「ゆわさる別室 」の別室

日々BGMな音楽付き見聞録(現在たれぱんだとキイロイトリ暴走中)~sulphurous monkeys~

20150615

2015-06-15 | 矮小布団圧縮袋

○もう一本上映期間中に、と行ってきましたキイロイトリです。

 本日のBGM:
 Love & Pride / King (「The Best of King」)
 映画「パレードへようこそ(原題:Pride)」(英、2014)
 いやー。くそー。もう選曲が憎いぞ。「BBC film」って文字が始まる前に画面に来たとおり、もろ英国ドラマな上に、1984年を知ってるリアルタイム組(って、40~50歳代くらいの人?)にはたまらんだろう。日本人だったら、「8ビートギャグ」なんか読んでたそこらの人とかは特に(爆)。
 この映画も特に予習せず、アンドリュー・スコットが出てるらしい、くらいしか考えずに行ったのだが、テンポも悪くなく話が進み、予想以上に引き込まれてしまった。

 だいたい日本の話じゃないのに、どうしてこういう話で胸にぐっとくるんだろう。いや、実は出てくるサッチャー政権下のニュース映像といい、AIDSが社会で認識され始めた頃の当時の一般市民の反応といい、日本でいえば昭和末期の文化の爛熟の空気感といい、自分たちの記憶にはわりと残っているし、思い出せる。それとやっぱり、当時ずっと日本のラジオやテレビで毎日のように流れていた「洋楽」が来ることによって、脳内の記憶中枢が無自覚かつ自然に反応しちゃっていることもある。これが「当時を知らない平成生まれの人が自分の好きな懐メロを適当に集めたっぽいなんちゃって80年代ヒット曲集もどき」じゃないところがいい。ありがちかもしれないザ・スミスのモリッシーの歌の流れた後で、やっぱ「緑の上下スーツ着てる奴なんて、他にいないだろ!」なポール・キングのラブ&プライドが流れてくる(!)ってのは大事なことだw。ジョナサンが踊るディスコ調のやつとか。半ば享楽的な、しかし凄まじい閉塞感とが同居しているような時空というか、それは「ユーモラスなところもありながら、時代考証もされてる」ってことでもある。他にも「1984-85年」な音は出てくる。で、もちろんブロンスキ・ビートで「がーっと」くるテンションは半端ではない。そして音楽的にも「笑って、泣ける」。かなり実話だというし。

 現在の若い人たちは、この映画を30年前の歴史的事件の話として見るのだろう。しかし個人的なことを言えばたぶん、(もちろん当時このパレードに参加していたわけではないが)自分たちはジョーあたりと年齢が一番近い(※役でいうとメンバーの中で一番年下の、佐々木蔵之介を高校生にしたみたいな人)。マークとかマイクやジェフやステフたちは兄姉たちとか、学生時代の部活の先輩くらいにあたる。少し年上のジョナサンやゲシンがOBのコーチみたいな感じかもしれない。この辺りの時代の感じが生理的にわかるところがある上に、視点人物の感覚を通して、ちょうど大人になりかけた頃の大学生の自分が、だんだん自分の殻から少しずつ外に出て、(大人になって数十年ぶりに出会おうが、一生の話ができるような人格レベルの)友人を少しずつ得て、またさらにビル・ナイやパディ・コンシダイン(ウィッチャーの人がここにも。ほんとにこの人の「言葉」は、じわじわ来る)やイメルダ・スタウントンたちのような、いろいろ心の通い合う大人たちとも出会いながら、自分を取り巻く身近な社会や「公共」に対しての考え方や、自分のスタンスを持ち始めていく。その、年代の気分(と思い出してみると、自分の10~20代は、そういう先輩や師のような信頼できる大人の人々に出会えたことが実は幸運でもあったのだ、という記憶)を、知らず知らず思い出しつつ、見てしまったのだ。この映画を見ている地元英国内の中高年の人は、もっとリアルかつドメスティックに同時代の文化を感じるのではないか。

 お調子のよすぎるように思える展開もあるにはあったが、意外と見入ってしまい、時々不覚にも、うるっと来てしまった原因は、そういうところにもよるのだろう。出てくる人たちが決して単調でなく、老いも若きも、一人一人が皆違ったそれぞれの考えをもって生きている、しかしそれはそれとして連帯するということはありえるのだ、ということが大事に畳み掛けられて描かれているし、ウェールズの田舎の炭坑町の人たちが次第に変わっていく過程も、面白かった。特に中年や高齢者のパワーはさすが「黙っちゃいない高齢化社会」の成熟した大先輩みたいな勢い。そしてある種30年前のイギリスを舞台に描かれているような「企業利潤優先の新自由主義と、地方コミュニティの破壊」問題が、現在の日本で起こっている、ってこともあるのだろうか。(前にも書いたが、1980年代から続いた「主任警部モース」等の英国のテレビドラマに描かれたような社会問題は、30年後の日本社会の問題を圧倒的に先取りしていた。)
 まずBBCドラマなんか見ている人にはおなじみの人々が(名前はよく知らないが、顔は見たことあるというのが)たくさん出てくるので、英語もわかりやすく見られるだろう。(フレディ・フォックスなど出オチ的にもウケるw)


 というわけでインパクトのある映画を続けて見てしまったが、こういうのは、ふと「行ってみよう」と思った時に行っておくのが、いいのかもしれない(見なければ、見ないで済んでしまうものでもある)。見終わった後で、見る前には全く考えても予想してもいなかったことが、次から次へと頭の中に浮かんでくるし、世界が少し違って見えてくる。人生は短くもあり長くもあり、いろんな生き方がある。こんな風にして「ちょっとしたことで、何かが動き出す」ことがあるのかもしれない、と(エンディング・テーマのその「曲」も伴って)思わせてくれるような映画ではあった。(20150615)


※かなり数年前に、ロマンポルシェ。のライヴで掟ポルシェ先生を見た時に、髪型が絶対誰かに似ている、と思って後日しばらくしてから思い出したのだが、多分典拠はポール・キングあたりじゃないかと思ふ。
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