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マイ・ブルーベリー・ナイツ [監督:ウォン・カーウァイ]

2008-03-24 22:21:20 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■■■□ (最高:■■■■■■、最低:■□□□□□)

アメリカが舞台でハリウッドスターをごっそり使って、ついにカーウァイがハリウッド進出!! アメリカ映画デビュー!!!・・・と言いたい所だが、製作は「STUDIO CANAL」。フランスの製作会社で、フランス・香港合作映画というのが正しいところである。

もともとは花様年華に差し挟む1ショートエピソードととして着想された物語とのこと。
中華圏版キャストも容易に想像がつく
ノラ・ジョーンズ→フェイ・ウォン(「恋する惑星」の頃の)
ジュード・ロウ→金城武
ストラザーン→アンディ・ラウ
レイチェル・ワイズ→マギー・チャン or コン・リー
ナタリー・ポートマン→チャン・ツィーイ
現年齢を考えると、ポートマンをフェイ・ウォンにして、ノラ・ジョーンズをドン・ジェちゃんにするほうが無難かな
いやいや、ここはカーウァイ組じゃないけど、可愛そうに中華圏で干されかかってるタン・ウェイちゃんあたりにやらせたいな
・・・・といった妄想キャスティングで楽しめる本作だが、ナタリー・ポートマンの役名が「レスリー」であったことを考え、さらに上記にカーウァイの分身トニーがいないことへの違和感、「花様年華」の撮影はレスリー・チャン存命だった時期・・・
わかった、主人公はフェイ・ウォンでもドン・ジェでもタン・ウェイでもない。トニー・レオンだ!!!

小説家のセンセであるトニーは、カフェの店長金城武に性を超えた恋心を感じてしまう。
こいつはいかんと、放浪の旅に出るトニーは、マギーにふられて自殺するアンディを目の当たりにし男女ラブの限界を感じる。
そこにさすらいのギャンブラー・レスリーが現れ、彼と旅し、同じモーテルで過ごし、あれやこれや教えられ、なんだ同性愛って全然アリじゃん、と気付く。
こうしてトニーは金城のカフェに戻り、晴れて二人は結ばれるのだった

全然、いいじゃん。といってももちろんレスリーは今は亡く。妄想すればするほど哀しい気分に襲われていくのである。

******
煮込みすぎて変な味になった濃厚中華料理の「2046」は、あのこってりしすぎ、塩もスパイス効かせすぎな感じが実は私的には美味だったりするのであるが、どうも世評を見渡すと褒める人よりけなす人の方が多いようだ。妄想好きなおいらにとっちゃ妄想代理人的カーウァイの混沌ぶりに脳を侵食されそうな感じが、変に快感だったのに。
でも鳴り物入りで発表した、色々やりすぎちゃった濃い目映画で「微妙・・・」ってな評価を受けた監督が、次作では憑き物がおちたように薄味映画に走るのを何度か見てきた気がする。
岩井俊二は「スワロウテイル」の後「四月物語」を撮り、
チャン・イーモウは「LOVERS」の後「単騎、千里を走る。」を撮る
エゴ強すぎで客が引く高級料理を作ったシェフが、「早い!安い!美味い!」の大衆食堂で料理作りの原点を思い出す。
そして「恋する惑星」や「天使の涙」のころの深いこと考えないウォン・カーウァイが戻ってきた。
塩ふって、ジャァ!!っと炒めて、はいお待ち!!と出されたのは、チャーハンじゃなくてブルーベリーパイだったけれど、美味いんだ、これが。

そこには野心なんてこれっぽっちもない、90年代の「お洒落監督」だったむき出しのカーウァイがいる。
クリストファー・ドイルじゃなくてもいいんだ・・・と思ってしまう、カーウァイ刻印ばっちりきざまれた映像。
古い恋をひきずり、忘れない終わらせたくないともがく子供っぽい人たち。
社会性とかメッセージとか斬新な表現とか斬新なストーリーとかなく、カーウァイの引き出しの中のものをもう一度取り出してリサイクルしたかのような作品。
あそこは美味い、あっちもいけとるとかいいつつも、なんだかんだでいつも行くラーメン屋の食べなれた安心した味。

********
それでも「アメリカ撮りならでは」のものを感じるのは、広大な大地を突っ走る車の疾走感と、心理的ディスタンスより物理的なディスタンスを強調するロードムービーであるところか。

「恋する惑星」の印象的なモノローグ
「その時、彼女との距離は0.1mm、57時間後、僕は彼女に恋をした」
「その時2人の距離は0.1mm。6時間後、彼女は別の男に恋をした」
香港では、心の距離は遠くても、物理的な距離は近い。
道を歩けば必ず人にぶつかり、ぶつかった誰かと恋に落ちるかもしれない。
だが「マイ・ブルーベリー・ナイツ」の舞台はアメリカだ。
とにかく広い。
心の距離ばかりか地理的な距離もあり得ないほど広がる。
密度の高い香港では、ディスタンスの説明には、囁くようなモノローグが使われる。
一方アメリカでは、地理的距離がほとんど絶望的な隔たりとして二人の間に横たわっている。そのためかディスタンスの表現にはモノローグではなく、スクリーンをいっぱいに使い単語と単語とのスペースをたっぷりとったテキストにより、過ぎた日々と広がった地理的距離が説明される。

「恋する惑星」にせよ、「天使の涙」にせよ、走り回る若者たちのエネルギーが映画に活力を与えていたが、香港という狭い都市では走り回ることで逆に物も建物も人も高密度な窮屈さが強調され閉塞感を覚える。だから走り回るのだが。
しかしアメリカは広い、走るにも車を使う。通りを渡れば済む話を、あり得ないくらい大回りしてわたることができる。
広大な大地を車でぶっ飛ばす開放感は、恋する運命を信じる女の子に希望を与え、あのなつかしのブルーベーリーパイへと戻る力を与える。

「欲望の翼」、「花様年華」、「2046」といったカーウァイ作品では旅することが作品に情感を与えた。
「恋する惑星」のフェイ・ウォンも突如、カリフォルニアへ旅立ち、一年後に香港のトニーの元に戻ってきたが、彼女が旅先で何を見、何を経験したのか、あの映画では一切描かれない。

カーウァイ映画では恋する運命も、結ばれない運命も、全て初めから決まっていることのように受け入れる。不思議な出来事が起こっても詮索したりはしない。なるようになる世界。
「恋する惑星」はトニーの運命を転がして遊ぶフェイ・ウォンの物語かと思いきや、運命の恋人を待つトニーの物語へと転化した。「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は、恋人を待つジュード・ロウは初めから運命の恋人ノラ・ジョーンズを受け入れ、ノラ・ジョーンズは運命の恋人ジュード・ロウを受け入れることに納得できるまで、旅を続ける。
二人の地理的ディスタンスが開く一方で、心のディスタンスが縮んでいく。香港時代には描かなかったウォン・カーウァイの世界とも思えるが、「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は、「恋する惑星」のフェイ・ウォンの空白の一年を描いているのかもしれない。

そんな風に、カーウァイファンなら彼の過去作品への思いと連動して観るのも楽しいだろう。
だが一方でカーウァイの過去作品と切り離しても、この映画は面白い。極めて楽天的。回り道してたどり着く恋をドキドキサスペンスフルではなく、そうなって当然とばかりに当たり前のオチに行き着く。ドイルなしでも健在な映像遊びと同様に、無駄なものばかりを寄せ集めて、たかが映画と2時間弱の世界を軽やかに爽やかに物語は流れていく。
苦労しなくても信じていればなんとかなるという、超楽観論の世界に身を委ね、映画は夢を具現化するアートだと改めて思わされたウォン・カーウァイの英語作品であった。

********
最後の最後に、カーウァイ作品はいつもそうだけど、今回も全ての役者が完璧かつ伸びやかに演じているのが心地いい。
苦悩パートを担当する、レイチェル・ワイズとストラザーンの、ノリにのった芝居。ストラザーンはバーで去り際に「グッドナイト、アンド、グッドラック」と言ってもおかしくない顔をする。
ナタリー・ポートマンの余裕しゃくしやくな演技。
ジュード・ロウも久々、高感度アップのいい兄ちゃん。
ほんで俳優としてはド素人に近いながらも、されゆえ手垢のついてないウブっぽさをかもすノラ・ジョーンズも素晴らしい。けどこれは彼女が主役でいけると見抜き、無理に芝居させず伸び伸び自由にやらせたウォン・カーウァイの功績だろう。俳優みんな素晴らしく見せるのが名監督の証。

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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ぷくちゃん)
2008-03-26 18:50:26
こんにちは。TB返しありがとうございまhした。

私にはなかなかわかりづらい映画でした。でも映像美と美しい女性にはうっとりといった感じです。
返信する
アンディ・ラウ (RIN)
2008-03-26 20:40:00
を、私も最初はキャスティングしたんですけど・・・。

アンディ兄貴は「今すぐ抱きしめたい」で「思い切りアンディ」
「欲望の翼」で「アッサリアンディ」でピリオド打たれた感があったんですよね(笑)
どっちも好きですけど。「欲望の翼」のアンディ警官はアンディ史上最も美しい気がします。

いろいろな監督がレスリーがいたらコメントをするんですが、
カーウァイのスクリーンで「レスリーの存在」と「レスリーの不在」を毎回痛感します。

「2046」も、もちろん好きなんですけど、軽快なフットワークのカーウァイを再び観られたことがすごく嬉しいです。

そうそう食べなれたラーメンの味です(笑)
返信する
コメントどうもです (しん)
2008-03-27 22:27:01
>ぷくちゃん様
映像美と美しい女性にうっとりでこの映画の80%はわかった様なものですよ

>RINさま
トニーがカーウァイ作品に出演を重ねるごとに大物になっていったのに対し、アンディは小物のままでカーウァイ史が終わってる感じがあるので、現大物アンディよ再びカーウァイにって気持ちもあるのです。
まあ、このストラザーンの役だと小物っぽいっすけど
「レスリーの不在」
そうですね。チェン・カイコーにもジョン・ウーにも感じますけど、もっとカーウァイ世界のレスリー観たかったです
返信する
距離感について (wanco)
2008-03-31 20:36:37
しんさん、こんばんは。
コメとTBありがとうございました。

アメリカを舞台にしての距離感の表現についての指摘は、なるほどというものがありました。「2046」は閉塞感がありましたが、今回のはアメリカという土地柄を上手く活かした展開で、さすがウォン・カーウァイですね。

ところで、松本の映画祭での最優秀賞受賞おめでとうございます。
僕は都合があって行けなかったのですが、機会があったら是非作品を観てみたいです。
これからも映画制作頑張って下さい。
返信する
コメントありがとうございます (しん)
2008-04-01 01:50:19
>wancoさま
脱香港の旅をした「欲望の翼」「花様年華」「2046」は故郷を離れるにつけ陰鬱になっていく主人公たちでしたが、本作は逆に明るくなっていく主人公です。
アメリカという土地がらのせいなのか、主役がレスリーやトニーでなく、女の子だからか
どっちでしょうね


商店街映画祭のHPでストリーミング配信するかもしれません。
アンテナ貼っておいて、観てみてくださいませ

返信する
Unknown (moriyuh)
2008-04-04 17:28:56
こんにちは。

TBありがとうございました。
私もお返しさせていただきましたので、よろしくです。

>全ての役者が完璧かつ伸びやかに演じているのが心地いい。

そうですね。余裕がある感じがしますね。
まるで演技じゃないみたいな…自然体というのとは違いますが、仰るとおりの「伸びやか」が心地いいですね。


返信する
コメントどうもです (しん)
2008-04-06 15:39:59
>moriyuhさま
俳優たちにあまり深いこと考えさせてない感じが、観てるこちらのリラックスにもつながった気がしますです
返信する
お邪魔します。 (足屋のおネエ)
2008-04-20 22:21:57
先ほど観てきて、こちらを覗いてみました。
映画はそんなに詳しいわけではないのですが、ウォン・カーウァイが好きで、と言うより、トニー・レオンが好きで彼が出る映画を追っかけていたら、必然的にウォンさんの映画を観ることになって・・・
花様年華色ぷんぷんの映画でしたね。
画面のそこかしこに、伏し線的画像が出てきて、にんまりしてしまいます。
なつかしー!そんな感じでした。

ざらつく画像処理や、絡ませる音楽の趣味、ブルーベリーパイに流れ込むアイスクリームの溶けた液体の隠微さ、楽しんでるよねー!って・・・

あのー・・ジュード・ロウ役は、やっぱ、トニーにしてくださいよ。あの無精ひげのうらぶれた感じはやっぱ、金城よりトニーかと・・・

淡々と続く途中、正直眠くなっちゃったんだけど、やっぱウォン・カーワァイのラブストーリィ好きです。

関係ないけど、名古屋のTSUTAYA庄内店、何で『花様年華』置いてないんだよぅ

返信する
コメントありがとうございます (しん)
2008-05-06 19:31:55
>足屋のおネエさま

うーむむ
トニーはもっとネクラ妄想男なイメージが
だからやっぱりノラ・ジョーンズの代わりの主役で勘弁してください
返信する

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