三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

【居室要件を満たさない、屋根裏空間の数寄】

2019年07月18日 05時48分17秒 | Weblog


上の2枚の写真で、あなたはどっちに「いごこちのよさ」を感じますか?
写真は伊礼智さん設計のつくばのバンガードハウス。
下はリビングダイニングの動線的な空間。
人間は生きていくために食べたり飲んだり,話したりという
家族とのコミュニケーション的活動を主に家で過ごしている。
しかし一方では、自分のふだんの緊張をほぐすような
内省的な過ごし方で、自分を癒すということもしたい。
動線的な空間というのは、おおむね定型化可能な
共通項が多く、そのデザインは自ずと決まってくる部分も多いでしょう。
家族数が決まってくれば、食卓の想定はほぼ決まり、
食事を作る機能空間も、おおむね基本というものに沿ってプランする。
だいたいが普遍的機能要因であり、
人間の空間感覚としてはいわば共通語の世界なのだと思います。

しかしわたしのようなへそ曲がり系の人間というのは、
そうではない個性的な空間、なにこれという上の写真のような
不思議な空間装置の方に惹かれてしまう。
この写真では、たぶんふだん「使う」という機能性では
やや難しさのある屋根裏空間に面白みを感じる。
この写真を見ると、正面奥の明かり取りの窓に向かって求心的に
壁と天井が引き絞られていて居間吹き抜けには天窓もあるし、
床はカーペット敷きになっている。
天井高さはたいへん変化に富んでいるので、かがんで動くしかない。
しかし床の色はいかにも「座れや」みたいな誘いをしてくれていると感じる。
気をつけてみると、この右手の壁は座った背もたれ的な
そういった高さを感じさせられるので、そこに姿勢を固定すると、
案外、天窓とか吹き抜けとかの空間装置から、
「広がり」感覚を感受できるのではないかと思わされる。
こういった空間を利用するとするとどう使うか?
当然、静止的な「沈思黙考」的な、瞑想空間というのが想起できる。
本を読んだり、情報を摂取するというような空間性としては
機能性を十分に満たしていると感じる。

考えてみると、住まいの中には、
こういったONとOFFというような空間が必要なのでしょう。
で、どちらかというと、こういった静止的空間の方に
その家の「個性」、住まい手の趣味生活ぶりは明瞭に出てくると思う。
わたし的には、少年期からこういう空間でマンガや本を読んで、
その仮想現実的な想像力の世界を楽しんでいた記憶が強くある。
非常に人間くさい空間性を感じ取ってしまう。
最近、家族数の減少に伴って、平屋の志向が高まっているけれど、
大体、こういう屋根裏的な空間の仕掛けがあるケースが多い。
家の中で、声はつながっているけれど、姿は明瞭ではない、あいまいな空間。
こういう「居室」要件を満たしていない空間の魅力が
どうも拡散してきているように感じています。
コメント
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