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地下鉄道 :コルソン・ホワイトヘッド

2018年12月03日 | 

19世紀初頭のアメリカ。南部のジョージア州にある農園で奴隷として生まれた少女コーラは、新入りの奴隷の少年シーザーに誘われ、自由な北部を目指して逃亡することを決意します...。実在した秘密組織、地下鉄道を題材にした物語。ピューリッツァー賞ほか、数々の賞を受賞した話題作です。

コルソン・ホワイトヘッド著 谷崎由依訳「地下鉄道」(Underground Railroad)

地下鉄道のことを初めて知ったのは、アメリカの小学校の歴史教科書です。19世紀のアメリカでは、奴隷制が認められていた南部から、奴隷制が廃止されていた北部へと奴隷が亡命するのを手助けする秘密組織がありました。

自由黒人とよばれる人々や、リベラルな白人たちが担い手となっていて、その秘密のルートは地下鉄道というコードネームでよばれました。奴隷を誘導する人たちは車掌、奴隷の隠れ家は駅、匿った人たちは駅長とよばれ、他にもさまざまな暗号があり、奴隷たちは駅から駅を伝って北部を目指したのです。

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奴隷の歴史については、これまでに見た映画の知識も助けになりました。例えば、コーラの祖母がアフリカからアメリカに連れてこられた場面は「アミスタッド」、南部の農園での奴隷たちの苦難については「それでも夜は明ける」(12 Years a Slave)、南部の農園からの逃亡については「大統領の執事の涙」(Lee Daniels' The Butler)など。

テーマは重いですし、容赦ない残酷描写もありますが、コーラの逃亡劇がスリリングにドラマティックに描かれ、こういう言い方は適切ではないかもしれませんが、エンターテイメントとしても引き込まれました。きっと映画化されるだろうな~と思ったら、「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督によるドラマ化が決まっているそうです。

本作を読んでいて、あれ??と思ったのは、地下鉄道が実際の鉄道として描かれていたこと。匿ってくれる人の家の地下に駅があって、そこから列車(私はトロッコをイメージした)に乗って州をまたいで移動するのです。トンネルを抜けるとそこにはどんな世界が待っているのか。リアリズムとファンタジーが交錯する物語の世界を堪能しました。

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コーラを逃亡に誘ったシーザーは、前の農園主から習い、字を読むことができました。しかし字が読めると知れることは時に奴隷にとって命取りになります。ひた隠しにしていたシーザーでしたが、目の動きから彼が字が読めることに気づいた白人フレッチャーが、シーザーに接触したことから、この逃亡劇は動きはじめます。

シーザーは、コーラを幸運の女神と信じ、彼女を誘ってフレッチャーに運命を預け、逃亡の旅に出るのです。逃亡奴隷には賞金がかけられ、森で、町で、奴隷狩り人や一般市民が目を光らせています。フレッチャーははたして信用できる人物なのか。コーラたちは命からがら、最初の目的地サウスカロライナにたどり着きます。

そこで待っていたのは、”駅長”であるサムの温かい歓待。栄養のある食べものや清潔な衣服、ベッド。そして新しい名前と、自由黒人としての身分証明書。コーラはここで生まれて初めて、ひとりの人間として迎え入れられます。

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奴隷を匿い、助けることは、白人にとっても大きな危険を伴うものでした。もしもそのことが知れたら、黒人以上に残酷な方法で処刑されることもあるのです。にもかかわらず、彼らをそうした尊い行いに導く力は何なのか、私だったらそのような勇気が持てるだろうか、本書を読みながら何度も考え込んでしまいました。

何の見返りも求めないこうした好意に、コーラはどうやって応えたらいいのか...。それは自分が生き延び、そして事情が許すならば、今度は自分がほかの奴隷たちを助けることだと、コーラは理解します。

サウスカロライナからノースカロライナ、テネシー、インディアナ... コーラの旅は続きます。コーラを血眼になって探しているジョージアの残虐な農園主ランドル。逃亡奴隷を捕まえることに生きがいを見出している奴隷狩り人リッジウェイ。はたしてコーラは無事に逃げ切ることができるのか、はらはらしながら引き込まれました。

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