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映像作品とクラシック音楽 第61回 『ソーシャルネットワーク』と異種対決ナイン・インチ・ネイルズVSヘルベルト・フォン・カラヤン

2022-05-01 11:06:00 | 映像作品とクラシック音楽
今私たちがこうしてFacebookで楽しく交流できるのは、ほんの20年ほど前にマーク・ザッカーバーグという陰キャのキモい奴が不純な動機から大学内の交流サービスを作ったからです…ということがわかる映画です。
Facebook草創期を描いた映画ですが、公開は2010年。じゃあアーロン・ソーキンが脚本を書き上げたのは2009年のことでしょうか。ザッカーバーグが大学で遊び半分で「フェイスマッシュ」をエドゥアルド・サベリンと共に作ってリリースしたのが2003年、大学内交流サービス「The Facebook」のリリースが2004年。つまりほんの5年前のことをだいたい実名で描いていたわけです。しかもほとんどザッカーバーグdisってるみたいな内容です。

しかしこの頃の私の記憶だとザッカーバーグはこの映画についてほとんど何も発言していなかったように思います。
監督のデビッド・フィンチャーも「俺Facebookなんて使ったことないけど」みたいなことを発言していて、お互い触れ合わないようにしていたように思います。
まあ、しかしこの後のFacebook帝国、いまはMetaですか…の隆盛は皆さん知っての通り。
一方で当時すでにヒットメイカーだったフィンチャーは本作でついにアカデミー賞取るかと思われましたが『英国王のスピーチ』に敗れ脚本賞と作曲賞と編集賞だけの受賞に終わりました。けれどもフィンチャーの手腕は誰もが認めるところとなり彼は彼で更なる人気を勝ち得たのです。
ちなみに脚本を書いたアーロン・ソーキンは本作でアカデミー賞の脚色賞を受賞、その後も『マネーボール』『スティーブ・ジョブズ』『シカゴ7裁判』などを書き、今ハリウッドで一番の脚本家だと思います。
本作の会話会話会話で畳み掛ける異様な情報量でいて、二つの裁判と回想という三つの時系列をシャッフルしてるのに物語に迷わない完璧に計算された構成はこの20年くらいでもベスト級の脚本だったと思いますし、それを猛スピードで処理したある意味完成版をすでにファスト映画にしたフィンチャーの手腕もすごいと思うのです。

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アカデミー賞受賞と言えば実はアカデミー賞作曲賞も受賞している本作です。
作曲担当は、トレント・レズナー&アッティカス・ロスという二人組。
彼らは「ナイン・インチ・ネイルズ」というロックバンドのメンバー(と言っても正式メンバーは彼ら2人だけなんですが)
ロックと言っても私にもわかる王道なロックでなく、「オルタナティブ・ロック」などと言われるジャンルでして、彼らの90年代のアルバムとか配信で聴いてみたのですが、ギュインビニュゥゥンとノイジーな音が荒れ狂う音楽です。カラヤンだバーンスタインだジョンウィリアムズだと言ってる私みたいなオールドタイプにはさっぱりわからない音楽ですよ。
そんな彼らの本格的映画音楽侵攻が『ソーシャルネットワーク』で、しかもこの映画でアカデミー賞までとっちゃって。おまけに数年前『ソウルフルワールド』で2回目のオスカーを受賞しました。ゴールドスミスやモリコーネでさえ一回しか取ってないってのに、もう巨匠ですよ。巨匠!

そんな彼らの『ソーシャルネットワーク』の音楽は、明確なメロディラインは持たないながらも、異常なハイスピードで進む映画とぴたりシンクロしているのは只者じゃない感あります。
現代のミュージシャンらしく場面に合わせてどんどん電子音を付加していく作り方なのですが、それでいて一昔前のゲームミュージックのような古めな電子音を前面に出してきてちょっと懐かしさも感じさせるところ面白いです。
フィンチャーも『セブン』や『ゲーム』のころはハワード・ショアにオーソドックスなオーケストラ系の劇伴音楽を書かせていたのですが今ひとつ映像のインパクトに比べて地味感が否めなかったものです。本作でトレント&アッティカスに全編の劇伴を任せた事で、何かがピタッとはまったような感じがあったのでしょう。フィンチャーは以降の作品でも彼らに音楽を頼むようになります。

そうは言っても『ソーシャルネットワーク』の場合は基本的に音楽は脇役。映画のメインはしゃべりにしゃべるたくさんのキャラたちと目まぐるしく変わるカット割なわけですが…
唯一、音楽がメインとなるシーンがあるのです。台詞がなく、音楽が全面に出て盛り上げるシーンが。
と言っても、そのシーンは物語的には凄まじくどうでもいいシーンで、ザッカーバーグと対立するエリート大学生の兄弟がボート競技の大会に出場しているシーンなのです。ザッカーバーグも出てこないシーンだし、ぶっちゃけそのシーン全カットしても物語にはいささかも影響しない無駄シーンです。私はそういう無駄シーン大好物なのですけれどもね。
その割と長めのこのシーンでかかるのが、グリーグの「ペールギュント」の「山の魔王の宮殿にて」です。
それを楽譜的にはほぼそのままでオルタナロック風にアレンジした曲がかかります。映画ではシーンの長さに合わせて最初の方がカットされてますが、サントラだとフルサイズで聞けます。
で、なんか知らんけどこのシーンがまたえらい盛り上がるんですよ。無駄に。
オランダチームとアメリカチームの壮絶なデッドヒート。ぐんぐん追い上げるアメリカチームに迫力を増してくる「山の魔王の宮殿にて」がかぶさって、テンションマックス、しかし一歩及ばず先にゴールラインを越えるオランダチーム。悔しがるアメリカチームのところで、終曲部が彼らの言葉に代わってくやしさを絶叫してくれて、なんだかよくわかんない激しい盛り上がりのまま怒涛の如く展開していくのです。

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せっかくなのでペールギュント聴き比べ対決をしてみようと思います。私の持ってるカラヤンBPO版と対決です。

いくら同じスコアだからってクラシック対ロックなんて!
これは氷で滑るのは同じだからとロコソラーレVS羽生結弦の対決やるくらい無意味かもしれませんが…まあいいじゃないですか!

などと言って実は私ペールギュントの音源は「ベストオブカラヤン」収録の「朝」しかない事に気付きまして、わざわざ買ったのでした。
いきなり「全曲盤」はハードル高そうと思ってチャラめの組曲盤を買う事にしまして、こちらのグループ(クラシックCD鑑賞部屋)の投稿を参考にカラヤンBPOのを買いました。カラヤン版は71年録音と82年録音がありまして、「まとめ買いで安くなるキャンペーン」の対象だったので、82年版の方を買いました。
いやあ、ペールギュントの8曲も、ホルベルク組曲も良いですね。
クラシックの曲で初めて買うときのカラヤンの安心感。

さて、対決です。

【曲の解釈対決】
「山の魔王の宮殿にて」がもともとどういう場面で使われる想定で書かれたかというと…

ペールに恋した魔王の娘をペールが冷たくあしらったことを怒った魔王が部下の妖怪たちにペールを殺せと命じ、部下の妖怪どもが踊り狂う時の音楽

…だそうです。先に書いた通り全曲盤聴いた事ないのでネット調べです。
なんだか似たような場面は仮面ライダーなんかでよく見たような気がします
なるほど、ソーシャルネットワークでの使用シーンはザッカーバーグを叩き潰してやる!と怒り狂う者たちの演舞のようなものと考えれば、あのシーンでこの曲を使うのも納得できます。やるなトレント&アッティカス!
これはナインインチネイルズ組の勝利かと思わせて、カラヤン版の特に終盤の怒涛の迫力を聴いてみたら、もうそこには怒り狂ったショッカー怪人と戦闘員たちの姿が目に浮かぶようじゃありませんか!すごいですよ。異形な者たちの世界が映像なくても伝わってきます。やっぱカラヤンの勝ちです!カラヤンまずは1勝!

【迫力対決】
そりゃベルリンフィルの方が迫力ありますよ。説明不要。カラヤン2勝目

【映像とのシンクロ対決】
これはさすがにナインインチネイルズの勝利か…と思ったのですが、カラヤンはカラヤンで演奏ビデオに口を出し一部のカットだけ撮り直すためにそのカットに写る団員を呼んで演奏するフリをさせて再撮影したなんて逸話もあります。
カラヤンの方が映像とのシンクロ作業にかかる手間ははるかにめんどくさいと思うので、ここもまさかのカラヤンの勝利としたいと思います。(もっとも山の魔王の宮殿にての演奏ビデオを見たわけではないですが)

【おしゃれ感対決】
個人的見解ですがカラヤンの方がオシャレに見えます。




というわけでカラヤン4勝目
曲関係ないか

【ノリの良さ対決】
さあ最後の戦いです。もう後がありませんナインインチネイルズ。
しかしノリの良さ部門ならさすがにロックアーティストの方が有利でしょう。
そこで演奏時間を確認しましたが、トレント&アッティカス版は2分21秒
対してカラヤンBPOは…2分14秒
なんとカラヤンとベルリンフィルの方がロックミュージシャンよりノリがいい!フルスロットルですよ!
早けりゃノリがいいってわけじゃないでしょうが、でもカラヤンの演奏聞いてくださいよ。終わりの方とか会場総立ちでヘッドバンキングしたくなるようなヤバいノリありますよ!
ここもカラヤンの勝利です。

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最終結果はカラヤンが5勝0敗で圧勝というまさに帝王の貫禄を見せつける結果となってしまい、トレント&アッティカスにとっては厳しい結果となりました。しかしこの名勝負を盛り上げる善戦をみせた彼らにも惜しみない拍手を贈りたいと思います。
また、もうアカデミー賞2回受賞の巨匠な彼らなんだからこの程度の悪口は軽く受け流して頂きたいと思います。

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余談
『ソーシャルネットワーク』では音楽配信の黎明期についての言及がほんの少しだけあります。Facebookを世界に広めた立役者のショーン・パーカーが音楽ファイルの共有サービスを初めたはいいが、著作権侵害であちこちから訴えられたあたりが、さらっと説明されます。
そして実はトレント・レズナー&アッティカス・ロスのナインインチネイルズこそ、そのパーカーよりも早く、世界に先駆けて自分達の音楽をCDでなく配信で売り出した人たちなのだそうです。
彼らの音楽配信は成功しなかったようですが(時代を先取りしすぎていたのか)、そのおかげで私たちはわざわざレコード屋に行ってCDを物色しなくても音楽を楽しめるようになったのです。
と言っても私はレコード屋を物色して思わぬ出会いをすることが好きなので、必ずしも進歩とは思ってないですが、音楽を楽しむ選択肢が広がったのは確かです。
時代を変えたザッカーバーグとナインインチネイルズに感謝をしつつ…今回はこんなところで!
それではまた素晴らしいクラシック音楽と映画でお会いしましょう!



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