「選挙の裏側ってこんなに面白いんだ!スペシャル」(三浦博史・前田和男 ビジネス社 2007年6月)を読んだ。
三浦博史氏は1951年東京生まれ、故・椎名素夫代議士(岩手)の秘書、アメリカ留学を経て日本初の選挙プランナーとして200近くの選挙に関わる。2007年都知事選では石原慎太郎陣営の選挙参謀、参議院選挙では東京選挙区の丸川珠代陣営の選挙参謀を務める。
一方、前田和男氏は1947年東京生まれ、企画会社を経営し「一人電通」の異名をとる、2001年千葉県知事選(落選)、2003年の衆議院選大阪3区(当選)など数十の選挙に関わる。団塊世代を地方議会へ送るネットワーク・共同代表。本書は2人の分担執筆形式だが
「前田氏は相当厳しい選挙戦ばかりを体験されたらしい。私からも警察と選管対策を補足しておこう」
「三浦氏の『選挙は外見力』論を別の角度から、私の体験をまじえて補足したい」
というふうに、前項を受ける連歌のような構成になっている。
今年は12年に1度の選挙年である「亥年」、都知事選、区議選、参院選と選挙が続いた。私は惨敗した浅野選挙、辛勝した川田選挙に末端のボランティアとして選挙運動にかかわったので、そのときの体験から「なるほど」とうなずけることが多かった。
浅野選挙について「街頭行動では中高年が多かったなあ。若い層を大切にしない選挙、悪くいえば自己満足の選挙。若い人を取り込みたいのなら、ブログ対策やIT対策だって、もっとすればよかったのに」(p208)
「築地が本気で石原反対の声をあげたら、出入りの寿司屋や食堂から、口コミで反石原となり脅威になったかもしれない(略)それと「新銀行東京」問題。これも浅野サイドの攻撃はほとんどなく、拍子抜けでした。」(p213)
たしかになあ。
また勝利を確信した時期を問われ「公開討論とテレビ討論。両者に格の違いがありありと出て、確信しましたね」「最後の一週間はアクセルを踏んで、とにかく「浅野はダメ」の烙印で徹底して差をつけて叩き潰したいという方針で選対をクリア」とまで書いている。
三浦氏の科学的根拠に基づいた調査・戦略・戦術をプランニングして当選=勝利へと導く手法には納得する点が大きかった。
なお、前田和男氏分担分は、この本は2003年衆議院選で大阪3区から出馬して当選した弁護士・辻恵氏の選挙戦のドキュメンタリー『選挙参謀』(太田出版 2004年8月)と同類またはその延長線上のエピソードや話題が多い。
そこで、連戦連勝の三浦氏の分担分から「当選の極意」をいくつかピックアップする。
選挙はまず調査である。
「政令指定都市の市長選や知事選、国政選挙クラスでは候補者陣営が独自に事前世論調査することが当たり前になってきている。それも定量調査を2度、3度とやって勢いや流れをつかむ。こうした科学的根拠に基づいた分析がないと、大きな選挙は戦いにくい。」(p165)
企業活動ではごくフツーになっていることである。
そして候補者のキャッチフレーズづくり。
「アメリカのプロは、なんといっても「キャッチコピー」づくりがすばらしい。有権者の心をグサッとつかむ。(略)日本でもたとえば嘉田滋賀県知事の『もったいない』、田中前長野県知事の『脱ダム宣言』。もちろん石原都知事の『東京再起動』も自慢したい」(p121)
次に戦い方、三浦氏は「熱伝導」という用語を使って極意を述べる。
「選挙は限りなく宗教に近いものだ。(略)有効なキャンペーングッズを配ることは欠かせない。そのうえで候補者の政治に対する熱い思いや姿勢を伝えることで、人々に熱伝導を与えていく」(p157)
「宗教だけではなく生命保険のセールスや日本では忌み嫌われるネットワークビジネスからも、学ぶべきことは多い。(略)熱伝導のやり方が生保と宗教はよく似ている。(略)一般社会のヒエラルキーと、選対や宗教団体のヒエラルキーはまったく違う。選対や宗教はその陣営内での業績評価で決められなければならず、それが組織としての強さにもつながる」(p159)
「私個人の気持ちとしては、そろそろ候補者には、ダルマや神棚といったアイテム以外に、工夫をこらしたアイテムを考える努力がほしいと思う。(略)無名の新人は、支持者に新鮮なイメージを植えつけるためにも、新鮮なアイデア・工夫が求められている。(略)たとえば選対事務所に大きな「寄せ書き」コーナーを設け、(略)参加意識を高め、「熱伝導」のアイテムの一つにする」(p64)
「弱いところを強くする考えはなかった。強いところを徹底的に強くする。分母が1万のところを10%増やしたら1000票増える。分母が300のところを5割増やしても150票にしかならない。でも一般論としては選対は弱いところを強くしたがる」(p214)
候補者本人の街頭演説については
「演説の極意は「カラオケ十八番」。自分の得意なものを自分の言葉で繰り返し話す。そばにいる選対幹部が「テーマを変えた方がいい」などと言ってきても頑として受け付けない」(p135)
インターネットの活用にも積極的である。
「ここ2~3年で選挙費用は100万円以上安くなっている。(略)インターネットや動画配信だって利用できる。(略)動画配信が本格化したら、ポスターや法定ビラはなくならないまでも急減するだろう。(略)「選挙は鞄」の時代は終わりつつあるのかもしれない」(p32)
たしかに論理的かつ実践的である。
これに対し、浅野選挙で勝手連として闘った前田氏の感想。
「浅野陣営では、勝手連の集会のたびに弁護士が出てきて、あれしちゃいけない、これしちゃいけないと教育的指導ばかりやる。(略)ある程度は自由にやらせないと活性化しない」(p219)
「これまでの負け戦の体験と違うのは、そもそも闘う体制がなかったことです。」(p218)「結局戦闘体制ができないまま、勝手連が勝手に散兵戦を戦ってしまったのです」(p220)
「はっきりいって「惨敗」。もっと票の取りようがあった。あきらかな戦術ミス。評価すべき点がないという声もある。」(p220)
引用しているだけで気分が滅入ってくる。何をしても自由だが、(事実上)選挙運動だけはできない勝手連とはいったいなんだったのだろうか。選挙を戦ったという実感がまったくわかなかった。
浅野選挙と対照的に、少しは戦略的に動いた(ようにみえ)、若い人が楽しそうに動いていた川田候補が当選したのは「むべなるかな」である。
☆三浦語録には「この国に革新系という層は団塊の世代を除いていない、ということを最近発見した。(略)いつのまにかわが国では、革新といえば中高年ということになってしまった」というものもある(p80)。革新とは何かという問題もあるが、日本の将来は明るいとはいえないようだ。
☆わたしは、なぜ投票権もない丸川珠代が川田や保坂より上位だったのかどうしてもわからなかった「日本人でよかった」というキャッチに、OLや主婦が賛同したのだろうと考えていた。ある会合でこの件を問うと「男はばかだからなあ」と言われたことがある。
本書に、仲井真弘多氏(67歳)と糸数慶子氏(59歳)の沖縄県知事選の際、「街頭で両候補の顔入りチラシを見せ、反応を調べた。すると、とくに若い層は、仲井真氏の方が評判が良いことがわかった。その主な理由を聞くと仲井真候補の娘さんとのツーショットをみて「この子がかわいいから」が多かった。(仲井真氏と腕を組む娘が頬を寄せるツーショット写真に「おとうさん がんばって!!」という吹き出しのついたチラシ)」という一節があった。沖縄でも東京でもやはり同じか。
三浦博史氏は1951年東京生まれ、故・椎名素夫代議士(岩手)の秘書、アメリカ留学を経て日本初の選挙プランナーとして200近くの選挙に関わる。2007年都知事選では石原慎太郎陣営の選挙参謀、参議院選挙では東京選挙区の丸川珠代陣営の選挙参謀を務める。
一方、前田和男氏は1947年東京生まれ、企画会社を経営し「一人電通」の異名をとる、2001年千葉県知事選(落選)、2003年の衆議院選大阪3区(当選)など数十の選挙に関わる。団塊世代を地方議会へ送るネットワーク・共同代表。本書は2人の分担執筆形式だが
「前田氏は相当厳しい選挙戦ばかりを体験されたらしい。私からも警察と選管対策を補足しておこう」
「三浦氏の『選挙は外見力』論を別の角度から、私の体験をまじえて補足したい」
というふうに、前項を受ける連歌のような構成になっている。
今年は12年に1度の選挙年である「亥年」、都知事選、区議選、参院選と選挙が続いた。私は惨敗した浅野選挙、辛勝した川田選挙に末端のボランティアとして選挙運動にかかわったので、そのときの体験から「なるほど」とうなずけることが多かった。
浅野選挙について「街頭行動では中高年が多かったなあ。若い層を大切にしない選挙、悪くいえば自己満足の選挙。若い人を取り込みたいのなら、ブログ対策やIT対策だって、もっとすればよかったのに」(p208)
「築地が本気で石原反対の声をあげたら、出入りの寿司屋や食堂から、口コミで反石原となり脅威になったかもしれない(略)それと「新銀行東京」問題。これも浅野サイドの攻撃はほとんどなく、拍子抜けでした。」(p213)
たしかになあ。
また勝利を確信した時期を問われ「公開討論とテレビ討論。両者に格の違いがありありと出て、確信しましたね」「最後の一週間はアクセルを踏んで、とにかく「浅野はダメ」の烙印で徹底して差をつけて叩き潰したいという方針で選対をクリア」とまで書いている。
三浦氏の科学的根拠に基づいた調査・戦略・戦術をプランニングして当選=勝利へと導く手法には納得する点が大きかった。
なお、前田和男氏分担分は、この本は2003年衆議院選で大阪3区から出馬して当選した弁護士・辻恵氏の選挙戦のドキュメンタリー『選挙参謀』(太田出版 2004年8月)と同類またはその延長線上のエピソードや話題が多い。
そこで、連戦連勝の三浦氏の分担分から「当選の極意」をいくつかピックアップする。
選挙はまず調査である。
「政令指定都市の市長選や知事選、国政選挙クラスでは候補者陣営が独自に事前世論調査することが当たり前になってきている。それも定量調査を2度、3度とやって勢いや流れをつかむ。こうした科学的根拠に基づいた分析がないと、大きな選挙は戦いにくい。」(p165)
企業活動ではごくフツーになっていることである。
そして候補者のキャッチフレーズづくり。
「アメリカのプロは、なんといっても「キャッチコピー」づくりがすばらしい。有権者の心をグサッとつかむ。(略)日本でもたとえば嘉田滋賀県知事の『もったいない』、田中前長野県知事の『脱ダム宣言』。もちろん石原都知事の『東京再起動』も自慢したい」(p121)
次に戦い方、三浦氏は「熱伝導」という用語を使って極意を述べる。
「選挙は限りなく宗教に近いものだ。(略)有効なキャンペーングッズを配ることは欠かせない。そのうえで候補者の政治に対する熱い思いや姿勢を伝えることで、人々に熱伝導を与えていく」(p157)
「宗教だけではなく生命保険のセールスや日本では忌み嫌われるネットワークビジネスからも、学ぶべきことは多い。(略)熱伝導のやり方が生保と宗教はよく似ている。(略)一般社会のヒエラルキーと、選対や宗教団体のヒエラルキーはまったく違う。選対や宗教はその陣営内での業績評価で決められなければならず、それが組織としての強さにもつながる」(p159)
「私個人の気持ちとしては、そろそろ候補者には、ダルマや神棚といったアイテム以外に、工夫をこらしたアイテムを考える努力がほしいと思う。(略)無名の新人は、支持者に新鮮なイメージを植えつけるためにも、新鮮なアイデア・工夫が求められている。(略)たとえば選対事務所に大きな「寄せ書き」コーナーを設け、(略)参加意識を高め、「熱伝導」のアイテムの一つにする」(p64)
「弱いところを強くする考えはなかった。強いところを徹底的に強くする。分母が1万のところを10%増やしたら1000票増える。分母が300のところを5割増やしても150票にしかならない。でも一般論としては選対は弱いところを強くしたがる」(p214)
候補者本人の街頭演説については
「演説の極意は「カラオケ十八番」。自分の得意なものを自分の言葉で繰り返し話す。そばにいる選対幹部が「テーマを変えた方がいい」などと言ってきても頑として受け付けない」(p135)
インターネットの活用にも積極的である。
「ここ2~3年で選挙費用は100万円以上安くなっている。(略)インターネットや動画配信だって利用できる。(略)動画配信が本格化したら、ポスターや法定ビラはなくならないまでも急減するだろう。(略)「選挙は鞄」の時代は終わりつつあるのかもしれない」(p32)
たしかに論理的かつ実践的である。
これに対し、浅野選挙で勝手連として闘った前田氏の感想。
「浅野陣営では、勝手連の集会のたびに弁護士が出てきて、あれしちゃいけない、これしちゃいけないと教育的指導ばかりやる。(略)ある程度は自由にやらせないと活性化しない」(p219)
「これまでの負け戦の体験と違うのは、そもそも闘う体制がなかったことです。」(p218)「結局戦闘体制ができないまま、勝手連が勝手に散兵戦を戦ってしまったのです」(p220)
「はっきりいって「惨敗」。もっと票の取りようがあった。あきらかな戦術ミス。評価すべき点がないという声もある。」(p220)
引用しているだけで気分が滅入ってくる。何をしても自由だが、(事実上)選挙運動だけはできない勝手連とはいったいなんだったのだろうか。選挙を戦ったという実感がまったくわかなかった。
浅野選挙と対照的に、少しは戦略的に動いた(ようにみえ)、若い人が楽しそうに動いていた川田候補が当選したのは「むべなるかな」である。
☆三浦語録には「この国に革新系という層は団塊の世代を除いていない、ということを最近発見した。(略)いつのまにかわが国では、革新といえば中高年ということになってしまった」というものもある(p80)。革新とは何かという問題もあるが、日本の将来は明るいとはいえないようだ。
☆わたしは、なぜ投票権もない丸川珠代が川田や保坂より上位だったのかどうしてもわからなかった「日本人でよかった」というキャッチに、OLや主婦が賛同したのだろうと考えていた。ある会合でこの件を問うと「男はばかだからなあ」と言われたことがある。
本書に、仲井真弘多氏(67歳)と糸数慶子氏(59歳)の沖縄県知事選の際、「街頭で両候補の顔入りチラシを見せ、反応を調べた。すると、とくに若い層は、仲井真氏の方が評判が良いことがわかった。その主な理由を聞くと仲井真候補の娘さんとのツーショットをみて「この子がかわいいから」が多かった。(仲井真氏と腕を組む娘が頬を寄せるツーショット写真に「おとうさん がんばって!!」という吹き出しのついたチラシ)」という一節があった。沖縄でも東京でもやはり同じか。
<丸川にOL、主婦が賛同>は的はずれでしょう。特に主婦は、出口調査の報道で「30~40代は川田へ」「(団塊の)50~60代前半は大河原へ」が大勢だった。