりつつあったが、劉燕子女史の論文を読んで更に大きく変わった。人数が公認の教会より多くなっていること、その背景として新たに家庭教会に加わる学生や知識人たちが出始めていること、さらに公認の教会から転向する人たちがいることを伝え聞いていた。現在関西学院大学の講師となった劉女史は、この家庭教会が中国における「公民」社会発展を担う存在となりつつあるとその役割に注目している。論文名は「現代中国におけるクライシスの深まりとディスクール(言説)の動向 -- 聖書『ダニエル書』と『家庭教会』をめぐり -- 」である(関西学院大学言語研究センター年報18号、2015年3月)。

著者は都市部における家庭教会に焦点を絞り、近年信教の自由を求める大きなうねりがあったと見る。一つはキリスト教リベラル学者、例えば劉暁楓(りゅうぎょうふう)の「十字架の真理に向かう」などが広く読まれ、文化的クリスチャンが生まれる転換点となった。二つ目は1989年天安門事件によって共産党のイデオロギー的正当性が失墜し、反比例してキリスト教に拠り所を求める人々が知識層を中心に増加した。そして三つ目にインターネットの発展があり、家庭教会の指導者たちがそれを利用して信仰告白(声明)を発表するようになった。その中で、「教会は国家に拉致された一機関」となるべきではないと言明し(張栄亮)、公に三自とは異なることを明らかにした。

そのような課程をへて、家庭教会は表に出始め(公開の方向)、当局が一時統制に緩和の兆しが見えたのを機に家庭教会に登記の動きが現れた。2005-07年、家庭教会が急増。ビルやテナント用空き室を借りて会堂とするようになった。そして、2009年以降、借家から会堂建設に移るという段階に達した。

[2008年11月 北京。中国当局が主催した第一回「家庭教会の問題」研究会。政府関係者、研究所員於建嵘など、大学教授、家庭教会代表6名などが参加。]

劉燕子はこの家庭教会が現代中国社会の重要な一角を占めるに至っていると観る。全ての人が平等であるという理解のもとにクリスチャンのコミュニティが広がれば、自由、人権、民主、法治などを中国社会に根付かせることができる、と期待する。その存在は、劉暁波(りゅうぎょうは、ノーベル平和賞受賞)が言う、「尊厳をもって生きられるヒューマニズム社会の建設に努力し、愚昧にして怯燸(きょうじゅ)な、使役に甘んずる民間の生存方式の改変を通じて、独立した公民社会を拡張する」ビジョンと共鳴・共振する、と観察する。

ただ、当局は非公認教会の増大に脅威を感じ、2014年1月から12月まで、次々と教会を破壊している。全国で800箇所の教会が破壊され、温州だけで408教会に達したと伝えられる。そのような教会に対する締め付けを前に、家庭教会の間でダニエル書2章の巨大な像に関する言説(ディスクール*)が交わされるに至っている。頭は純金、胸と両腕は銀、腹と腿は銅、その下は鉄と陶土でできた巨大な像の話である。そこへ人手によらずに一つの石が当たって巨像が粉々に砕ける。巨像は数多くの深刻な矛盾をかかえた現代中国を指し、柔らかい陶土は柔軟なヒューマニズムを表象しているととらえるのである。

*ディスクールとはフーコーの談話分析 discourse analysis からきた術語で、制度や権力と不可分に結びついている。抑圧、排除、差別などといった制度的権力の構図を内包した「言説」を言う。


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2 コメント

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もともとは (黄昏のマリア)
2015-09-05 00:23:19
もともと、イエス様は、組織はお作りにならず、個々の家庭を拠点として働いておられました。確か、本拠(というか)はカペナウムで、立場的には「ハシディーム」かと思います。
初期キリスト教の歴史を照らし合わせると、中国の動向は、興味深いです。
私の認識が正しければ、「エルサレム教会」であれ、「諸教会」であれ、それらは結局は「組織」であるがゆえに政治的にローマに取り込まれてしまったと言える。
中国で、キリスト教が、純粋に福音を維持していくには、家庭教会という形の方がよいのではないかと思います。がんばれー!

名称は忘れましたが、個人宅で、少人数(多くても10人だったかな)で福音の活動をしているところがあります。教える人は、どちらかと言えば、進行役で、聖書からテーマを選んで、ひとつふたつの質問についてディスカッションする。だったかな。その後で聖餐と昼食を一緒にいただく。布教活動する(リフェロー中心)ので、人数が増えてくると適正な人数に分割される。全世界に家庭教会間のネットワークがあって、日本では各地でキャンプとかのイベントを有志が自発的にやっている。家族どうしの繋がり、個人のつながりも強い感じがしますね。
(宣教師入れて総員12人ほどの支部にいたことがあります。アットホームな感じで、皆、仲がよかったです。大きな支部から分割されたのち、ステーク編成のために元の支部に吸収されたため、発足2年で消滅しました。私はその支部からでた唯一の宣教師となりました。)

北朝鮮では、2500万人の人口に、50万人のクリスチャンがいると聞いたことがあります。もちろんアンダーグラウンドですが・・・。現代のカタコンベ?人口比では日本よりキリスト教国?衝撃的内容で、ポストイットに走り書きし、ずっと冷蔵庫に貼りつけてあるんですが、ソースはメモらなかった。記憶のかなた、思い出せません。すみません。

小さい組織の方が、小回り利くし、皆の顔が見えるし、案外強いですよね。
ああ、○○支部が懐かしい!
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コメント、有難いです (NJ)
2015-09-06 00:20:51
ひとつひとつお答えできませんが、読ませていただいています。
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