セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

神保町REALTAさんの12月のランチ 

2018年12月16日 | グルメ

10月に下見に行った神保町のイタリアン、REALTA(リアルタ)さんで食事会をしました。人気のあるこちらのお店。忘年会・クリスマスシーズンのこの日のランチは、予約のお客様ですべて埋まっていたようでした。早めに予約をしておいてよかったです。

コースのメニューはあらかじめ決まっているわけでなく、その日の仕入れによるおまかせになりますが、オマール海老の半身を使っていたりと、クリスマスらしい気分が味わえるちょっぴりゴージャスなメニューとなっていました。みなさんにも喜んでいただけてよかったです。

前菜はカルパッチョ。白身魚を極薄にスライスした大根で巻いています。まん中の白いのはカリフラワーをホイップ状のソースにしたもの。黒いのはイカ墨のソース。ピンク・緑・白とさりげなくクリスマスカラーです。奥にちらりと見えているのは、フォッカチャとイタリアンブレッド、オリーブオイルです。

オマール海老のパスタ。海老はナイフを入れて食べやすくしてありました。海老味噌もいい風味をプラスしています。

牛肉のロースト。焼き加減もミディアムでパーフェクト。炭火であぶった菜の花が香ばしくて気に入りました。

柚子味のクレームブリュレ、チーズケーキ、ガトーショコラ。コーヒーとともにおいしくいただきました。

コメント (2)

クリスマスリースと、アレンジメント 2018

2018年12月15日 | 日々のこと

12月2日から待降節(アドヴェント)に入り、今年もクリスマスリースを作りました。

毎年分けていただくグリーンの葉。モミ、ヒムロ杉、クジャクヒバ、ゴールドクレスト、ユーカリ、オリーブなどを少しずつ取り混ぜて、12の束を作ります。フレッシュなグリーンは香りがすばらしく、触れているだけで気持ちが安らぎます。

針金できゅっと束ねて、円いリースに時計の文字盤のように等間隔に留め付けていきます。松ぼっくりとサンキライを飾り、最後にリボンをつけて仕上げました。同じグリーンでも黄色っぽかったり、グレーがかっていたり。色の重なりが美しい。

飾っているうちに、葉っぱは乾燥して少しずつカサカサしてきますが、そうした変化も楽しんでいます

***

別の日にクリスマスのアレンジメントを教えていただきました。

お花やグリーンのほか、ペッパーコーン、小さな松かさ、姫りんご、そして白樺の皮も使います。

上から見たところです。クジャクヒバ、ユーカリ、ヒイラギなどのグリーンがクリスマスらしい。白樺の皮は裂いて、周りに留め付けます。私はペッパーベリーのくすんだピンクが大人かわいくて気に入りました。

コメント (6)

ティーパーティのキャロットケーキ @プーと大人になった僕

2018年12月14日 | +映画のひとさら

映画「プーと大人になった僕」(Christopher Robin) のティーパーティの場面に出てきたキャロットケーキがずっと気になっていて... 遅まきながら作ってみました。

キャロットケーキは、アメリカではケーキの上にクリームチーズで作ったフロスティングをぬるのが定番ですが、この映画に出てきたキャロットケーキは、2台のキャロットケーキの間にクリームをはさむ、ヴィクトリアケーキのスタイルでした。

私は1台焼いて半分にカットし、間にクリームをはさむことにしました。レシピはコチラの記事の最後にあります。高さを出すために、いつもより小さい18㎝の型で焼きました。

間にクリーム(クリームチーズ・生クリーム・粉砂糖・レモン果汁・レモンの皮のすりおろし)をはさみ、上に粉砂糖をふるいました。

イギリスのポッタリーのティーセットじゃないので、あまりプーっぽくありませんが...^^; 気分だけプーのティーパーティです。

ケーキがややドーム型にふくらんでしまいましたが、とってもおいしくできました。にんじんのすりおろし、三温糖、乾煎りして刻んだくるみが素朴な風味を出しています。シナモンとナツメグが入っているので、香りがとにかくすばらしい。クリームの酸味がよく合います。

バターではなくグレープシードオイルを使っているので、冷蔵庫に入れても硬くなりません。翌日、翌々日にいただくと、しっとりと落ち着いてさらにおいしくなりました。

***

さて、映画には何回かティーパーティの場面がありましたが、私が一番気に入ったのは、マデリンとプーたちがロンドン行きの列車の中で開くティーパーティです。マデリンがワゴンのレディにはちみつをたのむ前後の、プーのわずかな表情の変化に注目です。(^_-)-☆

Christopher Robin Movie Clip - 5 Cups of Tea Please (2018) | Movieclips Coming Soon

【関連記事】プーと大人になった僕 (2018-09-21)

コメント (6)

ムンク展 共鳴する魂の叫び

2018年12月13日 | アート

上野の東京都美術館で開催中の「ムンク展 共鳴する魂の叫び」(~2019年1月20日まで)を見に行きました。ノルウェーの画家、エドヴァルド・ムンクの回顧展。オスロ市立ムンク美術館のコレクションを中心に、代表作の「叫び」をはじめ、約100点が展示されています。

叫び 1910年

私が初めて「叫び」を見たのは1980年頃、東京国立近代美術館で開催されたムンク展です。当時はまだそれほど知られていなくて来場者も少なく、じっくり見れたことを思い出します。ムンクの「叫び」は全部で5点あり、今回初来日しているのは最後に描かれた作品です。同じ構図で描かれた「絶望」「不安」も展示され、赤い空が強烈な世界観を放っていました。

ちなみに「叫び」に描かれている男性は、叫んでいるのではなく両手で耳をふさいでいます。先日見たNHKの「日曜美術館」では、男性はムンク本人で、産業の発展で祖国の森林が伐採されることに絶望を感じ、自然が放つ叫び声に耳をふさいでいる...と分析していました。

自画像 1882年

ムンクは生涯にわたり、80点以上の自画像を描きました。本展では自画像と名のつくものだけで11点、自撮りした写真も6点ありました。タイトルになくても、ムンク自身がモデルとして描かれている作品もあるので、それも含めると20点以上はあったかもしれません。

といっても、決してナルシストだったわけではなく、きっとものすごく内省的な画家だったのだろうと思います。しかも自画像は、作品によって別人かというくらい表情がまるで違うのです。上の作品は、ムンクが19歳の時、最初に描いた自画像で、活動をはじめたばかりの青年画家としての自信と野心にあふれています。

しかしその後は、死を意識した絶望の表情だったり、恋人と発砲騒ぎを起こしたあとの苦悶の表情だったり、療養生活を終えた穏やかな表情だったり... 最晩年の「自画像、時計とベッドの間」は、ヒトラーから退廃画家として作品を没収され、祖国を占領され、無の表情が描かれていました。

病める子I 1896

ムンクは、子ども時代に母と姉を結核で亡くしました。死が身近にあったことは、生涯にわたって彼の作品に大きな影響を及ぼしました。初期の頃、病床にいる姉を描いた「病める子」という作品を数多く残しています。

接吻 1895

ムンクは同じタイトル、モチーフで作品をたくさん残しています。自分の作品を ”子どもたち” とよんで大切にし、作品が売れて手元から離れると、同じ作品を描くこともあったそうです。「接吻」も数点ありましたが、上のエッチングの作品はもっともリアルで生々しく感じられ、ドキッとしました。

森の吸血鬼 1916-18

吸血鬼というとドラキュラを思い浮かべますが、ムンクが描くのは女性の吸血鬼。数々の女性と恋愛を重ねたムンク... この作品も女性との命がけの恋愛を吸血鬼に例えたのでしょうか。

マドンナ 1895/1902

艶めかしい聖母のまわりに胎児と精子が描かれ、発表当時物議をかもした作品です。

マラーの死 1907

恋人との発砲事件を題材に描いた作品。ムンクの手が血に染まっています。

生命のダンス 1925

ムンクの絵は、ドレスの色にも意味が込められているそうで... 左の白は”清らか”、右の黒は”拒絶”、中央の赤は”性愛”を表しているそうです。「赤と白」という作品もあり、白いドレスの女性は”純真”、赤いドレスの女性は”成熟”を表していると説明がありました。

星月夜 1922-24

晩年の作品の中から。星月夜というとゴッホを思い出しますが、ムンクの星月夜はキーンと冷たい北欧の空が描かれているように感じます。

コメント (4)

船橋屋さんの天ぷら &永田町の銀杏

2018年12月11日 | グルメ

映画を見る前に、新宿三丁目の「天ぷら船橋屋」さんでお昼をいただきました。創業明治19年の老舗の天ぷら屋さんです。私としては、映画に合わせてクリスマス気分を味わいたい気持ちもあったのですが、天ぷら好きの夫の希望で... でもまあ結果的にはおいしくて満足でした。

こちらは平日限定のお昼の定食があり、揚げたてのおいしい天ぷらがお得に楽しめます。カウンターに座ると、目の前で次々と揚げて出してくださるのがうれしい。ごま油の香ばしい香りやパチパチと揚げる音を楽しみつつ、おいしくいただきました。

天ぷらの定食のセットです。なんということもない写真ですが... ごはんにお味噌汁、香の物、天ぷら用の大根おろしとしょうが。小鉢はこの日は酢の物でした。

最初に揚がったのは海老と鱚(きす)。塩3種類と天つゆが用意されているので、お好みでいただきます。

かぼちゃと茄子だったかな...?

ピーマンとかき揚げ。かき揚げは小海老がたくさん入っていて、ボリュームたっぷり。大満足のランチでした。

***

これはまた別の日。先日、車で霞ヶ関から永田町の方に抜けたら、銀杏の黄葉がとってもきれいでした。

霞ヶ関交差点の近く。銀杏の黄色い絨毯が美しくて、思わずパチリ。

物々しい警備の中、首相官邸前のみごとな銀杏。トップシークレットです。^^

議事堂の裏あたり。紅葉はそろそろおしまいですが、銀杏はまだまだきれいですね。名残りの黄葉が楽しめました。

コメント (6)

くるみ割り人形と秘密の王国

2018年12月10日 | 映画

チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」からインスパイアされた物語。ディズニーによる実写映画化です。

くるみ割り人形と秘密の王国 (The Nutcracker and the Four Realms)

愛する母を亡くして心を閉ざしていたクララ(マッケンジー・フォイ)は、クリスマスイブの夜に、母が遺してくれたという鍵のかかった卵形の小箱を受け取ります。その鍵を探し求めて、クララは4つの王国からなる不思議な世界へと足を踏み入れますが...。

「くるみ割り人形」は、チャイコフスキーの音楽もバレエも大好きな作品です。特にこの時期は、ニューヨーク・シティバレエの夢のような舞台を思い浮かべながら、気がつくと音楽を口ずさみ、うきうきした気持ちになっています。

ということで、予告を見た時から楽しみにしていた本作。多少アレンジされていることは承知の上で、ディズニーがこの夢の物語をどのように描いているのか? クリスマスシーズンのきらきら気分を味わいながら、見に行ってきました。

もうひとつ楽しみにしていたのは、アメリカン・バレエシアター(ABT)のプリンシパル ミスティ・コープランドが特別出演していること。コープランドはABTの初めての黒人女性プリンパルとして話題になっていた頃から注目していました。

相手役は世界的バレエダンサーで、最近では俳優としても活躍しているセルゲイ・ポルーニン。夢の競演です。

クララを演じるマッケンジー・フォイは、そばかすが愛らしい女優さん。本作ではドレス姿の花のような美しさもさることながら、兵隊姿が凛々しくてきゅんきゅんしました。知的で行動力のある、現代的なプリンセスというのがよかったです。

びっくりしたのがキーラ・ナイトレイ。予告を見た時には、まったく気がつきませんでした。話し方も高く上ずった声で、いつもと全然違います。夫はシンディ・ローパーみたいと言っていましたが、私は「ハンガーゲーム」のエリザベス・バンクスを思い出しました。^^ キーラの新境地? 新しい魅力を発見しました。

クララを助けるくるみ割り人形=キャプテン・フィリップにジェイデン・F・ナイトくん。このほか、モーガン・フリーマンとヘレン・ミレンが、脇をしっかり支えています。

期待を大きく上回るものではなかったけれど、映像や衣装がすばらしく、クリスマスシーズンにぴったりのかわいらしい作品でした。ネズミが大きな役割をはたしているのがディズニーらしいなーと思いました。^^

私は音楽とバレエを楽しみにしていたので、実はランランのピアノが聴けるエンディングが一番気に入りました。コープランドとポルーニンのバレエのほか、ジェイデンくんがキレキレのダンスを見せてくれます。

Lang Lang - The Nutcracker Suite (From "The Nutcracker and the Four Realms")

コメント (6)

パセリを使って タブーリとジェノベーゼ

2018年12月07日 | 料理

先日パセリの大きな束を見つけて、きれいだなーと後先考えずに買ってしまいました。

直径30㎝はあるでしょうか。綿菓子くらいの大きさです。しばらく楽しめそう...。さて、何にしようかな~?とまず作ったのはタブーリ(Tabbouleh)。中東で食べられるパセリいっぱいのサラダです。

以前、イスラエル料理のお店で食べたのを思い出しながら作りました。パセリたっぷり、きゅうり、たまねぎ、プチトマト、キヌアを使いました。赤たまねぎを使うとより色がきれいに仕上がります。

ドレッシングはお店では酸味が強めだったように記憶していますが、私は少し甘みを加えてマリネ風のドレッシングにしました。全体に味がなじむとまろやかになります。パセリの青くささもまったくなく、手が止まらなくなるおいしさです。

イスラエル料理のお店ではタブリー(Tabouli)とメニューにありましたが、レバノン、シリア料理ではタブーリ(Tabbouleh)とよばれているようです。

これはまた別の日、ネットで見たのを思い出しながら、適当にアレンジして作りました。スキレットにごま油を熱して、にんにくみじん切り、赤唐辛子を炒めて香りを引き出し、パセリを炒めて軽く塩をし、最後にいりごまを混ぜています。食感の違いが楽しめるよう、茎も適当に入れています。葉っぱがチリチリしたところがおいしくて気に入りました。

残りはジェノベーゼにしました。ジェノベーゼは、いつもはバジルの葉、乾煎りした松の実、にんにく、オリーブ油をブレンダーでが~っとして作りますが、今回は、バジルの代わりにパセリの葉、松の実の代わりに家にあったくるみを乾煎りして入れました。ブレンダーいっぱいのパセリの葉から、250mlのソースができました。

ジェノベーゼは早速パスタにあえていただきました。炒めたベーコンも入れましたが、混ぜずに上にのせた方がピンクが彩りになってきれいだったかも...。バジルの苦手な人にもクセがなく、おいしくいただけると思います。ジェノベーゼはまだたくさんあるので、しばらく楽しみたいと思います。

***

おまけで最近気に入っているお料理を...。

ブロッコリーの茎のアーリオオーリオ・ペペロンチーノです。ブロッコリーの茎は皮をむいて細切りに。スキレットにオリーブ油を熱してにんにくと赤唐辛子を炒めて香りを引き出し、茎を炒めて塩で味を調えます。シンプルですが、病みつきになるおいしさです。

コメント (12)

三島由紀夫原作の舞台「豊饒の海」

2018年12月06日 | 舞台・音楽会

三島由紀夫原作の舞台「豊饒の海」を見に行きました。場所は新宿の ”紀伊国屋サザンシアター TAKASHIMAYA” です。東京公演は既に終了していますが、12月8・9日に大阪公演が予定されています。

「豊饒の海」は三島由紀夫の最後の作品で「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の4部から構成されています。私にとって心に残っている特別な作品ですが、ちょうど先日「奔馬」の舞台である奈良の三輪山を訪れたばかりだったこともあり、不思議な縁を感じました。先日偶然この舞台のことを知り、急遽チケットを取って見に行ってきました。

「豊饒の海」は輪廻転生の物語。「春の雪」の主人公である侯爵の令息 松枝清顕が、「奔馬」では右翼の少年剣士、「暁の寺」ではタイの王女、「天人五衰」では孤独な通信員に転生していきます。この壮大な4部の物語を、どうやって2時間40分の舞台に収めるのか。駆け足になってしまうのでは?と少々心配でもありました。

ところが舞台では、第1部の「春の雪」をベースに、他の3つの物語が交錯する作りになっていたので、なるほど~と納得しました。たしかに時系列に展開すると、第1部に登場する清顕は、前半早々に退出することになってしまいますものね。4つの物語が交錯することで、4人の関係性が鮮やかに浮かび上がり、物語に深みを与えていたように思いました。

主人公の松枝清顕を演じるのは東出昌大さん。とにかく背が高くて(189cm)、足が長く、頭が小さくてびっくり。@@ 繊細で誇り高く、未熟さゆえに情熱に突っ走り、やがて破滅へと突き進む清顕。白いシャツを清潔に着こなし、どこか古風な佇まいも感じられる東出さんは、清顕のイメージにぴったりでした。

清顕が転生する少年剣士 飯沼勲に、宮沢氷魚さん。小説では、勲には男くさくてごついイメージを抱いていましたが、宮沢さんのもつ透明感やひたむきな雰囲気は、勲の理想に向かって突き進む純粋な精神に通じるように思いました。最後に転生する孤独な通信士 安永徹に上杉柊平さん。真に迫った酷薄な演技にぞくっとしました。

この他、清顕と禁断の恋に落ちる幼なじみの綾倉聡子に「終戦のエンペラー」の初音映莉子さん。全作にわたって登場する清顕の親友 本多は、青年、中年、老年と3人の役者さんがリレーで演じます。老年の本多に「沈黙 サイレンス」の笈田ヨシさん。本多の女友達 慶子に舞台女優のベテラン神野三鈴さん。

***

白木の床に黒を背景にした舞台は、シンプルにてスタイリッシュ。幕が上がると、舞台中央の奈落に三光の滝が設えられていて、一気に物語の世界に引き込まれました。そして印象的だったのは黒子たちの所作の美しさ。大道具・小道具のセッティングだけでなく、登場人物たちを死の世界へと誘う悪魔を演じているように感じました。

死の気配が濃厚なこの作品を見ていると、私はどうしても老いることへの恐怖に打ちのめされます。決して夭逝することを美化しているわけではないし、清顕たちが幸せな最期を遂げたわけではないのですが。

清顕に魅せられ、彼の亡霊に人生を翻弄されてきた本多。ところが老いてから、聡子が出家した月修寺を訪れると、聡子は清顕を知らないというのです。聡子が到達したこの境地こそが、私たちが目指す場所なのかも...とふと思いました。

コメント (2)

地下鉄道 :コルソン・ホワイトヘッド

2018年12月03日 | 

19世紀初頭のアメリカ。南部のジョージア州にある農園で奴隷として生まれた少女コーラは、新入りの奴隷の少年シーザーに誘われ、自由な北部を目指して逃亡することを決意します...。実在した秘密組織、地下鉄道を題材にした物語。ピューリッツァー賞ほか、数々の賞を受賞した話題作です。

コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳「地下鉄道」(Underground Railroad)

地下鉄道のことを初めて知ったのは、アメリカの小学校の歴史教科書です。19世紀のアメリカでは、奴隷制が認められていた南部から、奴隷制が廃止されていた北部へと奴隷が亡命するのを手助けする秘密組織がありました。

自由黒人とよばれる人々や、リベラルな白人たちが担い手となっていて、その秘密のルートは地下鉄道というコードネームでよばれました。奴隷を誘導する人たちは車掌、奴隷の隠れ家は駅、匿った人たちは駅長とよばれ、他にもさまざまな暗号があり、奴隷たちは駅から駅を伝って北部を目指したのです。

***

奴隷の歴史については、これまでに見た映画の知識も助けになりました。例えば、コーラの祖母がアフリカからアメリカに連れてこられた場面は「アミスタッド」、南部の農園での奴隷たちの苦難については「それでも夜は明ける」(12 Years a Slave)、南部の農園からの逃亡については「大統領の執事の涙」(Lee Daniels' The Butler)など。

テーマは重いですし、容赦ない残酷描写もありますが、コーラの逃亡劇がスリリングにドラマティックに描かれ、こういう言い方は適切ではないかもしれませんが、エンターテイメントとしても引き込まれました。きっと映画化されるだろうな~と思ったら、「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督によるドラマ化が決まっているそうです。

本作を読んでいて、あれ??と思ったのは、地下鉄道が実際の鉄道として描かれていたこと。匿ってくれる人の家の地下に駅があって、そこから列車(私はトロッコをイメージした)に乗って州をまたいで移動するのです。トンネルを抜けるとそこにはどんな世界が待っているのか。リアリズムとファンタジーが交錯する物語の世界を堪能しました。

***

コーラを逃亡に誘ったシーザーは、前の農園主から習い、字を読むことができました。しかし字が読めると知れることは時に奴隷にとって命取りになります。ひた隠しにしていたシーザーでしたが、目の動きから彼が字が読めることに気づいた白人フレッチャーが、シーザーに接触したことから、この逃亡劇は動きはじめます。

シーザーは、コーラを幸運の女神と信じ、彼女を誘ってフレッチャーに運命を預け、逃亡の旅に出るのです。逃亡奴隷には賞金がかけられ、森で、町で、奴隷狩り人や一般市民が目を光らせています。フレッチャーははたして信用できる人物なのか。コーラたちは命からがら、最初の目的地サウスカロライナにたどり着きます。

そこで待っていたのは、”駅長”であるサムの温かい歓待。栄養のある食べものや清潔な衣服、ベッド。そして新しい名前と、自由黒人としての身分証明書。コーラはここで生まれて初めて、ひとりの人間として迎え入れられます。

***

奴隷を匿い、助けることは、白人にとっても大きな危険を伴うものでした。もしもそのことが知れたら、黒人以上に残酷な方法で処刑されることもあるのです。にもかかわらず、彼らをそうした尊い行いに導く力は何なのか、私だったらそのような勇気が持てるだろうか、本書を読みながら何度も考え込んでしまいました。

何の見返りも求めないこうした好意に、コーラはどうやって応えたらいいのか...。それは自分が生き延び、そして事情が許すならば、今度は自分がほかの奴隷たちを助けることだと、コーラは理解します。

サウスカロライナからノースカロライナ、テネシー、インディアナ... コーラの旅は続きます。コーラを血眼になって探しているジョージアの残虐な農園主ランドル。逃亡奴隷を捕まえることに生きがいを見出している奴隷狩り人リッジウェイ。はたしてコーラは無事に逃げ切ることができるのか、はらはらしながら引き込まれました。

コメント (6)