十勝といえば、やはり六花亭。
お菓子屋さんですが、地場産業として有力な企業。
もともとは札幌の千秋庵さんの十勝での別会社としてのスタートらしいのですが、
いまでは、堂々たる北海道を代表するような企業。
お菓子に文化性を盛り込んで、それを楽しませるような姿勢がすばらしい。
わたしが一番、感激したのは「ひとつなべ」というお菓子。
これは変哲もない、なべ状のモナカの中にあんが入っているお菓子なんです。
でも、そのネーミングに込められた物語がいい。
十勝は、晩成社という民間の開拓団が入植した地域なのですが、
国からの支援もなく、まさに自力更生のイバラの道だったそうです。
お金もなく、希望だけを持って北海道の大地に挑んだのですね。
そういうひとたちには、たくさんのお鍋を持参するゆとりがなかった。
で、開拓に必要な家畜もいっしょに連れて行った。
なべは、一家にひとつしかない。
しかたなく、ひとも家畜も「ひとつなべ」で食事を作って食べた。
そういうことを今でも忘れないように、という意味でお菓子に名付けた、
ということなんだそうです。
十勝のひとからこんな話を聞いたんですが、
ちょっとうつむき加減に話す、そういう語り口にも、
心打たれる部分が感じられて、素朴な風合いのお菓子に感動したのです。
で、やっぱり、そういう名付けのお菓子を作る企業姿勢に親近感を抱かされる。
その六花亭が運営しているのが、この写真の中札内美術村。
中札内の道の駅から5分ほどの場所にあります。
この美術村は、広大な柏の森の中に美術館が点在しています。
現在は4つの美術館と、食事のできるレストランなどがあります。
十勝でも大変好きなところで、何回か来ています。
今回は中谷有逸さんという地元の画家さんの風景画の一品に感動しました。
のですが、ここは一番ステキなのは
ゆったりとした柏の森を周遊しながら美術鑑賞する、という仕掛け。
「この森、美術館をわざとこんなところに作っているの、いいね」
というような坊主の感想でしたが、
やっぱりそういう部分は、誰にもわかりやすい。
背景としてのこの森は、美術品との出会いをさらに豊かに演出してくれる。
ちょうど、去年の枯れ葉が冬を越して残っている様子。
木でデザインされた小道も、脚にも目にもやさしくて
気持ちのいい時間を作り出してくれている。
六花亭では、この木の道をモチーフにしたチョコレート菓子も作っていました。
自分たち自身で、ブランドを作っていこうという姿勢に
いつもながら、畏敬の念を感じさせてくれます。