平成29(受)1492 損害賠償請求事件
平成31年3月18日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所
死刑確定者において許可を受けずにした吸取紙への書き込み等の行為が遵守事項に違反するとして拘置所長等がした指導,懲罰等の措置が,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとされた事例
訴えの内容は、死刑が確定した人がインクの吸取り紙にメモを残したところ、規則違反だとしてその紙を没収され懲罰を受けたことを不服として訴えた件です。
事実確認から見ていきます。
(1) 被上告人は,平成18年▲月に死刑判決が確定したことにより,死刑確定者として名古屋拘置所に収容されている者である。
この年は20人の死刑が確定しているので誰だかはわかりません。
(2)刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律74条1項に基づき,名古屋拘置所において被収容者が遵守すべき事項を定め,以後,これを被収容者の居室に備え付けている。・・・26項において「(不正書込)便せん,ノートその他認書を許可された用紙以外の物に許可なく書込みをしてはならない。」と,それぞれ定めている。
(3)平成26年3月31日,被上告人の居室において,便箋つづりに添付された吸取紙に,被上告人により許可なく書き込みがされているのを発見したことから,被上告人に対し,当
該書き込みは本件遵守事項26項に違反するとして,書き込みが容認されているノート等にその内容を書き写した上で当該吸取紙を廃棄するよう指導した。その後,被上告人は,当該吸取紙を廃棄した。
死刑囚は刑務官の指示に従って自分で廃棄したようですね。
イ 職員は,平成26年4月14日,被上告人の居室において,未使用の封筒が,被上告人により許可なく半分に切断されて二つの袋状とされ,切手の保管に用いられているのを発見したことから,その後数回にわたり,被上告人に対し,当該封筒の切断は本件遵守事項20項に違反するとして,当該封筒を廃棄又は提出するよう指導した。被上告人がこれに応じなかったことから,所長は,同項等に違反した疑いで被上告人に対する調査を行った上,同年5月30日,被上告人に対し,上記違反を理由に戒告の懲罰を科するとともに,当該封筒を国庫に帰属させる処分をした。
ウ 職員は,平成27年4月23日,被上告人の居室において,便箋つづりの台紙に,被上告人により許可なく書き込みがされているのを発見したことから,被上告人に対し,当該書き込みは本件遵守事項26項に違反するとして,書き込みが容認されているノート等にその内容を書き写した上で当該台紙を廃棄するよう指導した。被上告人がこれに応じなかったことから,所長は,同項に違反した疑いで被上告人に対する調査を行った上,同年5月19日,被上告人に対し,上記違反を理由に閉居5日の懲罰を科するとともに,当該台紙を国庫に帰属させる処分をした。
結構反抗的な死刑囚ですね。刑務官に事前に言わなかったのでしょうか。
原審では、やりすぎでしょうということで、死刑囚の主張が認められました。
最高裁の判断は
(1) 刑事施設の規律及び秩序は,適正に維持されなければならず(刑事収容施設法73条1項),そのため,刑事施設の長は,被収容者が遵守すべき事項(遵守事項)を定めるものとされている(同法74条1項)。・・・規律及び秩序を適正に維持するため必要な限度を超えるものでない限り(同法73条1項,2項参照),当該刑事施設内の実情に通じた刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。
(2) 刑事収容施設法74条2項8号は,遵守事項に定める事項の一つとして,「金品について,不正な使用,所持,授受その他の行為をしてはならないこと。」を掲げているところ,ここにいう不正とは,刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるか否かという観点から判断すべきものと解される。・・・被収容者による物品の加工等や便箋等以外の物への書き込みは,一般に,不正連絡その他の刑事施設の規律及び秩序を害する行為に用いられる可能性がある行為といえるところ,その性質上,事後的に不正と認められるもののみを規制することとするのでは,その実効性を確保することは困難であると考えられる。
(3) 前記事実関係によれば,本件各行為は,いずれも遵守事項を遵守しなかったものとして,懲罰を科せられるべき行為(刑事収容施設法150条1項)に該当する。そして,これを前提に所長等が被上告人に対してした指導,懲罰等の措置に不合理な点があったということはできない。
全員一致です。
第一小法
裁判長裁判官 小池 裕 当然
裁判官 池上政幸 当然
裁判官 木澤克之 当然
裁判官 山口 厚 当然
裁判官 深山卓也 当然
結果は当然すぎますね。
どうしても残すのであれば、刑務官にその旨を言えばいいわけで、それを事前に言った形跡もない。ただ反抗的に書き残そうとしたというのであれば、それは秩序維持のために近位するのは当然です。
こういうメモを残すことを禁止することも刑罰のうちの一つであるとはここでは論じられなかったのが不思議です。
平成18年に死刑判決が確定しています。死刑判決確定後6ヵ月以内に、法務大臣が執行を命令しなければならない(刑事訴訟法475条2項)があるのに、それが執行されないことのほうが問題ではないでしょうか。
平成31年3月18日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所
死刑確定者において許可を受けずにした吸取紙への書き込み等の行為が遵守事項に違反するとして拘置所長等がした指導,懲罰等の措置が,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとされた事例
訴えの内容は、死刑が確定した人がインクの吸取り紙にメモを残したところ、規則違反だとしてその紙を没収され懲罰を受けたことを不服として訴えた件です。
事実確認から見ていきます。
(1) 被上告人は,平成18年▲月に死刑判決が確定したことにより,死刑確定者として名古屋拘置所に収容されている者である。
この年は20人の死刑が確定しているので誰だかはわかりません。
(2)刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律74条1項に基づき,名古屋拘置所において被収容者が遵守すべき事項を定め,以後,これを被収容者の居室に備え付けている。・・・26項において「(不正書込)便せん,ノートその他認書を許可された用紙以外の物に許可なく書込みをしてはならない。」と,それぞれ定めている。
(3)平成26年3月31日,被上告人の居室において,便箋つづりに添付された吸取紙に,被上告人により許可なく書き込みがされているのを発見したことから,被上告人に対し,当
該書き込みは本件遵守事項26項に違反するとして,書き込みが容認されているノート等にその内容を書き写した上で当該吸取紙を廃棄するよう指導した。その後,被上告人は,当該吸取紙を廃棄した。
死刑囚は刑務官の指示に従って自分で廃棄したようですね。
イ 職員は,平成26年4月14日,被上告人の居室において,未使用の封筒が,被上告人により許可なく半分に切断されて二つの袋状とされ,切手の保管に用いられているのを発見したことから,その後数回にわたり,被上告人に対し,当該封筒の切断は本件遵守事項20項に違反するとして,当該封筒を廃棄又は提出するよう指導した。被上告人がこれに応じなかったことから,所長は,同項等に違反した疑いで被上告人に対する調査を行った上,同年5月30日,被上告人に対し,上記違反を理由に戒告の懲罰を科するとともに,当該封筒を国庫に帰属させる処分をした。
ウ 職員は,平成27年4月23日,被上告人の居室において,便箋つづりの台紙に,被上告人により許可なく書き込みがされているのを発見したことから,被上告人に対し,当該書き込みは本件遵守事項26項に違反するとして,書き込みが容認されているノート等にその内容を書き写した上で当該台紙を廃棄するよう指導した。被上告人がこれに応じなかったことから,所長は,同項に違反した疑いで被上告人に対する調査を行った上,同年5月19日,被上告人に対し,上記違反を理由に閉居5日の懲罰を科するとともに,当該台紙を国庫に帰属させる処分をした。
結構反抗的な死刑囚ですね。刑務官に事前に言わなかったのでしょうか。
原審では、やりすぎでしょうということで、死刑囚の主張が認められました。
最高裁の判断は
(1) 刑事施設の規律及び秩序は,適正に維持されなければならず(刑事収容施設法73条1項),そのため,刑事施設の長は,被収容者が遵守すべき事項(遵守事項)を定めるものとされている(同法74条1項)。・・・規律及び秩序を適正に維持するため必要な限度を超えるものでない限り(同法73条1項,2項参照),当該刑事施設内の実情に通じた刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。
(2) 刑事収容施設法74条2項8号は,遵守事項に定める事項の一つとして,「金品について,不正な使用,所持,授受その他の行為をしてはならないこと。」を掲げているところ,ここにいう不正とは,刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるか否かという観点から判断すべきものと解される。・・・被収容者による物品の加工等や便箋等以外の物への書き込みは,一般に,不正連絡その他の刑事施設の規律及び秩序を害する行為に用いられる可能性がある行為といえるところ,その性質上,事後的に不正と認められるもののみを規制することとするのでは,その実効性を確保することは困難であると考えられる。
(3) 前記事実関係によれば,本件各行為は,いずれも遵守事項を遵守しなかったものとして,懲罰を科せられるべき行為(刑事収容施設法150条1項)に該当する。そして,これを前提に所長等が被上告人に対してした指導,懲罰等の措置に不合理な点があったということはできない。
全員一致です。
第一小法
裁判長裁判官 小池 裕 当然
裁判官 池上政幸 当然
裁判官 木澤克之 当然
裁判官 山口 厚 当然
裁判官 深山卓也 当然
結果は当然すぎますね。
どうしても残すのであれば、刑務官にその旨を言えばいいわけで、それを事前に言った形跡もない。ただ反抗的に書き残そうとしたというのであれば、それは秩序維持のために近位するのは当然です。
こういうメモを残すことを禁止することも刑罰のうちの一つであるとはここでは論じられなかったのが不思議です。
平成18年に死刑判決が確定しています。死刑判決確定後6ヵ月以内に、法務大臣が執行を命令しなければならない(刑事訴訟法475条2項)があるのに、それが執行されないことのほうが問題ではないでしょうか。