EV様を中心にした電池開発は、韓国のLGやサムソン、日本のパナソニック、中国のCATL、アメリカのギガファクトリーなどが知られていて、特にアジア勢が先端を行っている。ヨーロッパは、ドイツのVWとかが開発していたが、多勢に無勢。そこでやっとEUが重い腰を上げたとm日経が報じていた。
「2030年までに世界の電池セルの30%は欧州で生産されているべきだ」。11月13日、ベルリンで開かれたEV関連イベントでドイツのアルトマイヤー経済相は力をこめた。独企業と欧州企業によるセル生産のために10億ユーロ(約1300億円)の補助金を設けることをぶち上げた。
電池セルはリチウムイオン電池などのカギとなる重要部材だ。韓国のLG化学やサムスンSDI、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)、日本のパナソニックなどアジア勢が牛耳っている。
■「欧州バッテリー連合」構想立ち上げ
この状況はEUの執行機関、欧州委員会も危惧しており、2月に「欧州バッテリー連合」構想を立ち上げた。シェフチョビッチ副委員長は「アジアの技術に依存したままという選択肢はありえない」と断言。アルトマイヤー氏はこれに呼応した。
アルトマイヤー氏の呼びかけに早速、名乗りをあげた企業もある。乾電池の老舗として知られる独ファルタだ。同社は09年に独フォルクスワーゲン(VW)と車載用リチウムイオン電池の開発で提携、共同出資会社を設立していたこともありVWの参画の可能性を報じるメディアもある。
ただ、「欧州企業による欧州の電池産業」という構想の成功をいぶかる声は少なくない。そこには2つの壁が存在する。
1つ目は投資資金の壁だ。補助金への規制が厳しい欧州で独政府が10億ユーロもの支援を打ち出したのは異例だ。それでもある業界関係者は「ケタが1つ小さい」と指摘する。
自動車部品世界最大手の独ボッシュは2月、長く検討していた電池セルの自社生産を断念した。フォルクマル・デナー社長は「30年に20%のシェアを取るには200億ユーロの投資が必要になる」と話しており、リスクが高いと判断した。
欧州にギガファクトリー(巨大電池工場)をつくるとして注目されていたスタートアップも資金集めに苦労している。独ティッセンクルップ出身者が創業した独テラEは、出資を受けていた電池パック大手の独BMZの傘下に入って仕切り直す。
■中国勢と価格競争も
もう1つの壁は技術の壁だ。リチウムイオン電池の特許の多くは日本や韓国の企業がおさえている。北欧でギガファクトリーの建設を目指すノースボルト(スウェーデン)のピーター・カールソン最高経営責任者(CEO)は「最先端品は狙わない」と話すが、そうなると中国勢との価格競争は避けられない。
技術の壁の背景にあるのは人材不足だ。ある業界関係者は今回のドイツや欧州委の構想について「いつか来た道」と話す。化学品である電池セルは、原料の混ぜ方や塗り方などノウハウの固まり。こうした量産ノウハウを持つ人材がいないという。
独企業は1970年代にパソコンやカメラなどの電池の開発を中断し、以来国外メーカーに頼ってきた。この構図を打開すべく2000年代後半に独ダイムラーが化学大手の独エボニックインダストリーズと組んでセル生産に参入。ダイムラーの一部車両に搭載した。だが、歩留まりがあがらず15年ごろにセルの生産を停止。LG化学などからの調達に切り替えた。
11年には独教育・研究省が約25の企業と研究機関が参加するリチウムイオン電池の試験生産プロジェクトを支援。量産につなげる目的だったが、現在のドイツの状況をみると成功だったとはいいがたい。
欧州で数少ないリチウムイオン電池のセルメーカー仏サフトは欧州企業と組んで次世代電池の量産を目指す(サフトのフランスの生産拠点)
そもそも欧州企業が生産する必要があるのかという指摘もある。フランクフルト近郊でダイムラーやボルボ(スウェーデン)の商用車向けに電池パックを生産する独アカソル。電気バス向けの好調な需要を背景に19年には生産能力を4倍に増やす。スベン・シュルツ社長は「毎週のように顧客から電動商用車のプロジェクトの相談を受ける」と話す。
■雇用創出の側面も
安定調達のために欧州メーカーによる電池生産を待望しているかと思いきや返ってきたのは意外な答えだった。「必要なのはドイツや欧州企業の電池ではなく、ドイツや欧州でつくられた電池だ。高品質の電池を安価に期日通り調達できるなら、どこの国のメーカーだろうと問題ない」。実際に東欧では韓国勢が生産を拡大しているほか、CATLもドイツでの電池セルの量産を決めている。
しかし、数少ない欧州の電池セルメーカー、仏サフトのギラン・レキエCEOは強く反論する。「海外の大手が欧州に投資するのは良いことだ。しかし、付加価値はどこにあるのか。研究開発はどこでするのか」。同氏は高付加価値の雇用を欧州に創出することの重要性を指摘する。
同社は25年までにリチウムイオン電池よりも高性能な次世代電池「全固体電池」を量産する計画を持つ。独シーメンスやベルギーの化学大手ソルベイなど欧州の有力企業と全固体電池開発のための連合を組んだ。現在の主力は産業機器向けが中心だが、全固体については複数の自動車大手が関心を示しているという。
欧州発の電池チャンピオンは誕生するのか。EVや電力網向けの電池が社会やエネルギーのあり方を変える可能性を秘めるなか、国家戦略の重要性は増している。