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映像作品とクラシック音楽 第八回 黒澤明監督作品・前編〜『素晴らしき日曜日』から『七人の侍』まで

2021-03-19 09:18:00 | 映像作品とクラシック音楽
お疲れ様です。ほぼ週一投稿でクラシック音楽が印象的な映像作品に関してあーじゃこーじゃと言ってるインディーズ映画監督の齋藤新と申します。


今回は黒澤明監督作品とクラシック音楽について書いてみたいと思います。

黒澤監督のクラシック音楽への強いこだわりを感じる作品をいくつか紹介しつつ、見たことない黒澤映画があればぜひご覧になっていただきたいなと思います。
 
  
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『素晴らしき日曜日』音楽:服部正

戦後まもなくの1947年作品。三船敏郎はデビュー前で当然出てないし、音楽も盟友早坂文雄と出会う前だしで、スタイリッシュになりきっていないころの黒澤映画ですが、終戦からわずか2年でもう「壁ドン」やってたりする可愛らしい映画です。


貧しいカップルが日曜日に金欠デートをする。ラストで誰もいない野外音楽堂で彼氏が指揮者を気取って指揮の真似をするが音楽は聞こえてこない。愛があっても金がないと音楽も聞こえないんだと絶望する彼氏。でも彼女は、聞こえる、きっと聞こえる…と言い、そしてカメラ目線で映画の観客に向かって問いかける。私たちのような貧しいカップルのために拍手をしてください!と。

映画館の観客も映画に参加させたかったという、かなり思い切った演出ではありますが、日本ではスクリーンからそう言われても拍手する人は…

でも海外(多分アメリカでの話かな?)だと劇場にいる観客みんなが拍手してくれたとかなんとか。

それはともかく、拍手が聞こえたこと(という設定)で元気をもらった彼氏はまた無人のステージに向かって指揮棒代わりの毛糸の編み針を振り出すと、あら不思議、無人のステージからシューベルトの「未完成交響曲」が鳴り響きます。

デートも満足にできないカップルを祝福するのが、未完成かも知れないけど世紀の名曲というのがいいですね。

主演の沼崎勲さん、指揮棒の振り方が下手すぎて手を焼いたとか。全然できないから黒澤監督が貸してみろといって指揮棒取って振ってみたらよっぽど上手かったそうです。何時間もかけて撮影したおかげで「未完成」とぴたりあったような指揮にみえます。現代なら袖にグリーンの布でも巻いて適当に腕動かして、後からCGで腕を描くんでしょうね(笑

 

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『羅生門』音楽:早坂文雄

黒澤明監督が明らかに変わった(あるいは化けた)作品は『素晴らしき日曜日』の次に手がけた『酔いどれ天使』です。三船敏郎という俳優と初めて組んだことも大きかったのですが、それと匹敵するくらいに大きかったのが音楽担当の早坂文雄との邂逅でした。

映像とサウンドの掛け算という考え方を初めて完全に理解してくれるスタッフを得て黒澤映画は水を得た魚のように勢いづきます。

早坂文雄は当時の現代音楽(いまや十分クラシック)としても日本を代表するような存在ですが日本の映画音楽も飛躍的に発展させました。

黒澤×早坂コンビの映画音楽としての最高作は『羅生門』ではないかと思います。


京マチ子の証言シーンで、短いメロディが、次第にオーケストラが厚みを帯びていきながら繰り返される、いわゆるボレロ形式の音楽が流れ続けて非常に効果的です。
黒澤監督は有名なラベルのボレロを脚本の段階から想定して撮影をし、編集をし、黒澤監督の意向をよく理解した早坂文雄がボレロイメージで作曲したのだそうです。


 
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『白痴』音楽:早坂文雄

中盤の屋外スケートリンクのシーンで、ムソルグスキーの「はげ山の一夜」がつかわれます。
スケートリンクでかかっている現実音としてですが、音楽に合わせてそのシーンが展開していき、さながらミュージカルのようです
黒澤の失敗作とされることの多い『白痴』ですが、私は結構好きなんですよね。原節子と三船敏郎と森雅之って夢の三大スター共演が素敵。
 
 

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『七人の侍』音楽:早坂文雄

ご存知黒澤の代表作ですが、この映画でクラシック音楽は全くかかりません。

でもあえてここで取り上げたのは、黒澤が言うにはこの映画の脚本構成はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」を参考にしているというからです。

なるほど、

第一楽章(アダージョ・アレグロモルト)→野武士襲来に怯える百姓たちが町に出て紆余曲折の末七人の侍が味方につく

第二楽章(ラルゴ)→村で百姓達と侍達が交流を深めていく。若い侍と村娘の恋なんかもある

第三楽章(スケルツォ)→とっ捕まえた野武士の斥候の情報をもとに野武士のアジトを奇襲する

第四楽章(アレグロ・コン・フォーコ)→ついに群れをなして襲ってくる野武士たちとの決戦

…と考えると、そんな感じもします。


そしてさらに言えば

○○

○○

○○

 △

 た

の旗を掲げた菊千代(三船敏郎)が、丘に現れた野武士の群れを見て「来やがった来やがった!」と言うところ…で新世界の第四楽章のような曲をかける予定で作曲までしていたと言うのです!(後述する佐藤勝によるCDに収録されたその場面のためと思われる曲は全然新世界っぽくないですが、まあ、イメージは伝わります)

でも実際映像に合わせてみたら音楽はない方がいいってことになって、オミットされたのだそうです


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続けて『赤ひげ』の話に行こうかと思ったのですが、長くなってきたので次回にしましょう


【CD紹介】

『羅生門』『七人の侍』の音楽は、早坂文雄亡き後の黒澤映画音楽を引き受けた早坂の弟子の佐藤勝が、のちにステレオ録音で新録した「オリジナルスコアによる『七人の侍』『羅生門』」のアルバムで、比較的いい音質で聞くことかできます。現在は新品では入手困難のようです。


そして、本稿を書くにあたり早坂文雄について調べていたら、どうしても早坂文雄の現代音楽を聴きたくなってしまい、ついこないだ買いました。

「早坂文雄作品集」

ここに収録された「古代の舞曲」や「交響的組曲ユーカラ」など素晴らしいのですが、論旨がズレるのと買ったばかりでしっかり聞きこんでないのもあって、別の機会にレビューしたいと思います。ただしこのアルバムにも『羅生門』のスコアが収録されてます。

指揮は芥川也寸志です。芥川也寸志といえば野村芳太郎監督の松本清張サスペンスの音楽で映画好きには有名ですが、数多くの早坂文雄映画音楽から『羅生門』をあえて選んだのは、やっぱり

野村芳太郎×松本清張シリーズ→脚本は橋本忍→橋本忍の代表作『羅生門』

…という流れなのかなと思ってちょっとニヤニヤ(実際のところは他の楽曲との雰囲気のバランスからなのでしょうが)

演奏は松本清張シリーズのような湿っぽさはなく端正な印象。ただし佐藤勝版の方がより輪郭の際立った演奏で楽器それぞれメリハリがあり、より「黒澤映画らしい」演奏になってます。その辺はさすが黒澤映画を8作も務めた人でしょうか。

芥川也寸志版はライブ録音なので、サントラとは編成が違うかもしれないし、ホール録音なので響きもだいぶ変わってるとは思いますが。


芥川也寸志は直接の師匠は伊福部昭ですが、昭和20年代に当時若手作曲家のサロンのようになっていた早坂亭に足繁く通っていたのだそうです。

佐藤勝は音大で音楽を学んだものの心に刺さるようなものは得られず、ある日観た映画『羅生門』の音楽に感銘を受けて早坂文雄に弟子入りを直談判したということです。弟子なんか取らないと言う早坂に食い下がり許可をもらうまで帰らなかったとか。

なんか『七人の侍』の勘兵衛(志村喬)と勝四郎(木村功)みたいですね!

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そんなところでまた、黒澤映画とクラシック音楽で会いましょう


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参考文献

黒澤明著「蝦蟇の油」

西村雄一郎著「黒澤明 音と映像」

CD「オリジナルスコアによる『七人の侍』『羅生門』」ライナーノーツ

CD「早坂文雄音楽集」ライナーノーツ

その他 Wikipediaなど


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参考・黒澤明監督作品全30作


姿三四郎(1943)

一番美しく(1944)

続・姿三四郎(1945)

虎の尾を踏む男たち(1945)

我が青春に悔いなし(1946)

素晴らしき日曜日(1947)

酔いどれ天使(1948)

静かなる決闘(1949)

野良犬(1949)

醜聞(1950)

羅生門(1950)

白痴(1951)

生きる(1952)

七人の侍(1954)

生き物の記録(1955)

蜘蛛巣城(1957)

どん底(1957)

隠し砦の三悪人(1958)

悪い奴ほどよく眠る(1960)

用心棒(1961)

椿三十郎(1962)

天国と地獄(1963)

赤ひげ(1965)

どですかでん(1970)

デルス・ウザーラ(1975)

影武者(1980)

乱(1985)

夢(1990)

八月の狂詩曲(1991)

まあだだよ(1993)


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