平成26年(行ヒ)第167号 納税告知処分等取消請求事件
平成27年10月8日 第一小法廷判決
青果物その他の農産物及びその加工品の買付けを主たる事業とする権利能力のない社団、多分法人格のない農協のようなもの、サークルだったのかもしれません。面倒なのでB組合とでもしておきましょう。Aさんは、このB組合の理事を14年、理事長を16年を勤めていました。理事のころからB組合から借入れましたが、返せる当てがなく一度利子の減免を受けています。ところが借金が膨れ上がり、55億円にもなってしまいました。個人で55億円では通常は返せる金額ではないですね。
B組合は、Aの嫁さんとの共同名義の物件を売却し7億円回収、48億円については債務放棄としました。その債務放棄は、ボーナスであるとして所得税を払うべきかどうかが争われました。
まずは、Aは個人であり法人ではない事。さらに、AはB組合の理事であったこと。
この2点からして、普通の人が金融機関から借入て債務免除となるものではない条件がそろいます。
① 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合の意義
所得税基本通達 36-17 は,「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合」にその債務免除益を各種所得の金額の計算上,収入金額又は総収入金額に算入しないこととしています。
その成立要件は、所得税法第9条1項10号及び同法施行令26条に規定する「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合としています。
これらの点について地裁ではこのように見ました。
のAに対する貸付金は元本の弁済のめどの立たない不良債権であったところ,平成17年債務免除益に本件旧通達の適用があるとの判断が所轄税務署長により示された後にAの資産の増加がなかった状況の下で本件債務免除がされたことからすると,本件債務免除の主たる理由はAの資力の喪失により弁済が著しく困難であることが明らかになったためであると認めるのが相当であり,Aが被上告人の役員であったことが理由であったと認めることはできない。
したがって,本件債務免除益は,これを役員の役務の対価とみることは相当ではなく,所得税法28条1項にいう給与等に該当するということはできないから,本件債務免除益について被上告人に源泉徴収義務はないというべきである。
それに対して、最高裁は次のように判断しました。
自己の計算又は危険において独立して行われる業務等から生ずるものではなく,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいうものと解される(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁,最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁参照)。そして,同項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与とは,上記の給付のうち功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付であって,その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される。
特に以下の文が重要です。
多額の金員の貸付けを繰り返し行ったのは,同人が被上告人の理事長及び専務理事の地位にある者としてその職務を行っていたことによるものとみるのが相当であり,
おっしゃる通りです。理事ということは、会社で言うところの取締役です。その立場にある人間が、55億円の貸し付けを継続するか否かを知らないはずもなく関与しているはず、例え知らなかったとしても善管注意義務があるので容赦できません。
とは言うものの、債務免除する以上所得税の課税とするには無理があります。
ですが、この組合はこんな金額になるまで放置していたこと、しかも借りた本人が理事長までやるというのはとんでもないというのが裁判所の本当の趣旨ではないかと思います。なぜならば、所得税の徴収義務は組合が負うからです。おそらくこの金額から言ったら22億円ぐらいの現金を組合が用意しなければならないわけですね。所得税という名を借りた制裁金と見たほうが分かり易そうです。
若干大岡裁きの感もないわけでもないです。
第一小法廷
裁判長裁判官 櫻井龍子
裁判官 山浦善樹
裁判官 池上政幸
裁判官 大谷直人
裁判官 小池裕
平成27年10月8日 第一小法廷判決
青果物その他の農産物及びその加工品の買付けを主たる事業とする権利能力のない社団、多分法人格のない農協のようなもの、サークルだったのかもしれません。面倒なのでB組合とでもしておきましょう。Aさんは、このB組合の理事を14年、理事長を16年を勤めていました。理事のころからB組合から借入れましたが、返せる当てがなく一度利子の減免を受けています。ところが借金が膨れ上がり、55億円にもなってしまいました。個人で55億円では通常は返せる金額ではないですね。
B組合は、Aの嫁さんとの共同名義の物件を売却し7億円回収、48億円については債務放棄としました。その債務放棄は、ボーナスであるとして所得税を払うべきかどうかが争われました。
まずは、Aは個人であり法人ではない事。さらに、AはB組合の理事であったこと。
この2点からして、普通の人が金融機関から借入て債務免除となるものではない条件がそろいます。
① 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合の意義
所得税基本通達 36-17 は,「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合」にその債務免除益を各種所得の金額の計算上,収入金額又は総収入金額に算入しないこととしています。
その成立要件は、所得税法第9条1項10号及び同法施行令26条に規定する「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合としています。
これらの点について地裁ではこのように見ました。
のAに対する貸付金は元本の弁済のめどの立たない不良債権であったところ,平成17年債務免除益に本件旧通達の適用があるとの判断が所轄税務署長により示された後にAの資産の増加がなかった状況の下で本件債務免除がされたことからすると,本件債務免除の主たる理由はAの資力の喪失により弁済が著しく困難であることが明らかになったためであると認めるのが相当であり,Aが被上告人の役員であったことが理由であったと認めることはできない。
したがって,本件債務免除益は,これを役員の役務の対価とみることは相当ではなく,所得税法28条1項にいう給与等に該当するということはできないから,本件債務免除益について被上告人に源泉徴収義務はないというべきである。
それに対して、最高裁は次のように判断しました。
自己の計算又は危険において独立して行われる業務等から生ずるものではなく,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付をいうものと解される(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁,最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁参照)。そして,同項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与とは,上記の給付のうち功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付であって,その給付には金銭のみならず金銭以外の物や経済的な利益も含まれると解される。
特に以下の文が重要です。
多額の金員の貸付けを繰り返し行ったのは,同人が被上告人の理事長及び専務理事の地位にある者としてその職務を行っていたことによるものとみるのが相当であり,
おっしゃる通りです。理事ということは、会社で言うところの取締役です。その立場にある人間が、55億円の貸し付けを継続するか否かを知らないはずもなく関与しているはず、例え知らなかったとしても善管注意義務があるので容赦できません。
とは言うものの、債務免除する以上所得税の課税とするには無理があります。
ですが、この組合はこんな金額になるまで放置していたこと、しかも借りた本人が理事長までやるというのはとんでもないというのが裁判所の本当の趣旨ではないかと思います。なぜならば、所得税の徴収義務は組合が負うからです。おそらくこの金額から言ったら22億円ぐらいの現金を組合が用意しなければならないわけですね。所得税という名を借りた制裁金と見たほうが分かり易そうです。
若干大岡裁きの感もないわけでもないです。
第一小法廷
裁判長裁判官 櫻井龍子
裁判官 山浦善樹
裁判官 池上政幸
裁判官 大谷直人
裁判官 小池裕