劇場版『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』公開から一週間経過したので、ネタバレ感想行ってみます。
*ネタバレ厳禁の方はここまで!鑑賞してから見て下さいね。
1.絵について
本作の私の感想を一言で表すと、
『現代技術で「めぐりあい宇宙」のような安彦リファインが味わえる』
でしょうか。
劇場版「機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙」公開から今年はちょうど40周年。
40年前、「めぐりあい宇宙」公開時は、TV版「機動戦士ガンダム」の同作製作時期に安彦良和氏が病気欠席していた為、同作でTV版で参加出来なかった安彦氏が新作カットを多数盛り込み話題となりました。
本作「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」も、ベースとなるTV版「機動戦士ガンダム 第15話 ククルス・ドアンの島」に安彦氏がほぼ参加せずの外注製作だった為、同じように「安彦氏の新作カットで蘇る感動」が味わえます。
しかも現代アニメ技術により、とことんまで「安彦ガンダム」に拘った製作がされております。
例えば「キャラクターの線描写」
現代アニメではデジタルベースだからか「(線ごとの太さは違っても)1本の線の太さは均等」なんだそうです。
しかし本作では「安彦氏の描写」を再現させる為、「1本の線の太さが不均等」。
キャラクターの感情やシーンの意味に沿って変化する「安彦氏の表現」を線1本からトレースしています。
「モビルスーツの描写」も拘りがあります。
本作のモビルスーツは手書きでは無く、現代では主流の3DCG。
しかしベースとなる「絵コンテ」は安彦氏とイム副監督による手書き。
絵コンテから伝わる意図や「安彦ガンダムらしさ」を表現するため、姿形が変わるはずの無いモビルスーツの3DCGを場面ごとに変更しています。
ガンダムの顔が左右非対称になったり、モビルスーツが3DCGではあり得ない可動するようディフォルメしたりしています。
「ドアンザク」がカトキ氏中心の意見から「異形のザクとしてデザイン」されたのは有名ですが、モビルスーツ描写も「安彦ガンダム」らしい感情のあるような描写を3DCGで試みているのも凄いところですね。
2.物語について
安彦氏が「高畑氏(ジブリ等)のような生活描写に力を入れた」と語られていただけあり、本作はドアン島を中心とした子供の生活描写を中心に描かれています。
その効果か、作品全般に牧歌的な雰囲気が出、子供からお年寄りまで幅広い年代層の鑑賞向け作品のように仕上がっています。
しかし、その一方で物語導入部に何の説明も無いので、突然「ドアンザクがジムを蹂躙するシーン」に始まり、ホワイトベースのシーンへ。
ガンダム初見の方にしたら、「ゴーグル型ロボが次々と一つ目ロボに撃破された原因を調査に行く」くらいまで理解頂けたなら上等でしょう。
そのくらいの情報で物語が進行するので、一見さんにツライ導入です。
「富野ガンダム」の場合、劇中のセリフで乱暴に物語の状況を観客に理解させようとするんですが、本作にはそれも無く、「連邦とジオン」「ガンダムとザク」「アムロとホワイトベースの仲間」くらいは知ってる事を前提に話が進みます。
一方で「子供でも楽しめる作風」にしてるのに、物語導入で「みんなガンダム知ってるよね」なスタンスなので勿体ない作りです。
あの有名な「人類は増えすぎた人口を宇宙へ移民するようになって・・・」と「哀戦士の序盤解説」を現代3DCGバリバリ、永井氏ライブラリー出演でやっても良かったんじゃないかと感じます。
「宇宙戦争~コロニー落とし」で劇場ならではの壮大なスケール感の演出と世界観の説明し「ガンダム初見様」へのフォロー、BGMやナレーションを当時のものにする事で、一気に従来のファンをタイムスリップさせる二次効果も期待できます。
「哀戦士の序盤解説」のようなシーンを導入すればアムロやホワイトベースの仲間を説明できる上、ORIGINベースの時間軸変更もさりげなくフォローできます。
「ハサウェイ」で新規獲得したガンダム顧客を本作でも更に増やすチャンスでしたが、「ガンダムを知らない世代」には物語導入で壁にぶつかりそうです。
逆に、劇場版「機動戦士ガンダム 哀戦士」で削除された「TV版 機動戦士ガンダム」の「マ・クベによる核ミサイルのエピソード」を拾ってくれたのは良かったです。
古参ファンには嬉しいサプライズでしたし、劇場作品としてのスケール感を演出されていました。
また、安彦氏は「ガンダムはヒーロー」と語られていただけあり、その活躍も嬉しいものがありました。
ガンダムは「リアルロボットアニメのパイオニア」と言われていますが、ファーストガンダムのモビルスーツアクションは、ヒーローや時代劇を思わせる活躍や構図が良い演出として生きていました。
そういったポイントも外す事なく描かれていて、ファーストガンダムらしいアクションの快感も感じられました。
3.演技について
本作序盤からホワイトベースのクルーが登場。
アムロもそうですが、オリジナルキャストである古川氏が演じるカイが、ニヒルだけど根の温かい人柄が滲みでていて嬉しかったです。
序盤のドアン島でカイのガンキャノンに子供達が石を投げつけるシーン。
この収録で古川氏は「子供達が邪魔」という演技をしたそうですが、安彦氏に「カイはそうしない」と指摘され、「子供達に困惑する」演技に修正。
古川氏は、その指摘に恥じ入るとともに「安彦監督もカイを判っている」と嬉しく感じたそうです。
自分からこのエピソードを披露する古川氏の度量も素晴らしいですが、古川氏や安彦氏がカイを大事に丁寧に理解している点が嬉しいですね。
アムロは古谷氏ですが、小説を読んで心配していた場面がありました。
それは「踏みつけ」シーン。
しかし、キャラクターの表情と古谷徹氏の素晴らしい演技に助けられ、「この時期のアムロなら、このくらいしてしまうか・・・。」くらいにいは許容できました。
このシーンは戦争に染まってしまったアムロを的確に描写するシーンですが、主人公の残虐性を無駄に強調せずに描けるか、難しいシーンでもありました。
4.キャラクターについて
本作のドアンは「孤児の親を奪ったから、島で一緒に生活してる。」等、簡単に説明がありましたが、ドアンとサザンクロス隊との関係は「脱走したドアンを許さないセリフ」と「セルマの匂わせ演出」「ダナンの異常な憧れ」のみで、深くは語られませんでした。
このあたりやシャアの動向等は、『小説 機動戦士ガンダム ククルスドアンの島』に描かれているので、そちらを購読いただければ、より楽しめると思います。
今月発売の「ガンダムエース」には本作を記念した「ククルス・ドアンエース」が付録されるようですし、益々盛り上がっていきますね!
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