◎息を吐き切って世界を止める
シャイフ・アルアラウィーは、アルジェリアのスーフィの聖人。
『神を「想起する」ために、隔離された小部屋へ引きこもることは、多くの教団によって、スーフィー修行の中で最も主要なことだと見なされている。それは恒久的な内なる隠棲の状態に到達するための助けである。
山中の洞窟にこもった予言者ムハンマドの伝統にしたがい、教団によってはなお自然の中で孤独に引きこもることを奨励しているし、ハルワを行なうための特別な小部屋をもっている教団もある。シャイフ・アルアラウィーは、ハルワについて次のように述べている。
私は入門者を四〇日間、小部屋へ入れて、決してそこを離れないと誓わせる。この小部屋の中で、彼は昼も夜も、神名(アッラー)を一語一語、息が切れるまで「アー」という言葉をのばして唱える。
その前に入門者は、シャハーダ(ラー・イラーハ・イッラッ・ラーフ)を七五〇〇〇回唱えなければならない。
ハルワのあいだ、入門者は昼間は厳しい断食を行なわなければならない。断食を破るのは日没から夜明けまでだけである。スーフィーのうちある者は数分後に突然の照明を受けるし、ある者は数日後に、ある者は数週間後に照明を受ける。』
(スーフィー イスラムの神秘階梯/ラレ・バフティヤル/平凡社P112から引用)
まず75千回のマントラを唱えた後に、呼気を伴う発声を、照明(神の一瞥のことでしょう。神を見る)するまで繰り返す。
照明の到来のタイミングはその人による。同じメソッドを用いたから同じ結果が同じタイミングで出ないどころか、照明しない人もいる。これぞ冥想が科学になりえない原則である。息を吐き切って世界を止められるか。
これはたんなるマントラ・ヨーガでなく、呼気に比重をかけたところに特徴がある。これは苛酷な修行であるが、北アフリカ・中東の人々に最適と考えた指導者がいたのだろう。かといって、ヴィパッサナーのように呼吸を見つめるようなことはしない。