頂上での時刻は、既に午後3時半でした。11月におけるこの時間の太陽は、ぐっと高度を落としていて、もう夕方に近い雰囲気です。普通ならば、1時間とちょっとで登り切るべきところを2倍ほどの時間を費やしていました。私の目論見違いというか、適当すぎる人間性に原因があります。いまさら、どのように反省してもしょうがありません。下りはひたすら降りることを心がけるだけです。
それでも、下る前に早くも目を奪われたものがあります。ブナ林です。大平山は、畑沢からの方向によって三つの呼び方をされています。私が登ってきた西の斜面はマジヤマ(真木山)、その南側はカツラパ(漢字は不明。)と言われています。そして、全く逆に北を向いている斜面がホウザヤマ(寶沢山)です。畑沢では、普通はこのホウザヤマが通用しています。一つの山が三つもの名前を持っているのは、他では聞いたことがありません。山頂にはこのホウザヤマの斜面が大きく続いています。そのホウザヤマの斜面を見下ろすと、何と一面がブナ(橅)林です。「一面がブナ林」などというのは、普通、高い山に行かないと見られないのですがここでは、標高が800m程度で見られます。ブナ林は、いわゆる雑木林と言われる林と比べて、樹木と樹木の間がすっきりとしていて、なかなか、見栄えがします。ただ、このブナ林は原生林ではありません。恐らく、最後の伐採から百年程度しかたっていないと思われ、まだ、太くなっていません。
ブナ林を眺めた後は、ただひたすら転げるように下山しました。登りが藪こぎならば、やはり下りも藪こぎです。登りで着々と蓄えた位置エネルギーを放出するだけですから、体力的には下りはかなり楽です。それでも、下りでは別の問題がありました。低木の幹が容赦なく私の脛(すね)を打ち付けます。後で脛を眺めたら、傷だらけでした。おまけに血だらけでした。
それでも何とか車がある場所まで、ぎりぎりで明るいうちに到着しました。時計を見ると、4時半です。1時間で降りたようです。いつも山登りをするときは、懐中電灯を持って行くのですが、大平山には不要だと思っていました。危ないところでした。下山完了後に直ぐに暗くなりました。車のヘッドライトを点けて、暫し大平山と別れます。一度目の登山は1974年、二度目が約40年後の2013年、三度目の登山は、何十年後でしょうか。