平成27年(受)第1876号 不正競争防止法による差止等請求本訴,商標権侵害行為差止等請求
反訴事件 平成29年2月28日 第三小法廷判決
商標法第4条第1項第10号違反を理由とする登録商標の無効審判請求の除斥期間(5年)を経過した場合であっても、自己の商品等表示として周知の商標との関係では、同号に該当することを理由として、商標権違反の請求に対して権利濫用の抗弁を主張可能であるとの判決を下しました。商標法第47条の除斥期間経過後であっても、商標法第39条が準用する特許法第104条の3第1項の抗弁あるいは
権利濫用の抗弁を主張することができるかについては、かねてから議論のあるところでしたが、この度の最高裁判決により、前者は否定されるものの、後者の主張が可能であることが明示されました。
裁判所の事実関係を見ましょう
1 ある会社甲が、平成6年11月1日,A社との間で日本国内における独占的 な販売代理店契約を締結し,以後,被上告人使用商標を使用して本件湯沸器の販売 を行っている。
2 別の会社乙が平成14年頃,知人を介して本件湯沸 器の存在を知り,平成15年秋頃から被上告人との間で販売代理店契約の締結の交 渉を開始した。そして,上告人設立後の同年12月20日,上告人と被上告人との 間で販売代理店契約が締結された。
3 甲社と乙社との間に紛争が生じ,平成18年6月に提起され た上告人の被上告人に対する損害賠償請求訴訟において,平成19年5月25日, 上記アの販売代理店契約が同日現在において存在しないことの確認等を内容とする 訴訟上の和解が成立した。
4 乙社は、甲社に対して3の訴訟提起に先立つ平成17年1月25日,「エマ ックス」の文字を標準文字で横書きして成る商標につき,指定商品を商標法施行令 別表第11類「家庭用電気瞬間湯沸器,その他の家庭用電熱用品類」とする商標登 録出願をし,同出願につき,同年9月16日,商標権の設定登録がされた(登録第 4895484号。以下,この商標を「平成17年登録商標」という。)。
5 乙社は、平成22年3月23日,別紙記載の商標につき,指定商品を上記 アと同じくする商標登録出願をし,同出願につき,同年11月5日,商標権の設定 登録がされた(登録第5366316号。以下,この商標と平成17年登録商標を 併せて「本件各登録商標」といい,本件各登録商標に係る各商標権を「本件各商標 権」という。)。
何だか骨肉の争いになったようですね。アメリカのA社が持っているブランドを乙社が日本で独占的に使用できる権利を締結して、当時は仲間だった乙にも売らせてやるよという契約をしたようです。
ところが、何らかの問題があってそのブランドを使わせない事態になったようで、結局和解しましたが、腹の虫がおさまらない乙社は似たような商標を登録しました。
6 平成21年7月,甲社の乙社に対する不正競争防止法に基づく差止 等請求訴訟が提起され,その控訴審において,平成23年7月8日,上告人が「エ マックス」という商品名を使用しないことを誓約することなどを内容とする訴訟上 の和解が成立した。
しかし,乙社は,その後も,甲社の使用商標と同一の商標を使用して本件湯 沸器の販売を継続している。
これに対して甲社は、そっくりなものを出されたのではかなわない。不正競争防止法違反だと訴え、結局和解しましたが、乙社はまだ販売を続けたのです。
これについて最高裁は
(1)
不正競争防止法2条1項1号
甲社はこれまで日本全国で展示販売を行い、また業界新聞にもその商標を使ってきた事実があるが、それほど多額とは言えないとしました。
上告人代表者が知人を介して本件湯沸器の存在を知り被 上告人との間で販売代理店契約の締結の交渉を開始したことを考慮したとしても, これらの事情から直ちに,被上告人使用商標が日本国内の広範囲にわたって取引者 等の間に知られるようになったということはできない。
したがって,被上告人による本件湯沸器の具体的な販売状況等について十分に審 理することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに,被上告人使用商標が不正競 争防止法2条1項1号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たると して,上告人が被上告人使用商標と同一の商標を使用する行為につき同号該当性を 認めた原審の判断には,法令の適用を誤った違法があるというべきである。
(2)
商標法4条1項10号
平成17年登録商標については,商標 権の設定登録の日から,被上告人が本件訴訟において同号該当性の主張をした前記 2(5)の弁論準備手続期日までに,同号該当を理由とする商標登録の無効審判が請 求されないまま5年を経過している。
商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過し たときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するため に,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平成 15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決・裁判集民事217 号317頁参照)。
権利の上に眠るもの、これを保護せずの原則ですね。
商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求 されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登 録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相 手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登 録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標 であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利 の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当である。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
裁判官山崎敏充の補足意見
権利の濫用の有無は,当該事案に表れた諸般の事情を総合的に考慮して判断され るべきものであって,このことは,商標権の行使について権利の濫用の有無が争わ れる場合であっても異なるものではない。もっとも,商標権は,発明や著作などの 創作行為がなくても取得できる権利であることなどから,その行使が権利の濫用に 当たるとされた事例はこれまでに少なからずみられるところであり,こうした事例 の中から,権利の濫用と判断される場合をある程度類型化して捉えることは可能で あろう。法廷意見において,商標法4条1項10号に違反して商標登録がされた場 合に,その登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示す るものとしての同号の周知性を有している者に対して商標権を行使することにつ き,特段の事情がない限り権利の濫用に当たるとされているのも,権利の濫用と判 断される場合の一つの類型化された事例を示すものとして位置付けることができよ う。・・・中略・・・その2度目の訴訟では,上告人の商標使用行為が 不正競争防止法2条1項1号に該当する旨の第1審判決を経て,控訴審において, 上告人が「エマックス」という商品名を使用しないことを誓約する旨の訴訟上の和 解が成立している。このような上告人と被上告人との関係や過去における訴訟の経 緯等の事情は,上告人による商標権の行使が権利の濫用に当たるか否かを判断する について有意の関連を有するものであり,
そうですよね。和解しているのにまた何度も蒸し返して嫌がらせと思えるような販売を行っているので、あながち権利の乱用だと言い切るのはどうかと思います。
今回の裁判官 第三小法廷
裁判長裁判官 大橋正春
裁判官 岡部喜代子
裁判官 大谷剛彦
裁判官 木内道祥
裁判官 山崎敏充 すばらしい
商標権が争われた件で、5年も放置したのだからそれは暗に認めたのと同じだよね。それを今更言い出すのは権利の乱用とするのはどうなのかと。4年ならどうなのか、時効制度がないにもかかわらずこの論拠に行ってしまうのは若干乱暴な気がします。
しかし、まあよくここまで大暴れしたもんだと思います。