日々描いたマンガやスケッチ、似顔絵などを貯めていく貯金箱のようなブログ。
スケッチ貯金箱
似顔絵(奥貫薫さん・「龍馬伝」 武市冨) (portrait KAORU OKUNUKI)
素晴らしい演技だった。
投獄された夫が、待った甲斐も空しく
切腹の儀となった当日。
しかし「夫が切腹する日」とは、どんな日なのだろう。
その一日を、家で妻はどう過ごしたのか。
やがて牢屋番(密かに半平太を尊敬し、
なにくれとなく冨に連絡をしてくれていた)がやって来る。
半平太の手紙を携えて。
「武市様は、立派な最期でございました。」
そして冨は、手紙を読む。
冨。お前に嘘をついていたことがある。
一緒にいろいろな所へ見物に行こうと約束していたが、
果たせなくなってしまった。許してほしい。
半平太が役人に捕えられて獄へ引き連れられて行った日。
役人が大声を出して戸を叩く音を聞きながら、
あそこにも出かけよう、あそこにも見物に行こうと、
悲しくも約束をしていたのだ。
それに向かって冨は
「あなたと一緒なら、家にいるだけでうれしい。」と言っていたのだ。
半平太は、介錯も拒んで、
一人で腹を十文字に掻き切り、果てた。
手紙の最後に、半平太は優しい言葉を書いた。
「けんどのう、冨。
もし来世というものがあるがやったら、
わしはまた、おまん(お前)と出会うて、
夫婦(めおと)になりたいがじゃきい。
そのときは、ずうっとおまんと一緒に、
おるがじゃきい。冨。」
読みつつ落涙しながらも、冨は気丈に、
次のように言うのだった。絵に描いたような表情で。
「わたしの旦那さまは、
立派な最期を迎えることが出来たがですきい、
私は幸せですきい。
これからは、旦那さまの分まで
私は生きて行きますきい。」
ラフカディオ・ハーンが「日本人の微笑」と呼び、
芥川龍之介が短編「手巾」で描いたような(この場合は息子の死だが)、
悲しみを抑えて、うかべる微笑というものを、
明治維新から150年も経った現代の日本人が、
見事に演じて見せてくれたのだった。
奥貫さんの演技に、ただただ感服する。
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