ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

LGBT法成立後の日本 - 9 ( 波多君の思い出 )

2023-12-04 21:29:26 | 徒然の記

 〈 3.  7月12日 「トイレ制限 国に違法判決」「性同一性障害巡り最高裁 」「経産省職員 勝訴確定」〉

 今はどうなっているのか知りませんが、私が入学した頃の大学では、クラスと言えるのは第一外国語の授業だけで、このクラスだけが同じメンバーの学生でした。それ以外の授業は、学生の選択がまちまちで、教室も大教室であったり中教室であったり生徒の数が違っていました。第一外国語のクラスメイトだけが変わらないメンバーで、卒業まで机を並べました。

 18才で入学した私は希望に燃えた一年生で、第一外国語に英語、第二外国語にドイツ語を選びました。語学のクラスは複数ありましたが、クラス単位のメンバーは卒業まで不変で、30名くらいの小ぢんまりとした教室でした。

 男子ばかりのクラスなのに、教授が出欠の確認をする時、いつも後ろの方で女性の声で返事がありました。どうしてなのだろうと思っている内に、4月が過ぎ5月が過ぎました。信じられない人もいると思いますが、当時の私は引っ込み思案で、積極的に友人を作るタイプではありませんでした。もう直ぐ夏休みになるという6月のある日、隣に座っている本田君にそっと尋ねました。本田君の父君は東京工業大学の教授だということで、彼は父を自慢にしていました。

 「ああ、それは波多 ( はた  ) だよ。」

 以前から知っているらしく、なんでもない風に教えてくれました。波多君は、いつも教室の後ろに座っている無口な学生で、短髪の学生が多い中で前髪が垂れるほど伸ばしていました。細面で色の白いやさ男ですから、女性のような声を出すのかと納得しました。フランスにいるお婆さんに育てられているらしく、休みになるとフランスへ行くのだそうです。

 当時はまだ日本が貧しかったため、政府の為替管理が厳しく、一般人の渡航を許可しない時でした。今からすると嘘みたいな話ですが、政治家、財界人、著名な芸術家、マスコミ関係者など特別の人間でない限り、外貨を使わせてくれませんでした。海外旅行は、当時の学生というより、多くの日本人の憧れでしたから、波多君がフランスと行き来していると聞くと、その方が羨ましくてなりませんでした。

 その波多君が夏休みが終わると、女学生の姿で現れました。びっくりしたのは私だけで、他のクラスメートたちは何事もないように、波多君に接していました。髪を長く肩まで伸ばしスカートを履いた波多君が、声にふさわしい姿になったということです。美人だったら良かったのでしょうが、天は二物を与えなかったようでした。

 その彼が10月の初め頃だつたと思いますが、突然クラスから姿を消してしまいました。

  「波多は日本では暮らしにくかったらしい。フランスのおばあちゃんと暮らすと、決めたようだな。」

 教えてくれたのは仲井君で、彼のお祖父さんは裁判官でしたから、そのせいかいつも穏やかで自信に満ちていました。

 長い話をしましたが、性同一性障害と思われる波多君との思い出はこれだけです。言いたかったのは、男子だった時も女装した時もクラスでは誰も彼を奇異の目で見たり、特別扱いをしたりしなかったということです。

 それでも波多君は何かに生きづらさを感じ、なにかに傷つき、学校を辞めたのだと思います。国を訴えた経産省の職員には、波多君のようにフランスに引き取ってくれる親族もいなかったのでしょうから、日本で生きるしかありません。だから私は、彼の気持ちが全く分からない訳ではありません。

 思い出を踏まえた上で、記事の続きを紹介します。

  ・最高裁第3法廷はまず、個別事情や職場でのトラブルがなかった状況を考慮した

  ・職員は自認する性と異なる男性用か、離れたフロアの女性用トイレしか使えなかった

  ・これは日常的な不利益を受けていると、指摘した

 人事院の判定を不服として、職員が訴え、最高裁判所の判決が出るまで8年が経過しています。この間関係する人々が、問題を放置していたのでなく、議論が続いていました。悪意の人間が誰もいない、どの人間の気持ちも分かる・・しかしこんなことを言っていたら結論は永遠に出ません。政治にも、日常生活にも、結論が入ります。千葉の片隅の「ねこ庭」であっても、結論が大事です。

 分かっていますが、まだ考えがまとまりませんので、次回も記事の紹介を続けます。忍耐力と、愛国心が頼りです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

LGBT法成立後の日本 - 8 ( 悪意の人間がいない事件 )

2023-12-04 14:25:40 | 徒然の記

 〈 3.  7月12日 トイレ制限 国に違法判決」「性同一性障害巡り最高裁 」「経産省職員 勝訴確定」

 本日は、共同通信社の記事を最初に紹介します。

   ・最高裁第三小法廷 ( 今崎幸彦裁判長  ) は11日、制限を認めないとの判断を下した。

   ・経産省の対応を是認した2015年の人事院判定を、違法と判断した。

   ・職員側の勝訴が確定した。

 さすがに日本は「三権分立」民主主義の国と、改めて知らされました。人事院の判定と聞けば、私たち庶民は権威のある判断として受け止めますが、裁判所は立法府の判断を否定します。最高裁判所の判決が最終ですから、日本全国が従います。民主主義の素晴らしさと恐ろしさが、同時に分かる事態が目の前で進行しています。

 こんな時、国の主権者と言われる私たち国民に何ができるのか。

 失望したり、無力感を覚える必要はありません。こういう場合を想定し、憲法がちゃんと規定しています。縁がないので私たちが知らないだけで、調べれば情報が得られます。

 (憲法15条1項

 公務員を選定、罷免する権利は国民の固有の権利であることを規定している

 (憲法76条3項) 

 司法権独立の原則の中核たる裁判官の職権の独立を、明文をもって規定している

 (憲法78条

 裁判官の身分保障の要請と、国民の公務員罷免権の調和を図るために、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されないことを規定している

 「公の弾劾」とは、強い身分保障を受けた公務員に非行があった場合に、国民の意思に基づいてその者の身分を剥奪する特別の手続であり、裁判官弾劾法で定められた「裁判官弾劾制度」がこれに当たる

 ブログを書きながらネットの情報を探していますので、いつも通りのぷっつけ本番、「泥縄式」の紹介です。条文の説明と地の説明を混同しているかもしれませんが、ご容赦ください。大事なことは「裁判官弾劾制度」があり、おかしな裁判官を罷免する道があるという事実です。

 「裁判官弾劾制度」に深入りすると、森の横道へ踏み込みますので、今回は小道の存在を確認するにとどめ、共同通信社の記事へ戻ります。

  ・自認する性別が出生時と異なる、トランスジェンダーなど性的少数者の職場環境のあり方を巡る最高裁の判断である

  ・最高裁の判断は、裁判官5人の全員一致による結論

 今崎裁判長だけでなく、他の4人の裁判官も全員一致だそうです。「裁判官弾劾制度」を調べるのは中断しましたが、いずれ制度を知る必要性が出てきました。忍耐力と愛国心がないと、LGBT問題に取り組めないことを再確認し、記事の紹介を進めます。

 ( 今崎裁判長の補足説明  )

  ・不特定多数が利用する公共施設の、トイレなどを想定した判断ではない

  ・そうした問題は、改めて議論されるべきである

 裁判長の言葉を読みますと、渋谷区役所や福岡市、あるいは九州大学大学院学生の事実を知った上での判決だと分かります。この問題がいかに一筋縄でいかないものであるか、「ねこ庭」から見て分かるのはこの程度です。共同通信社も、読者に補足説明をしています。

 ( 共同通信社の説明  )

  ・今回と同様に、人間関係が限られる企業や学校などでは、性的少数者のトイレ使用の対応に影響する可能性がある。

  ・判決によると、職員は入省後に性同一性障害との診断を受けた

  ・健康上の理由から、性別適合手術を受けていない

  ・長年、女性ホルモンの投与を受けていた

  ・2010 ( 平成22 ) 年から、許可を得て女性の身なりで勤務を始めた

  ・女性用トイレについては、勤務フロアから上下2階以上離れた場所でしか使用を認められなかった

 この説明で私の間違いも分かりました。経済産業省は女装の職員を採用したのでなく、同僚たちも最初は受容の必要性がなかったということです。そうなると、経済産業省も、省内の職員も、当事者である職員にも想定外の事態だったことになります。悪意の人間が誰もいない事件ですから、誰にとっても判断が困難です。

 以前思い出話の一つとして、学生時代の出来事を「ねこ庭」で紹介した記憶があります。人生の中で初めて出会った、「性同一性障害」のクラスメイトの話です。次回は彼のことを思い出しながら、新聞記事の紹介をしたいと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする