平成30(受)1961 損害賠償請求事件
令和2年12月22日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
株式の上場に当たり提出された有価証券届出書の財務計算に関する書類に係る部分に虚偽記載があった場合において当該株式の発行者と元引受契約を締結した金融商品取引業者の金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任につき同条2項3号による免責が否定された事例
時事通信の報道です。
上場廃止となった半導体製造装置メーカー「エフオーアイ」(破産)の粉飾決算で損失を受けたとして、元株主らが上場時の審査や株式販売の主幹事だったみずほ証券に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が22日、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)であった。小法廷は粉飾に関する同証券の調査が不十分で「免責を受けることはできない」として二審東京高裁判決を破棄し、損害額算定のため審理を同高裁に差し戻した。
産経新聞の報道です。
この日の弁論で株主側は、みずほ証券が「会計監査の信頼性の疑義を払拭するだけの調査をしておらず免責されない」と主張。みずほ証券側は、調査は実施しており「免責要件は満たされる」と述べた。
1審東京地裁は、粉飾を指摘する投書を受けて追加調査する義務があったのに不十分だったとして、みずほ証券に賠償責任があると判断、約3000万円の支払いを命じた。2審は「取引先への販売実績を調べるなどしており、通常求められる注意義務は尽くした」として1審判決を取り消した。
事実認定から見ていきます。
(1)ア 「エフオーアイ」は半導体製造装置メーカーである。
イ 本件会社の代表取締役及び取締役らのうち2名は,本件会社の平成16年3月期の決算が大幅な赤字となる見込みが生じたことから,富士通株式会社外1社に対する半導体製造装置の販売を仮装して約16億円の架空売上げを計上し,以後,継続して富士通等の国内企業並びに韓国及び台湾の企業に対する架空売上げの計上等を行うことにより,実際の売上高が数億円であるところを数十億円ないし百億円余であるとする粉飾決算を行うようになった。
三角の循環取引をやってしまいましたね。なお、専門用語として粉飾決算ではなく、
不正会計処理が正しいです。
ウ 本件会社の平成14年3月期以降の計算書類及び財務諸表についての監査を実施した公認会計士らは,売掛金の実在性について,売掛先に対して残高確認書を送付し,その返送を受けて確認していたところ,本件役員らは,上記粉飾決算を行うようになってからは,本件偽装取引先に協力者を確保し,本件会計士から送付された残高確認書を当該協力者から回収した上,当該残高確認書に偽造印を押捺して本件会計士に返送するなどしていた。
かなり悪質ですね。
(2)ア みずほ証券は,平成19年5月,本件会社との間で上場準備に関する助言提供業務に係る契約を締結し,同年8月,本件会社の主幹事会社として本件会社についての引受審査を開始した。
イ 多額の売掛金があるのは半導体製造装置のうち初号機の検収完了までに長期間を要するという業界の取引慣行のためであり,今後は改善することが見込まれるなどとの説明を受け,当該説明は合理的であると判断した。
ウ 上記担当者は,本件会計士の監査実績及び監査体制に問題がないことを確認したほか,本件会計士から,売掛金の実在性について,売掛先から残高確認書の返送を受けるとともに,平成18年3月期には売掛先のうち富士通を訪問して購買部門の責任者との面談を実施して確認していることなどを聴取した。
公認会計士が適正意見を出した以上、証券会社も信じますよね。
エ 上記担当者は,平成19年11月から12月にかけて,売掛先のうち本件会社から調査対象として提案を受けた富士通外1社を訪問し,担当者として応対した者と面談した。このうち,富士通における応対者は上記責任者と同一人であり,これらの応対者は,本件役員らからの依頼に基づき,これらの企業が本件会社から半導体製造装置を購入しているなどと虚偽の事実を述べた。
ありゃ!告発があったわけですね。
オ みずほ証券は,これらの審査の結果,本件会社の上場申請手続を進めることに問題はないものと判断した。
みずほ証券がどんな審査をしたのか興味がありますね。
(3)ア みずほ証券は,平成19年12月,東証マザーズへの上場申請を行い,みずほ証券は,株式会社東京証券取引所に対して主幹事会社として推薦書等を提出した。
イ 東証は,本件会社の上場承認予定日を平成20年2月18日と設定したが,同月14日,本件会社の粉飾決算を指摘し対処を求める内容の匿名の投書を受け取ったことから,当該上場承認予定日を延期した。
ウ みずほ証券は,その頃,上記投書とおおむね同じ内容の匿名の投書を受け取った。
2回も内部告発と東証にも告発があったわけです。
エ 被上告人の担当者は,第1投書の内容を把握した後,本件役員らに対し,直ちにその内容等を伝え,その後,第1投書は従業員又は元従業員が業務妨害の意図で作成したものであると思われる旨の説明を本件役員らから受け,その作成者を特定した上で従業員であれば処分を行うよう要請した。・・・被上告人の担当者は,本件会社から富士通の関係者に対するストックオプションの付与の事実がないことを確認した。
微妙ですね。何で当事者に聞いちゃったのでしょうか。公認会計士になんで聞かなかったのか。
オ 本件役員らは,同年4月,被上告人に対して第1投書の作成者は本件会社の内部監査室長を務める者であると思われる旨などを説明し,本件会社は,同月,社内体制の整備のためなどとして上記上場申請を取り下げた。
だんだん半沢直樹みたいになってきました。
(4)ア 被上告人は,平成20年5月,本件会社から再度の上場申請の意向を受け,その引受審査を再開した。
イ 被上告人は,審査の結果,本件会社の再度の上場申請手続を進めることに問題はないものと判断した。なお,被上告人の担当者は,第1投書の作成者であると思われる者は内部監査室から異動させており退職の予定である旨を本件役員らから聴取するなどしたため,上記の者との面談を行わなかった。
ウ 本件会社は,同年12月,東証マザーズへの再度の上場申請を行ったが,平成21年5月,当該上場申請を取り下げた。
1年でほとぼりが冷めるとでも思ったのでしょうか、申請再開し、また取り下げです。
(5)ア 被上告人は,平成21年6月,本件会社から3度目の上場申請の意向を受け,その引受審査を再開した。
エ 被上告人は,これらの審査の結果,本件会社の3度目の上場申請手続を進めることに問題はないものと判断した。
3度目の正直でまた上場の推薦書を出しました。
ウ 東証,被上告人及び本件会計士は,平成21年10月27日頃,第1投書とおおむね同じ内容の匿名の投書を受け取った。
エ 第2投書に記載されている規模の粉飾を行うことは相当の簿外資金が必要となるため現実的ではないと思われることなどを聴取した。なお,被上告人の担当者は,第2投書の作成者は第1投書の作成者と同一人であると考えたが,上記の作成者と考えられる者との面談等を行わなかった。
これだけしつこく何度も同じ内容の告発があればもっと慎重に調べても良かったのではないでしょうか。
オ 被上告人は,同年11月11日,本件会社等との間で元引受契約を締結し,同月19日,本件会社に対し,本件会社との間で元引受契約を締結した他の金融商品取引業者を代表して,新株発行の払込総額として約52億円を払い込んだ。上記金融商品取引業者は,本件各投書について知らされていなかった。
カ 本件会社は,同月20日,東証マザーズに上場した。
こういう投書があった旨告知義務はあるのでしょうか?ここで書く理由がよく分かりません。
(7) 本件会社は,平成22年5月,本件有価証券届出書の虚偽記載の事実を認める旨を公表し,同年6月,上場廃止となった。
何と半年で上場廃止ですか。一審では金融商品取引法の免責条項を認め、責任なしとしました。確かにこれでは納得できませんね。
(1) 金商法は,21条1項4号において,有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり,又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合に,当該有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対して上記の虚偽記載又は記載の欠缺により生じた損害の賠償責任を負う者として元引受業者を掲げ,同条2項3号において,元引受業者が同号に定める事項(免責事由)を証明したときは上記の損害賠償責任を負わないとしている。
法律系文章にありがちな悪文ですが、要するに公認会計士が問題ないと認めたのだから21条によって免責事項に該当する可能性があると言っています。
上記の金融商品取引業者等は,引受審査に際して上記監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接した場合には,当該疑義の内容等に応じて,上記監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行うことが求められているというべきであって,上記の場合に金融商品取引業者等が上記の調査確認を行うことなく元引受契約を締結したときは,同号による免責の前提を欠く・・・・財務計算部分に虚偽記載等がある場合に,元引受業者が引受審査に際して上記情報に接していたときには,当該元引受業者は,上記の調査確認を行ったものでなければ,金商法21条1項4号の損害賠償責任につき,同条2項3号による免責を受けることはできないと解するのが相当である。
つまり、何度も告発があったよね。その告発に基づいてきちんと調べてないじゃないかと言っています。
平成16年頃以降,売上高の急増,売上げの計上時期の偏り,売掛金期末残高の著しい増加,売上債権回転期間の顕著な長期化,営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスの連続計上等,売上高の粉飾の典型的な兆候といえる複数の事象が継続してみられる状況にあったこととよく符合するものであった。・・・当該財務諸表についての本件会計士による監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたものというべきである。
これは暗に公認会計士がまともな監査してないよねと言っているのと同じです。さらに、証券会社だったらこの位分かってて当たり前だよねと言っています。
イ 被上告人は,第1投書が本件役員らの主導により粉飾決算が行われている旨を指摘するものであったにもかかわらず,その内容を把握した後,本件役員らに対して直ちに上記内容を伝え,第1投書は本件会社の従業員等が業務妨害の意図で送付したものと思われる旨の説明を受けてその作成者の処分を求めるなど不適切な対応をしている。・・・ストックオプションの付与の事実がないことを確認しているものの,このことをもって本件各投書に信ぴょう性がないと直ちに評価し得るものではない。
この記述はごもっともとしか言いようがありません。容疑者に尋問して、「証人が嘘を言っているからあいつを処分する」と言わせたわけです。
裁判官全員一致の意見
裁判長裁判官 宮崎裕子
裁判官 戸倉三郎
裁判官 林 景一
裁判官 宇賀克也
裁判官 林 道晴
全員ごもっともです。
これは重過失というか、もはや酔っぱらい運転で死亡事故をやらかしたくらい酷い話です。
裏を考えると、主幹事で新規上場を仕切るとかなりいい感じで利益が得られるみたいです。2009年ぐらいの日経平均はかなり低い状態ですし、取引も1日10億株以下のどうしようもない頃だったので、貧すれば鈍する状態だったのかもしれません。プロとしては最悪ですね。