標高1,130mのディゼンティスでは、30分間の大休止。この先は会社がマッターホルン・ゴッタルド鉄道からレーティッシュ鉄道へと変わり、機関車も交換が行われます。
乗客にとっては、二度目の貴重なリフレッシュタイムです。駅のお土産屋さんも書き入れ時。お土産品が、どんどん売れていきました。
ホームには、姉妹鉄道の箱根登山鉄道から贈られた、日本語の駅名版も。スイスほどのスケール感ではないけれど、箱根の登山電車も、急カーブやスイッチバックが続く本格的な登山鉄道です。
サンモリッツやベルニナなんて地名を以前から知っていたのも、姉妹鉄道が縁で箱根の電車に愛称がつけられていたからでした。
高度を下げた列車は、渓谷沿いをクールへと向かいます。森林限界を超え平原だった雪山とは、うって変わった風景です。
沿線最大の都市、クール着。チューリッヒまで1時間15分の距離にあり、ほとんどの乗客は降りていってガランとしてしまいました。反面、列車には普通車が大挙増結され、停車駅も増えて、サンモリッツまでは普通列車の役割も担っていきます。
停車時間は20分あまりあったので、少し降りてみました。ホームを覆う、大きなドーム屋根が印象的です。
エスカレーターを上がればもうそこは駅の外で、黄色いポストバスが大集結していました。駅前広場(駅上広場?)が路線バスのターミナルを兼ねていて、乗り継ぎの便の良さには感心します。
ガラガラになった列車は、進行方向を反対にして出発、第3部の旅が始まります。サンモリッツまでのアルブラ線は、有名な世界遺産の区間です。
クールの街を抜けた列車は、まずは川沿いを進路に取ります。渓谷とも違った、やさしい表情の川です。
カーブが増え始めれば、今日2度目の山登りにかかります。景色もよくなってきたので、編成なかほどのバー車両へと足を向けてみました。
食事サービスの厨房を兼ねた車両は、半分がスタンディングのバーコーナー。山々の風景を肴に、瓶ビール(5.1フラン=608円)を空けました。
右へ左へとカーブし、停車した駅が眼下に、それも右へ左へと移っていく車窓は見ていて飽きません。ツェルマット発車から6時間を過ぎましたが、退屈知らずの道中です。
世界遺産の構成要素のひとつでもある、ランドヴァッサー橋を通過。目もくらむような高さです。
途中駅では、食堂車を連結した列車とすれ違いました。外観も内装もレトロな調度の車両で、今風の氷河急行とは好対照です。帰路の列車に連結されていたらいいな。
標高も再び1,000mを超え、今日3度目の雪景色になってきました。
ブレダ駅前では、老朽化した現トンネルに代わる新トンネルを建設中。大規模なヤードが組まれた建設現場の前には、広報コーナーが設けられていました。ドイツだと何か公共事業を起すときは、1割程度が広報費に充てられると聞いたことがありますが、スイスも同じような考え方なのでしょうか。
列車をリフト代わりに山を登り、ソリ遊びに興じる人々が、現場を横目に降りていきました。
トンネル工事の知識まで仕入れられたのは、音声ガイドサービスのおかげ。ポーンとチャイムが鳴り、表示板にヘッドホンの絵が出れば、オーディで沿線案内が流れる仕組みです。僕が分かるくらいだから、もちろん日本語も対応してます。
アルプスの伝統音楽を流し続けるチャンネルもあり、風景とそれはよくマッチしていました。
サメーダンでティラーノ方面の線路と分岐し、ラストスパート。コテージ風の建物が増えてくると、山岳リゾート地・サンモリッツは間もなくです。
午後5時、8時間に渡る長旅を終えてサンモリッツ着。変化に富んだ、楽しい旅路でした。
手元のガイドブックには、「ますはシャンパン気候とも呼ばれる爽やかな空気で深呼吸してみよう」とあったので、ホームで深呼吸。うむ、爽やかだ。
今日の泊まり先であるバート地区はサンモリッツ湖の対岸です。歩いても大した距離ではないので、湖畔を散策してみました。
湖とはいえ、氷点下の世界では凍結中。車も乗れるほどの強さで、「駐車禁止」の看板があったのは面白かったです。
旧市街・ドルフ方面へのエスカレーターへは、カンチレバー(片持ち梁)好きにはたまらない階段か湖に飛び出しています。
そのカンチレバーの上には、望遠鏡のようなものが。覗いてみると…
夏場のサンモリッツ湖が見える仕掛けになっていました。夏場には、冬の景色を映すんでしょうか?
ドルフ方面にはエスカレーターと斜行エレベーターが通じていて、エスカレーターはギャラリーコーナーになっています。エスカレーターに乗りながら絵画鑑賞ができて、こちらがオススメ。
今はサンモリッツのユニークイラストがテーマになっていて、シュールなギャグからちょっとした下ネタまで、クスリと笑える作品が楽しませてくれました。
泊まりはカーサフランコなるホテルですが、「チェックイン手続きはホテルゾンネへ」と書いてあったのを、今日は見落としませんでした。
昨日みたいに、実は同じ棟でした!なんてオチいいんだけどなと思ってチェックインしましたが、外に出て左へ、さらに左へ、もう1回左へ…と案内されました。
というわけで、徒歩3分のカーサフランコへ。ツェルマットでは山小屋風のホテルが目立ちましたが、サンモリッツではここに限らず、こざっぱりしたキューブ状のデザインの建物が多勢です。
部屋は、う、狭い。そしてちょっと古めかしい…実は昨日のホテルよりも宿泊費は高かったので、少し期待をして来たのですが、さすがは超が付く高級リゾート地。宿泊費の相場そのものが、かなり高めのようです。
テラスも申し分程度。これで2万ウン千円かあ…ただあくまで昨日との比較であって、寝る分には充分快適なホテルではありました。
夜の帳が降りると、サンモリッツ湖には対岸の旧市街が輝き始めます。少し寂しいバート側に泊まったからこそ見られる景色です。
旧市街方面へは、路線バスで向かいました。スイストラベルパスがあれば、バスも無料で乗れます。信用乗車方式なので都度チケットを出す必要もなく、ヒョイと飛び乗れる感覚も気軽です。
昼間は、きれいな10分間隔で運行されていて便利。ただ19時を過ぎると、急激に本数が減ってくるので注意です。深夜は3時まで走っていて、夜が早いのか遅いのか分からなくなります。
サンモリッツの旧市街、ドルフ。サンモリッツのシンボル、太陽のイルミネーションがおしゃれです。ロータリーを、連接バスがぐるりと折り返していきます。
ただ開いているのは飲食店くらいで、スーパーのCOOPでさえ19時には閉まったようです。もとよりコンビニという便利なものはなく、自販機もないので、何も手に入りません。
これという飲食店も見つからず、バスでバートの中心部へと戻りました。
こちらにもレストランは何軒もあるのですが、コンビニ的な役割の「Kキオスク」は店じまい後。自販機があったのでどうにか水は手に入ったけど、「お昼ご飯でお腹一杯だから、買い食いで済ませよう」という魂胆は崩れました。
日本は便利、スイスは不便と断じるのは簡単。ただ日本と比べて短い労働時間が、過度な便利さを追い求めないことで実現できているのだとすれば、見習うべき部分なのかもしれません。
ひとまず「食料は手に入れられるときに手に入れよ」という教訓を得て、夕ご飯はホテルゾンネのイタリアンレストランで済ませました。お値段はもちろんスイス価格でしたが、おいしかったです。
明日は、ホンモノのイタリアまで足を伸ばします。