令和3(受)1205 損害賠償請求事件
令和4年6月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
今回の判決文は59ページの大作です。三浦裁判官だけが反対だったようです。
朝日新聞の報道です。
原発事故の国の責任、最高裁が認めない判決 「防潮堤でも防げず」
菅野裁判長、草野耕一裁判官、岡村和美裁判官による多数意見はまず、福島第一原発の事故以前の津波対策について「防潮堤の設置が基本だった」と位置づけ、「それだけでは不十分との考えは有力ではなかった」とした。
そのうえで、2002年に国が公表した地震予測「長期評価」に基づき、東電子会社が08年に計算した最大15・7メートルの津波予測は「合理性を有する試算」と指摘。国が東電に対策を命じた場合、「試算された津波に対応する防潮堤が設置されたと考えられる」とした。
一方、反対意見を述べた検察官出身の三浦守裁判官は、国の規制権限は「原発事故が万が一にも起こらないようにするために行使されるべきもの」と強調した。信頼性が担保された長期評価を元に事故は予見でき、浸水対策も講じさせれば事故は防げたと指摘。国は東電と連帯して賠償義務を負うべきだと主張した。
訴えの内容です
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるとともに、人格権又は同項に基づく原状回復請求として、本件事故当時の居住地における空間放射線量率を0.04マイクロシーベルト毎時以下にすることを求める事案である。
国(環境省)が示す毎時0.23マイクロシーベルトの算出根拠では、自然放射線分0.04マイクロシーベルトのようです。物理を勉強した人であれば分かりますが、一度飛散したものを集めるて除去するのは不可能です。要求した気持ちは分かりますけどね。
事実確認です。結構長いので重要なところだけ抜き出します。
ウ 本件発電所の1号機から4号機までの各原子炉に係る原子炉建屋、タービン建屋等の主要な建屋は、いずれも海抜10mの平らな土地上にあり、本件各原子炉は、北から南に向かって1号機から4号機の順に一列に設置されている。本件敷地の東側及び南東側は、海水をくみ上げるポンプ等の設備が設置された海抜4mの区画等を挟んで海に面している。
チリ地震のときは6.4m以上の津波がむつ市に届いていますね。ということは、4mの位置にポンプを置いたら駄目でしょう。
エ 本件各原子炉に係る原子炉施設(以下「本件各原子炉施設」という。)では、原子炉の運転により発電した電力や外部の変電所から供給される電力が利用されていたが、これらの電力をいずれも利用することができない場合に備えて、非常用ディーゼル発電機及びこれにより発電した電力を他の設備に供給するための電気設備が主要建屋の中に設置されていた。
こういう分野では安全係数というものがあって、計算上安全とされるものの1.5倍は用意しなければなりません。すると、
ちょうど10mぐらいになりますね。
(2)原子力発電所の設計津波水位の評価方法に関する報告書の作成
(3)地震調査研究推進本部地震調査委員会
で、もっと安全を確保するために計算しなおしなさいと指示があり、その結果三陸沖北部から房総沖にかけての日本海溝寄りの南北に細長い領域に関し、明治29年に発生した明治三陸地震と同様の地震が上記領域内のどこでも発生する可能性があること、上記領域内におけるマグニチュード8クラスのプレート間大地震(津波地震)については、今後30年以内の発生確率が20%程度、今後50年以内の発生確率が30%程度と推定されること、その地震の規模は、津波マグニチュード8.2前後と推定されること等を内容とするものであった。
(4)発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針の策定
ア 原子力安全委員会は、平成18年9月、発電用軽水型原子炉の設置許可申請及び変更許可申請に係る安全審査のうち、耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を策定した。
イ 原子力安全・保安院は、同月、東京電力を含む発電用原子炉施設の設置者等に対し、既設の発電用原子炉施設等について、上記指針に照らした耐震安全性の評価を実施するよう指示した。
こういう報告書と指示が出てたんですね。物理的にあの巨大なものをもっと上に持っていくのは可能だったのでしょうか?
(5)本件長期評価に基づく津波の試算
ア 東京電力・・・最大で海抜15.707mの高さになるが、本件敷地の東側前面では本件敷地の高さ(海抜10m)を超えず、主要建屋付近の浸水深は、4号機の原子炉建屋付近で約2.6m、4号機のタービン建屋付近で約2.0mとなるなどというものであった。
イ 本件試算津波と同じ規模の津波に対する対策等についての検討を行ったものの、直ちに対策を講ずるのではなく、土木学会に本件長期評価についての研究を委託することとして、当面の検討を終えた。
うーん、土木学会も問題ないとしたのでしょうか。
本件地震及びこれに伴う本件事故
イ 本件地震により、本件各原子炉のうち定期検査のため運転停止中であった4号機を除く各原子炉がいずれも自動的に停止し、外部の変電所から供給される電力についても、本件地震による設備故障等によりその供給が途絶えた。・・・その浸水深は、主要建屋付近で最大約5.5mに及び、主要建屋の中に海水が浸入する事態となった。その結果、全ての本件非常用電源設備が浸水してその機能を失い、交流電源が喪失した。・・・高温に達した燃料が著しく損傷し、これにより発生した水素ガスの爆発によって原子炉建屋等が損傷するなどして、本件各原子炉施設から放射性物質が大量に放出される事故(本件事故)が発生するに至った。
結局のところ、電源さえ生きていれば爆発事故は起きなかったと言っています。
(7)本件事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策の在り方
防潮堤、防波堤等の構造物(以下「防潮堤等」という。)を設置することにより上記敷地への海水の浸入を防止することが対策の基本とされていた。
土木工学についてはど素人ですが、地震で堤防に亀裂が入るのは簡単に予想がつきます。その上津波が来たらどうしようもないですよね。
(8)関係法令の定め
電気事業法39条1項は、事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない旨規定し、同法40条は、経済産業大臣は、事業用電気工作物が上記技術基準に適合していないと認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し、改造し、若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる旨規定する。
「しなければならない」わけではなく「できる」規定です。
訴えの内容
経済産業大臣が、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付けていれば、本件事故と同様の事故が発生しなかったであろうという関係があることが事実上推認されるというべきである。これらの事情等を考慮すると、経済産業大臣は、遅くとも平成18年末までには上記の規制権限を行使すべきであったのであり、同年末以降、経済産業大臣が上記の規制権限を行使しなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法であって、この規制権限の不行使と本件事故との間の因果関係も認められるから、上告人は、同項に基づく損害賠償責任を免れない。
技術的な話からすれば真っ黒、でも法律上からすると「できる」規定なので微妙な感じになってきました。