令和4(オ)39 マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件
令和5年3月9日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所
行政機関等が、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(令和3年法律第36号による改正前のもの)に基づき、特定個人情報の利用、提供等をする行為は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない
珍しく
法務省が概要を出しています。
訴訟の概要
本件は、原告らが、マイナンバー制度の施行により、憲法13条で保障されたプライバシー権(自己情報コントロール権)が侵害されると主張して、国に対し、(1)プライバシー権に基づく妨害排除及び妨害予防請求として、原告らの個人番号の収集・保存・利用及び提供の禁止並びに削除を求めるとともに、(2)国家賠償法に基づき損害賠償(1人当たり11万円)を求めている事案です。
国側の主張
国は、マイナンバー制度に基づく個人番号の収集等は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものとは認められず、憲法13条により保障された個人の自由を侵害するものではなく、また、原告らに係る個人番号の収集等は、番号利用法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)の規定に基づいて適法に行われるものであるから、いずれの請求にも理由がないと主張しています。
2 原審の適法に確定した事実関係
(1)番号利用法の目的
①行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理する者が、個人番号等の有する特定の個人等を識別する機能を活用し、及び当該機能によって異なる分野に属する情報を照合してこれらが同一の者に係るものであるかどうかを確認すること
②特定個人情報の取扱いが安全かつ適正に行われるよう、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律及び個人情報の保護に関する法律の特例を定めることを目的
相変わらずアホみたいに長いので、2つに切りました。あくまでも行政機関の範囲内でしか使わないとあります。
(2)個人番号及びその利用範囲
ア 個人番号とは、住民票コード(住民基本台帳法7条13号)を変換して得られる番号であって、当該住民票コードが記載された住民票に係る者を識別するために指定されるもの
その者に係る個人番号カード(氏名、住所、生年月日、性別、個人番号その他政令で定める事項が記載され、本人の写真が表示され、かつ、これらの事項その他総務省令で定める事項が電磁的方法により記録されたカードであって、権限を有する者以外の者による閲覧又は改変を防止するために総務省令で定める必要な措置が講じられたもの)を交付する(同法17条、同法施行令13条)
専用の読み取り装置と認証がなければ、名前も生年月日も出せないカードですね。
イ 番号利用法は、行政機関等が、一定の事務の処理に関して保有する特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し・・・あらかじめ特定された利用目的以外の目的のために利用することは原則として禁止されている
あまりにもの悪文なのでぶった切ります。この悪文は読み返して恥ずかしくならないのでしょうか?要するに行政が個人に行政サービスをするときに効率よくやりたいのでその紐づけの、紐の部分だと言っています。しかも使用目的は限定されていると。
(3)特定個人情報の提供に関する規制
番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し(同法19条)、その禁止が解除される例外事由を同条各号で規定している。
(4)情報提供ネットワークシステムによる情報連携
ア 番号利用法の下でも、個人情報が共通のデータベース等により一元管理されるものではなく、各行政機関等が個人情報を分散管理している状況に変わりはないため、同法の目的を達成するためには、各行政機関等の間の情報連携が必要となる。
ここいら辺から怪しくなります。法律で禁止されているから、そういう事にはならない論です。禁止するということは、やれてしまうから禁止する訳ですよ。ましてや地方自治体のおバカな管理では心配だというのはよく分かります。地方公務員は何が守秘義務で守秘義務でないのか、感覚が麻痺しているのが結構いますから。住基ネットのときもそうでしたが、専用回線だと言っているのにネットにもつなげたアホな自治体がありました。こういうのは徹底するために、例えばデジタル庁の抜き打ち検査が必要で、管理できていなければその場で解雇ぐらいの厳しいことをやらないと管理できません。
イ 情報提供ネットワークシステムとは、行政機関の長等の使用に係る電子計算機を相互に電気通信回線で接続した電子情報処理組織であって、暗号その他その内容を容易に復元することができない通信の方法を用いて行われる番号利用法19条7号又は8号の規定による特定個人情報の提供を管理するために、同法21条1項の規定に基づき総務大臣が設置し、及び管理するものをいう(同法2条14項)。
これもグダグダ書いていますが、暗号化されているので読み取れないようになっているという趣旨のようです。
(5)特定個人情報の管理に関する規制
ア 番号利用法は、個人番号利用事務又は個人番号関係事務を処理する者及びその委託を受けた者に対し、個人番号の漏えい等の防止その他の個人番号の適切な管理のために必要な措置を講ずることや、本人から個人番号の提供を受けるときに本人確認措置をとることを義務付ける(同法12条、16条)
例えば健康保険証として使う場合は、本人確認として顔認証などを講じなさいということです。
イ また、番号利用法は、個人番号利用事務等実施者等に対し、同法19条12号から16号までのいずれかに該当する場合を除き、個人番号利用事務等を処理するために必要な範囲を超えて特定個人情報ファイルを作成することを禁止する(同法29条)とともに、行政機関の長等において、上記ファイルを保有し、又は保有しようとするときは、上記ファイルを取り扱う事務に従事する者に対して特定個人情報の適正な取扱いを確保するために必要なサイバーセキュリティの確保等に関する研修を行うものとしている(同法29条の2)。・・・事前に特定個人情報保護評価(特定個人情報の漏えいその他の事態の発生の危険性及び影響に関する評価)を自ら実施し、これらの事態の発生の抑止等をするための措置を講ずるものとしている(同法27条、28条)
何をもっともらしく書いているのかと思うくらい、個人情報を扱う部門、守秘義務部門は当たり前のようにやっています。
(6)規制の実効性を担保するための制度
ア 番号利用法は、上記の各規制の実効性を担保するため、個人の秘密に属する事項が記録された特定個人情報ファイルの不正提供(同法48条)、業務に関して知り得た個人番号の不正な利益を図る目的での提供又は盗用(同法49条)、職権を濫用して専ら職務の用以外の用に供する目的で行った個人の秘密に属する特定個人情報が記録された文書等の収集(同法52条)等、上記の各規制に違反する行為のうち悪質なものについて、刑罰の対象とし、一般法における同様の罰則規定よりも法定刑を加重するなどしている(番号利用法第9章)。
漏洩については刑罰はちゃんとありますよぐらいの意味です。
イ また、番号利用法は、独立した第三者機関である委員会に種々の権限を付与した上で、特定個人情報の取扱いに関する監視、監督等を行わせることとしている。
上場企業の会計監査のようなものでしょうか。何かここまでダラダラ書かれると、
規則ではそうなっているから大丈夫といくら言われても、本当に実効性があるのか、却って疑わしくなってきますね。
ここでやっと何が争われたのかが出てきます。
1 憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているもので、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁平成19年(オ)第403号)。
住基ネットの裁判でも同じ論点で訴えていたようです。
2 (1)そこで、行政機関等が番号利用法に基づき特定個人情報の利用、提供等をする行為が上告人らの上記自由を侵害するものであるか否かを検討するに、前記第1の2 のとおり、同法は、個人番号等の有する対象者識別機能を活用して、情報の管理及び利用の効率化、情報連携の迅速化を実現することにより、行政運営の効率化、給付と負担の公正性の確保、国民の利便性向上を図ること等を目的とするものであり、正当な行政目的を有するものということができる。
通常の行政サービスの提供の範囲なんだから、みだりに開示するわけでもなきゃ、公共の福祉に反するわけでもないと言っています。
(2)番号利用法は、個人番号の利用範囲について、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定するとともに、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由を一般法よりも厳格に規定している。
むしろこれをやらないから年金番号の突合せ作業だのなんだのって問題が出て来るんですよ。むしろ、税金の申告が便利になるのにこれを嫌がるのは、何か理由でもあるのでしょうか?
個人番号はそれ自体では意味のない数字であること、情報提供ネットワークシステムにおいても特定の個人を識別するための符号として個人番号が用いられていないこと等から、仮に個人番号が漏えいしたとしても、直ちに各行政機関等が分散管理している個人情報が外部に流出するおそれが生ずるものではない
ここ重要です。個人番号と名前を拾ったところで、納税状態や健康状態を引っ張り出せないのです。
結論
上記行為は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではないと解するのが相当である。
裁判官全員一致の意見
裁判長裁判官 深山卓也
裁判官 山口 厚
裁判官 安浪亮介
裁判官 岡 正晶
裁判官 堺 徹
法律論としてはそうだと思います。妥当でしょう。この裁判官は法律の専門家であって、現場の管理をやったことない人たちだからでしょう。
住民票の次は印鑑登録証明書…マイナンバーカード使ったコンビニ発行で新たな不具合11件
マイナカードを使ったコンビニ交付サービスを巡っては、横浜市など4自治体で、住民票などの証明書が別人に発行される不具合が14件起きている。今回の不具合でも同じ「富士通Japan」(東京都)のシステムが使われているという。
同社によると、今回はシステムのプログラムに問題があった。印鑑登録の抹消が一定条件の下ではコンビニ交付サービスのデータベースに反映されず、抹消前のデータに基づき誤交付された。18日までにプログラムの改修を行う予定だという。
こういう事件がありますとねぇ・・・