平成27(受)1036 損害賠償請求事件
平成28年10月18日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 名古屋高等裁判所
これは、何で弁護士会が出て来たのか分からない事件です。
判決文によると、弁護士が受任した詐欺事件がありました。結局、当事者同士で和解になったのですが、中々払って貰えないため強制執行をする事になりました。その手続きについて弁護士法23条の2に基づいてある会社の行方を捜すために、日本郵便に転居先を教えるように要求しました。ところが、日本郵便はそれは守秘義務であるとして、弁護士の要求を拒否しました。
それについて、弁護士会は日本郵便が法律に基づいた対応をしなかったとして、損害賠償を請求した事件です。
これについて、裁判所は弁護士法23条の2について以下のように判断しました。
23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。
この点についてはごもっともです。
弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。
23条によって弁護士は利益を得るものではないというものらしいですね。ふーんです。確かにプラスの利益にはなりませんが、少なくとも業務妨害のように思えますね。とはいうものの、
23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,
郵便局はちゃんと報告しろよというようです。
さて正当な理由というのはなんでしょうか。
この点、あるブログではこのように述べています。
かかる場合に,住民票を見りゃあいいじゃんという話はありますが,金を払わずにバックレる人が住民票なんか移しますかいな。
とは言え,そんな人でも郵便物がきちんと届かないと困りますから,郵便局に転居届は出す場合も多いわけです。なので,Aさんの代理人弁護士はそこに目を付けたわけです。
本気で逃げる奴は転居届すら出しませんがな。
裁判所は続けます。
転居届に係る情報は,信書の秘密ないし通信の秘密には該当しないものの,郵便法8条2項にいう「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当し,上告人はこれに関し守秘義務を負っている。この場合,23条照会に対する報告義務の趣旨からすれば上記報告義務に対して郵便法上の守秘義務が常に優先すると解すべき根拠はない。
郵便局は郵便法8条2項を盾にしたわけですね。誰が、誰に郵便物を送ったか、中身についても死ぬまで黙ってろという趣旨ですが、これって転居先を含むとしてませんよね。この辺りはどうなのかなという気がします。
引越をした人なら経験があると思いますが、郵便窓口で勝手に紙に書いて出すだけです。ネットでもできますが、問題はここです。誰がやってもOKで本人確認はないのです。これだけいい加減に扱っているのに守秘義務の対象なんでしょうか?なぜかその点は触れていません。
木内裁判官は以下のように述べます。
原審が,照会が実効性を持つ利益の侵害により無形損害が生ずることを認めるのは,23条照会に対する報告義務に実効性を持たせるためであると解される。しかし,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補塡して,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,
この辺は素晴らしく明確です。この論拠なら、依頼人が損害賠償を請求したら通ったかも知れませんね。弁護士は代理人ですから、損害賠償の対象外という事のようです。
もともと金だせ!という形式の訴えではありますが、郵便局の拒否は許さんという判決を得るための裁判でしょうから、これで良かったのかもしれません。
第三小法廷判決
裁判長裁判官 木内道祥
裁判官 岡部喜代子
裁判官 大谷剛彦
裁判官 大橋正春
裁判官 山崎敏充