最高裁判所裁判官の暴走を許さない

最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院選挙の時の「ついでに」ならないようにしましょう。辞めさせるのは国民の権利です。

新証拠として提出された陳述書の内容に問題があるので再審はナシ

2018-03-31 16:14:49 | 日記
平成27(し)587  再審請求棄却決定に対する即時抗告の決定に対する特別抗告事件
平成29年12月25日  最高裁判所第一小法廷  決定  その他  大阪高等裁判所

(1)有限会社aの実質経営者であるAとび友人のBと共謀の上、同社の財産にする徴収職員からの滞納処分の執行を免れる目的で、真実はBに譲渡したた事実は
ない。
(2)平成17年5月頃から平成19年9月頃までの間,①4回にわたり,不動産賃貸借契約に関し同社が返還を受け得る賃借保証金債権をBに仮装譲渡し,②本件店舗の営業主体が同社からBに変更されたかのように装って,79回にわたり,クレジット会社の係員をして,aに帰属すべきクレジット売上金をB名義の口座に振込入金させ,もって,滞納処分の執行を免れる目的で財産を隠蔽した。
(3)B捜査段階供述の信用性を肯定し、共謀の事実を認定した上、請求人を懲役1年6月、3年間執行猶予に処した。
(4)Aは平成26年8月5日,無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとして,確定判決に対する再審を請求し,新証拠として,平成25年12月24日付けのAの陳述書等を提出した。
(5)供述の内容は、財産隠蔽のやり方を教えてくれたのは、請求人ではなく、aの顧問税理士であったCと述べた。


結果、無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとは到底認められないとして,再審請求を棄却する旨の決定(原々決定)をした。
巻き込まれた税理士さんは大変でしたね。客商売だから、こういう噂はあっという間に広がって契約解除もあったのではないでしょうか。

陳述書は公開されていませんが、裁判所は次のように評価しました。
ア A新供述は詳細なものであるが,新証人尋問におけるAの供述は,曖昧で覚えていないと述べるところが多い。
イ A新供述では,請求人を本件仮装譲渡の関与者と述べるに至った経緯について,財産隠蔽の方法を教えてくれたのは,C税理士であった・・・実刑を免れたいとの思いから,請求人の名前を出して虚偽供述をした旨述べられている。
ウ A新供述を維持したまま尋問が終了していることをもって,その信用性を肯定する事情とみることはできない。


結論は

A新供述等の新証拠が,請求人に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原判断には,刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず,その違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。

全員一致でした
裁判長裁判官 小池 裕
裁判官 池上政幸
裁判官 大谷直人
裁判官 木澤克之
裁判官 山口 厚

私もある裁判で見たことがありますが、結論に導くためにここまで書くか?という評価をする事があります。本件の供述書を読んでないので何とも言えません。
こういうことがあるから、メールの類や通信記録は残しておかないと、どう巻き込まれるか分かったもんじゃないという典型的な例ですね。

大阪地裁「北ミサイルの恐れ」での原発運転差し止め却下

2018-03-30 20:07:16 | 日記
読売新聞によると、
運転中の関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)を巡り、大阪地裁(森純子裁判長)は30日、北朝鮮から弾道ミサイル攻撃を受ける可能性があるとして、大阪府内の住民が「破壊措置命令」発令中の運転差し止めを求めた仮処分の申し立てを却下した。
 住民側は申し立てで、北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射を受け、政府が2016年8月以降、自衛隊に迎撃態勢をとらせる破壊措置命令を常時発令しているとして、「原発が狙われ、被害発生の恐れがあるのは明らかだ」と主張。一方、関電側は、「具体的な危険が差し迫っているとはいえない」と反論していた。


これは最高裁まで行きそうな気がしますね。
とはいうものの、原告は原子力発電所の構造を理解しているのでしょうか?休止中とはいえ、燃料棒を引き上げているだけで原子炉内に燃料は入ったままです。発熱が止まっているだけなんですよ。本当に何とかしたいなら、核燃料棒を完全に取り出して、地中奥深くにしまうしかないです。というかそんな場所は政治的に確保できませんし、国内に安定した地層なんかありませんから、実質的に無理です。
なので、この判決は当然でしょう。

私自身、原発には否定的見解を持っていまして、原告の言う感情的な部分は若干は同意します。
本当に危険分散をさせたいなら、政令指定都市に住まずに田舎に強制移住でもしない限り国民の生命財産は守れないでしょう。

裁判員裁判を否定するオウム裁判

2018-03-28 19:31:36 | 日記
平成28(あ)137  殺人未遂幇助被告事件
平成29年12月25日  最高裁判所第一小法廷  決定  棄却  東京高等裁判

殺人未遂幇助被告事件について,第1審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定できないとして事実誤認を理由に有罪の第1審判決を破棄し無罪とした原判決が是認された事例(東京都庁郵便小包爆発事件)

朝日新聞の報道です。
 オウム真理教が1995年に起こした東京都庁郵便小包爆発事件で、爆薬の原料を運んだとして殺人未遂幇助(ほうじょ)などの罪に問われた菊地直子・元信徒(46)の無罪が5日、確定した。最高裁第一小法廷(池上政幸裁判長)が昨年12月25日付の決定で、逆転無罪とした二審判決の結論を支持し、検察側の上告を棄却。検察、被告の双方が異議申し立てをしなかった。

東京新聞は若干違う見方をしています。
オウム真理教による一九九五年の東京都庁小包爆弾事件で、殺人未遂ほう助罪に問われ、二審で逆転無罪となった元信者菊地直子被告(46)の全面無罪が確定することになった。最高裁第一小法廷(池上政幸裁判長)は決定で、カルト集団が起こした事件という特殊な背景から、審理はより慎重に行われるべきだったと指摘。事件から十九年たって公判が始まったことで、関係者の記憶が薄らぎ、事実認定は困難だった。
 爆弾で指を失った被害者の元都職員内海正彰さん(66)は「長い年月が立証を阻んだと感じています。事件が風化していくことが残念です」とコメントを発表した。
 公判では、爆弾の原料となった薬品を運んだ菊地元信者に、犯行を手助けする認識があったかどうかが争点だった。
 第一小法廷は「元信者の認識は『何らかの危険な化合物が製造される』というあいまいな内容にとどまる。有罪とした一審判決には飛躍がある」と指摘。逆転無罪とした二審東京高裁判決の結論を維持した。
 裁判員裁判の一審判決について、第一小法廷は「合理性に看過できない問題がある」と批判。オウム真理教というカルト集団が起こした特殊な事件で、慎重な事実認定の積み重ねが必要だったにもかかわらず、プロの裁判官が裁判員に、判断の道筋を示せなかった点を問題視したといえる。
 教団の事件を長年取材してきたフリージャーナリストの江川紹子さんは「一般の感覚にはオウムだったらやりかねないとの先入観がある。裁判員が判断を誤らないよう、裁判官がしっかり説明したのか疑問だ」と指摘。信者に対するマインドコントロールなど、教団の特異な実態を理解した上で、結論を出すことが必要だったとの見方も示した。


確かに強烈な事件でしたからね。
裁判所の事実確認は、無茶苦茶ながいので省略します。徹底的に一審批判を繰り返しています。

第1審判決が前記ア①,②の間接事実を検討する際に摘示した間接事実の中には,被告人の直接的体験に基づく認識といった確実で動かし難い事実と,様々な事情を総合した結果得られた被告人の認識や認識可能性といった推論に基づく事実があるにもかかわらず,第1審判決は,数段階に分けて推論を重ねる過程で,個々の間接事実の推認力の根拠や程度について不明確なまま,上位の事実を推認しているところがある。また,同じ事実を別個の間接事実の推認に重複して評価するに当たり,不合理なものがあることを指摘できる。

間接事実の検討において,「薬品の量の多さに照らすと,井上らが,単に何らかの実験をするにとどまらず,何らかの化合物を大量に製造する意図であることも被告人は認識したと認められる」としているところ,実験にとどまらない化合物の大量製造ということからすれば,当時の状況下では井上らの目的は実際にその化合物を用いることしかないということになろうが,その推認された事実が同①の間接事実の推認にどのように反映されているかが明らかでなく,また,同②の間接事実との関係でどのように評価されているかについても曖昧である。


うーん、どうなんでしょうか。化学薬品が多くあれば、無害なものから有害なものも、爆薬も作れますからね。自分でも危険な者を運んでしまったという感覚があるから逃げていたのではないかという気がします。判決文だけからでは、その事実関係は正直分かりにくいので判断に困ります。

むしろこの判決の問題は、徹底して一審批判、つまり裁判員裁判を批判しています。

第1審判決の事実認定の不合理性を必ずしも具体的に指摘しないまま,証拠の信用性について第1審判決と異なる判断をしているなど,控訴審における事実誤認の審査の在り方という観点から見て,問題がないわけではない。イ しかし,原判決は,間接事実からの推論の過程が説得的でないなどとして,第1審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定することはできないとしたものであり,前記 のとおり,第1審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,控訴審において破棄を免れないものであったことに照らすと,第1審判決を破棄し,被告人に対し無罪の言渡しをした原判断は,結論において,これを是認することができる。

全員一致
裁判長裁判官 池上政幸
裁判官 大谷直人
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
裁判官 山口 厚

この裁判員裁判を否定するのは一体どういう事なんでしょうか。この裁判そのものよりも、裁判員裁判への態度の方が気になる裁判でした。

連れ去りではなくハーグ条約の対象外と判断

2018-03-27 20:04:45 | 日記
平成29(許)9  終局決定の変更決定に対する許可抗告事件
平成29年12月21日  最高裁判所第一小法廷  決定  棄却  大阪高等裁判所


国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づくXの申立てによりその子であるA,B,C及びDを米国に返還するよう命ずる終局決定が確定した場合において,次の(1)~(4)などの事情の下では,A及びBについては同法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず,C及びDについては同項4号の返還拒否事由があるものとして,上記決定の確定後の事情の変更によってこれを維持することが不当となるに至ったと認め,同法117条1項の規定によりこれを変更し,上記申立てを却下するのが相当である。
(1) 上記決定は,A及びBについては,同法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら,米国に返還することが子の利益に資すると認めて同項ただし書の規定を適用すべきものとし,C及びDについては,返還拒否事由があるとは認められないことなどを理由とするものであった。
(2) Xは,子らを適切に監護するための経済的基盤を欠いており,その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況にあったところ,上記決定の確定後,居住していた自宅を明け渡し,それ以降,子らのために安定した住居を確保することができなくなった結果,子らが米国に返還された場合のXによる監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化した。
(3) A及びBは,米国に返還されることを一貫して拒絶している。
(4) C及びDのみを米国に返還すると,密接な関係にある兄弟姉妹を日本と米国とに分離する結果を生ずる。

朝日新聞によると
子どもの引き渡しに関するハーグ条約に基づき、母が米国から連れ出した子を米国在住の父に返還するよう命じた裁判所の決定について、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は「父親側の養育環境が悪化し、事情が変わった」とし、返還を認めないとする決定をした。決定は21日付。
 同条約は原則、連れ去られた子は元の居住国へ返還すると定めている。ただ、返還で子が耐え難い状況に陥る危険などがあれば例外としている。今回はこの例外が適用された形だ。外務省によると、同条約に基づき裁判所の決定の変更を求めた初のケースだったという。
 決定によると、両親は子4人と米国で同居していたが2014年7月、母が当時6~11歳の4人を連れて日本に入国。父は日本の家裁に子の返還を申し立て、16年1月に米国への返還を命じる決定が確定した。
 その後、父は競売で自宅を明け渡すことになったため、母は「決定の確定後に事情が変わった」として、決定の変更を求めていた。
 第一小法廷は「確定後、安定した住まいを確保できなくなっており、返還は子の利益にならない」と判断した。

ちなみに、親による連れ去りは、アメリカでは一級誘拐罪になるそうです。
大方は朝日新聞に書いてありますが、詳細はこんな感じです。
・相手方は,抗告人から平成26年9月以降もしばらく日本にいるように言 われたため,抗告人の了承を得て本件子らを同一のインターナショナルスクールに 入学させた。

これは明らかに連れ去りではないですね。

・ 家庭裁判所調査官に対し,長男及び二男 は,米国に返還されることを強く拒絶する旨を述べ,長女及び三男も,米国に返還 されることに拒否的な意見を述べたほか,本件子らは,いずれも他の兄弟姉妹と離 れたくない旨を述べた。
・ 抗告人は,平成28年2月に相手方及び本件子らと居住していた米国の自 宅が競売されたため,同年8月頃,自宅を明け渡し,知人宅の一室を借りて住むよ うになった。
・ 執行官は,同月15日,長男及び二 男と抗告人との間で会話をさせたが,長男及び二男の意向に変化はなく,上記代替 執行については,執行を続けると長男及び二男の心身に有害な影響を及ぼすおそれ があることなどから,その目的を達することができないものとして,執行不能によ り終了させた(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律 による子の返還に関する事件の手続等に関する規則89条2号)。


国内であれば、経済状況が破たんしている、子供本人の意見で帰りたくないと言っている。子供には、その年齢から自分の意思を言うことができる。
問題は、連れ去った側の事が一切書かれていませんね。ここは外せない内容ではないでしょうか。

結論は全員一致でした。
変更前決定は,その確定後の事情の変更によってこれを維持するこ とが不当となるに至ったと認めるべきであるから,実施法117条1項の規定によ りこれを変更し,本件申立てを却下するのが相当である。

裁判官小池裕の補足意見は
子の利 益のためには子の監護に関する紛争を子の常居所地国において解決することが望ま しいという前提の下に,不法に連れ去られた子の迅速な返還を確保すること等を目 的としている。本件条約を受け,実施法27条は,同条に掲げる返還事由が存する 場合には子の返還を命じなければならないという原則を定めており,裁判所として は,子の利益を図るという観点から,この原則を強く尊重して迅速に対処しなけれ ばならない。

2 長男及び二男については,一貫して米国への返還を拒絶する意思を示してお り,実施法28条1項5号に該当する事由が存する。兄弟姉妹(きょうだい)との 分離を避けることは子の利益の観点から重要であるが,抗告人の監護養育態勢の不 備等に照らすと,長男及び二男について,その意思に反しても長女及び三男と共に 米国へ返還することが「子の利益」に資するとして,同項ただし書の規定により返 還を命じた変更前決定は,一審と結論を異にしていることに照らしても,判断の分 かれ得る限界的な事案についての裁量的な判断であったといえる。
3 本件は,子の返還拒絶の意思,監護養育態勢の評価と変化,兄弟姉妹の分離 の当否等の事情を考慮しつつ,本件条約の趣旨に沿って判断することを要する困難 な事案であったこともあり,各裁判所の判断が異なったものと思われる。本件条約 に関わる事例が次第に蓄積されつつあるが,裁判所としては,合目的的な裁量によ り後見的な作用を行うという非訟事件の性質を踏まえ,本件条約の趣旨,実施法の 規定の趣旨と構造を十分に考慮して,事案に即した法の適用や,事実の調査の在り 方等について工夫を図るなどして,適切な判断を迅速に示すよう努めていく必要が あると考える。

裁判長裁判官 山口 厚
裁判官 池上政幸
裁判官 大谷直人
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之

やり切れませんね。ここでは家裁の調査官の全文が出ていないのでなんとも言えませんが、片親引き離し症候群の可能性はなかったのでしょうか。連れ去った側が、もう片方についてでっち上げや嘘を言い続け、「あなた方の敵よ」と洗脳する行為です。それと、連れ去り側の経済的状況についても何も書かれていません。これは最高裁は事実関係を明らかにするところではなく、法の判断が妥当か否かしか判断しないところだとは言え、家事審判についてはそうもいかないでしょう。
平成27年8月に裁判開始、最高裁まで29年12月の2年ちょっと最高裁まで来たことは評価できますが、身の回りの離婚訴訟を見ると家裁で3年以上かかっているのがざらです。3年もいれば完全に引き離し症候群にすることは可能です。その点からすれば、今回の判決は画期的速さと言えるでしょう。
この件については、連れ去りではないし通常の別居であることからすると、妥当なのかもしれません。

しかし、国内法ではまだハーグ条約対応の法整備は全くない状態ですし、離婚裁判も子の利益を考えるならば3か月の集中で一審が終わるくらいにしてほしいですし、また親権については裁判員裁判をぜひともやっていただきたいと思います

入居者が死亡、改良住宅には遺族は居住権の相続はできない

2018-03-26 21:24:38 | 日記
平成29(受)491  居住確認等請求本訴,家屋明渡等請求反訴事件
平成29年12月21日  最高裁判所第一小法廷  判決  棄却  大阪高等裁判所


 改良住宅の入居者が死亡した場合において,その死亡時に当該入居者と同居していた者で,市長の承認を受けて同居している者等に限り,市長の承認を受けて引き続き当該改良住宅に居住することができる旨を定める京都市市営住宅条例(平成9年京都市条例第1号)24条1項は,住宅地区改良法29条1項,公営住宅法48条に違反し違法,無効であるとはいえない。

不動産関係者ならこれに関して何か書いているかと思いましたが、見つかりませんでした。

事実確認を見ていきます。
1 訴えた人は、京都市所有の改良建物に住んでいる。
2 住宅地区改良法2条6項の改良住宅である第1審判決別紙物件目録記載1の住 宅(以下「本件住宅」という。)を使用する権利(以下「使用権」という。)を上 告人の母であるAから承継したなどと主張して,被上告人に対し,本件住宅の使用 権及び賃料額の確認等を求めるよ。
という訴えです。

改良住宅というのは、国土交通省指定の対象地区内に存在する特定の住宅を地方自治体が買取り、新たな住宅に建て替えたのちに元の住人に低額にて貸与する物だそうです。

施行者は自治体で、国の補助を受けて建設された改良住宅の管理について必要な事 項を条例で定めるものだそうです。
平成9年京都市条例第1号 条例24条1項は,改良住宅の入居者が死亡した場合において,その死亡時に当該 入居者と同居していた者で,入居の承認に際して同居を認められていた者又は同居 の承認を受けて同居している者(以下,併せて「死亡時同居者」という。)は,市 長の承認を受けて,引き続き,当該改良住宅に居住することができる旨を定めてい る。

(1) 被上告人は,平成20年1月,Aに対し,法18条所定の改良住宅に入居 させるべき者に当たるとして,国の補助を受けて建設された本件住宅を賃貸して引 き渡した。
(2) 上告人は,平成22年5月頃からAを介護するため本件住宅に同居した が,京都市長に対し,本件条例に基づく同居の承認を申請しなかった。
(3) Aは,平成25年9月に死亡した。
(4) 上告人を含むAの相続人の間で,平成27年7月,上告人が本件住宅の使 用権を取得する旨の遺産分割協議が成立した。


これに対して原審は、公営住宅の入居者が死亡した場合には,その相続人が公営住宅を使用する権利を 当然に承継するものではないと解されるところ(最高裁平成2年(オ)第27号同 年10月18日第一小法廷判決・民集44巻7号1021頁)として、居住権の相続を認めませんでした。

これについて裁判所は
法の規定及びその趣旨に鑑みれば,改良住宅は,住宅 地区改良事業の施行に伴い住宅を失うことにより住宅に困窮した改良地区内の居住 者を対象として,建設されるものということができる。また,法は,公営住宅の入 居者が死亡した場合における使用権の承継について定めた公営住宅法27条6項を 準用していない。そうすると,改良住宅の法18条に基づく入居者が死亡した場合 における使用権の承継については,直ちに,住宅に困窮する低額所得者一般に対し て賃貸される公営住宅の場合と同様に解することはできないというべきである。

さらに
国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合に おける使用権の承継については,民法の相続の規定が当然に適用されるものと解す ることはできない。法の規定及びその趣旨に違反しない限りにおいて,法29条1項,
公営住宅法48条に基づき,改良住宅の管理について必要な事項として,条例で定めることが できるものと解される。


結論は
本件条例24条1項は,法の規定及びそ の趣旨に照らして不合理であるとは認められないから,法29条1項,公営住宅法 48条に違反し違法,無効であるということはできない。

全員一致
裁判長裁判官 大谷直人  その通り
裁判官 池上政幸 その通り
裁判官 小池 裕  その通り
裁判官 木澤克之 その通り
裁判官 山口 厚 その通り

そうですね。その通りだと思います。必要があれば再審査をして、継続的に使用できるかどうかを判断すべきだと思います。

トンデモ判決:村議会選挙議員失職地裁で判決出た直後に補欠選挙は認められる

2018-03-25 18:21:40 | 日記
平成29(行フ)3  執行停止決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成29年12月19日  最高裁判所第三小法廷  決定  破棄自判  札幌高等裁判所
 村議会の議員である者につき地方自治法92条の2の規定に該当する旨の決定がされ,その補欠選挙が行われた場合において,同選挙は上記決定の効力が停止された後に行われたものであったが,同選挙及び当選の効力に関し公職選挙法所定の期間内に異議の申出がされなかったという事実関係の下では,上記の者は,上記決定の取消判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできない。

毎日新聞の報道です。
留寿都村の元村議が村議会の失職決議の取り消しを求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は19日付で、元村議が本訴と併せて申し立てた処分の執行停止について認めた札幌地裁の決定を取り消した。札幌地裁の決定は元村議の失職に伴う補欠選挙があった投票日の3日前にあり、補選はそのまま実施されたが、小法廷は元村議が補選について異議を申し立てていなかったことから「補選の効力は争えず、村議の地位は回復できない」と結論付けた。
 小法廷決定などによると、元村議の山下茂氏(61)は昨年7月、地方自治法の兼業禁止規定に抵触するとして村議会で議決を受け失職した。山下氏は議決の取り消しを求めて札幌地裁に提訴。緊急時に裁判所が行政処分の効力を止められる「執行停止」も申し立てた。補欠選挙は村長選と合わせて今年3月21日告示され、同26日を投開票日としたが、地裁は同23日に申し立てを認めて失職の効力を停止した。高裁も5月に支持し、村側が最高裁に抗告していた。


地裁で失職の効力が停止された直後に補欠選挙が行われたのが問題のようです。たしかに、最高裁まで持って行けるのに、選挙管理委員会のフライングの感じが否めません。自治体にも顧問弁護士がいる時代ですが、何か言わなかったのでしょうか。

では事実確認です。
(1) 相手方は,平成27年4月26日に行われた留寿都村議会議員選挙において当選し,同議会の議員となったが,同議会は,同28年7月14日,本件決定をし,これにより相手方は上記議員の職を失ったものとされた。

法律ニュース部によると、留寿都村の山下茂元村議会議員は、自分の経営する建設会社が村から請け負った仕事の割合をめぐって去年、議会の決定で失職。山下元議員は、この決定の取り消しを求めて出訴した。そして、この取消訴訟(本訴)を併せて、失職の効力停止(執行停止)を申し立てており、本件最高裁決定はこの申立てに対するもの。

(2) 相手方は,本件決定に不服があるとして,北海道知事に審査を申し立てたが,これを棄却する旨の裁決を受けた。そこで,相手方は,平成28年11月16日,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,さらに,同29年3月3日,これを本案として,本件決定の効力を本案の判決の確定まで停止することを求める本件申立てをした。
(3) 留寿都村選挙管理委員会は,相手方が留寿都村議会の議員の職を失ったことに伴う補欠選挙(以下「本件補欠選挙」という。)について,平成29年3月21日,その選挙期日を同月26日とすることを告示したところ,原々審は,同期日に先立つ同月23日,本件決定の効力を本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで停止する旨の決定(原々決定)をした。しかし,本件補欠選挙は,同月26日にその投票及び開票が行われ,相手方以外の者が当選した。
(4) 本件補欠選挙及び上記当選の効力に関し,公職選挙法202条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。


相手方は,原々決定により,本件補欠選挙の投票及び開票がされる前に留寿都村議会の議員の地位を暫定的に回復していたのであり,同選挙について公職選挙法所定の異議の申出の期間が経過しても,相手方が上記地位を喪失することはない。そして,同議会の議員としての職務の遂行が制限されることによって相手方が受ける不利益は,その性質上,金銭賠償によって容易に回復し得ないものであるから,そのような重大な損害を避けるため本件決定の効力を停止する緊急の必要がある。

と原原審では判断しましたが、最高裁では
(1) 公職選挙法に定める選挙又は当選の効力は,同法所定の争訟の結果無効となる場合のほか,原則として当然無効となるものではない。・・・したがって,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできないというべきである。
(2) 相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって,本件決定の時から上記のとおり留寿都村議会の議員の地位を回復することができなくなった時までの間における議員報酬を請求し得ることとなるから,相手方が本件決定の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきであるが(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照),現時点において,相手方はもはや上記議員の地位を回復することができない以上,本件決定の効力の停止を求める利益はないものといわざるを得ない。
・・・したがって,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできないというべきである。


確かに訴えの内容に沿って判断しなければならないのは分かりますが、何とも歯切れの悪い印象です。

続けて裁判所は、
留寿都村議会の議員の地位を回復することができなくなった時までの間における議員報酬を請求し得ることとなるから,相手方が本件決定の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきであるが(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照),現時点において,相手方はもはや上記議員の地位を回復することができない以上,本件決定の効力の停止を求める利益はないものといわざるを得ない。

いや、金寄越せという話ではなく、選挙管理委員会の不法行為が問題だと言ってるのだと思いますが。

裁判官岡部喜代子の反対意見
平成28年7月14日になされた本件決定により留寿都村議会議員の職を失った。しかし,相手方は,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,これを本案とする執行停止の申立てをしたところ,平成29年3月23日に本件決定の効力を停止する旨の決定がなされた。これにより,本件決定の効力は存在しない状態となり,相手方の同村議会議員としての地位は回復することとなった。同村選挙管理委員会は,同村議会に欠員が生じたことに伴う本件補欠選挙を同月26日に行ったのであるが,上記のとおり本件決定の効力が停止されたことにより,相手方の同村議会議員としての地位は回復していたのであるから,本件補欠選挙の当時,同村議会に欠員は存在せず,したがって本件補欠選挙は実施することができないものであったことになる。
このように,実施する根拠を欠く選挙は本来実施すべきではなかったのであるから,その効力は否定されるべき

筋が通ってますね。私もこの意見に賛成です。選挙委員会も山下議員も上訴する機会を奪われたのであり、重大な法令違反ですよね。にも拘わらず、やらかしてしまったことを追認するのはどうなのよと思います。

裁判官木内道祥の反対意見
国会議員の資格争訟については,憲法55条裁判所法3条1項にいう「日本国憲法に特別の定のある場合」に該当し,裁判所で争うことはできないが,地方議員の資格争訟については,そのような憲法上の定めは存しない。
したがって,相手方が本件決定の違法を争い司法の判断を受ける機会は必ず確保されなければならない。


その通りです。
(1) 多数意見は,選挙又は当選の効力に関する異議の申出や訴訟(以下,併せて「選挙争訟等」という。)を行うこと以外の方法では,その効力を争うことはできないとするが,そうすると,相手方が本件決定の違法をどこで主張し,判断を受けることができるのかが問題となる。・・・相手方が選挙争訟等を提起しても,本件決定の違法についての判断を得ることはできないのである。
(2)選挙争訟等を提起して当該選挙が無効である旨の判断を得るという手続を経ることを求めることは,既に本件決定の取消訴訟を提起している相手方に無用な負担を命じるものであるというほかない。原々決定により,その決定以降においては議員の欠員の存在が否定されたにもかかわらず,本件補欠選挙が実施されたのであるから,本件決定を取り消す旨の判決が確定して本件決定が遡及的にその効力を失った場合と同様に,先行処分である本件決定が効力を失った状態で行われた本件補欠選挙については,無効と解するべきである。
(3)原々決定の取消しを待つまでもなく,本件補欠選挙の効力の確定により相手方の議員資格の喪失が確定するというのであれば,本件補欠選挙の当選の効力発生の時点から,選挙争訟等がなされればその結果の確定までの間,異議申出がなかったとしても異議申出期間が経過するまで(本件においては平成29年4月9日まで)の間,一つの議員資格に2人の議員が存在することになる。
相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって議員の地位を回復することができると解するべきである。


これは行政訴訟ですからね、民事みたいなやったもん勝ちの問題とは違い、きちんとやってもらいたいところですが、多数派はどうもグダグダの印象です。


第三小法廷
裁判長裁判官 岡部喜代子 非常によい
裁判官 木内道祥 非常によい
裁判官 山崎敏充 ダメ
裁判官 戸倉三郎 ダメ
裁判官 林 景一 ダメ

信義則にもとる民事再生計画は無効

2018-03-24 19:03:49 | 日記
平成29(許)19  再生計画認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
平成29年12月19日  最高裁判所第三小法廷  決定  棄却  東京高等裁判所

これも新聞報道では出ていません。
事実関係を見ていきます。

(1) 税理士である抗告人は,平成25年2月,顧客である相手方から債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起された。
(2) 抗告人は,平成25年12月,その所有する土地建物について,抗告人の実弟であるAの抗告人に対する平成11年10月10日付け金銭消費貸借契約に基づく2000万円の貸付債権(以下「本件貸付債権」という。)を被担保債権とする抵当権を設定した旨の仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した。上記土地建物には,同土地建物についての住宅ローン債権(以下「本件住宅ローン債権」という。)を被担保債権とする順位1番の抵当権が設定され


銀行ローンで家を買って、仮登記したようですね。

(3) 別件訴訟の控訴審において,平成28年4月,抗告人に対し,相手方に約1160万円及び遅延損害金を支払うよう命ずる判決が言い渡され,同判決はその頃確定した(以下,同判決によって確定した損害賠償債権を「本件損害賠償債権」という。)。
(4) 抗告人は,平成28年8月26日,本件仮登記の抹消登記を経由した。
(5) 抗告人は,平成28年9月7日,東京地方裁判所に対し,本件再生手続に係る再生手続開始の申立てをし,同月20日,再生手続開始の決定を受けた。再生債権の額又は担保不足見込額の合計が約4027万円となる債権が記載されていた。
(6) 相手方は,債権届出期間内に,再生債権の額を約1345万円として本件損害賠償債権の届出をした。Aは,上記届出期間内に本件貸付債権の届出及びこれを有しない旨の届出をせず,法225条により,上記債権者一覧表の記載内容と同一の内容で再生債権の届出をしたものとみなされた。


再生のために財産を残しておいてくれと、申請したようです。

(7) 本件貸付債権及び本件損害賠償債権について一般異議申述期間を経過するまでに抗告人及び届出再生債権者から異議が述べられなかったことから,A及び相手方は,法230条8項により,届出再生債権の額に応じてそれぞれ議決権を行使することができることとされた。
(8) 抗告人は,平成28年12月19日,再生裁判所に対し,本件住宅ローン債権につき住宅資金特別条項を定めた上で,本件住宅ローン債権を除く再生債権につき90%の免除を受け,これを分割返済する旨の再生計画案(以下「本件再生計画案」という。)を提出した。
(9) 再生裁判所は,平成28年12月27日,本件再生計画案を決議に付する決定をし,相手方のみが同裁判所が定めた期間内に本件再生計画案に同意しない旨の回答をした。本件再生計画案は,同意しない旨を回答した議決権者の数が議決権者総数の半数に満たず,かつ,当該議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないとして,法230条6項により可決されたものとみなされた。


90%値引きが計画が強制的にみなされてしまいました。こういう再生や破産関係については、全員が納得するような解決案はあり得ないのである程度は仕方ありません。私も15万円が50円で泣かされた経験があります。会場に行くガソリン代すら出ませんでした。

(10) 原々審は,平成29年1月19日,上記(9)のとおり本件再生計画案が可決された再生計画(以下「本件再生計画」という。)につき認可の決定(原々決定)をした。相手方は,原々決定に対し,即時抗告をした。
(11) 抗告人は,原審において本件貸付債権の裏付けとなる資料の提出を求められたが,借用証や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出しなかった。


そりゃそうですよ。税理士なのに証拠書類すら出さないで再生手続きなんて冗談じゃないという気持ちはよく分かります。高裁では、意図的に債権者一覧表に記載するなどの信義則に反する行為により本件再生計画案を可決させた疑いが存するとして審議やり直しをさせました。当然ですね。

最高裁での争点は、無意義債権であるがそもそも信義則違反の状態では無効になるべきではないかという主張です。

最高裁は
小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当である。

更にこんな事情があったようです。

小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生債権の存否を含め,当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当である。


納得です。この税理士は、とんでもないキャラのようですね。
この判断は当然でしょう。

木内裁判官は補足を述べています。
(1) 手続内確定の意味
債権届出(みなし届出も含む),異議申述,評価という手続が設けられており,基準債権(議決権を含む)はその手続によって定まり,それ以上の不服申立手続が設けられていないことをいうにすぎない。抗告人の信義則に反する行為による再生計画案の可決という不認可事由を主張することの可否についてまで,その効力を及ぼすものではない。
(2) 再生計画取消しの事由との関係
再生計画の取消しによって再生計画によって変更された債権は原状に復する(法189条7項)のであるから,再生計画の取消しは「後れてなされた再生計画の不認可」ということができる。
(3) 破産手続との関係
実質は,債務免除の不正取得である。この場合に再生計画不認可の決定をすることは,債務免除の不正取得を許容しないということであり,その趣旨は,破産手続における免責不許可の決定と共通のものである。


ここで敢えて書くべき内容ですかね。またやり直しになるわけですが、そのときの手続きをどうするかは下級審に任されるわけで、ここで最高裁判事が釘をさすところなんでしょうか。

裁判長裁判官 林 景一
裁判官 岡部喜代子
裁判官 木内道祥 今一つ
裁判官 山崎敏充
裁判官 戸倉三郎

放火殺人事件、放火罪に殺人分も判断できる

2018-03-23 19:36:13 | 日記
平成28(あ)190  現住建造物等放火被告事件
平成29年12月19日  最高裁判所第三小法廷  決定  棄却  東京高等裁判所

 現住建造物等放火罪に該当する行為により生じた人の死傷結果を,その法定刑の枠内で,量刑上考慮することは許される。

ニュースでは出てきてません。この事件だったようです。

裁判所の事実確認を見ます。
1 本件公訴事実の要旨は,被告人は,平成23年12月29日午前4時38分頃,埼玉県大里郡寄居町所在の2名が現に住居に使用し,かつ,同人らが現にいる居宅(木造トタン葺平屋建,床面積約115.03㎡)に延焼し得ることを認識しながら,上記居宅に隣接した作業場建物の軒下に積み上げられていた段ボールに,ライターで着火して火を放ち,その火を上記居宅に燃え移らせて全焼させたというものである。
2 居宅に居住していた2名が逃げ切れず一酸化炭素中毒により死亡したことをも考慮し,被告人を懲役13年に処した。
3 被告は,現住建造物等放火罪の訴因にも罪となるべき事実にも記載されていない死亡の結果を量刑上考慮したことは,不告不理の原則に反する旨主張する。


結論として
放火罪は,火力によって不特定又は多数の者の生命,身体及び財産に対する危険を惹起することを内容とする罪であり,人の死傷結果は,それ自体犯罪の構成要件要素とはされていない。
現住建造物等放火罪に該当する行為により生じた人の死傷結果を,その法定刑の枠内で,量刑上考慮することは許されるというべきである。
本件においては,放火により焼損した居宅内にいた2名が一酸化炭素中毒により死亡しており,これを本件の量刑事情として考慮した第1審判決を是認した原判決に所論のいうような違法はない。



今回の判決は、放火罪の中にその火事で死んだ人の分の罪の償いは含まれるべきかが争われたようですが、過去の判例にでこの点は争われなかったのでしょうか。結論から言えば、現住建造物等放火罪の法定刑は死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役と規定されており、現行法上殺人罪(刑法199条)と全く同等の法定刑を有する重罪とされているので、どっちだって結論は同じになります。まあ、法律家は結論はどうであれ、手続きが正しければとんでもない結果になっても構わないので、裁判になったのでしょう。

法律オタクのための裁判と言っても良いものでした。

第三小法廷 全員一致
裁判長裁判官 木内道祥
裁判官 岡部喜代子
裁判官 山崎敏充
裁判官 戸倉三郎
裁判官 林 景一

刑期そのものもで見ると家を丸焼けにして、2人も殺しておいて、延焼の危険もあったのにたった13年というのはどうなんでしょうか。量刑相場に振り回され過ぎていませんか?

払わないので給料差押え、その後和解したのに破産。和解は破産法の否認の対象外

2018-03-22 08:53:20 | 日記
平成28(受)1797  否認権行使請求事件
平成29年12月19日  最高裁判所第三小法廷  判決  その他  東京高等裁判所

 債権差押命令の送達を受けた第三債務者が,差押債権につき差押債務者に対して弁済をし,差押債権者に対して更に弁済をした後,差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合,後者の弁済は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならない。


事実確認を見ます。
1 ある人Aが商品の代金の払わなかったので、平成22年4月これを認容する債権差押命令が本件会社に送達された。しかし,本件会社は,その後も,Aに対し,その給料債権の全額の弁済をした。
2 会社は平成25年10月頃,Aの給料債権のうち本件差押命令により差し押さえられた部分(以下「本件差押部分」という。)の支払を求める支払督促を申し立てた。
3 平成26年2月,本件会社が上告人に対し本件差押部分の弁済として141万8905円を支払うことなどを内容とする和解が成立し,本件会社は,同年3月,上告人に対し,これを支払った(以下,この支払を「本件支払2」という。)。


これねぇ、日本の司法制度の糞な部分が出てますね。払えないのではなく払わないのに、売った側は事実上値引き、さらに裁判費用弁護士代もかかっていますから、大赤字になりますね。これに応じないとどうしようもなくなっています。日本の司法だとは民事はやったもん勝ちになっていますので、その典型的な事例でしょう。

4 Aは、平成26年12月,破産手続開始の決定を受け,被上告人が破産管財人に選任された。

ああ、逃げられちゃいましたね。売る時点できちんと支払い能力があるかどうか、逃げる人かどうか見極めないとだめですが、それにしても売る側に負担が多すぎます。

そこで、破産法162条1項1号イの規定により否認権を行使して,Aに対し,167万8905円及び法定利息の支払を求めた。
要するに、物を売ったはいいが代金を払わないため給料を差押えしたけど、まともに払ってもらえなかった。しょうがないので、大幅値引きしてやるから残金を払えとしたのに、それでも払わず破産されてしまい取れなくなった。冗談じゃないと破産の対象外として訴えました。

これに対して裁判所は以下のように述べます。
(1) 破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」とは,破産者の意思に基づく行為のみならず,執行力のある債務名義に基づいてされた行為であっても,破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものであれば,これに含まれると解すべきである。
上記の場合,第三債務者が差押債権者に対してした弁済は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないと解するのが相当である。
(2)Aに対し,その給料債権のうち本件支払1に係る部分を除いた全額の弁済をし,これによりAの給料債権が消滅した後,更に差押債権者である上告人に対して本件支払2をしたものであるから,本件支払2は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないというべきである。

全員一致
第三小法廷

裁判長裁判官 岡部喜代子 今一つ
裁判官 木内道祥 今一つ
裁判官 山崎敏充 今一つ
裁判官 戸倉三郎 今一つ
裁判官 林 景一 今一つ

さて、払えない者からとろうと言って取れないのは仕方ないですが、破産直前に和解してますよね。僅か10ヶ月で破産とはおかしくないですか?破産宣告した裁判所もちゃんと調査したのでしょうか。ふざけるなと言いたくなる気持ちがよく分かります。
この事例は、差し戻しで事実確認をしっかりしろでいいと思います。

地裁:生活保護打ち切りで慰謝料賠償命令

2018-03-21 08:42:47 | 日記
津地裁で不思議な賠償命令が出ました。
当時61歳の男性で2014年から生活保護受給が決まりましたが、市役所の窓口が求職活動をしなさいと指示したのに、それをしなかったという理由で2016年に保護が停止されました。
この男性はそれを不服として、精神的苦痛を受けたとして賠償請求の裁判を起こしました。男性の代理人弁護士が抗議。1カ月後、手続きに不十分な点があったとして処分を取り消した。

これは単純な市の手続きミスなのか、それとも新たな解釈が含まれているのか、よく分かりませんが。

時事通信の報道では
 生活保護を受給していた三重県四日市市の男性(65)が、保護を打ち切る廃止処分により精神的苦痛を受けたとして市に賠償を求めた訴訟の判決が20日までに、津地裁であった。岡田治裁判長は請求を一部認め、市に慰謝料5万円の支払いを命じた。判決は15日付。
 判決は、廃止処分を通知した文書に処分の具体的理由が記載されていなかった点について、違法と判断した。弁護団によると、詳しい理由を示さずに保護を打ち切るケースは各地で相次いでいるという。
 判決によると、市は2014年に男性の生活保護を決定したが、「指導・指示に従わないため」として、具体的理由を示さないまま16年3月に保護廃止処分を決めた。
 判決で岡田裁判長は、月に2社以上の企業面接を受けることなどを求めた市の指示に男性が違反していたものの、「程度が悪質だったとは言えない」と指摘。保護の停止より重い廃止処分を選択する場合について、「原因となった事実関係を具体的に記載することが求められる」との判断を示した。
 

日経新聞中日新聞の報道ではこんな感じです。
しかし、5万円の慰謝料は高くないですか?

心神喪失により他害をした精神病患者の強制入院は合憲

2018-03-17 18:29:10 | 日記
平成29(医へ)16  医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定に対する抗告棄却決定に対する再抗告事件
平成29年12月18日  最高裁判所第三小法廷  決定  棄却  東京高等裁判所

憲法14条,憲法22条1項,憲法31条,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律1条1項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律11条1項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律24条,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律25条2項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律30条,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律31条3項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律31条6項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律32条2項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律35条,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律39条1項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律39条3項,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律42条1項1号,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律42条1項2号,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律50条,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律55条,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律64条2項

具体的な事件の概要は、精神疾患の患者による行為のせいか、明らかにされていません。日経新聞でもかなりあいまいに書いてあり、どの法律について争われたかしか書かれていません。

殺人や放火といった重大事件を起こし、心神喪失などの理由で刑事責任を問われなかった人に対して、入院や通院を命じる「心神喪失者等医療観察法」は、憲法に反するかどうかが争われた裁判で、最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)は合憲との初判断を示した。18日付の決定。
 適用された対象者側が「憲法が保障する法の下の平等や、居住、移転の自由などを侵害している」と主張していた。第3小法廷は「法律の目的は正当だ。規定の必要性や合理性、手続きの内容などからみれば、憲法に反しない」と判断した。
 医療観察法は2005年7月に施行された。検察から申し立てを受けた裁判所が審判を開き、治療の必要性を判断する。裁判官と医師が、入院や通院の必要があると判断すれば指定医療機関で治療を受ける。退院の可否も、裁判所が病院や本人の申し立てに基づき決める。
 第3小法廷は「適切な医療を確保して再発防止を図り、社会復帰を促進するという法律の目的は正当だ」とし、入院などの処遇も必要で、要件は合理的と指摘。手続きについても、弁護士の付添人制度があり、プライバシーなども確保されており「適正かつ合理的だ」と判断した。


これはあくまでも想像ですが、精神疾患おそらく統合失調か双極性障害でしょう。その患者が誰かに切りかかったか首を絞めたか、少なくとも誰かに重篤な危害を加えたのでしょう。警察に逮捕され検察の取り調べを受けましたが、何を言っているのか分からない、脈絡のない話で精神科に見てもらったところ心神喪失状態にあるということで精神科に入院させたのでしょう。
ところが、その入院は憲法違反の法律に基づいて、強制入院は不当であるとして訴えたようです。

これについて裁判所は、

憲法31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであるが,当該手続が刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当でなく,その保障の在り方については,刑事手続との差異を考慮し,当該手続の性質等に応じて個別に考えるべきものであるところ,上記のとおり,医療観察法においては,その性質等に応じた手続保障が十分なされているものと認められる。
以上のような医療観察法の目的の正当性,同法の規定する処遇及びその要件の必要性,合理性,相当性,手続保障の内容等に鑑みれば,医療観察法による処遇制度は,憲法14条,22条1項に違反するものではなく,憲法31条の法意に反するものということもできないと解するのが相当である。


全員一致でした。
第三小法廷
裁判長裁判官 山崎敏充
裁判官 岡部喜代子
裁判官 木内道祥
裁判官 戸倉三郎
裁判官 林 景一


当たり前すぎる判決でした。むしろ棄却してもいいくらいの件です。
実際精神障害者の被害にあったことがある人は、その恐怖はPTSDになりかねませんし、実害は実際のところなんの救済もありません。民事裁判を起こしても、保護者も支払える能力がない場合がほとんどで、裁判をやるだけ無駄になります。少なくとも次の犠牲者が出る前に隔離するすべが必要です。
法律の趣旨では社会復帰を目指すために入院とありますが、この趣旨むしろ犠牲者を出さないためとして欲しい位です。
おそらく検察が裁判に持ち込んだとしても、刑法39条により、事実上無罪になってしまいます。これを嫌がって、検察は送検しないことが99%らしいのです。
これが今回の裁判を呼び起こす原因ではないでしょうか。少なくとも検察は精神疾患による心神喪失を認定する権限は与えられていません。あくまでも医者です。そしてその当時、本当に心神喪失であったか否かは裁判で決めるべき話であって、検察が勝手に決める話ではありません。
原告には、むしろ裁判を受ける権利を奪われたとして訴えて惜しかったくらいです。

法曹であっても人の子とはいいますが

2018-03-16 10:36:02 | 日記
弁護士、検事、裁判官であっても人の子なので、何かやらかすことはあるとしても、このレベルは・・・と思います。

神戸地検検事を逮捕
勤務先の女子トイレに侵入し盗撮しようとしたとして、神戸地検は15日、建造物侵入と兵庫県迷惑防止条例違反の疑いで、神戸地検の検事平木伸佳容疑者(46)=大阪市淀川区=を逮捕した。地検は認否を明らかにしていない。
 逮捕容疑は昨年9月19日と今年2月6日、兵庫県姫路市の神戸地検姫路支部別館の女子トイレに侵入し、個室内の女性に対して撮影する目的でスマートフォンなどを向けた疑い。


別件ですが、
東京地検エリート検事「児童ポルノで停職2ヵ月」は甘すぎでは
東京地方検察庁公安部検事の菅井健二(44歳)が、児童ポルノ禁止法違反で罰金50万円の略式命令を受けていたのだ。菅井は今年4月中旬に児童ポルノのDVDを12枚購入し、都内の自宅で所持していた。
東京地検は9月22日付で菅井を停職2ヵ月の懲戒処分とし、菅井は依願退職した。


通常一般企業であれば、十分懲戒免職退職金なしです。
逮捕、起訴する権限を持つ立場の人がこの手の犯罪を犯すというのは、当然懲戒免職でしょう。法務省さん、身内に甘すぎませんか?

不動産は担保留置権となりえる

2018-03-15 19:58:03 | 日記
平成29(受)675  建物明渡等請求事件
平成29年12月14日  最高裁判所第一小法廷  判決  棄却  大阪高等裁判所


1 生コンクリートの製造等を目的とする会社Aが、土地を持っていた。
2 その土地を、運送会社Bに賃貸していた。
3 平成26年5月,Aからの解除に より終了した。
4 BはAに対し,上告人 との間の運送委託契約によって生じた弁済期にある運送委託料債権を有している。
5 Bは,この土地について,上記運送委託料債権を被担保債権 とする商法521条の留置権が成立すると主張した。他に同条が定める「物」を民法における 「物」と別異に解すべき根拠は見当たらない。

要するに、Aが代金を払うまでBが土地を使うのを認めろというものです。担保留置権は物に対して行うもので、土地は物になるのか?が論点になったようです。

民法は,同法における「物」を有体物である不動産及び 動産と定めた上(85条
86条1項,2項),留置権の目的物を「物」と定め (295条1項),不動産をその目的物から除外していない。一方,商法521条は,同条の留置権の目的物を「物又は有価証券」と定め,不動産をその目的物から 除外することをうかがわせる文言はない。

不動産を対象とする商人間の取引が広く行われている実情からす ると,不動産が同条の留置権の目的物となり得ると解することは,上記の趣旨にか なうものである。 以上によれば,不動産は,商法521条が商人間の留置権の目的物として定める 「物」に当たると解するのが相当である。

第一小法廷 裁判官全員一致
裁判長裁判官 小池 裕
裁判官 池上政幸
裁判官 大谷直人
裁判官 木澤克之
裁判官 山口 厚

確かに不動産売買をしている会社にとっては、これは物ですよね。不動産を特別扱いする理由が見当たりません。

外国弁護士が日本の法律を知らなかったことを理由に主張はできない

2018-03-14 19:49:57 | 日記
平成28(許)43  仲裁判断取消申立て棄却決定に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
平成29年12月12日  最高裁判所第三小法廷  決定  破棄差戻  大阪高等裁判所


1 仲裁人が当事者に対して仲裁法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある」事実が生ずる可能性があることを抽象的に述べたことは,同項にいう「既に開示した」ことに当たらない。
2 仲裁人が,当事者に対して仲裁法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある」事実を開示しなかったことについて,同項所定の開示すべき義務に違反したというためには,仲裁手続が終了するまでの間に,仲裁人が当該事実を認識していたか,仲裁人が合理的な範囲の調査を行うことによって当該事実が通常判明し得たことが必要である。

事実関係
1 平成14年10月,三洋電機は米国法人にエアコンを売買契約を締結した。
2 平成16年4月にシンガポールの子会社に権利を譲渡した。
3 平成23年4月,三洋電機はパナソニックの完全子会社になった。
4 抗告人らは,相手方らを被申立人として,平成23年6月,JCAAに対 し,本件売買契約等につき,抗告人らには契約上の義務違反がない旨を宣言する等 の仲裁判断を求めて,本件仲裁事件に係る仲裁手続の開始を申し立てた。
5 本件仲裁事件の仲裁人として,平成23年9月20日までに,Aほか2名 が選任された。Aは,のシンガポールオフィスに所属する弁護士である。 Aは,同日付けで,「K&Sの弁護士は,将来,本件仲裁事件に関係性はないけ れどもクライアントの利益が本件仲裁事件の当事者及び/又はその関連会社と利益 相反する案件において,当該クライアントに助言し又はクライアントを代理する可 能性があります。また,K&Sの弁護士は,将来,本件仲裁事件に関係しない案件 において,本件仲裁事件の当事者及び/又はその関連会社に助言し又はそれらを代 理する可能性があります。」との記載のある表明書(以下「本件表明書」とい う。)を作成し,これをJCAAに提出した。
6 弁護士であるBは,Aが本件仲裁事件の仲裁人に選任された時点ではK& Sに所属していなかったが,遅くとも平成25年2月20日以降,K&Sのサンフ ランシスコオフィスに所属している。
7 Aほか2名の仲裁人の合議体である仲裁廷は,平成26年8月11日,本 件仲裁判断をした。
8 アメリカの訴訟代理人を務めている事実(以下「本件事実」という。)を開示し なかった。
9  原審は,本件事実が法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを 生じさせるおそれのある」事実(以下「法18条4項の事実」という。)であると した上で,要旨次のとおり判断して,本件仲裁判断を取り消した。


ちなみに仲裁法18条は
第十八条 当事者は、仲裁人に次に掲げる事由があるときは、当該仲裁人を忌避することができる。
4 仲裁人は、仲裁手続の進行中、当事者に対し、自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(既に開示したものを除く。)の全部を遅滞なく開示しなければならない。

これは、弁護士法にも倫理規則にも来れに似た条文があります。当然、アメリカにもあるでしょう。

裁判所は、
Aは仲裁法の18条4項を知らなかったので、開示しなかった。しかし、仲裁人は,法18条4項の事実を知らなかったというだけで,当事者に対 してこれを開示すべき義務を負わないとはいえず,手間をかけずに知ることができる事実について開示のために調査すべき義務を負うべきである。
仲裁人が当事者に対して法18条4項の事実が生ずる可能性がある ことを抽象的に述べたことは,同項にいう「既に開示した」ことには当たらないと 解するのが相当である。
さらに
仲裁人が,当事者に対して法18条4項の事実を開示しなかったこ とについて,同項所定の開示すべき義務に違反したというためには,仲裁手続が終 了するまでの間に,仲裁人が当該事実を認識していたか,仲裁人が合理的な範囲の 調査を行うことによって当該事実が通常判明し得たことが必要であると解するのが 相当である。

Aが本件事実を開示すべき義務に違反したものとした原審の上記 3(2)の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。


高裁に差し戻しとなりました。
外国弁護士とはいえ、日本企業を相手に裁判をするときに、日本の法律を知らなかったでは許されないでしょう。
これは弁護士懲戒に該当する事案です。当然の判決です。

裁判長裁判官 戸倉三郎
裁判官 岡部喜代子
裁判官 木内道祥
裁判官 山崎敏充
裁判官 林 景一

TVのブラウン管国際カルテル:海外で談合しても有罪

2018-03-06 19:09:31 | 日記
平成28(行ヒ)233  審決取消請求事件
平成29年12月12日  最高裁判所第三小法廷  判決  棄却  東京高等裁判所

1 我が国のテレビ製造販売業者の日本国外に所在する子会社等に対するテレビ用ブラウン管の販売価格についてテレビ用ブラウン管の製造販売業を営む事業者らが行ったカルテルが日本国外で合意されたものである場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,当該カルテルは我が国の自由競争経済秩序を侵害するものであり,これを行った事業者に対し,我が国の独占禁止法の課徴金納付命令に関する規定の適用がある。
(1) 我が国のテレビ製造販売業者は,自社及びその子会社等が行うブラウン管テレビの製造販売業を統括し,日本国外に所在するブラウン管テレビの製造を行う子会社等に対して製造等を指示し,これに従って当該子会社等が製造したブラウン管テレビの全部又は相当部分を自社又は子会社等において購入した上で販売していた。
(2) 我が国のテレビ製造販売業者は,上記(1)のとおりブラウン管テレビの製造販売業を行う一環として,その基幹部品であるブラウン管の購入先,購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定し,その購入を日本国外に所在するブラウン管テレビの製造を行う子会社等に指示し,当該子会社等に当該カルテルを行った事業者らからブラウン管を購入させていた。
(3) 我が国のテレビ製造販売業者は,当該カルテルを行った事業者らとの間で,テレビ用ブラウン管の取引条件に係る交渉を自ら直接行っていたところ,当該カルテルは,その交渉において上記事業者らが提示する販売価格を拘束するものであった。
2 我が国のテレビ製造販売業者の日本国外に所在する子会社等に対するテレビ用ブラウン管の販売価格についてテレビ用ブラウン管の製造販売業を営む事業者らが行ったカルテルが日本国外で合意されたものであり,当該カルテルの対象であるテレビ用ブラウン管が当該事業者らにより当該子会社等に販売され日本国外で引渡しがされた場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,当該ブラウン管の売上額は,独占禁止法7条の2第1項所定の当該商品の売上額に当たる。
(1) 我が国のテレビ製造販売業者は,自社及びその子会社等が行うブラウン管テレビの製造販売業を統括し,日本国外に所在するブラウン管テレビの製造を行う子会社等に対して製造等を指示し,これに従って当該子会社等が製造したブラウン管テレビの全部又は相当部分を自社又は子会社等において購入した上で販売していた。
(2) 我が国のテレビ製造販売業者は,上記(1)のとおりブラウン管テレビの製造販売業を行う一環として,その基幹部品であるブラウン管の購入先,購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定し,その購入を日本国外に所在するブラウン管テレビの製造を行う子会社等に指示し,当該子会社等に当該カルテルを行った事業者らからブラウン管を購入させていた。
(3) 我が国のテレビ製造販売業者は,当該カルテルを行った事業者らとの間で,テレビ用ブラウン管の取引条件に係る交渉を自ら直接行っていたところ,当該カルテルは,その交渉において上記事業者らが提示する販売価格を拘束するものであった


事件概要については、一般ニュースでは流れなかったようですが、産業界では大きな事件として捉えられたようです。報道1報道2がありますが、コピー制限がかかっているのと、登録しないと前文が読めないものでした。

事実認定から見ましょう。

1 サムスンSDIの子会社(マレーシアに本店)、MT映像ディスプレイ(我が国に本店を置く事業者)、中華映管(台湾に本店を置く事業者)、LGフィリップス・ディスプレイズ(韓国に本店)、タイCRT(タイ)が関連しており、サムスンSDIが上告した。
2 オリオン電機,三洋電機,シャープ,日本ビクター及び船井電機はH19年までブラウン管TVを作っていたが、海外生産であった。
3 現地生産子会社が、1の会社から買っていた。
4 1の会社は、ブラウン管製造事業者と間で、価格や数量を一括して交渉していた。
5 1の会社は海外で生産し、国内外で販売していた。
6 カルテルは国外でブラウン管の販売価格の最低目標価格等を設定する旨合意した。
7 平成15年から同19年までにおける現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,上告人ほか7社からの購入額の合計の割合は約83.5%であった。
8 平成22年2月12日、上告人の現地製造子課徴金13億7362万円を納付することを命じる本件課徴金納付命令を発した。


論点は、国外に所在する現地製造子会社等であること等から、本件は我が国の独禁法の適用対象となるのか。

裁判所は
1 独禁法は,国外で行われた行為についての適用の有無及び範囲に関する具体的な定めを置いていないが,同法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,>国外で合意されたカルテルであっても,それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には,同法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当である。・・・独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいうものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。そうすると,本件のような価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても,当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど,価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には,当該カルテルは,我が国の自由競争経済秩序を侵害するものということができる。

趣旨は同意するのですが、捜査権はどうなるんでしょう。よほど条約か何か結んでいない限り、証拠を収集することは難しいのではないかと思います。証拠が十分に集まっているのであればこの判断は妥当と考えますが・・・今後同様の事件はどうやって立証するのでしょう。

結論として、
本件合意は,日本国外で合意されたものではあるものの,我が国の自由競争経済秩序を侵害するものといえるから,本件合意を行った上告人に対し,我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当である。


裁判長裁判官 戸倉三郎
裁判官 岡部喜代子
裁判官 木内道祥
裁判官 山崎敏充
裁判官 林 景一