第236回 2019年11月5日 「仏壇の技がいきる~新潟 漆工芸~」リサーチャー: 田中道子
番組内容
錦ゴイをかたどった箸置き。黒い漆の地に金粉などで模様を描いたネイルアート。そして水を注ぐと、器の内側に星空が浮かび上がるさかずき。これはどれも新潟で、仏壇を作ってきた職人たちの手になるもの。近年の住宅事情の変化などから、大型仏壇の需要は減る一方。そんな中、仏壇作りに携わってきた漆職人が、その高度な技を使って生み出したユニークな工芸品が、評判を呼んでいる。女優の田中道子さんが、その製作現場を訪ねる。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201911051930001301000 より
色漆錦鯉×特製桐箱「(愛称) KOIOKI [コイオキ]」(「羽賀佛壇店」4代目・羽賀良介・富美子さん御夫妻)
新潟には「新潟・白根仏壇」「三条仏壇」「長岡仏壇」と、国指定の伝統的工芸仏壇が3産地あります。
新潟市を中心に作られている「新潟・白根(しろね)仏壇」は、艶やかな漆黒ときらびやかな金箔、花鳥や人物といった緻密な彫刻に蒔絵が施され、荘厳ながらも絢爛な姿の仏壇です。
新潟県は、浄土真宗の始祖の親鸞や日蓮宗の始祖の日蓮が流された地で、古くから仏教信仰が盛んな場所でした。
度重なる信濃川の氾濫により、多くの被害を受けた民衆には、仏教を心の拠り所とした信仰心が育まれていました。
良質な材料や高温多湿で、漆の乾燥に最適な気候に恵まれたこともあり、300年以上に渡り、仏壇の生産地として発展を続けています。
近年は一戸建てが少なくなった他、ライフスタイルの変化で大きな仏壇を持つ家庭はめっきり減り、仏壇の需要は減っていますが、職人達は、仏壇作りの技術を使って、新たな製品を作り続けています。
仏壇は、「木地師」と呼ばれる職人が木を削って様々なパーツを作り出し、「彫師」は各宗派の物語、守り神となる動物や植物を彫り込みます。
そして、木の部分では「塗師」が漆を塗り、金箔を貼ります。
新潟仏壇の羽賀佛壇店4代目で「塗師」の羽賀さんは、新潟特産の錦鯉に着目して、木型と仏壇に使われる漆技術を応用した箸置きを発案しました。
新潟県の観賞魚「錦鯉」が桐の流紋を泳ぐ愛らしい箸置きです。
羽賀さんは、約1ヶ月の月日を費やして、生漆を塗っては磨き、塗っては磨きを繰り返し、蒔絵師の奥様・富美子さんが錦鯉の模様の他、縁起物の松竹梅などを描きます。
そして、その宝石のような美しさを更に引き立てるのが、鈴木石太郎タンス店の鈴木浩昭さんが誂えた、加茂桐簞笥の特製桐箱です。
羽賀佛壇店 新潟県新潟市東区山木戸6-11-6
蒔絵ネイルチップ(「林佛壇店」五代目・林芳弘さん)
仏壇を修復し、綺麗にすることを「お洗濯」と言います。
「林仏壇」五代目・林芳弘さんは、約100年前に作られた仏壇を依頼主から引き取り、分解、お湯に溶かした炭酸ソーダで長年の埃を洗い流し、金箔も洗い落とします。
「先達者はどのような技法を駆使して、この仏壇を作ったのか」
そんな思いを馳せながら作業を進め、「新しいものを作るよりかえって難しい」とおっしゃっていました。
現在、林さんは娘さんたちとともに蒔絵の技法を使ったネイルアートを手掛け、好評を博しています。
林さんにはお嬢さんが二人いらっしゃいます。
蒔絵師の裕美さんと一級ネイリストの亜美さんです。
まず、ネイリストである亜美さんが爪の幅や湾曲にあわせたネイルチップを作成し、父の芳弘さんがそのチップに下地の漆塗りを担当。
母・由利子さんが爪のデザインを手掛け、裕美さんが蒔絵を施すというチームプレーで行われました。
酒杯「宙COCORO」(「林佛壇店」六代目・佐藤裕美さん)
酒杯「宙COCORO」は、蒔絵ネイルチップを製作されている林さんのお嬢さんで、「林佛壇店」の六代目・佐藤裕美さんの作品です。
蒔絵の技法を応用したステンレス製の盃です。
裕美さんは約190年続く「林佛壇店」を営む家に生まれました。
彼女のお父様・林芳弘さんは林仏壇店の5代目であり、伝統工芸士の資格を持つ塗師。
また、お母様の由利子さんも、同じく伝統工芸士の蒔絵師です。
裕美さん自身は、小さな頃から絵を描くことが好きでしたが、家業を継ぐのは嫌やだなあと思い、高校卒業後はデザイン専門学校に通ってイラストレーターを目指していました。
ただ、専門学校に通いながらも、「技術を継いで欲しい」と願うご両親から漆塗と蒔絵の指導を受けて、仏壇の蒔絵の図柄を写す手伝いをしていました。
簡単に出来るだろうと思っていた蒔絵が、想像以上に難しくて、満足に線を引くことすら出来なかったという裕美さん。
とにかく扱いが難しい。
格闘する中、納得のいく線が引けるようになるに従って、蒔絵がだんだん楽しくなってきたそうです。
裕美さんは「白根仏壇」の蒔絵部門の伝統工芸士の資格を取得し、現在、伝統工芸士として伝統技法を受け継ぎ、他の仏具メーカーから仏具やおりんなどに蒔絵を施す仕事を請けながら独自の表現手法にも果敢に挑戦しています。
新潟県が金属加工が盛んという土地柄から、15年前より裕美さんはお父様とともに、金属に漆を焼付する技法を試行錯誤しながら研究してきました。
そんな中、新潟県燕市のササゲ工業が製造するステンレス製の盃との出会ったことがきっかけに、酒杯「宙COCORO」は誕生しました。
ササゲ工業が製造する盃はステンレス製で、表面の酸化皮膜の厚みを変化させて、光の干渉現象を起こし発色させる、酸化発色が施されています。
塗装や染色とは異なるため、色が剥げず、耐食性が高い点が特徴です。
また中を空洞にして作られているため、ステンレス製なのに軽く、注いだお酒の温度をある程度保つ利点があります。
裕美さんは「小宇宙」をテーマに、蒔絵の技でもって、美しく壮大な銀河を繊細に表現したのが、「宙COCORO」です。
お酒を注ぐと、底面が見込みの曲面に沿って湾曲すると同時に、水面も表面張力によって丸く膨らむため、レンズ効果が一層発揮されて、ひとつひとつの星がふわりと浮かび上がって見え、美しく壮大な銀河を更に堪能出来ます。
「宙COCORO」の銀河と星座は、筆ではなく、なんと爪楊枝やスポンジなどで描かれています。
裕美さんは、自ら、爪楊枝の先端を紙やすりで削り、理想の細さを追求します。
何色もの色漆をパレットに取り、油で溶いて色を混ぜ合わせながら、爪楊枝で少しずつ器に点描したり、スポンジで叩いたり。
このように色ごとに絵付しては、天火で熱して焼付することを繰り返します。
当初、この焼付に最適な温度と時間を探るのに、試作をずいぶん繰り返したそうです。
現在、仏壇の扉にも同じような星空をあしらって欲しいという依頼が舞い込むようになっているのだそうです。
林佛壇店 新潟県新潟市中央区本間町2-2656
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Niigata/urushi より
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