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劔岳 点の記 [監督:木村大作]

2009-07-15 21:46:30 | 映評 2009 日本映画
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

冒頭のまるでジェームズ・ボンド映画かゴルゴ13のような「とっくに知ってることとは思うが現在の情勢は×××といったところで、そこで○○○が必要だがそのためには△△△しなくてはならない。そこで君の任務だが■■■してほしい」みたいな『めんどくせーから台詞で全部説明しました』的潔さにプッ・・・と笑いそうになり同時に、大丈夫かこの映画・・・と少し心配にもなったのだが・・・結論としては、予想以上に面白かった。山を愛する男たちの絆を描いた骨太ドラマに仕上がっているのだ。

明治時代、軍事的な目的から日本地図作成が企画され、未踏峰の剱岳に陸軍お抱えの測量隊が送り込まれる。
一方で日本山岳会なる「お金持ち達の登山愛好家グループ」みたいなチームも測量隊をライバル視して剱岳初登頂を目指す。
軍はメンツをかけて、なんとしても山岳会より先に登れと命令し、マスコミも軍と日本山岳会の登頂レースを面白おかしく書き立てる。

というわけで単なる山登り競争を描くだけの浅い「プロジェクトX」ものに終わる危険性のある題材であり、同時に「お国のため軍のため」というただの愛国偉業ものに堕してしまう危険性もある題材であった。
しかしこの映画の作り手たちは、そういう危険性をすり抜けて、山を愛する男達のドラマへと昇華させることに成功した。
険しい山においては、自分を信じ仲間達を信じるしかない。軍事目的も虚栄心も消え、気が付けば男達の心は一体となり、いがみ合っていたライバルはお互いを尊敬し合う。
嫌な将校の卵みたいな松田龍平演じる青年士官。ずっと年上の人でも民間人ならば生意気に命令口調だったり、聞こえるようにイヤミを言ったり。あのままでは将来「私の言葉は天皇陛下の言葉であるぞ!!」などと言いながら朝鮮人や台湾人を叩きまくる典型的悪もの軍人キャラになるところだったが、山に癒され人の尊厳を知る好青年に変身。将来は朝鮮人や台湾人を叩くどころか、かばって命を落とす良い軍人さんになることだろう。
話はそれたが、むかつく軍人松田龍平や、測量隊を敵視する山岳会リーダー仲村トオルらの人間的成長が描かれるからこそドラマは成立し感動できるのである。
そしてラストの「どんでん返し」がよい。どんでん返しはフィルターの役割を果たし、軍事色も偉業賛美も競争の勝ち負けという俗っぽさも全てをろ過して、後には「山男たちの絆」だけが残る。「歴史的偉業」よりも男たちの絆の方が美しいのだと、この映画は語るようであった。

ドラマだけでなく映像の隅々から山への愛が溢れてくるようだった。
仲村トオルが観測用の櫓を建てる浅野忠信らの測量隊を見て「こんなところまで機材を運びあげるとは・・・」と感嘆する場面があるのだが、それと同じくらいこんな険しい山にカメラや照明やを運び上げて映画を撮るとは・・・と、映画の観客も感嘆するだろう。
「山を愛したスタッフが命がけで撮った映像が・・・これだぁ」「1、2、3」「わぁぁ(SEで付け足された驚きの声)」みたいに編集して某番組でつかえそうな映像が目白押しだ。険しい山に登った浅野忠信ら俳優陣と、スタントマンと、映ってはいないが多くのスタッフの頑張りも賞賛に値する。
猛吹雪の中、顔を布で覆う者が1人もいないとか、軽傷者数名を出したのみ(実際そうだっのかもしれんが)なので困難さが薄いとかつっこみどころは色々あれど、圧倒的な山の美しさとドラマの熱さand厚さを前にするとどうでもよく思える。
カット割りが割りと細かい。俳優の顔アップや煽りショットが多いので、そういうところは危険でない低い場所で撮ったのだろう。編集で上手く誤摩化してる。上手いな・・・と言う気もするし・・・もしかしたらカット割り的にはどこで撮ってもいいようなアップショットとかでも、ちゃんと危険な場所で撮ったのかもしれない。山へのこだわりが感じられる本作の本気臭がそう思わせる。だとするならカット割すぎでロケーションの効果が出てないよ・・・と思ったりもするが・・・

[追記]
エンドクレジットがまた熱い。「出演者」とか「監督」とか「脚本」とか「照明応援」とかそういう肩書き一切なしで、全員を「仲間たち」と総称する。頂上への第一歩を案内人に譲り「私たちはもう仲間なんです」と語った主人公の言葉はまぎれもなく監督自身の言葉であった。エンドクレジットでしびれるなどいつ以来のことだろう。

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2 コメント

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コメントどうもです (しん)
2009-07-21 18:50:59
>sakuraiさま

龍平と翔太間違いました
恥ずかし
彼らによらず若い俳優の見分けついてないんですけどね

時間軸通りには撮ったかもしれませんが、ラストで手旗信号ふる仲村トオルたちは、本当にその場(劔岳山頂)で撮っていたとしたら、ロングからずいーっと寄ってきて撮るべきかなと思います。
引きの画であそこまで頑張ってくれたら、寄りの画がどうだろうとかまわないんですが
返信する
TBありがとうございました。 (sakurai)
2009-07-21 08:26:52
映画を撮った!!という行為がこれだけ人を感動させることができるんだと痛感しました。
見事でしたね。
時間軸通りに撮って行った・・ということなので、どこで撮ったのかはわかりませんが、結構その場で撮ったんじゃないでしょうか。
その辺のちょっと素人くさい展開も、朴訥な風味で良かったです。

松田翔太君はでてましたっけ?
兄ちゃんの、龍平君は観測隊の一員で出てましたが。

そういや、松本で「嗚呼、満蒙開拓団」をやるとか。ぜひご覧ください。なかなか力がありまする。
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