ブクログより
人間の頭には扁桃体という部位があり、その形が似ているところからアーモンドとも呼ばれている。その働きは主に人間の感情をつかさどる。
幼少期より他の人より扁桃体が小さく、怒りや恐怖などを感じられないユンジュ。
感情がわからない息子に母親は、「喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲」を感情ではなく頭で覚えさせようと、苦心してきた。
例えば、自分に向かってくるものは横に除けること、人と話すときは相手と同じ顔をすることなど、身の危険からの回避と対人に関して根気よく教えていた。
そんな彼の16歳の誕生日、クリスマスイブの夜、母親とおばあちゃんと3人で食事をして帰る途中、凶器を持った通り魔に襲われ、おばあちゃんは亡くなり母親は意識不明になってしまう。何の感情も持てないユンジュの目の前で。
支えを亡くしたユンジュは、途方に暮れることもなく学校と家業の古本屋を守り、淡々とした毎日を過ごす。
淡々としているのは感情を持たないユンジュだけで、その周りはめまぐるしく変化し、怒涛の渦の中に放り込まれるのだが。
そんな中で出会ったゴニという少年、ドラという少女、いくつかの出会いがあり、その出会いが最悪のものであったとしても、いつしかユンジュも気が付かないうちに、ある感情が芽生え始める。
この話は作者が出産を経験して、その時は何の感動もなかったけれど、何日かたった時、ベッドでもぞもぞ動く赤ちゃんに感動してしまって、こういう話を思いついたと、あとがきにあった。
望まれて産まれてあふれんばかりの愛を受けて育ててもらって大きくなる、そんな当たり前のことがしてもらえない子供たちもいるこの世の中、全ての子供たちが愛に包まれていたら。
久々に心にしみる1冊でした。
アーモンド / ソン・ウォンピヨン