田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-02 03:53:38 | Weblog
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 吸血鬼に骨をにぎりつぶされた。
 複雑骨折だ。
 メグミは上都賀病院に入院させた。
 完全看護だ。
「かんけいのない人はひきとってください」
 といわれたのが頭にきた。
 ダチよ。
 いちばん親しいダチだよ。
 カンケイアルジャン。
 だまってそのまま帰れなくなった。
 つき添いは断られた。
 Gガールズが廊下の長椅子で徹夜することになった。
 メグミは噛まれてはいない。
 腕の骨がぐしゃぐしゃだ。
 麻酔を打たれている。
 病室のなかは静かなものだ。
 メグミに鬼化現象の起こる心配はない。
 だが……。
 いつ吸血鬼におそわれるかわからない。
 いちど彼らと闘った人間は……。
 彼らの記憶にやきついてしまう。
 またおそわれる可能性がある。
「これが聖水。木の杭。十字架」     
 麻屋は、ひとつひとつ渡した。
 Gガールズに。
 吸血鬼鬼から身を守るといわれている三種神器を説明しながら手渡した。

 いまどきの吸血鬼にどれだけ効果があるのかな?       
 わからないことだらけだ。
 麻屋にしてもひさしぶりの宿敵との遭遇だ。

 なによ、これって。
 もしかしてタカコのとこのセンセイ……『美少女スレイャーVS吸血鬼』のフアンだったりして……。   
 さすがに、わたされたものが吸血鬼がらみのものだとGガールズはすばやく理解した。
 テレビで吸血鬼番組はどのチャンネルでもやっている。
 ゲームにも映画にも吸血鬼はみちあふれている。
 だから、理解がはやいのだ。
 こういうヤンキーが。
 創造力が旺盛で闘争心のある生徒が。
 まともな教師に出会えばガリベン族よりものみこみがいい。
 吸血鬼なんかいないよ。
 あんなもの信じるなんてバァカじゃないの。
 というフレキシビリティにかけた秀才くんより。
 社会にでてからエネルギッシュに活躍する。
 教室でもいい生徒になる……。
 などと麻屋は職業意識のうずくのをあわてておさえこんだ。
   
 生徒の未来を憂える。
 そんなまともな教師がこの街に何人いるのだ。
 5人いてくれれば、おれは塾をたたんで東京にもどる。
 いまはそんなことを考えている時でない。
 そんなときではない。
 もう。そんな建設的なことを考えるには、おそすぎる。
 街のいちばんよわい部分、子供たちへの破壊工作がおこなわれている。
 
 吸血鬼と臨戦態勢にある。

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吸血鬼浜辺の少女外伝/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-09-01 06:53:56 | Weblog
 声もでない。             
 体温が急速にうばわれた。
 
 目前で鹿沼土の穴に沈んでいく父の姿が蘇る。
 蟻地獄のような。
 すり鉢状の。
 さらさらした鹿沼土の穴に。
 なすすべもなく父がすいこまれていった。 

「きさまスレイヤーだな」        
 その父から伝承された技だった。
 その父の遺志をついでの技だ。
 墨染めの衣。
 手甲、脚絆。
 破れ網代笠。
 そして杖。
 全国を行脚して、修行をつんだ雲水姿のご先祖をイメージする。
 マントラをとなえた。
 麻屋が二重身となる。
 雲水の幻像がかさなった。

「ナウマクサンマンダバサラダ、センダマカロシャナ、ソハタヤウンタラタカンマン」

 生霊を調伏の呪文をろうろうと麻屋が唱える。
 それはもはや塾の英語教師としての声ではなかった。
 吸血鬼の乱杭歯がもみけしたタバコのように萎えていく。
 だが、そこまでだった。
 とびげりが麻屋をおそう。
 回転まわしげり。
 くるくると独楽のようだ。
 体を回転させて。
 連続技をくりだしてくる。
 ワイヤーアクションみたいだ。
 
 だが、麻屋の体にはあたらない。
 どうしていまごろになって。
 夜の種族がおれのまえに現れるのだ。
 平穏な小さな田舎町の。
 小さな学習塾の塾長でいたいのに。
 愛する妻と塾生にとりかこまれ。
 田舎町で静かに暮らしていきたいのに。
 なぜそうさせてくれないのだ。
 
 麻屋の幻の錫杖の鐶が鳴った。     
 杖の先が鮫肌の胸をついた。      
 ポリ袋の山のなかに吸血鬼がふきとんだ。
 すかさず脳天に杖をふりおろす。
 吸血鬼のからだに痙攣がはしる。
 どろっとした緑の液体となってきえてしまった。
「アサヤのオッチャン。あんたぁ、ダレ。ナニモノナノ」
「なんだ、まだそこにいたのかタカコ」
「心配でもどってきたの。ごまかさないで、ねね、教えて」
「受け身は、be動詞プラス過去分詞」
「ちがう。英語じゃない」
「現在完了形は……」
「ちがうちがうの。アイッ消えちゃったよ。わたし見たんだからね。緑の血をながして、消えるとこ見たんだ。ね、ね、ねぇ、教えてよ」
「see、見るの変化形は……」
「もう、しらない。おこるからね」
 タカコが唇をとがらせた。

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