最高裁判所裁判官の暴走を許さない

最高裁判所裁判官の国民審査は、衆議院選挙の時の「ついでに」ならないようにしましょう。辞めさせるのは国民の権利です。

デイサービスの送迎車から転げ落ちたのは交通事故か?

2016-03-29 07:08:13 | 日記
平成27年(受)第1384号 保険金請求本訴,不当利得返還請求反訴事件
平成28年3月4日 第二小法廷判決


 老人デイサービスセンターの利用者が当該センターの送迎車から降車し着地する際に負傷したという事故が,当該送迎車に係る自動車保険契約の搭乗者傷害特約における当該送迎車の運行に起因するものとはいえないとされた事例

Aさんが老人デイサービスセンターのデイケアを受けていました。送迎バスで移動していたのですが、降りようとしたときに転んで怪我をして後遺症が残りました。入院通院費用を自動車保険で支払いを求め、一度支払ったも分について返還を要求した事件です。

まず事実認定ですが、「本件特約においては,本件車両の運行に起因する事故により,その搭乗者が身体に傷害を被り,入通院した場合に入通院保険金を支払い,また,上記傷害の結果,当該搭乗者に本件特約の定める後遺障害が生じた場合に後遺障害保険金を支払う旨が定められている。」とあります。「本件車両の運行に起因する事故により」とは実に微妙な表現ですね。
Aさんは,平成22年11月当時83歳で骨粗しょう症であり,身長が約115㎝で,円背があり、と明らかに歩行に障害がありそうです。
ところが、介護職員は降車時に踏み台を使用しなかったのです。

他にも事実認定はありますが、基本的にこの2点に尽きると思います。
そして、判決理由です。
上記の事実関係によれば,本件事故は,Aが本件センターの職員の介助により本件車両から降車した際に生じたものであるところ,本件において,上記職員が降車場所として危険な場所に本件車両を停車したといった事情はない。また,Aが本件車両から降車する際は,上記のとおり,通常踏み台を置いて安全に着地するように本件センターの職員がAを介助し,その踏み台を使用させる方法をとっていたが,今回も本件センターの職員による介助を受けて降車しており,本件車両の危険が現実化しないような一般的な措置がされており,その結果,Aが着地の際につまずいて転倒したり,足をくじいたり,足腰に想定外の強い衝撃を受けるなどの出来事はなかった。そうすると,本件事故は,本件車両の運行が本来的に有する危険が顕在化したものであるということはできないので,本件事故が本件車両の運行に起因するものとはいえない。

まあそうでしょう。車両を動かしている最中に起きた事故ではないし、また車両そのものの欠陥による事故ではないですね。むしろ、裁判所が認めたようにデイケアセンターの作業ミスでしょう。これは当然の判断んでしょうね。

第二小法廷
裁判長裁判官 山本庸幸
裁判官 千葉勝美
裁判官 小貫芳信
裁判官 鬼丸かおる

「本件車両の運行に起因」とは、介護施設側の立場であれば車にかかわっていれば全てとなるでしょうね。しかし、保険会社はなぜ一度でも保険金を払ったのか、よく分かりません。

和歌山地裁 反捕鯨理由に博物館入館拒否、太地町に賠償命令

2016-03-26 08:48:22 | 日記
シーシェパードによる捕鯨への嫌がらせは世界的に有名ですが、自然保護団体と称するメンバーが捕鯨博物館に入管拒否をされました。それに対して、拒否された人が捕鯨博物館を訴えた裁判ですが、何と11万円の損害賠償を認めたというものです。
読売新聞の報道では

捕鯨に反対していることを理由に和歌山県太地町立くじらの博物館への入館を拒否され、精神的苦痛を受けたなどとして、オーストラリア人女性(31)が町に335万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、和歌山地裁であり、橋本真一裁判長は訴えの一部を認め、町に11万円を支払うよう命じた。
 訴状などによると、自然保護団体メンバーの女性は2014年2月9日、同館の入場券を購入しようとして、職員から「捕鯨反対の方は博物館には入館できません」などと記載されたプラカードをみせられ、入館を拒否されたと主張。思想・信条の自由を保障した憲法に反するとして同年5月に提訴した。
 これに対し、町は、女性らがこの数日前に、「観光目的」と偽って同館を訪れ、ビデオ撮影などの取材活動をしたとして、他の来館者の迷惑になるおそれがあったため、入館を拒否したと反論していた。


和歌山放送の報道では
判決後の記者会見で、ルーカスさんは、「捕鯨について色々な意見があるのは当然のことで、今回の判決を評価します。近々、再び博物館を訪れてイルカの健康状態を確認したい」と話しました。
また、代理人の高野隆(たかの・たかし)弁護士は、「思想・信条の自由の侵害や外国人に対する差別が端的な表現で認められなかった点は不十分だが、完全な勝訴だ」と話しました。


産経新聞の報道では
これに対し、町側は「以前に『観光目的』として入館したが、館内で撮影を始めたため注意していた。他の入館者の迷惑になるおそれがあると考え、入館を拒否した」と反論し、請求棄却を求めていた。


地裁の判決なので判決文が出ていませんが、明らかにおかしいでしょう。外国人差別と絡めるのは明らかに異常な行動であり、これは因縁をつけてきたとしか言いようがありません。反捕鯨団体で、ビデオカメラとプラカードを持って入場しようとしたのであり、博物館の趣旨を真っ向から否定する行動です。撮影に関しても制限がある博物館はごく当たり前で、それを防止する行為は正当な業務執行であり、いくら町営の博物館で公共用地とは言え、破壊活動防止のために入場制限は当然です。

福岡地裁:刑務所で受刑者自殺、国に3500万円賠償命じる

2016-03-24 10:12:44 | 日記
TBSの報道によると、

福岡刑務所で3年前に自殺した男性受刑者の遺族が国に賠償を求めていた訴訟で、23日、福岡地裁は国の過失を認め、およそ3500万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
 3年前、福岡刑務所で首をつって自殺した男性受刑者は、精神疾患があり、自殺の前日には、面会した母親に対し、自殺をほのめかしていました。男性の母親は、「刑務所側の措置が不十分だった」として、国に対し、およそ6300万円の賠償を求めていました。
 23日の判決で福岡地裁の山口浩司裁判長は、「具体的な予見性があったのに異常行動を漫然と見落としている」として、国におよそ3500万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
 福岡刑務所は、「判決の内容を精査し、適切に対応したい」とコメントしています。
(24日05:06)


産経新聞の報道では
山口浩司裁判長は判決で「当日の職員との面談で、男性に幻覚や抑鬱(よくうつ)症状がみられた。自殺の危険性は相当高まっていた」と指摘。「監視カメラ付きの独居房にいた男性が自殺を図る体勢を繰り返していたのに、職員は漫然と見落とした」と判断した。その上で、自殺に使う危険のあるタオルの使用を制限したり、監視を強固にしたりするなどの対策を怠ったとした。
 判決によると、男性は覚せい剤取締法違反罪で有罪となり、服役中の25年4月に自殺未遂をした。男性は医師に鬱症状を訴えたため、刑務所は同年5月、監視カメラ付きの独居房に移したが、2時間後、タオルとパジャマのズボンをつなげて首をつり、自殺した。



地裁ですので、判決は公開されていません。どの法律を根拠にして損害賠償を請求しているのか分かりませんが、一般的な感覚からして少なくとも3500万円の賠償は高すぎませんか?殆ど傷害致死事件の賠償金に近いものがあります。
刑務所はどこまで受刑者の健康管理をする義務があるのでしょうか?刑務官は医者でもなければ、カウンセラーでもありません。タオルの使用を制限したところで、パジャマを取り上げるのは難しいでしょう。
なんか釈然としない判決ですね。国家賠償の請求事件ですから、最高裁まで行くことになるでしょう。注目したい裁判です。

取締役解任の臨時株主総会の無効の訴え

2016-03-17 22:32:27 | 日記
平成27年(受)第1431号 株主総会決議取消請求事件
平成28年3月4日 第二小法廷判決



平成26年5 月26日に開催された被上告人の臨時株主総会における上告人らを取締役から解任 する旨の議案を否決する株主総会決議が開かれ、解任されました。解任された取締役は会社法854条所定の役員の解任の訴えが不適法であるとして訴えました。

それは、株主総会の開かれ方がおかしいという主張のようです。
会社法828条においては、問題があれば3か月以内であれば無効を訴えることができるとしています。会社法(同法834条から839条までに、その無効の訴えができる内容が列挙できます。
本件で言うと、取締役解任の案件はその中に書かれていません。
そこで裁判所は、訴えの資格なしとして退けました。

ちなみに
834条は株主の権利に関するもの、835条は管轄裁判所に関するもの、836条は会社の組織に関する訴え、837条は同一の請求を目的とする会社の組織に関する訴えに関するもの、838条は無効の訴えは第三者に対しても有効である事、839条は第三者に対して将来も無効になるものです。
強いて言えば836条の会社の組織に関するもの、すなわち取締役や監査役の人事に関するものですが、第2項で「前項の規定は、会社の組織に関する訴えであって、債権者が提起することができるものについて準用する。」となっています。
千葉勝美裁判官が付帯意見を出していますが、意見を出すまでもなく訴えは出来なさそうですね。今回は順当な結果でした。

第二小法廷
今回の裁判官
裁判長裁判官 山本庸幸
裁判官 千葉勝美
裁判官 小貫芳信
裁判官 鬼丸かおる

しかし、この解任につながった事件は一体何だったのでしょうか。別な手段で訴えることはできなかったのかと思います。

分割して合併して・・・は、赤字の繰り延べになる?

2016-03-09 20:17:39 | 日記
平成27(行ヒ)177  法人税更正処分等取消請求事件
平成28年2月29日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却  東京高等裁判所

 1 法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の意義及びその該当性の判断方法
2 新設分割により設立された分割承継法人の発行済株式全部を分割法人が譲渡する計画を前提としてされた当該分割が,法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるとされた事例
3 法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「その法人の行為又は計算」の意義


税法関係は、実に分かりにくいです。
H21年にb社が分割になり新会社が誕生しました。法人税法2条12項の2「分割法人 分割によりその有する資産及び負債の移転を行つた法人をいう。」として出発させました。法62条の8第1項の資産調整勘定の金額が生じました。現物出資で分割して作った会社に、負債をどの位負わせるかで調整が必要になりました。
そのとき四谷税務署長は、これに待ったをかけました。根拠法は法人税法132条の2です。

会社分割当時、国内法人A社の取締役dとcがいました。
i社は、情報通信企業を営んでおり、その株はa社が42.1%、アメリカの会社が34.9%、そのほかが23.0%保有していました。
A社は平成17年2月,英国の企業から,b社の発行済株式の全部買い取りました。
b社には,平成14年3月期(平成13年4月1日から同14年3月31日までの事業年度。以下,他の事業年度も同様に表記する。)から平成18年3月期まで欠損金が発生しました。欠損金は5年間繰り越して利益と相殺できますが、6年目には相殺ができず利益になってしまいます
b社は,平成20年3月頃,同社の営むデータセンターに係る設備投資資金の調達とa社への財務面の寄与を目的として,b社を分割して新設会社の株式を公開するなどの案を検討したが,a社の担当部署は,この案ではb社の未処理欠損金額の全てを損金算入等により処理することができないと見込まれることなどから,これに代わる案として,同年10月頃までに,事業譲渡による案と分社化による案を作成しました。
dは,平成20年10月中旬,b社に関する上記の各案について報告を受け,b社をa社の他の子会社ではなくa社は,同年11月21日,i社に対し,書面により,i社がb社を700億円で買収することなどで組織再編成を行う提案となりました。
こうやって、合併の「のれん」として償却資産に切り替えた・・・と続きます。

これについて、裁判官は次のように述べています。
同条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは,法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっては,①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で,当該行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

確かにそう思われても仕方ないでしょう。ご存知のようにサーバーの類はどこの国にあっても構いません。極端な話、外国にミラーサーバーを置いておけば、国内で100%仕事をしても問題なく、かつそのサーバーもレンタルサーバーであっても構わないのです。しかも、取締役が分割、合併両方にかかわっていたとなれば、租税回避と見做されても仕方ないでしょう。
それに、分割して赤字企業として分離して、後日合併して「のれん」として償却できるようにするのは、大企業だけが可能な租税回避策ですから、さすがにまずいでしょうね。

今回の裁判官
第二小法廷
裁判長裁判官 小貫芳信
裁判官 千葉勝美
裁判官 鬼丸かおる
裁判官 山本庸幸

「税金を払わない巨大企業」富岡 幸雄著 が参考になるでしょう。ネット上ではトンデモ本として扱われていますが、トンデモならば名誉棄損裁判をやってるはずでしょう。1社もやっていないということは??

痴呆老人の踏切事故は介護者に賠償請求できるか

2016-03-03 10:20:13 | 日記
平成26(受)1434  損害賠償請求事件
平成28年3月1日  最高裁判所第三小法廷  判決  その他  名古屋高等裁判所

線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の民法714条1項に基づく損害賠償責任が否定された事例

この判決はマスコミによって、かなり歪められて伝わっている傾向があるように見えますので、しつこいくらいに追ってみます。

日経新聞の報道では以下のように概略を説明しています。
愛知県で2007年、徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した認知症患者の男性(当時91)の家族にJR東海が損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は10日、当事者双方の意見を聞く弁論を来年2月2日に開くと決めた。認知症患者の家族の監督責任について、最高裁が年度内にも初めての判断を示すとみられる。
 上告審では(1)家族に監督責任があるか(2)監督責任がある場合に責任が免除されるケースに当たるか――が争点。一、二審判決は家族の監督責任を認めて賠償を命じた。認知症患者の急増が見込まれる中、判決は介護現場に大きな影響を与える可能性がある。

得てしてTVでの報道を見ると、痴呆老人の徘徊で踏切事故があっ手も、その介護をしている家族には賠償責任はないとも取れるような報道でした。そこまでは踏み込んで表現はしていなくても、日経新聞は慌て者が読むとそう解釈できなくもない文章ですし、民放各社の報道も似たり寄ったりでした。
こういう報道を見ると、重要なものほど一次資料を必ず当たらないと明日込なんぞはあてにならないなと思います。
この点、産経新聞の報道では、かなり丁寧に誤解のないように報道しています。

裁判所の事実認定は次の通りです。
1)踏切事故を起こしたのは91歳で痴呆症を患っている人である。
2)鉄道会社の所有する踏切に入り込んで、死亡事故をおこした。
3)この事故が原因で、鉄道会社は損害を被った。
4)介護者は要介護1の妻と遠距離で別居中の息子である。

法的には残酷ですが、民法714条1項により行為無能力者(重度の精神病患者、未成年者)は多くの場合は、その家族は責任を負うことになります。民法752条では、夫婦は相互扶助の義務を負います。要するに、片方が呆けたらもう片方がしっかり面倒見てやりなさいと言うことでしょう。
しかし裁判官は、この相互扶助の義務があるからと言って第三者に損害賠償をしなければならない理由にはならないと述べています。民法761条では、あくまでも法律行為で家事に係るものであれば連帯責任となっているようです。
従って、保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない、としています。

続いて、扶助の義務はこれを相手方の生活を自分自身の生活として保障する義務であると解したとして、「精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。」としています。

ここまで来ると、同居の家族であろうが痴呆老人の不法行為については配偶者であろうが責任を取らないでよろしいとも読めます。
しかし次に大どんでん返しが来ます。

法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである(最高裁昭和56年(オ)第1154号同58年2月24日第一小法廷判決・裁判集民事138号217頁参照)。


何だかよく分かりませんね、公序良俗ってことでしょうか?
でこの事件の詳細に入ります。
嫁さんは要介護1で足腰が弱く、何かあっても直ぐには夫の徘徊を止めに行けない状況であると認定して、「精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはできない。」としました。息子は月に3回様子を見に実家に帰っていたので、同居の家族に該当しないとしています。
週6回のデイサービスと見守り付き添いを妻がしていたので、それまでの行為は充分管理していたと評価しています。
要するに、妻は実質体力的に監護できる状態ではなかった、民法714条1項ただし書にいう「その義務を怠らなかったとき」に該当し,その責任を負わないものである。


精神上の障害による責任無能力者について監督義務が法定されていたものとしては,平成11年法律第65号による改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律22条1項により精神障害者に対する自傷他害防止監督義務が定められていた保護者や,平成11年法律第149号による改正前の民法858条1項により禁治産者に対する療養看護義務が定められていた後見人があります。統合失調や双極性障害の場合、何かやらかした場合は家族が賠償しなければならないのです。
この点大谷裁判官は、付帯意見を述べています。先の論拠で賠償しなくてよいとすると、被害者救済がままならなくなる。特に成人後見人制度を入れた場合、そのまま成人後見人が全ての責任を追わなければならなくなるので、身上監護事務と財産管理事務を分けるようにすべきだと主張します。
その上で
民法714条が,損害賠償の面で,精神上の障害による責任無能力者の保護と,責任無能力者の加害行為による被害者の救済との調整を図る規定であることは,上記2のとおりである。高齢者の認知症による責任無能力者の場合については,対被害者との関係でも,損害賠償義務を負う責任主体はなるべく一義的,客観的に決められてしかるべきであり,一方,その責任の範囲については,責任者が法の要請する責任無能力者の意思を尊重し,かつその心身の状態及び生活の状況に配慮した注意義務をもってその責任を果たしていれば,免責の範囲を拡げて適用されてしかるべきであって,そのことを社会も受け入れることによって,調整が図られるべきものと考える。

ということで結論としては、妻と息子に賠償を負わせるのは酷であるとする判断で一致ですが、そこに至るプロセスは若干違うようです。


今回の裁判官
第三小法廷
裁判長裁判官 岡部喜代子
裁判官 大谷剛彦
裁判官 大橋正春
裁判官 木内道祥
裁判官 山崎敏充

マスコミは、巨大資本を持つ鉄道会社とかわいそうな老人という対立構造を作り上げ、弱い者いじめをするなと言わんばかりの論調が多いようです。しかし、今度は自分が被害者になったことを考えてみてはどうでしょうか。
良くある事件ですが、免許を返納した痴呆老人が自分は若いつもりで車を勝手に運転し、自分の子供をひき殺してしまったと仮定します。痴呆老人の妻は寝たきりとまではいかなくても、足腰が弱く止めるのが難しい状態である。息子娘は遠いところに住んで週に1回だけ様子を見に来る。
この状態で見れは、痴呆老人は心神耗弱で刑事罰なしになった上に、民事でも賠償金(自賠責ぐらい)は事実上無いようなものです。これに納得できますか?
とくに精神障害者の不法行為は体力があるだけに深刻になるでしょう。
私なら、妻からの賠償金は無理としても、息子には賠償金を払わせるべきではないのかなという気がします。
これから痴呆老人が増えますし、精神障害の社会参加を推し進めるならば、場合によっては徘徊癖のある痴呆老人は強制的に介護施設に入れる制度などこの辺りの法整備を直ちにやるべきです。

死後認知された子供に相続しなければならないのか?

2016-03-01 09:15:07 | 日記
平成26(受)1312  価額償還請求上告,同附帯上告事件
平成28年2月26日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却  東京高等裁判所

 1 相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時である
2 民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,履行の請求を受けた時に遅滞に陥る


Aさんが平成18年10月7日に死亡し、Aさんの財産の相続手続きが開始され,平成19年6月25日に遺産分割が終了しました。ところが、Aさんの死後で遺産分割も終了した平成21年10月にAさんの子供であるとBさんが認知されました。Bさんは相続人に対して、自分も相続する権利があるはずと訴えました。


気持ち的には、ただでさえ婚姻関係外にある人との間にできた子供に遺産なんか!と本妻さんやその子供たちは思うでしょう。社会通念上の倫理観からしてもそうだと思います。
しかし、法はそれを許していません。
民法第910条
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
とあります。となると、Bさんには請求権があります。
これについて裁判所は次のように述べています。

相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。


民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
全員一致での判決でした。

確かに、請求の期限の定めはありません。これが最高裁まで争う内容になるのか、ちょっと疑問でした。訴えの資格なしとして、退けてもいいくらいかなと思います。

今回の裁判官
第二小法廷
裁判長裁判官 小貫芳信
裁判官 千葉勝美
裁判官 鬼丸かおる
裁判官 山本庸幸

今回は子への相続で済んでいますが、孫まで含んで、かつ固定資産や居住権の問題も絡んでくるので、請求期限はつけるべきでしょう。
さて、家庭環境はここでは一切記載されていませんが、Aさんはどういう亡くなり方をしたのでしょう。亡くなるまでの世話とかしていたのでしょうか?それとも突然亡くなったのでしょうか。死後認知もどういう経緯でこうなったのかも疑問です。
死後認知でしょうから、本妻さんと子供たちはその存在を知らなかった可能性があります。突然降ってわいてきた話で、到底等分割は受け入れられないでしょうね。